私の正体
「王女様、お加減はいかがでしょうか?」
「うー、あい!」
「なるほど、では、今朝の食事はサラダなどいかがですか?」
「うーうー」
「では、フルーツからにされますか?」
「はぁい!!」
あぁっ、表情筋が疲れるわ……
あの男が専属医師になってからというもの、毎朝の健康チェックだけではなく、食事のたびに現れては侍女たちとの様子を観察される。
――違和感がある――それ以上何かに勘づかれた様子はなさそうだが、今気付かれるのは避けたい。おかげで、こっちは子どもっぽく振るまう日々を送られされている。
「はい、今日の診察はこれで終了です」
「あいあとーあす!!」
はあ〜〜ようやくの解放だわ。でも、もう少しの辛抱よ。早く話せるようになればこの男を解雇できるはずよ。その為にも、今までは脱走に力を入れていたけど、発声練習を欠かさず行っていますもの。
「まぁ〜、王女様が歩いてますわ」
「早く陛下にもご報告を!!」
「すぐに伝達を!!」
あの事件以来、王……つまりパパへの報告は、専属の伝達役が配属され、私への護衛人数は更に追加された。
伝達魔法を使えばいいのにって思ったけれど、人間の世界で魔法が使える者はほとんどいないよう……
そうすると私が魔法が使えると知られるのはあまり好ましくはないわね……確か人間でも魔法を使える者達はいたけど、勇者ご一行くらいしかみたことがないし、魔法が使える人間はもしかしたらかなりレアなのかもしれない。
「なっ!! なんということだ。少し来れなかった間に……もう歩くのか??」
「先ほど、2-3歩ほど歩きましたので。数日もすればもっと歩けるようになるかと」
「早すぎないか!? コード、どうなのだ??」
興奮した様子の王は、男に振り向く。どうやら、私の専属医の名前はコードらしい。気のせいか、他の使用人達よりも関係性が近いような気もする。
「……王女様は、この1ヶ月ほどで成長が著しいものがございます」
ふふん、そらそうよ。あなたに不審に思われないようどれだけ苦労したと思っているの!?
「言葉数も増え、筋肉の発達は順調そのものでございます」
そうよね、そうよね。だから、もうあなたの役目はなくても大丈夫よ。
「……特にお顔の表情が実に豊かになりました。どうやら私の違和感はやはり、人見知りのものだったようです」
うん、うん。ちゃんと自分のこと分かってるじゃない。
「ですが、どうやら王女様には、特殊な力があるようです」
っ!!??
「特殊な力だと??」
なぜか他の使用人たちを下がらせ、パパとコード、私だけの3人にされる。
まずいわ……私の正体がバレたってこと!?
「それで、リアに特殊な力とはどういうことだ」
「毎日問診をして、確信しました。王女様には魔力がございます」
ドクンっ、心臓が大きく動くのを感じる。いくら私でも、この状況で正体がばれるのはまずい。ほとんどの人間は魔法が使えないけど、なぜかこの2人には勝てる気がしない。悪い予感がする。
「貴方様も思いあたることがあるから、私を王女様の専属医にされたのでしょう?」
「…………あぁ、そうだ」
「元、魔法師である私なら、微力な魔力に気づけますからね」
「リアが襲われた魔獣は、侍女を踏んだ足以外にはダメージがなかった。にも関わらず、核がなかったのだ……」
「つまり……」
「あぁ……」
どうしよう……元、魔法師ですって!? 魔王軍討伐に参戦したってこと!? そんな実力者が……でも、ここは差し違えてでも仇を……
「聖女様の誕生だ」
ん??
「おめでとうございます。王の力は生涯で一度……それを国民の保護に使われ、もうこの国の護りの切り札がなくなってしまったかと思っておりましたが……」
「あぁ、まさか……リアが聖女の力を持って産まれてくるとは。だが間違いないだろう……核を破壊するでもなく、あとかたもなく全て消し去るなど、浄化魔法の発動としか思えん」
「えぇ……間違いないでしょう……戦では第1戦に行けず、貴方様とともに王都の守りに徹していましたが……こうして聖女様のお手伝いとしてまたお役に立てる日がくるとは……」
まさか、この2人……勘違いしている?? しかも魔王を直接知らない、ということは私の魔力の正体にも気づかないってことよね。ふふ、私の魔力が成長するまで思う存分役に立ってもらいましょうか。