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四つ目

剣の重なる高い音が響き渡る訓練所に辿り着く。


訓練所で用いられる剣に切れ味はない。

だが、実践で使える様に重さや長さは本物に近付けてある。と言うのは過去の記憶から思い出す。


(…剣の技術も磨いておいた方がいいのかしら)


自身が目指すべきは死なない事、宝石箱を守る事、と決まってはいるが婚約破棄を受けた後処刑されてしまった以上それ以上の未来は知り得ない。


死刑されない世界はどこまで広がっているのだろう。


メルネに案内されてクレイお兄様とトーリ様の元へと歩みを進めながら思考する。


(婚約破棄はして貰う?まず、ソル様の婚約者候補として名乗り出るかどうかも迷うわね)


(そういえば私が死んだ後、ルティア家はどうなったのかしら。お兄様がリルシアの元にいたから、没落なんて事はなかったのかしらね。確か身なりも良かったはずだし。)


なら?では?を繰り返していく。


(家はどうせ出る事になる。生きていたとしても何処かの妻となって私は生きていく。)


(大きすぎる権力の近くにいては自身が大きくなったと勘違いしてしまう。)


それ故の結末を知っている。

事実、王太子の婚約者候補としての肩書きは私の心を大きくさせていた。

周りは私に何も言えなかったし、誰もが私を敬った。


(けれど、誰も私の事など信用していなかった。)


(平民と結婚するのも悪くないかもしれないわね。好きな人と結婚が出来るとは思えないけど、家を出た時に自立出来る力は持っておきたいわね)


それこそ誰にも負けないくらい。


(メルネとアルは連れていきたいけど、どうかしらね…)


「エルド!」


クレイお兄様から声をかけられハッとする。


メルネが私の後ろに控えている所を見ると辿り着いていたらしい。メルネは声をかけてくれていたが私は気付かなかったらしい。

ごめん、メルネ。


キラキラとした瞳で私を見つめるお兄様は口を開く。


「エルド、見ていてくれたかい?」


「えっ、あぁ!勿論ですわ、お兄様ってば、とてもカッコよくて、」


考え事をしていて何となくしか見れてなかった私は焦った様に言葉を紡ぐ。

ごめんなさい、お兄様。

これからの先行きを考えていて、いえ、でも、お兄様の事を考えていたのよ、没落してないかなって。本当よ、本当。


「嘘つき。見ていなかっただろう、君。」


お兄様の後ろから剣を肩に乗せるようにして現れくつくつと笑っているのがトーリ・オルニカ様。その人だった。

黒鳶色の髪に金色の瞳。これまた美しい顏に笑顔を浮かべて私を覗き込んでいた。


「クレイ。」


「ん?」


「剣を持っていてくれ。」


「あぁ。」


いいけど、何だよ。とお兄様がトーリ様から剣を受け取るとトーリ様は私に近付き私の手を取った。


「初めまして、エルド嬢。トーリ・オルニカと申します。まだまだ貴方の目を惹く事も出来ない未熟者ではありますが、何れこの国の剣となります。その時はどうか俺の事を見てくださいね」


手を掬いあげ指先にキスを落とす。

驚きにぱちぱち、と目を瞬いていれば、


「わーーーーーっ!?!?トーリッ!?おま、お前、僕のエルドに何を…っ!」


お兄様は私とトーリ様の間に割入ってくる。


「僕のって何だよ。ただのお兄ちゃんが妹君を僕のもの呼ばわりはどうかと思うぜ?」


「う、うるさいな!…っ、エルド、すまない。……此方がトーリだ。騎士団長の息子で、僕の剣術のレッスンに手を貸してくれている。エルドには是非紹介しておきたかったんだ。」


「ふふ、トーリ様とお兄様は仲がよろしいのね。初めまして、トーリ・オルニカ様。エルド・ルティアですわ。いつもお兄様がお世話になっております。トーリ様とお呼びしても?」


「勿論。俺は君の事を何と呼ばせて頂けるだろうか。」


「エルドで構いませんわ。お兄様のお友達ですもの。私は年下ですし形式ばって話されては私もトーリ様も疲れてしまいそうですわ。」


「ありがとう、エルド。君の兄とは仲良くさせて貰ってるからな。君とも気軽に話せるのであれば嬉しいぜ。」


「えぇ。トーリ様と仲良くなれると嬉しいですわ。」


にこりと微笑みカーテシーを行えば今度はトーリ様がぱちぱちと目を瞬きお兄様を見る。


「クレイ。」


「何だ、トーリ。」


「お前の妹可愛いなあ。」


「絶対にあげないからな。」


「いやいや、まあ、それは、…なあ。」


「あげないからな!」


学園生活でも仲良くしていた二人とは過去ではいつの間にか見ることが出来なくなっていた。二人の仲が悪くなった訳ではなく、ただ私の距離が二人と離れてしまっただけだった。

