愛しいが止まらない
「大丈夫よ」
「すごい魔力を感じた……戦い中でもあんなに強い殺気はなかったっていうのに……」
良かったわ、ニーロンの魔力と思ってくれてるみたいね。
「あいつの気配がもうないな、とどめを入れ損ねた……回復したらまた襲いかかってくるかもしれんな」
「それなら大丈夫よ。あの男のダメージは相当なものだったから、もう表に出てくることはないはずよ」
毛根全てを消してやったから、2度と髪が生えてくることはないわ。うふふ。
「そうか、それなら良いが。あ…………」
「え?」
オリバーはちぎれてしまった月の石に気づく。
「まさか、あいつが襲いかかって来たのか!?」
「えと、もうほとんど動けなくなっていたけど、私があなたと間違えてかけよってしまって……その時に捕まりそうになっただけよ。ほら、どこも怪我をしていないでしょう?」
「〜〜〜〜っ」
自分の方が傷がひどいというのに、全身を確認してくる。
「こんなところにっ、傷が……」
「え?」
手の平に血が出ていることに気づく。
「これは……」
「俺がっ、守れなかったせいで……」
「違うわ、これは……あなたがやられそうになった時、思わず強くて握りしめてしまって……だから、これは自分で傷つけただけよ」
なんだか、私がすごく心配したみたいじゃない。あの時は夢中だったから気づかなかったけど……ニーロンに負けるのだけは嫌だっただけ、よね。
「そんなに、俺の事……」
オリバーは感動しているようだった。
「だから夢中になっていただけで別にっ!?」
強く抱きしめられる。
「心配させてすまない」
「…………」
「それにしても、空中戦で己の弱さを思い知ったよ。地上戦でなら、あんなやつ……」
仕方ない、魔族は空を飛べるが、勇者は所詮人間だ。圧倒的に不利なことに変わりはない。
「あの時……リアの祈りの力がなければ負けていた」
「私?」
「あの聖魔法は俺じゃない……光の竜に乗ったとき、リアの力を感じた」
そんなわけないじゃない!? もしかして、この月の石のせい? 聖物として使われているくらいだからもしかしたらオリバーの聖魔法を引き出したのかしら……どちらにしろ、私ってことにしておいて損はないわね。
「分からないわ……あなたの無事を祈るのに必死だったで、気づいたら光っていたのよ……」
「…………」
オリバーは黙ると腰に手を回し自分の方へ引き寄せる。
え?
3度目のキスは、血の味がしたおかげか、なんとか正気を保つことが出来た。
「さぁ、行こうか」
「行けるはずないでしょう!!」
足を引きずりながら、出発しようとするオリバーを引き止める。
「足は固定したし、血も洗った。1日休んだし、もう平気だ」
ニーロンとの戦いで、すっかり朝になってしまっていた為、一晩森で休んだ。ジェダ国で食糧を大量に買い込んでいたおかげで、狩に行かなくても十分な食事をとることが出来たが……
「その足ではダメよ。歩いたら悪化するに決まっているでしょう」
「平気だ」
「ダメよ!? あなたが万全じゃなければ、私に危険が迫った時どうするの?」
「分かった……」
全く、人のことは過保護な割に、自分のことは適当ね。でも、ここで足を止めておくわけにもいかないのも事実ね。森を破壊させてしまった為、生き物の気配はない。食料が尽きる前に移動しなければならない。この男の怪我を治せれば1番なのだけど、彼の前で魔力を使いたくない。怪我をしていても、リスクは負えないわ。
「リア……」
「言ったでしょう? 私も魔力がなくなって……」
腕をそっと掴まれ、座っている彼の足の間に引き寄せられる。そのまま後ろから抱きしめられ、くっついてくる。
「っ!!??」
「そばを離れないでくれ、離れていたら何かあった時対応が間に合わないかもしれない」
やたらと距離が近い。なんだか日に日にくっつくこと増えてない? その度に鼓動が早くなってしまって……きっと、聖魔法が発動しないか緊張しているんだわ。このままだと身がもたないわね。
「水をくみにいってくるわ。だから離して……」
「俺が行く」
「だから、あなたは大人しくっ!!??」
魔力の気配がする。強くはないが、大勢いる。
「リア、俺から離れるな」
魔族とは少し違う気配ね。
出て来たのは、小人族だ。人前に出ることは滅多にないというのに、こんなに大勢が出てくるなんて驚きだ。
「っ!?」
「小人? 妖精の類だよな。しかもこんなにたくさん。どうして……」
「族長、不審者発見であります」
「風魔法の使い手ではありませんであります」
「女の方は、かわいいであります」
「男は怪我ありであります」
「いちゃついているようであります」
「おそらく好き同士であるようであります」
1人ずしっとした体型の、年長者らしき小人が前に出ると、一気に静かになる。
「我々はこの森に住む小人族であります。昨日の大規模な破壊行為をした者を探していたのですが、その者はもういなくなってしまったようでありますな」
「あぁ、だがこの森を盾に非難したのは俺の判断だ。申し訳なかった」
オリバーの言葉に、全員が凝視する。
「それは、誰でもそうしましょう。ですが、それを謝れる人はなかなかいないであります」
「そうであります」
「見た目だけでなく中身もイケメンであります」
「勇気をたたえるであります」
「あぁ、そう言って頂けるとありがたい」
「ところで、その足怪我をしているようでありますな。我々の住み家へ案内するであります」
小人族が人間に親切にするなんて聞いたことないわ。何か企んでいるんじゃ……
「我々は、美人には親切にするのがポリシーであります」
「そっ、そう」




