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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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悪役令嬢モノの公爵令嬢を陥れたヒロインに転生しましたが、どうやら断罪される前日のようです。

作者: スクール U
掲載日:2024/11/21

「―――ここはどこ!」


暗く汚れた地面の上。突然視界に入った薄汚い光景に意識が一気に持っていかれる。体の節々は痛く、ヒリヒリと乾燥する。体は薄い布でできた服だけしか着ておらず、寒さで体が徐々に震えてくる。


私は確かにさっきまで日本(・・)の横断歩道を歩いていたはず。そして信号無視をした車にぶつかり跳ねられたはず。

だけど、私の視界に写っているのはアニメの世界でしか見たことのない錆びついた鉄の棒で閉じられた、汚く狭い牢屋の中にいるのだと理解した。そして体も軽く若々しくなっている。


首を伝う長い髪の毛は、自分のものとは違うピンク色。肩に負担のかからない控えめの胸にほっそりとした手足。

私の体では無い。


牢屋の中にあった銀の皿の中に入っていた水を覗き込んでみると、そこには全くの別人の美人が映っていた。そして次の瞬間、大量の記憶が頭に流れ込んでくる、


この体の持ち主の名前はフィラーナということ。元王太子妃であること。今現在は多くの罪に問われて裁判を明日に控えていること。

色々な情景と記憶に残っている人々の名前を辿っていると、一つのとある悪役令嬢小説が頭に浮かんだ。



小説の内容はシンプルな悪役令嬢モノ。

とある小説内でヒロインをいじめる悪役として描かれていた第二王子の婚約者の公爵令嬢に転生した主人公。だが、実はほとんどがでっち上げであったが理不尽に罪を押し付けられて婚約破棄をされ断罪されてしまう。


両親からも見放されて辺境へと追いやられて主人公だが、そこでのびのびとスローライフを送っていた。そんな中で、第一王子と恋をしたり、ヒロインからの嫌がらせを跳ね返したりしていく物語。


最後は恋仲になった第一王子とともに、不正やその証拠隠滅、殺人未遂などを起こした第二王子とその婚約者となっていて、傲慢で贅沢ばかりをしていたヒロインを断罪して物語は終わる。



段々と自分を追い落とした奴らにざまぁしていくところがこの小説の醍醐味。最後にはヒロインを裁判にかけてこれまでの悪事を暴き白日の下に晒し、結果的にこれまで支持をしてきた民衆に嫌われ、誰にも助けられることなく辺境の地に追放される。


少し残酷な終わり方だが、それまでにヒロインの数々の悪事が描かれているため読者としてはむしろ気持ちよく読み終えることができる。


そう、この小説の中の悪ヒロインはクズ女。平気で嘘をつき男を誑かし罪をなすりつけて色々な男と不貞行為をして不正をして豪遊三昧で・・・。

当然そんな裏の顔を王子には見せずにいるのが腹黒いヒロインの凄いところ。まあ、結局はその悪事も断罪されるのだけれども。


で、そのヒロインの名前こそフィラーナ。地方男爵家の生まれながらあの手この手で第二王子の婚約者に成り上がる女。

そう、私はそんな女に転生した・・・・・え!?どうして!?!?!?!


まず整理しよう。

私は日本で交通事故にあって死んだ。→悪役令嬢小説世界に転生した。→転生体は断罪される悪ヒロイン。→しかも断罪裁判の前日。


こんなことがあって堪るか!!何で転生した先がこの女なのよ!

普通は悪役令嬢、又は王子やモブでは無いの!?転生ってこんなランダムなの!?そもそも何でこのタイミング!?

せめて主人公を断罪する前、もしくは断罪した後にしてくれる?!そうすればまだやりようがあったというのに・・・この現状をどう打破すればいいのよ!!!!!!!