何だか懐かしいな、なんて事を思いながら笑っていれば二人の顔がこちらを向いていた。


「エルド、綺麗に笑うようになったね」


「全くだ。綺麗な妹君を持ててクレイが羨ましいよ。」


こんな事、言われていたかしら、


過去とはあまりに違う二人に目を瞬く。

可愛いとは確かに言ってくれていたけれど、こんなこと。

いえ、私がかける言葉が違うから、そうなったのよね。


またにこりと微笑んでクレイお兄様とトーリ様を見つめる。


「お褒め頂き光栄ですわ。良ければ2人の訓練を再度見せて頂いてもよろしいかしら。」


「あぁ、勿論だよエルド!」


「今度はちゃんと見ておいてくれよな」


大人びて見えるのだろう、と思う。

過去の記憶を引き継いだ私はどうしたって九歳とは思えない身の振り方のはずだ。

ただそれを無理に身体の年齢に合わせる必要も無い、としてはいるがこの二人はそれを簡単に受け入れてくれるらしい。


(二人でなければ気持ち悪いと言われていたかもしれないわね)


そんなことを考えながら今度こそ剣術に向き合う二人へと視界も思考も向けることにした。


(……やっぱり、剣術って覚えておいて損はなさそうよね…)


あ、まずいまずい。

また未来のことばかり考えてしまっていた。

現在も楽しまなくてはね。


.


「だーーーーっ!疲れた!」


「トーリ。そりゃあ僕とエルドの前だから構わないけれどそんなに身体を崩すのは他の貴族の前でやってはいけないよ」


「わかってるって!しないよそんな事!」


所変わってルティア家の庭園へとやってきた。

剣術のレッスンを終えた二人は軽く身体を清め、次はお茶会だ!と私の手を取った。


綺麗に整えられたテーブルクロスの上にはメルネやメイド達が用意したお茶菓子と紅茶が用意されている。こんなお茶会も久しぶりな気がする。

学園でのお茶会で男性を介す事はなくいつもリルシアへの愚痴や悪巧み、次の社交界への出席はどうするかなどの話ばかりでお兄様とトーリ様とお茶会なんて幼少期の頃にしか覚えはなかった。


(こうして二人とお茶会をするのも、またいつかは無くなってしまうのかしら。……では、一つ一つが貴重ね。)


丁寧な所作で紅茶に口を付けてその優しい甘さを味わっていく。口に触れる前に香りは風に乗って私の鼻腔を擽った。


「時間なんて進まなければ」


幸せなのかしら。


未来を変えようと思っていても一寸先は闇だ。

また世界は私の事を憎んで恨んで殺すかもしれない。

お兄様が笑っていて、トーリ様も笑っている。

この時間のまま止まってしまえば私は幸せなのかしら。


思考に耽っているとまた二人の視線がこちらを向いている事に気付いた。


「…え、っと。クレイお兄様、トーリ様、どうかされました?」


「かわいい僕のエルド。君の悪夢は君の時間を止めてしまいたい程なのかい?」


「今が幸せだって事だよな。そう思って貰えるのは嬉しいが、未熟なままの俺をずっと見せ続けるってのもな。」


私の頭に二人の手が乗って優しく撫でられる。

思わぬ所で思考を口にしてしまっていたらしい。


「あ、え、いや、えっと、」


目頭の奥が熱くなる。

二人に言うつもりはなかった。

けれど頭を撫でられた時に本当にこのまま時が止まってしまえば、と思ってしまったのだ。


(それでは駄目。まだアルにも会ってない、私は自身の幸福だけではなく、美しいものの幸福も願っているのだから)


それは勿論、目の前のお兄様とトーリ様もそうだ。

裏切られたのだと思った、けれど二人の事を簡単には嫌いになれなかった事を思い出す。

頬を叩かれても、居ないものの様に扱われたとしても私の大好きなお兄様達だったのだ。


ぱちん、と瞬けば瞳から涙が零れた。


驚いた様な表情で勢い良くお兄様を見たトーリ様がお兄様の肩を掴む。

「何があったんだよ!」「あ、悪夢を見たらしくて、」

と二人が口々に言葉にしているのが届く。


「あわわ…エルド、大丈夫だよ。君だけの兄はここにちゃんといるからね、」


「そうだぜ、エルド。俺だってお前の味方となろう。必ずお前の剣になると約束する!」


慌てた様にしながらもそれぞれの言葉を投げかけてくれる二人は何処までも優しい。

あぁ、こんな風に言葉を投げかけてくれる二人はいつかリルシアの物になってしまうのね。

そう考えていると涙は次から次に溢れてしまう様だった。


それでも今だけは、リルシアに会うまでは、私がこの二人の妹でもいいのかしら。


私が落ち着くまで二人の優しい手は私に触れ続けた。

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