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えらくて綺麗で神様に愛されている聖女様

「どうしたんだ?」


 固まる私にオリバーは不思議そうに髪を取ると口付けをする。


「っ!?」


「あの日、心臓を捧げると誓っただろう。俺は君を命をかけて守るし、そうしたい。無駄に喋り方だけ丁寧なだけの彼女より、誰も気に留めない魔獣の気配に誰かが襲われているかもしれないと心配するリアが好きだ」


「っ!?」


 心臓を捧げたって……精神魔法が効いているわけじゃなかったの? それにこの男、わた……私のこと好きって……


 思考が停止する私にオリバーは髪から手を離すと、ソファから降り、そのまま膝をつく。


「君のことは必ずこの心臓をかけて守ってみせる……思い出した?」


「〜〜〜〜っ!!??」


「俺はてっきり、両思いだとあの日から思っていたが……時々不安になる。勘違いだったんじゃないかって。君は聖女様としての任務を強く責任をもっていそうだったからそれまで我慢するつもりだったが……」


 我慢するって何を!? オリバーの顔がどんどん近づいてくる。


「もし俺のはやとちりだったのなら拒否してくれていい」


 だから何をっ!? まるでキッ……キスをしようとしているみたいじゃない。人間の、それも勇者となんて無理に決まっているでしょうっ!!!!


 思考とは裏腹に、身体は動かない。心臓があまりにも激しく動きすぎて息をどうやってするのかすら分からなくなる。


 い、息が……


 唇が触れたかどうかのタイミングで、そのまま意識が途絶えた。








「ん…………」


 見慣れないベッドに一瞬ここがどこか分からなくなる。部屋は静かで誰かがいる気配はない。時計を見ると、お昼前になっていた。


 こんなに寝ていたの!? って、あれオリバーはどこに……そこで昨夜の出来事を一気に思い出す。


「〜〜〜〜っ!!!!」


 そうだわっ……あの時、身体が固まって息が出来なくなったんだわ。この私が何も出来ないなんてそんなこと……まさかっ、聖魔法が!? こっ、興奮してたようだったし、彼が近すぎて光に気づかなかったけど、そうに違いないわ。危なかったわ……それにしても、主従関係が失敗したのなら彼とは一緒にいられないわね。元お父様を倒してもらおうと思っていたけど、その前に私が消滅させられるかもしれないわ。


 部屋に誰もいないことを確認し、自分の荷物を探す。


 あったわ、今のうちに出発すればバレないわね。お礼も期待出来ないし、こんな恐ろしいところにいるなんてごめんだわ。でも……先にシャワーだけは頂いておこうかしら。


 久しぶりの熱いお湯に少しだけ気分が良くなる。


 喉が渇いたけど、あっ、あれがいいわね。


 来客用に用意されているワインを手に取る。以前は宝石の次にお酒には目がなかった。この身体に生まれてからは飲む機会がなかったが、1人の旅立ちに乾杯するのも悪くない。


 ん〜〜っ、まぁまぁってところね。


 そう思いながら、軽くボトル1本飲み干す。


 さてと、そろそろ行こうかしら。魔力を使えば元お父様のところまでひとっ飛びでしょうし。


 そのあとはどうしようかしら。今の私なら1人でも問題ないけど、もし私が魔王を倒したとなると魔族の敵になってしまうわね。だれか別の身代わりがいれば、そいつを差し出して新たな魔王候補に名乗れるかもしれないけど……よく考えればここって少なからず聖魔法が使える人間がいるんじゃないかしら。


 そもそも大聖堂のある国は少ない。前回の魔王討伐戦の影響もあって、リーグ国のように司祭がいない方が普通だ。


 もしかしたら、精神魔法が効く手ごろな相手が見つかるかもしれないわ〜。


 ほんのり上機嫌で、他の部屋を見て回る。


「んっ? ここね」


 魔力の気配をたどり着いたが、扉が重く力がいる。部屋に入ると、1つの部屋にたくさんのベッドが並んでいる。暗くてよく見えないが、咳やうめき声、かすかに泣き声も聞こえる。


 おかしいわね? 弱っている人間しかいないのかしら。オリバーには足元にも及ばないけど、魔力の気配を感じたんだけど……面倒だし、別を探した方が良さそうね。


 部屋を出ようとした時、小さな男の子が急に飛びついてきた。


「きゃっ!?」


「あっ、ごめんなさい!! やっと司祭様が来てくれたのかと思って……」


「司祭? ここは祈祷室なの!? うぅっ……」


 もしそうならすぐにでも離れなきゃ……想像しただけで気分が悪くなる。


「お姉ちゃん大丈夫? ここは……リョウヨウシツってママが言ってたよ」


「そっ、そう。なら、あなたは横になっていた方がいいんじゃない?」


「僕は平気だけど……ママが……っ」


 えっ、泣いてるの? 面倒なことには関わりたくないわ。早くこの場を離れた方が良さそうね。


「司祭様はきっともうすぐ来てくれるわ。だから、ほら早くママのところに……」


「お姉ちゃん司祭様を知っているのっ!? もしかして……リリア様っ!?」


「ちょっ、声が大きい……」


 興奮した少年の大声に、他の人が起き始める。


「リリア様だと?」


「ありがたい、聖女様が来てくださるなんて」


「お慈悲を……」


 ん? 今、誰かあの女を聖女って言った?


「あの女は聖女なんかじゃないわよ」


 聖職者の娘だが、どちらかと言うとずっと禍々(まがまが)しい内面があふれ出ていた。特に気にしていなかったが、あれは黒魔法にすら近い。


「なんだって、ゴホッ。リリア様は俺たちの聖女様でい……いらっしゃるんだぞ。ゴホッゴホッ」


「そうよ、リリア様の噂を聞いて……うぅっ……ここまで来たっていうのに」


「噂?」


「そうだよ。えらい人なのに神様のすごい力を持つ人で、長ーい修行をしながらみんなを助けてくれるって聞いてきたんだ!!」


 泣くのを我慢しているのか、さっきよりももっと大きな声で少年は話すと、にらみつけるようにこちらを見る。だが、目には涙が今にもこぼれそうだ。


「それ、本当に彼女なの?」


「だって、えらくて綺麗で、神様に愛されているなんて、みんなきっとここのリリア様だって言ってたもん!!」



 あぁ、確かに。彼女と私って名前以外も共通点多いわね。だけど、よりによって彼女と間違われるなんてごめんだわ。




 

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