現状は牢屋に閉じ込められている。明日は朝から裁判。つまり今夜脱獄するしか無い。でも、この世界に魔法はあるけど、フィラーナの使えるものでは脱出できない。もちろん私にピッキング技術もなければ、身体能力もそこまでいいとは言えない。


不測の事態には強いから今の状況も冷静に分析しているけど、そもそも私は泣き崩れてもいいレベルの理不尽を味わっているのよね。

文句を言っていても何も変わらない、かと言って行動も何もできない。


私の第二の人生はここに終わる・・・



なんて言う結末は絶対嫌だわ!必ず、私は生き残る!そして前世でできなかった自由と恋愛を謳歌したい!


原作通りにいくなら、私は裁判の場で最初は喚き散らし、途中からは惨めに言い訳と命乞いをして軽蔑の目を向けられる。それに哀れみがあったのか、結果的に国境ギリギリの山の奥深くの辺境に追放という処分で済んだ。もしかすると魔女認定されて処刑された可能性もあったのにだ。


で、あるならば最初から命乞いをすれば哀れみで近場への追放だけで済むのでは?浅い考えではあるけれど、主人公は結構寛容なところもある。惨めなことをするのは嫌だけど、それさえ耐えれば選択肢が広がる。


急に転生したかと思うと、こんな理不尽なタイミング。色々と文句はあるけど、今はまず生き残らなければならない。

私は必ずこの場を切り抜けてみせるわ!


そう意気込んで私は硬い床に体をあずけて眠りについた。

幸いにも脳がフル活動して疲れていたため、寝心地の悪さを気にせずに寝ることができた。







「出ろ!」


突然牢を開けたかと思うとズケズケと入ってくる甲冑に包まれた兵士。三人がこちらを睨みつけながら寝起きの私を起き上がらせて強引に法廷へと連れて行く。


大きな扉をくぐって連れてこられた法廷は、見たことのない大きさをしていた。裁判官の席を正面に周囲をぐるっと囲うようにある傍聴席。席には空きがないほど座っており、立っている人すら見受けられる。


百人以上がいるこの空間に何人か見知った(フィラーナの記憶で)人がいた。


まずは正面の裁判官から見て被告側の席、より一段上に座っている美青年。厳重に兵士に囲まれていてこちらをちらっと見てくる。

この金髪美青年こそ、私の婚約者でバカ男、第二王子のライース殿下。優柔不断だが、その割に自分勝手なところがある駄目王子。まんまと悪ヒロイン(私)の口車に乗せられて理不尽に主人公を追放した男だ。


次に目を向けたのはそのライース王子の隣に座る赤、緑をそれぞれ髪色としている美青年。赤髪の男は短髪の熱血系、緑髪の男は長髪を後ろで結んでメガネをかけている知的系。いかにも女性受けしそうな三人だが、どいつも悪ヒロイン(私)に誑かされて婚約者を捨てた同仕様もないクズ男たち。女性の敵だ!


「「「フィラーナ、無事か!!!」」」

「え、ええ」


三人に声をかけられ、咄嗟に答える。もの凄く気まずいんだけど。

私は両側を兵士に挟まれて裁判官の正面へと座らせられる。


中央にぽつんと私一人だけ。みすぼらしく汚れた服一枚で、髪もボサボサしている。軽蔑と嘲笑。多くの傍聴者が私を見つめてくる。


「被告人、席に着いたな。それではこれよりフィラーナ元王太子妃の裁判を開廷する!」


正面のヒゲモジャ裁判長が大きな声で宣言をする。その言葉にざわざわしていた会場が静まり返った。まず始めに私の罪状が読み上げられた。

二十ほど読み上げられている途中に信号トリオが口を挟んだが、すぐに囲んでいた兵士に注意を受ける。私は知っている内容のため黙って聞く。


「被告人、フィラーナ嬢。今読まれた罪状に異論はないか?」


裁判長に聞かれた私は立ち上がった。

ここからが本番。私の演技力が試される。ここで加減をしながら命乞いをする。自分の非を認めつつも、同情を誘う。それが私に残された唯一の生き残る道。


私は膝を地面につき、両手を前で握って声を発した。


「確かに私はそれらの罪を犯しました。ですが、決して身勝手な理由ではございません!」

「ほぅ〜〜では、それなりの理由があると?」

「はい、私は国を思って―――」

「ふざけるな!それならば、アイシアを陥れたのは国のためなのか!!!」


私の弁論に割り込んできて怒鳴ってきた銀髪の美青年。

この国の第一王子で次期国王のクラウス殿下。クラウス王子とライース王子は兄弟だが、腹違い。兄であるクラウス王子は側妃の子でライース王子は王妃の子。母親の地位がライース王子の方が高いから、元々はライース王子は王太子であった。


