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本物の聖女様

「少年、若くて綺麗で優しくてとっっっても強いのはあのリリアって娘じゃないわよ?」


「でもっ!! リリア様はお金がなくても僕たちをここに入れてくれたんだ!!」


 周りからも賛同の声が聞こえてくるが、すえた臭いに、じめじめした空気。華やかな大聖堂のイメージとは異なる。大方、浮いた彼らを(てい)よくここに追い払ったのだろう。


「それで? それからここに誰か来てくれたの?」


「それは……待っててくれって……祈ってくれるからって……」


「要は放置してるってことよね?」


「でもっ、リリア様は優しく微笑んでくれてた!!」


「それ以外何かした?」


「でも……でも……」


 これ以上の言葉が出ないようだ。まぁ、信じていたものが否定されても受け入れられないわよね。なんだか良い気分じゃないし、ここに用はないわ。


「じゃあっ」


 そう言ってドアを開け去ろうとすると、今までで1番大きい声で叫んできた。


「リリア様は本物の聖女様だっ!! だって、だって おっぱいだってお前なんかよりおっきいじゃないかっ!!」


「今……あなたなんて言った?」


「ひっ……」


 あの小娘より私が劣っているとでも言いたいの? おそらくゼビル姫時代の魔力が溢れ出ているのだろう。目の前にいた少年は見たこともない恐ろしい雰囲気に血の気が引いている。



「あなた……消えたいの?」


 手にかけようとした時、母親であろう痩せ細った女性が飛び出してきた。


「お許しください……わたし、が……リリア様なら助けてくれると、この子に言ってしまったせいなんです。高貴な方のご無礼……申し訳ございません」


 あきらかに顔色が悪い。子どもをかばうように抱きしめる姿に、魔力をこめた手を握りしめる。


「ママっ!!」


『消えなさいっ……』


 膨れ上がった魔力に呪文を唱える。部屋中にまぶしいほどの光が膨れ上がる。あまりの強さに全員が目を開けられない。


「〜〜〜〜っ!?」


「痛みが……消えた?」


 母親は不思議そうに手をみつめる。骨が折れるほど全身に痛みが走っていたのが嘘のように、何も感じないのだ。


「俺も、くさっていた足が綺麗になってる……」


「私も、胸のつかえがとれてるわ」


「このシーツも……汚れが取れている!?」


 部屋中から驚きの声がもれる。


 当然よ、全ての汚物と病を消し去ったんだから。それにしても、人を消滅させる何倍も疲れるわ……お酒のせいかしら……らしくないことをしてしまったわ。でも、これで私があの小娘と比較するのも恐れ多いってことが分かったわよね。


「お姉ちゃん……大天使様なの!?」


「なんですってっ!?」


 大天使って、初代聖女が大天使の生まれ変わりだっていう伝説のあれのこと!? 


「だって、みんなの痛いの治るなんて、聖女のリリアさまよりすごいもん!! それに……」


「だから、私が聖女なのよ!!」


 しまったわ、私ったら自分で聖女を名乗るなんて……ワインに酔ったせいかしら。ありえないわ……


 その場がしんと静まりかえる。


「お姉ちゃんが聖女様だったんだ!! ママを治してくれてありがとうっ!!」


 その声をきっかけに、全員が歓声をあげる。


「聖女様!! 万歳!!!!」


「なんてありがたいの……あぁ神よ感謝致します」


 手の平を返したように喜びと感謝で騒がしくなる。




「何事だっ!? それに、さっきの光は一体……」


 護衛達がかけつける。


 外にも漏れていたなんて……魔族の魔法だって聖職者達に見られていたなら、まずいわね。


「リリア様の客人ではないですか……ここで何を」


「ええっと……」


「聖女様が治してくれたんだよ!!」


「何っ!?」


 ちょっと!? 聖女の光は真っ白な聖光なはずだから、余計ややこしくなるじゃない!!


 しかし、護衛たちは疑うどころか、生き生きとした患者達に驚く。


「先ほどの光は、あなた様が?」


「えぇ、まぁ?」


 眩しすぎて分からなかったのかしら……それとも、昼間の明るさで光の色が分からなかったのかしら?


「どうした?」


 騒ぎが大きくなり、オリバーがなぜかリリアと一緒にかけつける。


「ここは、(けが)れた者達を隔絶した部屋です。まさか、開けてしまったのですか!?」


 リリアが裾で口を覆い、思わず後ろに下がる。


 そういえば鍵がかかっていたわね。魔力で開けちゃったけど。


(けが)れた者って……俺たちをなんだと……」


「お前は嘘つきだ!!」


 母親から離れ、少年がリリアに向かって指をさす。


「何ですって……」


 なんだかこのやりとり、見覚えがあるわ。


「お前なんか嘘つきの魔女だ!! こっちのお姉ちゃんは、僕のママを……みんなを治してくれたんだぞ!! 本物の聖女様だ!!!!」


「治したって……まさか全員を? そんな、ありえないわ。お父様の聖魔法でも一晩でこんな大勢は無理なのに……」


「どうやら、この者の言うことは本当のようです。部屋も、清潔になっていると言いますか……」


「まさかっ」


 護衛に言われ、部屋を見たリリアはそれ以上何も言わないでいた。


「リア、もう体調はいいのか?」


 そっと肩を持つオリバーの言葉に、周りが反応する。


「リアって……まさか私たちが聞いた聖女様の噂って、リリア様じゃなくて……」


「聖女様だと!?」


 護衛達を含め、全員が膝をつく。


「ちょっと!? あなた達はお父様に雇われているのでしょうっ!! なんでこの女にひざまずいているのですかっ!!」


 リリアがムキになって大声を出す。


「しかしリリア様……こちらの方は聖女様で……」


 護衛達も大聖堂に仕える聖職者だ。父親が大司祭なだけで、リリアは他に何もない。


「〜〜っ!! オリバー様、お父様のところへ連れていって下さいませ。なんだかすごく……気分が悪いですわ」


 



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