祝福と予言
――けどさ、王妃様はもうダメっぽいな。
「っ!?」
――リーグ国を従えないのであれば、妻の座を狙えば良いな。後継ぎはもう無理だろうし、あの様子ではとても王妃の座は守れまい。
――聖女様の義母か、うまく懐かせれば我が国も……
「…………」
別に、彼らが何を言おうが気にするつもりはなかったが、なぜか無性に腹が立つ。
「あっ、あっ!!」
「リア、どうしたっ。そのように暴れては……」
父の腕からなんとか降りると、飾り物のような靴でなんとか立ち上がる。普段よりも裾の長いドレスはそもそもこの場で歩くことを想定していなかったのだろう、まだ歩行練習中の身としては辛いところだが、元魔王の娘である私に出来ないことはない。
「ふんっ!!」
なんとか裾をまくりあげ、椅子に座る王妃のもとへと向かう。
「っ!! リア…………」
王妃は目の前で歩く我が子に目を疑っているようだ。報告では滅多に人に懐かないと聞いていた娘が、とびきりの微笑みを浮かべ、歩きにくそうに、だがどこか凛として、産まれた日以来ほとんど初対面の母に向かってきているのだから。
「ぁま……んま……まぁま!!」
「今……ママと…………呼んでくれたの??」
「マーマ!!」
「リッ……ア……」
その距離わずか数メートルだが、立ち上がれない母の元へかけよるように全力で向かう王女の姿に、会場にいる誰もが注目している。
まぁ、これだけ母親に懐いていると分かれば下手に横入りしてくる者もいないでしょうけど……念のため、もう少し立場の差を分からせた方が良さそうね。
会場には生命の象徴である大樹が真ん中に残され、それを囲うようにホールが造られている。会場には花々があちこち飾られている。そこに少しだけ魔力を発動させる。
あまり得意ではないけれど、嫌いではなかった魔法なのよね。魔族の子どものおままごとみたいなものだけど。
…………咲きなさい。
自然を無視して生命エネルギーを強制的に早める魔法。極めれば大地を枯らし、寿命の短い人間を一気に老化させるほどの恐ろしい呪術。だが、私が今扱えるのはせいぜい蕾を全て満開にさせる程度。
会場に飾る花々が、光とともに絶頂期を迎える。
「「「おおぉぉぉぉ」」」
私を中心に光り輝き舞い上がる花々はどれもが美しく咲き乱れる。同時に、長いこと花を咲かすことのなかった大樹にも色鮮やかな花が飾られる。
「せ、聖女様の祝福だ」
「なんて、美しいのかしら」
「まるで母娘の再会を祝っているようだわ」
その声は驚きであふれている。
ふふん、ちょっと疲れちゃったけど、私の可愛さと威厳を見せつけるには効果あったようね。これで、だれも邪魔しようとは思わないはずだわ。
「さすが我が娘」
「陛下……」
「疲れただろう、さぁ、リアをこちらへ……」
「いえ、なんと言いますか……むしろ今までで1番身体の調子が……」
「あぁ、リアを抱きしめると力がみなぎる気持ちは分かる。だが、あまり無理は……」
「いえ、本当に。このように立っても……大丈夫ですわ」
「っ!?」
どうやら無意識に得意の消滅の力も発動してたみたいね。本来の自己治癒能力を一時的に高めた上に、消滅の能力で汚血が無くなったのかしら。どちらも一時の効果でしょうけど、身体の負担が消えたのも確かそうね。
立ち上がる王妃に、聖女様の力だと各国が騒ぐ。通常、癒しの力が発揮されるのは10代後半と言われている。目の前で、王女を抱きしめる王妃が、目に見えて良くなったのだから興奮するのも仕方がない。
あぁ、少し面倒なことになったわね……ちょっと調子に乗ってしまったかしら……
誰も声には出していないが、その視線にすぐ気づいた。
ひ弱な人間達からすれば、癒しの力って確かすごく重要だったわね。まぁ、私を誘拐できるとは思えないけど……
「リア様……私から1つ、最後の力をもってプレゼントがございます」
コードは立ち上がった王妃とともに、私を抱きしめる王たちの前で膝をつく。
「私のわずかに残った魔力を細々と使い続けることは、もはやこの国において不要だと、先ほどの奇跡を前に決心致しました。どうか、受け取っていただけますか」
改まった口調で忠誠を誓うように腕を胸にすると、残りの魔力全てを放つように、黄金の光が彼から溢れ出る。その手には紙が握られており、先ほどの光を凝縮したような文字が記されている。
「祝福の願い、です。この国にとって、王女様の未来にとって幸となることを予言する書です」
人間の文字は……まだ読めないわね。私の幸せなんて決まっているわ。元の身体、魂の復活なんだから。
「どれ、ふむ……18歳の誕生日、新たな勇者と結ばれる、だと………」
なんですって????