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ソレだけは無理なの

 スカートを慌てておさえると、オリバーは慌てて否定する。


「視力はっ!! 実は悪いんだ……だから、その……見えていない……」


「視力が?」


「〜〜〜〜っ、はぁ……」


 隠したかったことなのか、観念したようにため息をつく。


「君と初めて出会った時……覚えていないようだけど、かなり分厚いメガネをかけていたんだ。俺が周りにけむたがられていたのも、私生児で……気弱な性格だったこともそうだが、目が悪いことも関係ある。貴族は血統を気にするからな。目が悪いだけでも、忌み嫌われるものだ……」


 

 そういえば、あの頃のオリバーの記憶はほとんどない。でも、今は裸眼よね? だったら今も目が悪いっていうのは嘘じゃ……


「今も見えないのは本当だ!! だが訓練したんだ。人の気配でぶつからないように動けるようになった。魔物が襲いかかっても、目で見るよりもむしろ有利なくらいだ」


 それでケロベロスにも気付いたのね。気配を消してなお気づかれるなんて、むしろ恐ろしいわ。


「……さすがに字を読む時はメガネはまだ必要だがな」


「見えにくいってこれくらいなら?」


「〜〜っ!?」


 オリバーの視力を正確に把握しておく必要がある。顔を近づけ、その程度を確認する。


「あの……見えてます」


「そう。ならこれくらいは?」


「……ええと、一度見たものは正確に覚えているから、距離が離れていても頭で情報を補正してクリアに見えるというか……だからリアの顔は例え1キロ離れていても見える……」


「へっ、へぇ……それは……すごいじゃない?」


「ごほんっ……なので、戦闘に不利になることはないから安心してくれていい」



 まずいわ!! これはかなりまずいんじゃない!? 気配に鋭くてそのくせ一度認識したら細部まで覚えて見えるなんて、普通に見える勇者よりヤバい奴じゃない!! 


 地形にやけに細かく覚えがいいのにも納得がいく。


「……とにかく、木の上で寝るのはやめよう。ちょうど良い寝床が作れそうな岩陰があった。そこでひと休みする、で良いな?」


「……分かったわ」


 実は虫が怖いとは言えない。ゼビル姫の時には、たった1匹の羽虫が目の前を通っただけで森を焼け切ったくらいなのに……この男に弱点をさらしたくないわ。ここは大人しくしておいた方が良さそうね。



「…………」


「慣れているのなら、少しだけ荷物番を頼む。この辺りを念の為見てくる」


 オリバーは見回りと食料の調達に出かける。


 別に、魔力も感じないし、見回る必要はないのに……



「ふぅ……それにしても、お父様の様子を見に行くのなら、あの男は邪魔ね……ん、いや待って。私どうしてわざわざお父様の無事を考えているのかしら」


 よく考えなくても、魔王は私の生命を奪った男だ。魔族が魔王に従うのが当たり前すぎてたけど、今の私は娘でも魔族でもないんだから、その義務はないわよね。


「やだ、私ったら……」


 魔王が眠っている間に今度こそ永眠させれば、魔族は混乱に陥る。自然と新しい王を争うのだから、その闘いでもし私が頂点をとれば……


「フフ、フフフフ」


 もう理不尽に魔力を奪われることもないわ。それならオリバーと旅をするのも悪くないわね。少し冷たい態度をとっちゃってたけど、元、お父様を葬ってもらう為にも少しは優しくした方がいいわね。


 オリバーが帰ってくるまでに、火おこしを行う。枯葉や小枝を集め、誰もいないことを確認して火の魔法をかける。


 よしっ、バッチリだわ!!


「火をつけてくれていたのか?」


「っ!!?? いっ……いたの!?」


 気配を感じなかったわ……見られたのかしら……


 聖女が魔法を使うことは珍しくないけど、聖魔法とは違う魔力を感じられたら気づかれてしまうわ。オリバーの様子は特に変わりなさそうだし、とりあえず大丈夫、よね?


「この辺りを念の為確認したが小物がいるだけで問題はなさそうだ。それと、タンパク源を確保してきた」


「そう、なの……ありがとう。それじゃあ火で焼いて……」



 オリバーが持つ葉っぱの包みをのぞくと、大量のいも虫たちがびっしりと動いている。



「きゃああああああっっっっ!!!!!!」


「なっ!? 山ごもりに慣れているなら、見慣れているだろうっ!?」


「来ないでっ!? 最低よ!!!! よりによっていも虫だなんて!!!」


「荷物の食糧は貴重だっ、あるものは有効活用しないと……っ!?」


「〜〜っうぅっっ」


「え、泣いてっ!? その…………少し待っててくれ」



 久しぶりに見た虫が、1番苦手ないも虫だなんて……あの手足が見えない見た目でウニウニした動きが本当に無理だわ……修行していた時はケロベロスにあらかじめ一帯の虫を食べてもらっていたのに……やっぱりあの男と一緒にいるのは無理だわ。何か別の方法を考えないと……


「遠くに置いてきた……まさか、虫がそんなに苦手だったとは……すまない」


「…………」


「代わりに、木の実をいくつか見つけてきた……少ないが、食べれるか?」


「……えぇ」



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