クラウス王子はそのことで周りから疎ましく思われ、常に嫌な思いをしてきた。だからこそ主人公の気持ちをよく理解して、二人は結ばれる。

なによりも、クラウス王子の溺愛がこの小説内のメインになっている。


さて、その隣に座るクリーム色の長髪をした可憐な女性。歳のわりには落ち着いていて、じーっとこちらを見つめてくる。

主人公、アイシア・ウィルナード。ウィルナード公爵家の長女で、今は王太子妃。悪ヒロイン(私)によって幸せを一時奪われた可哀想な人であり、前世を持っている主人公。


真面目で勤勉。諦めず何事も真っ直ぐ向き合う、THE主人公。


「フィラーナ嬢。答えてください」


裁判長に言われて意識を引き戻される。そうだ、クラウス王子の質問に答えないと・・・いけないけど正直どんなこと言っても私は許されない。そもそも、アイシアを陥れたのはフィラーナの完全な私情であり、一切国のためではない。ましてや国の損害でしかなく、本当に自分勝手極まりない。


「沈黙は、そういうことだと捉えていいのだな」


口をパクパクさせるが喉から言葉は出てこない。どう答えても言い訳だ。


「さて、じゃあ俺の質問に答えろ。どうしてアイシアを暗殺しようとした?」

「そ、そんなことは、」

「証拠が出ているんだ!どうしてアイシアの領地に魔物を追いやった!どうして不貞行為を働いた!どうして麻薬などを密売していた!」

「そ、それは、」

「答えられないんだな!!!貴様は国のためなどと抜かしながら国民を騙し続けた悪女だ!」


「「「「「「そうだそうだ!!!!」」」」」」


「わ、私は何も悪くありませんよ!」

「何が悪くない、だ!証拠が出ているのだと言っているだろ!!!」


机を思いっきり叩いて前のめりになるクラウス王子。私はただただ震えて命乞いをするしか無い。


「どうか、どうか、お許しを!どうかどうか、、、」


「どうして貴方が涙を流すのよ!!!」


これまで沈黙していたアイシアの声に全員の意識が集まる。


「貴方は私から何もかもを奪った!婚約者も住む家も地位も名声も!理不尽に!泣きたい時もあったけど、それでも耐えてきた!なのにどうして貴方が涙を流すの!」


目には透き通った水のような綺麗な涙を溜めてこちらを睨みつける。その感情を私は小説を通して知っている。どれだけ苦しかったか、どれだけ辛かったか。

私はもう悪者でしか無い。逆にこの状況からどうやってフィラーナは生き残ったのか?


「泣きたいのも、怒りたいのも、殺したいのも、死にたいのも、全部全部アイシア(私)!貴方にその資格は無いはずよ!」


反論も何も無い。彼女が言っていることは全て正しい。私など喋る権利すら無い。


「悪魔の女!」「偽善者!」「人殺し!」「アバズレ!」「クソ野郎!」「死んでしまえ!」「消えていなくなれ!」「国外追放だ!」「いや、死刑だ!」「そうだ、死刑だ!」「そうだそうだ、死刑だ!」「死刑!」「死刑!」「死刑にしろ!」「殺せ!」「八つ裂きだ!」「魔女め!」「死刑!」「死刑!」「死刑!」「死刑!」


