魔法なしでこれですか?
木の実は少なく、1人分にも満たない。いも虫の騒動で余計な体力と時間を消費してしまい、気づけば辺りは暗くなっていた。
「あなたも食べたら?」
どう考えても体格の大きいオリバーがもっと食べるべきだ。半分以上どころか、ほぼ全部私に渡している。
「俺は大丈夫だ。水はあるし、まだ国を出たばかりだから、腹も減ってない」
「……歩きだと、やっぱり思うように進まないわね」
「まだ魔王は目覚めてないのだろう? 普通は魔王の復活とともに聖女や勇者が天啓を受けて旅に出る。だからそんなに急ぐ必要もない」
「それは……そうだけど」
魔王が目覚めたら人間達に甚大な被害が出る。もし本当に魔王が目覚めるのなら、その復活前になんとかすべきって言われるかと思ったわ……
「それに……」
「それに?」
「明日からは移動方法も考えている」
「?」
「それより、今日は食べたら休んでくれ」
「寝ないの?」
「火の番をしているよ。獣も寄ってこないだろうし……虫も多少は近づかなくなる」
「…………ありがとう」
「あぁ」
どうして、そんな優しい顔でこっちを見るのよ。なんだかすごい罪悪感持っちゃうじゃない。コードの時は、とにかくすぐに教会だ聖水だで優しさのかけらも感じなかったけど、悪くないわね。
「ん……朝?」
久しぶりによく眠れたわ。いつも気絶してたものね。あれ、地面で寝ている割に身体が痛くないような……
「でっ!?」
「んっ、あぁ。おはよう」
「おはようじゃないわよ!? なんであなたの膝の上で寝ているのよ!!」
「いや、それは……リアが……」
「私?」
まさか私がこの男にすり寄っていったっていうの? 木の上ですら微動だにしない私が!?
「うなされているようだったから……」
「それは…………」
昨夜のいも虫のせいよね。
「んんっ、それで……あなたは寝たの?」
火は消えているようだが、まだその周りは温かい。夜明けまで火の番をしていたのかしら。
「いつも仕事の後に鍛錬をするから、これくらい寝れれば十分だ。それより、今日はアレを使おう」
指差した方角には、巨大な鳥、バーズが飛んでいる。魔獣とは違うが、その大きさは人を乗せられるほどで、鳥なのに強さで順位を決める絶対的な上下関係をもつ。その凶暴さからめったに人間が近寄ることはないが、ゼビル姫の時には食用でよく食べていたわね。
「…………(ごくりっ)」
「どうした? 鳥も怖いか?」
オリバーは少し心配そうにこちらを見てくる。
「平気よっ、でも、あの鳥に追いつくのは大変よ?」
空を飛べる時なら簡単だったが、あいにく今はケロベロスもいない。木の上近くを飛ぶ時もあるようだけど、一瞬だし、ほとんどは手の届かないような上空にいる。
「良かった、先に捕まえる前に確認してからと思ってな」
ん? もしかしてあの事件を思った以上に気にしているのかしら。でも、捕まえるってずいぶん簡単に言っているような……
考えるより先に、オリバーは一気に木をかけのぼる。枝を使い、木の真上に来たバーズの胴体にあっという間に飛びうつる。
当然、怒り狂った鳴き声で高い上空まで上昇したバーズは、垂直に急速全開で下を目指す。そのまま地面にたたき落とすつもりなのだろう。
「ちょっと!?」
魔法を使うつもり? でも、まだ力のコントロールが出来ていないわよね!?
オリバーは身体を回転させ、捕まえているバーズの向きを空中でひねるように体勢を整え、その勢いのまま地面にたたきつける。
「っ!?」
大きな音とともに、完全に気を失った仲間を見た群れは、1匹の雄叫びと同時に上空から群れで一気に襲いかかってくる。
「あぶなっ……」
「問題ない」
地面に足をつけたオリバーは余裕の微笑みを浮かべると、雄叫びをあげた1番体格の大きいバーズに狙いをさだめ、他の向かってくるバーズを踏み台に近づき、唯一の弱点である首にめがけ、下から逆かかと落としで打撃を与える。
「ぐぎゃあっ!!」
勝負は一瞬だった。おそらく群れのボスであるバーズが白目を向いて倒れると同時に、周りのバーズたちは静まりかえる。
「……俺が新しいボスでいいな?」
オリバーの言葉に、いっせいに鳴き声で返事をする。
「移動手段を手に入れたぞ」
「…………えっ、えぇ」
「バーズなら馬より早い。だが、群れで飛べばそれなりに目立つから、次の国の国境近くまでにするか」
「そうね」
「どうした?」
目を合わせず返事をしたのが変に思われたのか、顔をのぞきこまれる。
「〜〜っ、別に……闘いに慣れているのね」
「あぁ、言っただろう。勇者に負けないつもりで鍛えてきたって」
まさか魔法1つ使わずにあんな一瞬でバードを手懐けるなんて。この男、勇者じゃなくても強さだけならそれ以上だったんじゃない?
オリバーの強さに本気で引いてしまう。もし魔族に戻ったら、もし魂の状正体に気づかれたら……勝てるのかしら。




