好きなのか!?
「えっえぇ!? 私が!? だって、コードがどこかで新たな勇者が現れるって言ってたじゃない!!」
「えぇ、大勢の前でしたから……あの場ではああ言うしか……って、覚えていらっしゃるので?」
「ええと、確かそうだったと聞いたのよ!!」
「そうですか……とにかく、もし本当のことが広まれば聖女様に求婚する者たちが押しかけるだろうと、今日まで口外せずにいたのです」
そうか、もし勇者が聖女に選ばれるのだと予言されたとなれば、ヤナンみたいなやつがもっと増えるはずよね。なんて恐ろしいの……
「聖女と勇者がそろえば魔王が復活する。それは避けたかったのだが、やはり逆らえないものだな」
「陛下……確かに魔王の復活がこんなに早いことも異例でございますが、今回は聖女様の目覚めから今日まで、私の知る限りの光魔法をたたき込んだつもりです。過去の聖女様と比べても、その準備期間は相当なもののはずです」
「?」
「聖女様、先ほどのことかと……」
シシラがそっと耳打ちしてくれる。
先ほど? って、まさか……
「ええええええっ!? オリバーですか!?」
名前を口に出すと、暗かった王の顔色が更に悪くなる。
「あいつが……す……す……」
「好きなのですね」
王の代わりに王妃が尋ねる。心なしか嬉しそうな表情をしている。
「そんなわけっ…………」
しまったわ……ここで否定すれば私が聖女ではないと疑われてしまうわ……でも、どうしてオリバーが光魔法を? 彼には精神を従える魔法をかけて主従関係を結んだんだわ。効果があいまいなところがあったけれど、成功……してたわよね。確か、主人に魂を握られるとこちら側の魔力を意図して使用させることが出来たはずだわ。意識した覚えはないけど、効果が不安定な感じだったし、人間の身体ではうまくいかない呪術なのかもしれないわね。
ようやく、魔力なしだったはずのオリバーの覚醒に納得がいく。
だけど、どうして聖魔法だったのかしら……オリバー自身が魔力の開通で聖魔法に目覚めたとしか考えられないわね。浄化される直前で、光を止めて欲しいって無意識に命令が上手くいったのかしら?
「うーーーーん……」
「あの、聖女様?」
シシアの声でハッとする。
「あっ、いえ。ええと、これが好きという気持ちかは私もまだ分かりませんわ。今日は色々なことがありましたし……」
とりあえず、ここは当初の予定どおり無難に対応しておいた方がいいわ。もしオリバーが本当に勇者として覚醒したなら、本物の聖女が現れる可能性もなくはないはず。
「あぁ……そうか、そうだな。今日はゆっくり考えなさい」
「えぇ。疲れさせてしまったわね。でもね、もし困ることがあれば、母はいつでも相談にのりますからね」
「ありがとうございます」
ふぅ、やっと解放されるわ。
「聖女様、お疲れのようですので、最後に私からのプレゼント、受け取って頂けますか?」
コード!? そういえば、なんでこの話をするのにわざわざここへ連れてこられたのか気になっていたけど……あなたが絡むとろくなことがないのよね。
「いえ、明日でも良いかしら?」
「そうおっしゃらずに。新たな勇者が出た以上、魔王復活の確認が必要です。私には……もう魔力はありませんが、この生命の樹を使えば話は別です」
「生命の樹?」
「王のみが管理することを許されている木です。魔王が復活する時に一度しか実らないとか」
そう言うと、コードは長い呪文を唱えると、生命の樹が光る。前回、成長を早めた時には花が咲くのみだったが、今回は違う。1つだけ赤い果実を実らせていた。
「どうぞ」
「これは?」
「それを食べることで、魔王に関する新たな能力が得られるはずです。過去の聖女様達もこれを口にすることで、魔王の正確な場所までたどり着いたと言われています」
なるほど。どおりで勇者一行がしつこく追いかけてくるはずだわ。まぁ、お父様の状況が分かるにこしたことはないわね。コードにしては悪くないプレゼントね。それに、私がコレを手に入れたということは、万が一他の聖女が名乗り出ても、お父様の居場所が分かることはないわね。
「ありがとう、コード。嬉しいわ」
「っ!? 本来であれば覚悟がいるでしょうに……さすがでございます。もう魔王への討伐の覚悟が固まっていらっしゃるのですね」
「えあっ!? んんっ、そうっね」
「まぁっ、聖女様。ゆっくり召し上がって下さい」
シシアが心配そうに背中をさする。その時、頭の中に魔王が目を閉じたまま、魔力の力を増大させているイメージが流れる。
「お父様……」




