ようこそ、小人村へ
「話は済んだか?」
「えぇ……って、足は大丈夫なの?」
オリバーは木の枝に足でぶら下がり、筋トレしているではないか。
「平気だ、こいつらが足を治療してくれた。さすが、森の管理人、小人族だな」
「治癒力を高める薬草であります」
「痛みを和らげる薬草であります」
「女性が好きな香りの薬草でありまっ」
「余計なことは言わなくていい」
一瞬で枝から移動し、小人の口を封じる。軽く咳払いをし、なかったことにしている。
「ふふ、でも、まだ骨がくっついたわけではないのよね?」
「そうであります、無理は禁物であります」
「大丈夫だ!! それより、すぐに出発できる」
「……いいえ、しばらくはここでお世話になりましょう」
「「「「「「えぇっ!!!???」」」」」」
小人たちの方が驚く。
「ニーロンが、あいつが言っていたことが気になるのよ。聖女を捧げれば完全な復活と占いに出たって……」
「それは、君さえ魔王に近づかなければ復活はないってことなのか?」
「それもあるけど、彼の属性に占いはないはずよ。そもそも、魔族は占いとか予言なんてまわりくどいことしないはずよ」
そう、魔族なら欲求のままに行動するはずだ。知能の高い上級魔族でも、そういった類の能力は使わない。そもそも、占いや予言は神の啓示に近い。どちらかと言えば聖魔法よりのはずだから、使えるわけがない。誰かがあちら側についている?
「どうして分かるんだ?」
「え?」
「あの魔族の属性が分かるのか?」
しまった、これも人間が知らない情報だったのね。そもそも、属性が分かるのはゼビルの能力なのよね。でも、オリバーはそんなこと知るはずもないでしょうから、ここは誤魔化すしかないわね。
「……聖女ですもの」
「すごいな、戦う前に魔族の攻撃タイプが分かれば有利になるな」
「ええ……そうね。それで、少し情報を整理したいのよ。ここならあの魔族の縄張りだったはずだから、他の魔族の襲来もなさそうだし、何よりあなたの怪我も早く治りそうだわ」
「俺の、ために?」
えらく感動しているようだが、そういうことにしておこう。本当は、真実の花をどうするか少し考えたい。
「分かった、しばらく世話になる」
「うっ、了解であります」
「お世話は任せるであります」
「我らの住みかへ案内するであります」
「今度は、本当の住みかへ連れて行ってくれるわよね?」
「もっ、もちろんであります」
ふぅ。もし、本当はこの身体が聖女になるべき器だったのなら、本来あるべき魂が戻されるってことよね。そしたら、私の魂はどこへ行くのよ。少し頭を整理したいわ。
今度は先ほどのとは異なり、日当たりの良い開けた場所に案内される。見上げるほどの大木がたっている。
この木、城にあった木だわ。
正確に言うと、この木よりはかなり小さいが、生誕祝いの会場にあったあの木だ。
「古代の木であります」
「我らが生まれるずっと前からあったのであります」
「住みかへとつながる入り口であります」
そう言うと、今度は踊らずに全員で歌を歌う。心地よい歌声に思わず目を閉じる。空気が変わり目を開けると、のどかな村が広がっている。
「我らの家へようこそであります」
「あなた方は初めてのお客様であります」
「どうぞ、明日にはお家を建てるであります」
「今日は族長の家でゆっくりされて下さいであります」
「なんだか、小人達の態度がすごく変わっているわね?」
「あぁ、君が族長と話している間に足が動かせるようになったから、あの魔族が壊した森の修復を手伝ったんだ」
「修復?」
「魔法は大分思うように使えるようなってきたからな。聖魔法も使えるか試してみたんだ。地面に対してエネルギーを流す感覚でやってみたんだが、白い光が輝いたと思ったら、小人達が森が元気なったって喜んでいた」
なんですって!? 聖魔法を使えるように!? さっきの闘いでオリバー自身のレベルがあがったのね。あの男、余計なことしかしないんだから。
「これで、リアの魔力の負担が減るな」
「そうね……それにしても、聖魔法が使えるなら足の怪我も治した方が早いんじゃない?」
「魔法で治せば元に戻るが、自然に回復を待てば前よりも強い骨になるからな。リアがここで過ごす間は自然に任せることにした」
「そう」
状況がどんどん変わってきているわ。そのうちオリバーが私の聖魔法に疑問を持つとまずくなるわね。
「お待たせいたしました。案内するであります」
族長が自ら自宅へと案内する。周りは藁で出来た家ばかりだが、さすがに木造建ての広い家のようだ。
「お客様でありますね。先に話は聞いていますでありますわ」
初めて小人の女性を見る。村には子どもや他の女性達がいるようだったが、今まで小人族の目撃や情報は全て男性ばかりだった。
弱い者は村の外に出ないようになっているのね。
「……よろしく頼むわ」
「お世話になる」
「外からのお客様なんて初めてでありますわ。食事は腕によりをかけて準備いたしますでありますわ」




