聖女だったわね
「どうしたの?」
「いや、馬を嫌がるからてっきり乗れないのかと思っていたが、そうでもなさそうだな」
野鳥も勘には鋭い。でも、強さが絶対の彼らにとって、オリバーが群れのボスに勝った今、私を乗せるよう命令すれば関係ない。大人しく背中に乗らせてくれる為、軽々とまたがる。
「べっ、別に……歩きでも問題ないと思っただけよ」
「まぁ、そうだな。馬に乗っていた方が速いがその分獣の臭いで魔獣にも遭遇しやすくなる。今回はこいつらを使うが、空を飛ぶ魔獣もいるからずっととなると難しいな」
「そうね」
そうよね、人間だもの。魔獣に遭遇したら困るでしょう? まぁ魔王を倒すまでは私もこの姿が良さそうだけど、その後のことを考えるとやっぱり魂の姿になれる花は見つけたいところよね。
普通であれば目を開けるのもやっとな猛スピードで飛んでいる中、普段からケロベロスに乗って慣れているため、オリバーに気づかれないようそっと地上を見下ろし感覚をとぎすませる。
うーーん、普通の花とは違って何か魔力とか出してる方が探しやすいんだけど、そもそもどんな気配かも分からないし、難しいわね。小物の気配はするけど、多分低ランクの魔獣でしょうし……
「うーーん」
「…………少し早いが降りよう」
急に振り向いたオリバーが下に降りるよう指示を出す。
「どうしたの? 国境までもう少しあるようだけど……」
「ここまでこれば馬に乗ってくるより十分早いペースだ。それに、疲れがたまっているのかと思ってな」
確かにかなりの距離を移動できた。馬でも数日分かかる距離を全力で飛行したのだ。さすがに力付きたのか、バードはふらふらと帰っていった。
緑地に覆われた森を抜け、砂漠地帯に足を下ろす。
「別に、疲れているわけじゃないんだけど……」
「何か探していたのか?」
「えっ?」
「やたらと下を気にしていただろう」
この男、本当によく見ているわね。私の前を飛んでいたのにどうして知っているのかしら。
「そうじゃなくて……ほら、何か魔獣の気配がしたのよ!! それで気になって……」
「あぁ、そうだな。小物程度かと思って気にしてなかったが……」
私が感覚を研ぎ澄ませて気づいた程度だっていうのに、どこまで鋭いのかしら。でも、なんとか誤魔化せたみたいね。
「それにここは次の国境まで近くでしょう? 念のため人が襲われていないか心配で……」
「そうか、確かに。それなら、少し様子を見に行くか」
「そうね、それがいいわ」
川沿いに進んでいた時とは違い、砂に足をとられ歩きにくい。途中、オリバーが手を差し出したが断る。
距離を保った方がいいわね。ただでさえ勘が鋭いんだから。
「あぁ、あそこだな」
「えぇ、そのようね」
やはり低ランクの魔獣が数匹、集まっているようだった。だがよく見ると馬車を襲い、人間がうずくまっている。
「さすがだな……」
さすがって? 言われた言葉の意味を考える前にオリバーは飛び出していた。魔獣が人間を襲う。当たり前の光景すぎて何も思わなかったが、そうか。勇者一行なら助けるのか。
「ふぅん、馬車はそれなりに良いものだけど、護衛が見合ってないわね。少なすぎるわ。お忍び? あの程度の魔獣に負けるようじゃ大した身分ではないでしょうけど」
下級魔獣といっても牛ほどのサイズだ、それなりに護衛の腕がなければ簡単に倒される。それが数体ともなれば下手に逃げることも出来ない。
まぁ、オリバーならすぐでしょうけど……
思ったとおり、すぐに魔獣は片付けられ、馬車から誰か抱えて戻ってきた。
「おかえり」
「あぁ」
その腕には同じ歳くらいの娘が気を失っているようだった。
「他は間に合わなかった」
「…………」
こういう時、なんて声をかけるのが正解なのかしら。1人助かって良かったわね!! それとも、全員が助からなくて残念だったわね、かしら? 難しいわ。そもそも自分の身も守れない弱い人間がこの程度の護衛で外に出るなんて、何を考えているのかしら。
「どうするの?」
「え……」
しまったわ。変な質問だったかしら……ええと、コードの言っていたことで、確かこういう時は親切にとか、愛を持ってなんたらって言っていたわね。
「そうじゃなくて、ええと……この女性の今後を思うと胸が痛むわ。彼女の為にも、私たちは愛をもってどうしたら良いか考えなくてはいけないわね。どうするのが1番なのか!!」
「あっ、あぁ。そうだな……とりあえずどこもケガはしてなさそうだが、俺はこれ以上確認のしようがないから頼めるか?」
「もちろんよ」