ひどく胸に突き刺さる罵声が私に降りかかる。会場中が私の敵。全員が私の死を望んでいる。誰も彼もがアイシアの味方。・・・・そしてそれは正しい。


信号トリオ共が私を庇おうと声を張り上げるが無意味。罵声にかき消される。


罵声を聞いていてどれだけフィラーナが嫌われているのか身を持って知った。

もちろん私もこんな女は死をもって償うべき。のうのうと生きてはならない。裁きを受けるべきである。


でもね、




「うるせぇぇぇぇぇえぇぇぇえ!!!!!!!!!!!!!!!!!」





どうして私が罵声を受けなければいけないのよ!どうして私が代わりに裁きを受けなければならないのよ!どうして死ななければならないのよ!

そもそも理由もわからず転生してきて、裁かれろだと?前世で私を跳ね飛ばした車のほうが先でしょうが!私は何もやっていない!フィラーナがやっただけ!


私の叫びに全員が呆気にとられて静まり返る。頭は痛く、体の節々は硬い床で寝たため筋肉痛。それでも謎の怒りだけは強く激しく燃え盛っていた。

これまで、前世を含めて抑えていた心のリミッターが外れていく。


私は顔を上げて一回アイシアを睨みつけた後、口を開いた。


「何ごちゃごちゃ言ってるのよ、主人公。婚約者を奪われた?家族から見捨てられた?地位も失った?ふっ、そんなの自業自得に決まっているじゃない!」

「はい?」


そもそも私は別にこの小説には何の愛着も無いわよ!たまたま読んだことがあるだけで、別に好きだった訳でもない。

つまり、アイシアに気を使う理由がない!


「あんた、この世界を舐めているわよね?婚約者を横取りして何が悪いのよ!?生き残るため、自分のためにやった。それの何が悪いのよ!」


そもそも、婚約者の横取りが卑しいことという固定概念自体、前世の世界(・・・・・)では当たり前のこと。一方でこんな黒く底のしれない貴族社会、しかも女性間ではいい夫を得るために取り合うのは当たり前の事。


「手綱も繋げずに野放しにしている時点で、王太子の婚約者として失格でしょ?悪ヒロイン(私)如きに盗られるなんて、優秀な方という話は嘘だったのですか??」

「あ、貴方は、」

「公爵家に生まれて第一王子を落とせるだけの美貌、それに頭脳明晰。これ以上ないくらいに持っているじゃない。知っていますか?世界には圧倒的にそれほど持っていない人が多いんだよ。貧乏だったり、モテなかったり、勉強できなかったり。そんな人々ばっか。

あんたは何でも持っているのにも関わらず、私に負けた。それはあんた自身の責任よ!」


一拍おいて続ける。


「何純情になっているのよ!その大きな胸と綺麗なプロポーションさえあれば男なんてイチコロよ!」


フィラーナなんて顔が良くて声が可愛いだけで、胸は小さく背も高くはない。!そうか、バカ王子がロリコンなのか!


「婚約破棄されたのは私が悪いというの!」

「だ・か・ら、そう言っているでしょ。この社会の女世界は弱肉強食!婚約者ならかまってあげればよかったじゃん。取られたくなかったのなら、私を近づけさせなければよかったのよ。全部、全部あんたのミスよ!ハハハハ!」


私は大きく声を上げて嘲笑った。意味もなく。


「お、おい、フィラーナ。その辺で―――」

「貴様は口を開くなこの腐れ外道クズゴミ王子!」


私に喋りかけてきたバカ王子に罵声を浴びせる。


「貴様というクズはこの世からいなくなるべきだよ!あんなにも美しく聡明な婚約者がいるのに、顔だけが取り柄のぶりっ子女である悪ヒロイン(私)に目移りして。本当に男ってどうしようもないとつくづく思うわ。地獄に落ちればいいのに」

「で、でも君が俺に知らなかった世界を教えてくれたんだよ!だから、」

「だから惚れた?単純すぎて意味が分からない。そもそも世界を教えたって、ただ市民街に連れて行っただけでしょ?たったそれだけで惚れるとか、バカ丸出しじゃん。一応王子なのだからそういう世界を知っとかなければいけないのに何で教えられてないのか・・・あ、そうか!主が馬鹿だと周りが馬鹿になるのか!」


新たな真実を見つけたわ!


