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リアとリリア

「気を失っているだけよ」


 オリバーが護衛を埋葬している間に、助けた娘に怪我がないか確認し、戻ってきたオリバーに伝える。


「…………」


「そうか。どうかしたのか?」


 近くで見ても、やはり年は近いように感じた。長い屋外での修行をしてきた私とは違って、日に焼けていない白い肌にピンク色の綺麗な髪がよく似合っていた。それに……同い年とは思えない豊満な身体つきだ。


「別に……」


「? そういえば、馬車からこれが出てきた。やはり俺たちの向かうジェダ国に行くところだったようだな」


 オリバーの手には、通行許可書があった。


「そう」


「バードに乗る方が早いが、血の臭いで下級だが、魔獣が集まっている。もし空での戦いになるやつが現れれば不利になるからな。少し時間はかかるが、彼女が目を覚ますまでは抱えていくか」


「えっ」


「え?」


「ええって、言ったのよ」


 危なかったわ。思わず彼女も連れて行くのかって本音が出そうになっちゃったわ。聖女が意識を失った娘を魔獣がいる砂漠に放置なんてしないものね。


 夜の砂漠は冷える。その上火を起こす材料もろくに無いとなると、なるべく早く砂しかないこの場所から動く方が良い。オリバーは背中に荷物がある為、抱きかかえた状態で移動する。


「……代わりましょうか?」


「えっ?」


「……私の荷物はあなたがほとんど持っているから、彼女をおぶるくらい平気よ」


「大丈夫だ。リアこそ平気か? 本当なら足場の悪い砂地は抱えていくつもりだったんだが……」


「問題ないわ」


「あぁ、そうだったな」


 オリバーはいつものように笑っているが、なぜか今は見たくない。


 私を抱えるつもりだったですって? 下級相手に気を失うそこら辺の小娘と一緒にしないで欲しいわ。





「…………」


「…………」


「…………」


「……リア、そんなにペースを上げなくても砂地は抜けられそうだぞ」


「このくらいが普段のペースなだけよ」


「水の匂いもしているし、ここら辺で今日は休んだ方が……」


「疲れてないわ。そのままジェダ国まで行ってしまった方が」


「ダメだ」


 オリバーに腕を掴まれる。いつのまにか彼の前を歩いていたことに気づく。


「本当に疲れてなんて……」


「砂地を抜けたといっても砂漠地帯に変わらない。冷えも強くなるし、天気もいつ崩れるか分からないだろう」


「……分かったわ」


 幹に穴があいた大木近くに彼女を寝かせると、オリバーは大きめの石を持ってきた。


「石?」


「地べたは虫がいつ出るか分からないだろう? 寝心地は良くないが、布を敷けば多少はマシになるはずだ」


「そう……ありがとう……」


「近くに水もあったから、持ってきた食材でスープを作って寒さに備えよう」


 渡されたスープは温かく、飲むと気持ちまで落ち着くようだ。唐辛子が効いて、好みの味だ。


「美味しいわ」


「リアと旅に出ると分かったあと、すぐに厨房に簡単なレシピを教わりにいったからな。その時、唐辛子が好きだと料理長から薬味を分けてもらったんだ」


「そんな時間いつのまに……」


「当然のことだ」


「ふふっ、あなたって本当に何者?」


「っ!? ようやく目を合わせてくれたな」


「べっ、別に意識していたわけじゃ…」


「すまない」


「だからたまたまで……」


「本当は心痛めているんだろう?」


「へ?」


「俺が下級魔族の気配だからと気にしていなかったことでも、人が襲われていたらと気にかけた君だ。全員を救えなかったことに傷ついているんだろうと。もう少し早く駆けつけていたら、間に合っていたのかもしれないのに……」


「そういうわけじゃ……いえ、そうなの……よ。でもあなたを責めているわけじゃないわ。気にしないで」


「君を守るのが俺の第一優先事項だ。だけど、それで君を傷つけてしまったことに言い訳のしようもない」


「本当に、気にしないでってば。こうなることも……彼らの運命だったんだわ。今はご冥福をお祈りしましょう」


「そうだな……」



 あああぶなかったわぁーーーー。なんかいい感じに誤解してくれて助かったわ。




「いやぁっ」


 どうやら小娘が起きたようだ。


「誰か!! 助けてっ」


「大丈夫だ、もう魔獣はいない」


 オリバーが焚き木に火をつけ、顔をのぞかせる。


「あ、あなた様が?」


「あぁ、オリバーだ」


「オリバー様……」


 すぐ後ろに立つ私に気づいていないかのように、熱い眼差しでオリバーを見つめている。


「なんてお礼をお伝えしましたら……」


「いや、俺じゃない。こちらにいる聖女様が君の窮地に気づいたんだ」


「どうも」


「まぁ……ありがとうございます。聖女様が助けて下さるなんて」


「戦ったのは私じゃないわ。ここまで運んだのも彼よ」


 なぜかその言葉を聞くと嬉しそうに頬を赤らめる。


「そうでしたの……お恥ずかしいですわ……」


「大したことじゃない」


「そんなことっ!!」


 彼女はオリバーの手を握りしめ、すぐに真っ赤になって慌てて手を引っ込める。


「すみませっ……でも、命の恩人ですわ。私、リリアと申します。父の使いでジェダ国に戻るところ、魔獣に襲われてしまって……国に戻りましたら、必ずお礼させてくださいませ」


 昼間のことを思い出したのか、少し涙ぐみながら話している。


 それにしても、お礼って何かしら。それなりに身分がありそうだし、ジェダ国って確か宝石で有名だったわよね。うふふ、ちょっと期待しちゃうわ。


「別にいい。明日は早朝から出発するから、それまで休んでくれ」


「っ!?」


 えっ、お礼を断るのっ!? オリバーの即答に、リリアも少し驚いたようだ。


「まぁ……でも……それでは私の気がおさまりませんわ……」



 そうよ!! もっと強く押さなきゃ!! 私はその気持ち大歓迎よ?


「はぁ……リア、あとは頼む」


「え?」


 あれ、オリバーってこんなにそっけなかったっけ? 女性にはもっと紳士だと思っていたんだけど……


「聖女様はリア様とおっしゃるんですね」


「えっ、えぇ。まぁね」


「ふふっ」


「?」


「似たお名前で、なんだか親近感が湧きますわ」


 なぜかしら、この娘から一瞬敵意を向けられた気分だわ。まぁでも、お礼をくれるつもりならどちらでもいいわ。


「明日は朝早いから、食事をしたらすぐに休みましょう」


「えぇ、いただきますわ」




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