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人間のふり

「私が、今魔力が尽きていることに感謝するのね」


 人間の身体で魔族の真似事はすべきではない。あの一瞬で、満月で増強された魔力が根こそぎなくなった。


「今なら私を食べられるかもしれないわよ?」


 主人といえど、自分より格下と判断すれば歯向かう。それが魔界だ。


「くぅん……」


「そうね。私を食べれば、オリバーは間違いなく地獄の果てまで追いかけまわすわね」


「ぐぅっ……」


 名前を聞くだけでこの怯えよう。前回浴びた聖光がよほど嫌だったのね。


「もう彼なら追いかけてこないでしょうけど、まぁいいわ。全力疾走だと私が振り落とされるでしょうから、そんなに急がないで、どこかの国へ行ってくれる? それまでには魔力も回復しているはずよ」


 もうしがみつく気力すら残っていない。背中に横になったまま、適当な国へ向かってもらう。


 リーグ国と親交のある国はダメね。私の顔が知られているはずだわ。確かここで1番近い国なら名前こそ知られていても、顔までは分からないはずよ。



 ケロベロスがたどり着いた村は聞いたこともないほど小さな国だ。


 こんなところに国なんてあったかしら? それに、外の見張りも弱そうで衛兵には見えないわ。まぁ、作物は多く育ててそうだし、家畜も飼ってるのね。まず初めに乗っ取るには良さそうだわ。


「ケロベロス、あの塔の上で降ろして。小さな村だし、さっさと制圧するわよ」




 これでいいわ。魔族にならなくても、私には魔力があるんだから、ゼビル姫の時のように生きていけばいいわ。



「今から、我がこの地を乗っ取る。大人しく従わないのなら全員痛い目に……」


 って、あれ? 侵略宣言しているって言うのになんで誰もこないわけ? それに、民主の目もなんかもう(うつろ)って言うか……


「貴様っ!! 何をしている!!」


 鎧をかぶった衛兵がかけつける。


 そうそう、そうこなくちゃ私の力の見せ所がないじゃない。何事も最初が肝心よね。とりあえず魔力で王を痛い目にあわせば手っ取り早いわ。


 騒ぎを大きくさせ、周りの注目を集める。



 鎧の兵が高くジャンプし飛びかかってくるが、ケロベロスが空中でそのまま捕まえ食べあさる。


 その姿に民の悲鳴が聞こえる。


 そろそろね。


 やりすぎると今度は乗っ取った時に使い物にならなくなる。ある程度の人間側の兵力も残しておかなきゃ、治安が管理できないものね。



 さてと、王を人質にして民衆が歯向かわないように牢獄にでも閉じ込めておかなきゃね。


『消滅』


 城の壁を消し、王がいるであろう部屋をいくつかむき出しにさせる。


「何している?」


 急な空気が重くなる。こんな重圧、ニーロンとは比べ物にならない。


 そこにいたのは上級魔族だ。


「ん? お前……妙な気配だな」


 しまった、魔族相手に魔族のふりは出来ないわ。まさか、既に支配されていたなんて。


 よく見ると、ケロベロスが食べた兵達からは緑の血が流れ出ている。


 魔族!? なんで人間の鎧なんて着てるのよ。まるで、人間のふりをしているみたいじゃない。


「ケロベロス? お前、魔族ではないな? なぜ魔獣を……」


 とにかく、この男を消すしかないわ。


 男が話終わるより先に動く。


『消め……』


『無効にせよ』


「っ!?」


 この男、先に私の魔力を無効に!?


「お前、妙な魔力だな。人間のくせに、魔族の魔法を使うのか?」


 まずいわ……魔力が完璧に回復していないせいね。このままじゃ……一旦撤退よ。



『ケロベロス』


『下がれ』


 かぶせてきた!?


 ケロベロスは実力の強い方に従う本能をもつ。上級魔族に言われるがまま姿を消してしまった。


 あんた、やっぱり薄情ね。それにしても、こんな強い上級魔族いたかしら? こんな強さならもっと大きな国を支配するはずなのにどうして……


「聞きたいことがある顔をしているな?」


「っ!?」


 いつのまにか後ろに移動し、腕をつかまれていた。


「おもしろいな。人間のくせに魔族にも見える。しかも、相当なものだな。お前か? ここで待っていれば現れる捧げ物とは」


「捧げ物って……」


「もう少し、誰も来なければあの女の首をとるつもりだったが……なるほど、どうやら占いの力とは本物のようだな」


 また占いだわ。


「……魔族が……占いに頼るなんて、落ちたものね」


「…………」


「〜〜〜〜っつ」


 腕をしめつけられる。


「あの方の為だ。人間ごときが魔族に意見するつもりか?」


 あの方って……


 魔族が誰かの為に動くとすれば1人しかいない。


「まさか、魔王……」








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