「フィ、フィラーナ!」

「SHUT OUT!黙れ、腐れ外道クズゴミ男!」


私は同仕様もない男を一瞥もせず、再び正面へと向き直る。


「おい、第一王子!」

「な、何だ!不敬な―――」

「知るか、ボケ!あんたもあんただよ!そこの腐れ外道クズゴミ王子に比べればマシだけど、あんたも外から見ていて少し気持ち悪いわ」

「はぁ?それはどういう意味だ?」

「ずーっとべったりアイシアにくっついている。バカップルかよ!」

「バ、バカップルとは何だ?」

「いちゃこらしているうざい奴らよ!第一王子ならもっとシャキッとして妻となる人を支えるもんでしょ!」

「だ、だが、夫を支えるのが、」

「そういう前時代的な事を言うと炎上するわよ!そもそもあんたよりもよっぽどアイシアの方が優秀だと思うから」


ポカーンと口を開ける第一王子。そんな阿呆ヅラすらもかっこよく見えるのが、小説のイケメンたちか。


「さあ、ここで誓え! 俺は妻を支えるいい夫になります と! 浮気をせず、他の女性に目移りしないいい夫になる と!」

「な、何で、貴様に命令を―――」

「御託はいいから早くしろ!それとも誓えないのか?」

「わ、分かった!俺は妻アイシアを支えるいい夫になる!」

「クラウス、私は―――」


「はいはい、いちゃこらはベットの上でどうぞ!それよりもまだまだ言いたいことはいっぱいあるわよ!

そもそも何で私は裁かれないといけないのよ?寝取った、豪遊をした、暗殺未遂をした。そんなのこの世界では当たり前じゃない!っていうか、その証拠なんてまず無いはずよ。確か小説では暗殺者の自供が証拠となった。つまりそれが嘘なのよ・・・・っというか、全ての発端はどう考えても腐れ外道クズゴミ王子でしょ!いっつもいっつも遠征で失敗ばかりで常に傲慢で人にあたってばかり。悪ヒロイン(私)何かに騙されやがって。信号トリオの赤と緑もそうよ!当たり前の優しさにコロッと転びやがって。でもそんな優しさをしてあげれてなかったり、気付かれていない時点でそんな女たちは盗られて当然よね。まあ悪ヒロイン(私)がクズゴミ女なのは変わりないけど。そもそも悪いのはこの国の制度よ。何で王政なんてやっているの、貴族が存在するのよ。前世の知識があるな今すぐ廃止するべきよ!もっと他にも―――」


「その女を早く黙らせろ!」


私の言葉を遮って叫ぶ第一王子の言葉にすぐに反応する兵士たち。一目散に私のところへと来た。


「まだ話したいことが、むぐっ」


まだまだ吐き出したいことがあるにも関わらず、口を無理やり封じられ、組み伏せられた。


「裁判長!」

「ええ、分かっております。これまでの行いを認めた上、更に反省の色も見えずに罵詈雑言を周囲へと浴びせたこと。これは許されざる行為ではない。よってここに判決を下す!」


全員が固唾を飲む。


「判決、死刑!魔女として即刻執行すべき」


「「「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」」」」


「魔女を殺せ!」「死刑ばんざーい!」「殺せ殺せ!」「さっきのあれは完全に魔女だった!」「殺せ!殺せ!」「死刑ばんざーい!」死んで報いろ!」「第一王子バンザイ!」「アイシア妃バンザイ!」「王国バンザイ!」「バンザイ!」


