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小さな勇者


「具合が悪いのか?」


 オリバーの心配そうな声に、リリアは少し落ち着いたようだ。いつものか弱いレディに戻る。


「えぇ、少し休んだ方が良さそうだわ」


「無理はしなくていい、ゆっくり寝た方がいいんじゃないか?」


「オリバー様」


 リリアはお姫様抱っこをされ、感激した様子でうっとりと見つめる。


「やっぱり……私のお告げは間違っていませんでしたわ。運命の方に出会えたんですもの」


 そっとオリバーの頬に触れると、オリバーもふっと微笑み返す。


「心配するな。皆と違ってあなたならすぐに助けてもらえるはずだ」


 その表情からは想像もつかない程冷たい声で言い放つと、彼女が(けが)らわしいと言った部屋へ放り投げられる。


「きゃあっ!?」


 そのまま黙ってドアを閉める。


 中からの声は聞こえず、ドアを叩く音だけが響く。


「この部屋、見たところ魔術で中からは声も届かず、開けられないようになっているんだな。リアが……聖女様が助けなければ、この者たちはそのまま衰弱死か餓死していたのだろう。もしかしたら、もうずっとこんなことをしているのか?」


 オリバーの睨みに、護衛達は何も反論できない。なり響くドアの音に、なんとかこじ開けようとするが、おそらく簡単に開くものではないのだろう。


「リッ、リリア様!? これは、我々にはどうすることも……」


「大司祭様をお呼びしろ!! この時間なら祈っているはずだ」


 慌てて大聖堂へ走る護衛達を見送ったあと、オリバーは思い出したように捨て台詞をはく。


「あぁ、そういえば先ほど大司祭様なら大事な娘のお願いで、確か特急の馬車で潮水から作られる化粧水を買いに行ったな。海沿いの町でしか手に入らない高級品だから、急いでも丸2日はかかるだろうな。まぁ4日後には出られるだろうさ」


「〜〜〜〜っ!!」


そこまで貴重なものをすぐにとなると、大司祭直々に出向く必要がある。祈りの時間よりも、娘の私欲を満たすことを選んだ結果だ。


 おそらく外からの声は聞こえるのだろう。叩く音が強くなるが気にしない。


「リア、こんなところにもう用はない。必要な調達は済んだから、荷物を取りに行ったら出発するぞ」


「え、あ……うん」


 そういえば、私が部屋に入った時、水は十分にあった。それも、()んできたばかりの新鮮そうな水だった。中から出入り出来ないならどうやって? 大司祭が施しを与えていたのだろうか。その時、母親の手をひきながら帰ろうとする少年と目が合った。


「僕ね、いつか聖女様が助けてくれるからって、皆んなの水だけは頑張って運んでいたんだ。でもほら、重たくて何度も井戸を行き来したから、手がこんなになっちゃったんだけど、信じて待っていて良かったよ」


 そう言ってマメだらけの手を見せる。


「そう、誰かが手伝ってくれたの?」


「ううん、あの警備の人たちは意地悪だから、こっそり隠れて運んでたんだよ」


 なら、この少年が魔術を破っていたってことかしら。日々大聖堂で祈りを捧げる護衛達ですら開けられなかったっていうのに。


「がんばったのね」


「えへへ」


 少年が笑うと、聖光が輝く。


「きゃあっ!!??」


「わっ!? 僕、光った!?」


 まさか、あの時感じた魔力ってこの子からなの? 私の魔術に触発されて聖魔法が通じたの!?


「えぇ、そうね。きっと聖魔法だわ……」


「ぼく、が?」


「今のあなたなら、大聖堂で喜んで働かせてもらえるわよ」


「うーーん、ここは嫌い。でも、別の町の司祭様のところへ行ってみるよ」


「そうね」


「ありがとう、お姉ちゃん!! あっ、えっと……聖女様」


「いいわよ。最初の呼び方のほうが私も好きだわ」


「えへへ」


「きゃっ!? ちょっと!! もっとコントロール出来るようになるまではむやみに笑わないで」


「ごめんなさい。でも、どうして? 聖魔法は皆んなを元気にさせるんでしょ?」


「私以外の人にはね……私には毒にもなるのよ。だから、気をつけて」


「分かった……聖女様には、白い翼と黒い翼の2つがあるから?」


「えっ……」


「へへへ、おっと……気をつけなきゃ。それじゃあ、お姉ちゃんまたね!!」


「あっ、ちょっと……さっきのはどういう……」


 母親に聖魔法を見せつけているのか、聖光を出しながら走っており追いかけるわけにもいかない。


「あの子、すごい魔力量だったな……」


 オリバーが荷物を持って戻ってくる。


「そうね。もし神が勇者を選んだのならきっと彼ね」


「それは……俺がリアに選ばれたって捉えても良いってことか?」


「っ!?」


 オリバーの目は真剣だ。予言のことを言っているのだろうか、だが、予言の真実の話を聞かされた時彼はいなかった。聖女が愛した男が勇者となる。その真実は知らないはずだ。


「選んだもなにも、あなたが私を守ると誓ったのでしょう」


「そうだな。だが、たとえ勇者が現れても君を守る役目を譲る気はない」


 聖魔法を使える者は勇者以外にもいる。だが、ほとんどは神に仕える者に限られる。聖魔法の使い手であり、最も強い精神を持つ者が勇者として選ばれるのだ。幼いながらに、皆のために水を運び続けたあの少年は、本来その可能性をもつ1人なのだ。


 聖女の聖魔法は、他のものとは異なる。唯一絶対的な癒しの力を持つのだ。通常時間をかけ改善するのがやっとなところ、聖女だけは全てを一瞬で治すと言われている。そして、その力が最も強いとされた初代聖女こそ、大天使の生まれ変わり。そう伝説になっている。


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