勘違いでした
「聖女様?? どうされたのですか??」
「え、いや。別になんでもないわ……」
オリバーの距離感に耐えられず、気づけば逃げるようにパーティを離れてしまった。途中、ヤナンや公爵が何か言っていた気がするけど、耳に入らなかった。
「お祈りの時間に間に合いそうもなかったから、少し慌てただけよ」
「そうですか。せっかくのおめかしをもう取ってしまうのは残念ですが、仕方ありませんね」
「あっ、そういえば、結局ほとんど挨拶することなく離れてしまったけど……大丈夫かしら」
まさかお母様が残りの相手をしているのではないかと不安になる。
「それは問題ございません。皆、今回は大事な誕生日だということは分かっておりますから。ふふ、リア様が若い殿方とお話していると、もう噂になっておりますよ」
「全くの勘違いだわ」
「全くの……でございますか??」
「えぇ、そうよ」
「リア様……今は私と2人きりなわけですし、本当のことを言っても良いんですよ!?」
「だから、誤解よ」
「そうですか……それなら、仕方ありませんね」
なんでがっかりしているのよ!! 私が人間に恋なんてするわけないじゃない!! それも相手が勇者になる可能性があるならなおさらね。
「……それと、リア様の代わりにあの人が対応してくれています」
「あの人??」
「えぇ、皆さん是非聖女様がいかに素晴らしいかの話を聞きたいからと……」
「あぁ、なるほど」
コードね。せっかく関わらないように避けていたのに、聖女としての株をあげる話はやめてほしいわ。正直、いまでこそ慣れたけど、聖女様って人から呼ばれる度にゾワッてするもの。でも、コードがいないならいつもみたいにお祈りするフリをしなくても大丈夫そうね。
「そう。なら、お祈りは1人でしてくるわ。着替えもあとででいいわ」
さすがにシシア1人で着替えは大変だろうと断る。それに、久しぶりの派手な格好だ。ゼビル姫の時には毎回のように新しいドレスを手に入れては袖を通していた。
やっぱり、お洒落はするものね。いつもより気持ちが上がって、魔力も高まってる気がするわ。
「そうですか……久しぶりに私も一緒に行きましょうか」
「えっ、いいのよ。シシラもせっかくいつもよりお洒落したじゃない!? もう少しパーティ楽しんできて」
うーー、せっかく久しぶりに自由になれるっていうのに、邪魔されたら困るわ!!
「ですが……」
「ほら、これは私の誕生日祝いじゃない!? シシラがパーティを楽しんでくれると私も嬉しいわ」
「そうですか……」
「そうよ、それに……今日はいつもより長くパーティするのよね!? お祈りが終わったら私もやっぱりもう一度顔を出すかもしれないわ」
「リア様……分かりました。先に戻っています」
ふぅ、久しぶりの1人だわ!! 自由よ、最高だわ!! うふふ、この宝石もやっぱり素敵ね。この身体の最大の利点は、手先の器用な人間の作った装飾品を私好みにしてもらえることくらいだわ。
瞳の色に合わせ作られた装飾品にうっとりする。
そうだわ!! これだけこの国の中枢メンバーが集まっているなら、何人か精神を奪っててもいいわね。今の魔力なら問題ないはずよ。
すぐに窓から飛び出す。
庭に出ている人間から襲えばいいわ。きっと酔いを覚ます為に何人か休んでいるはずよ。
思ったとおり、池のほとりに人影を見つける。
フフフ、魅了で心を奪ったあとに、精神を私のものにすれば簡単ですもの。私が聖女様と知れば、一瞬ね。
「こんにちは」
「…………」
「ええと、私も1人で祈りをしに来たのだけど、足を痛めてしまったみたいで……」
振り返った男と目が合う。
「っ!? あ、あなたは……」
「足を痛められたのですか??」
「いや、気のせいでした」
「…………」
「何を!?」
「足を見るだけです」
なぜ……こんなに大勢が集まるパーティでオリバーなわけ!? 別に躊躇する必要もないんだけど、なんとなく、彼はやめた方が良いと本能が警告する。早くこの場から離れたいのに、なぜか抱えられている。
「本当にもう、降ろして頂けるかしら!?」
「…………」
ちょっと!! 聞いている!? 本能の警告関係なくやっぱり精神を乗っ取ってやろうかしら。




