危なかった、ですわ
「お怪我はございませんかっ!!??」
「落ち着いてシシア……本堂まで入ってきては……」
「何をおっしゃるんですか!! 恐ろしい地響きがしたと思えば急に本堂のドアを突き破られて……助けに行こうにも何も出来ない私たちの気持ちが分かりますか!!?? うぅっ」
えっ、シシアが泣いている??
「落ち着いて下さい、とは私も言えませんが……」
コードがそっとかがみこむ。
「アレはさすがに私もうろたえました!!」
「そ、そう……」
「神聖な……それも司祭様のいらっしゃる大聖堂であのような不穏……誰が予想できましょう……ですから、ご無事で何よりでございます」
「うん……」
「それにしても、すぐにとてつもないあの輝き、そして元に戻ったこの力はさすがでございます!!」
「うん??」
「祝福された聖女様のなせるわざ……しかもこのような強い輝き、リア様以外誰が出来ましょう!!」
「えぇ、リア様……ご立派でございますわ」
えぇ〜〜っ、2人ともすごい眼差しでこちらを見つめているんですけど!? 私が聖魔法を、しかも清められた大聖堂で使えるわけないじゃない!!
「えぇ、本当に。このようなことは長く司祭をしている私も初めてでございます」
「っ!?」
「聖女様の……祝福はそう経験できるものではございませんが、それでも今回のような出来事は初めて聞きます。それに、聖水があのように真っ黒に、それも魔界につながるなど前代未聞……ですが、それ以上にあれを一瞬で全て浄化する強さなど……私も必死でしたが、このような強さはとても……まだ幼いにも関わらず……」
まずいわ……この司祭、私を疑っているんじゃ……
「天才!! としか言いようがありませんな!!」
「っ!!??」
「そうでしょう!! 我が娘はまさに天才!!!! このような奇跡、実は初めてではないのだからな」
「なんですと!? 是非そのお話を!! 歴史に残る聖女様として記録に書き留めておかなれけば!!」
「まぁ、落ち着いてください司祭殿。リアはこのあとお披露目が残っております故、その話はあとでゆっくりと」
「あぁ、これはとんだ失礼を。是非改めてお願い致します」
なんか、この会話デジャブなんですけど……司祭が落ち着かされてどうするのよ。あ、でもそっか、大聖堂が壊れたから私の魔力が使えたのね。思わず消滅の魔法使っちゃったけど、呪木の魔力にどうやら間違われたようね。この司祭、自分の聖魔法を私の出した光だと思っているんだわ。
「リア様どうされましたか??」
「いえ、ちょっと気が抜けただけよ……それより、お母様は??」
騒動がおさまり、シシアやコードが駆けつけると同時に、王妃もすぐに護衛たちとともにすぐに連れていかれた。
まぁ、体調が良くなったっていっても、まだ確証もない状態で無理に参加したものね。怪我はしていないと思うけど、きっとお父様が指示したのね。
「王妃様は大丈夫です。念の為体調の確認でお城へ戻っておりますが、あとでまた合流できる思いますよ」
しれっとコードが答える。シシアはまだ泣いたり心配したりでそれどころではないのだろう。
「このまま、お披露目をされるのですか?? リア様も王妃様と同じように念のため一度城へ戻られた方が……」
「いいえ、行きますわ。ね、パパ」
「そうだな。お前が問題ないのであればこのまま行った方が良いだろう。聖女としての光は民にも届いているのであれば、新しい聖女の誕生を祝いたいと賑わっているだろうからな」
本音を言うと、やり直しされるのが困るからなんだけどね。
元々お披露目は大聖堂の1番上にある鐘の音で知らせる予定だったようだが、既にあの光で多くの者が集まってきていた。
「事前に知らせはしないのね」
「リア様が聖女様というのは一部の上流貴族の間では既に知られていましたが、やはり聖なる儀式の後でなければ正式には発表されませんから……」
「なるほどね……ちなみに、もし違う時にはどうなるの??」
「ある程度力を確認してから行われますのでそのようなことはないと思いますが……そうですね、もし偽りであれば悪の所業として聖水で全身を清めたあと、焼印の刑が処されるかと……」
「全身を聖水で…………」
なんて危なかったのかしら。そんなことされたら、ゼビルとしての魂が消されるかもしれないわ。
「ハハハ、失礼しました。幼いあなたにする話ではありませんでしたね……ですが、ご覧ください。鐘を鳴らす前だと言うのに、こんなにも多くの民が集まっています。あなた様が生まれ持っての聖女様であられる証拠です」
「アハハ、そうかしら?? アリガトウゴザイマス」
「では、私とともにあのバルコニーからお顔を……おそらく、司祭として最後の大役、務めさせて頂きます」
大きな鐘の音が聞こえたあと、司祭とともに登場する。皆聖女の姿を一目見ようと集まっている。
「…………」
「緊張されていますか??」
「いいえ、慣れているもの」
「そうですね、聖女様は王女様でもいらっしゃいますから」
いいえ、それよりももっと前から、ゼビル姫の頃からよ。でも、あの頃の表面上は忠誠を誓いながら、魔王の娘というだけで高い地位を与えられた私の座を狙う者たちとは違う。誰もが歓声をあげるのね。こんなに私に心酔している今なら操れるんじゃない??
両手を上げ、精神を乗っとろうとする。
「聖女様??」
隣にいる司祭を忘れていたわ!!!!
「…………」
「????」
「……いえ、手を振ろうと思いまして……」
更に大きくなる歓声の中、両方の手を振りつづけるいう辱めを受けることになってしまった。