私は呆然とその言葉を聞いていた。

間違いなく裁判長は死刑を宣告した。私の第二の人生は終わった。


「ふざけるなよ!何で転生したのに、もう死ななきゃいけないのよ!」


引きずられて退席させられた私の声は、傍聴席の大きな歓声によってかき消されてしまった。








牢屋に入れられた私は、ただただうずくまった。


「失敗したわ・・・」


私とあろうものが、心のリミッターが決壊して罵詈雑言を吐いてしまった。アイシア、第二王子はもちろん、第一王子にも突っかかってしまった。周りから見れば、悪魔に乗り移られたように思えただろう。

全部自分のせいである・・・・いや、過去の行いはフィラーナのせいだけど。


「はぁ〜〜〜、第二の人生が2日で終了。どんな小説でも絶対こんな展開無いわよ」


明日、私は処刑される。多くの人々が集まる広場の真ん中でギロチンにかけられる。この小説内では決してありえないこと。

でも、私が変えてしまった。


コツコツコツ―――


不意に誰かの靴音が聞こえた。そちらの方に目線を向けると、そこには見覚えのある女性が一人で近づいてきた。


「どうしてアイシアがここにるのよ」

「ねえフィラーナ、いやあなたは転生者なの?」


唐突に質問されて、一瞬押し黙った。


「何のことよ?」

「誤魔化さないで。さっき、信号とか前世とか転生とか叫んでたじゃない」

「・・・急に来て何なのよ。私は死刑囚よ。未来の王妃が何の用?」

「私はあなたと同じ転生者よ」


「???ええ、知っているわよ」

「!!!ど、どうして!」

「どうしてと言われてもねぇ〜〜〜。話すと長くなるわ。だから説明は省く。でも、貴方のことならだいたい知っている。前世はOLで26歳。そこそこの大学卒業後はブラック企業に勤めるも過労で死亡。愛読していたこの小説の世界の悪役令嬢に転生してきた」

「どうしてそこまで知っているのよ!!!前世で知り合いだったの!?」

「知り合いではないわよ」


あくまで読者だった。


「それでも、どうして―――」

「まあそういうのはいいから用件だけ伝えてくれるとありがたいわ。私は明日処刑されるのだから、一秒一秒が大切なの」

「・・・分かったわ、質問させてもらうわ。貴方、どうしてこの体、アイシアを陥れたの?いつから転生していたの?」

「私はちょうど昨日転生してこの体になったから、どうして陥れたかは知らないわ」

「!!!昨日転生した!?どうして!?」

「知らないわよ!こっちが聞きたいわ!」


まだ怒りが残っている。


「転生したら処刑されるだって?ふざけんなよと思っているわ。あんたはいいよね。これから幸せになるのだから」

「・・・・・・」

「別に同情を必要としてないわよ」


沈黙が二人の間に流れる。


「貴方はどうしてあんなことを法廷で叫んだの?」

「さあ、日頃の鬱憤が爆発したからと言うしか無いわ。前世での私は容姿端麗でもなくスタイルもそれほどよくなかった。でも、前世は良くも悪くも資本主義社会だった。だから努力すれば社長にだってなれた。そうなると今度は金目当ての男どもが寄ってくる」

「???」

「貴方を羨ましく思ったし、憎くも思った。容姿端麗、家柄もスタイルもいい。何でも持っている人。楽をした、とはいえないけどその恩恵は受けていたはずでしょ?」

「・・・確かにそうかも」

「理不尽に転生して、しかもそこはもう断罪される寸前。色々と溜め込んでいたものが爆発してしまうわよ」


アイシアは口をつぐむ。


「あんたに一つ忠告よ。男にはしっかり気をつけるように。ほとんどの野郎はスケベで身勝手。もしクラウス王子がそういう人ならすぐさまに捨てるべき。女性は男の駒じゃない。あんたは常識観念をはね飛ばせる人でしょ?自分が幸せになる生き方をしなさい」

