最高の護衛は誰
「これは一体……」
コードが護衛達を止める。子犬ほどのサイズでも、最高ランクの魔獣相手に、やみくもに行動するのは危険と判断したのだろう。
「王女様……いえ、聖女様……」
「聖女様……」
「聖女様でいらっしゃる……」
ん?? 久しぶりの再会につい夢中になってしまったけど、何??
振り返ると、皆が膝をつき頭を下げている。
「…………こ??」
これは……
「おおおおおおおおっ!!」
「聖女様がお話になられたぞ……」
「なんて慈悲深い単語なのかしら」
こ、と言っただけですが?? 一体なんなの……小さくてもケロベロスよ!? そんな魔獣と一緒にいるんだから、もっと恐れおののくものじゃない??
誰もが子犬のようにじゃれるケロベロスの姿に、聖女の奇跡をあがめている。
「聖女様が魔獣をしずめて頂けなければ、我々の命はありませんでした」
「えぇ、それに……魔獣を懐かせるなんて、そんな聖女様初めて聞きましたわ」
「これが王家の能力をあわせもつ聖女様のお力……」
え、魔族の力ですが!? 皆すごい勢いで勘違いしてませんこと!? そもそも、魔力なら先ほども使ったっていうのに……自分達が助かったからって、ずいぶんと態度を変えますのね……
人間のこういう自分勝手な行動にはあきれてしまうが、ひれふす姿は悪くない。
「リア……」
せっかく一時的に回復した母は顔面蒼白だ。王は静かにリアに近づき、甘えるケロベロスをゆっくり見る。
「リア、こちらへ来なさい」
聞こえないフリをする。ケロベロスを取り上げようとしているのが分かる。
「……パパも遊びたいのだがいいか??」
「ややっ!!」
少しでも触ろうとすればケロベロスを抱きしめ抵抗をみせる。これだけ従順な様子を見せれば諦めるだろう。
「陛下……聖女様の力でおそらくアレは無害となっているはずです。でなければ我々が今も無害でいられるなどありえません。それに、魔獣の中でもトップクラスのケロベロスをリア様のお供にすれば宜しいのでは??」
「護衛の代わりにか??」
「……残念ながら、魔獣相手に我々は2度も対応が遅れております。この国にはそもそも魔獣に適応できる者がいません」
「……もし、アレがリアを傷つけるということはないと言えるのか!?」
「……なにしろ、魔獣を従えるなど前例がございません。ですが、今我々が見ているのも事実でございます」
うーん、コードにしては役にたつこと言うじゃない。私だけでも十分だけど……ケロベロスがいれば王国を乗っとるどころか、滅ぼすのも簡単ですもの。まぁ、まだ2人とも小さいのが痛手ね……もうしばらくは大人しくしてあげようじゃないの。良い?? 元、主人の私の言うことちゃんと聞きなさいね!?
「きゃいん!!」
その見た目に似合わず、従順な返事をする。
「はぁ、仕方ない……確かに、これほど強い護衛はいないな……」
「リッ……リア……」
王妃が失神する事態となったが、最高の護衛を手に入れることが出来た。
ケロベロスを従え、一時的と思われた王妃の体調が思った以上に回復していることもあり、魔獣を清め、病を癒す聖女様が現れたと噂されるようになるのに時間はかからなかった。
「ベロスっ!! こっちよ!!!!」
「わふん!!」
それぞれの頭で投げられたボールをキャッチし、巨大な図体が走り回るたびに地面が揺れる。
「いいこね。でも、ボールを噛みちぎってばかりでは遊ぶおもちゃもなくなってしまうわよ!?」
「きゅーーん……」
「まぁいいわ、そろそろ私もお呼ばれされる時間ですもの」
思ったとおり、侍女長のシシラが次の授業時間だと知らせにやってくる。
「リア様ーーーー!! コード様のレッスンが始まりますわ!!」
「まったく、この私が人間から学ぶことなんてあると思う!?」
「えぇ!? どうされましたかーー!!??」
「なんでもないわ、ねっ。ベロス」
「わっふ!!」
あれ依頼、誕生パーティーは中止となった。表向きは聖女であり王女であるリアの安全確保のためとなっているが、実際は、あっという間に成長した強面のケロベロスを周りが恐れているから。そして、予言にあった勇者との出会いを、王自ら出会う機会を減らそうとしているのが分かる。
私としては、その方がありがたいんだけどね。それにしても、人間ってば寿命は短いわりに、妙に成長が遅いわね。ケロベロスはもう私より大きくなったっていうのに、まだ8才だなんて。長いわ!!!!
自由に動き回れるようになったが、保護下におかれる生活に耐える。
でも……魔力はかなり大きくなった。以前のゼビル時代に比べればまだ比較にならないが、感知できるものがいれば気づかれる可能性はある。念のため抑えておこう。
ケロベロスのお腹をさすり、日陰で気持ちよさそうに眠る様子に癒される。
「リア様」
「分かってるわ、もう行く」