「肝に銘じておくわ」


にっこりと笑った姿に思わず見惚れてしまう。やはり、主人公は美しい。


「用件はそれだけ?」

「・・・ここから逃げたいとは思わないの?」

「そりゃあもちろん思っているわ。でも、フィラーナは確かに大きな罪を犯してきた。それは簡単に許されるべきでは無いし、死をもって償うべき。

残念だけど、私の人生はこれで終わりみたいね」


私が転生した以上、抜け出すことは不可能なはず。それは感覚として分かる。あくまで悪ヒロイン(私)として私は死んでいく。それが覆ることは無い。


「それじゃあ、一人にしてくれる?色々と物思いにふけたいし」


私はアイシアに背を向けてもう一度うずくまった。







次の日。


王都に住む大勢の民衆が、魔女が処刑されるところを一目見ようと広場へと集まる。ぎゅうぎゅうになった広場の真ん中には見えやすいようにギロチンがあった。


その上に堂々と立つ魔女ことフィラーナ。

一時は男爵令嬢ながら王子の婚約者となった人物だが、今では不正を働いて無実の罪を他人になすりつけた魔女として処刑されることになっている。


処刑前に洗われた髪はピンク色に輝き、白い肌の肩を伝う。まだ20歳の女は堂々と正面を見つめていた。


罪状が裁判官から読み上げられた後、処刑台にへと乱暴に連れてかれる。だがわめき散らさず大人しくしているためか、民衆は不気味に感じた。


首を固定されて鋭い刃がその首を襲う。次の瞬間、真っ赤な鮮血が吹き出し、首が地面へと転がると、大きな歓声が広場であがった。


皆が魔女の死を喜んで、抱き合ったり、叫んだり、帽子を投げ上げたり。




そんな民衆を二人の女性が遠くから見守っていた。


「民衆って愚かよね。あんなに、『真実の愛を貫いた王太子と男爵令嬢!』なんて騒いでいたくせに、いざ悪ヒロイン(私)のこれまでの行いが暴かれた瞬間に手のひらをくるっと返す。こういうところはどの世界でも同じなのね」

「ちょっと、国民の悪口を言わないでよ」

「あんたが一番の被害者でしょ?」


私はアイシアによって生かされた。

あそこで処刑されたのは私ではなく、幻覚魔法で作られた人形。それを知る者は私とアイシア、第一王子と裁判長だけ。


「そもそも、同情で助けなくていいんだけども」

「別に同情だけで助けたわけではないわ。こういう予定ではあったのよ。フィラーナは多くの罪を犯したけど、死刑にまではできない。何よりほとんど同じ罪のライースが追放刑なのだから同じぐらいの刑罰になるはずなのよ」

「でも、フィラーナの方が身分は低いわよ」

「そういう考え方はこれから変えていきたいわ。クラウスもそう思っている。でも、まだまだ法改正は先のこと」

「民衆の怒りの矛先をフィラーナに向かわすことで王家への不満を無くせるしね」

「・・・ええ、それも理由も」


まあ、何だかんだ生き残ってしまったわ。


「これからどうするの?」

「私は結局国外追放なのね」

「ええ。クラウスと話し合って決めたわ。・・・貴方のお陰でクラウスは私の意見も尊重してくれた。前までは私のことを思ってとはいえ、常に突っ走っていたのよ」


流石こういう系の小説の主人公溺愛イケメン。


「それは良かったわね。あんたはこの国をしっかりと導いてよね」

「もちろん、そのつもりよ」

「私は・・・田舎でのんびりと暮らすわ。前世では常に仕事仕事で疲れていたし」

「それがいいのかもね。私なんて転生してから常に仕事しっぱなしよ」

「それはご愁傷さま」


苦労もあるんだね。


「それじゃあ、もう行かせてもらうわ」

「もう行くの?」


私はそれに答えず、広場を背に王都の出入り口の門へと向かって行った。







その日王国は新しく生まれ変わった。

その裏に多くの物語があったが、ほとんどは誰にも知られずにいた。


もちろん、フィラーナは処刑されて傾国の魔女として語られている。


でも、ほとんどの人々は騙されていた。


悪ヒロインは、誰にも邪魔されない場所でスローライフを楽しんでいるのだった。







悪役令嬢モノは面白いですが、たまにツッコミたくなるところもあったのでこの小説を執筆しました!

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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