「彼女造れば?」
コメディー作品は初投稿です!
「彼女つくんないの?」
それはいつもの夏らしい、蒸して暑くて気が狂いそうな昼下がりのことだった。
次の講義までの若干、とはいってもそこそこ長い時間をどうにか楽に過ごそうと、俺と友人は近場のカフェに入っていた。俺ひとりじゃ到底行かないような洒落たカフェだ。「前々から少し気になってんだよな」「やはりここは定番を…」「…スイーツもいいな」なんて少し浮き立ちながらメニューから選んで、涼みつつそわそわと運ばれてくるのを待っていたとき──こいつは爆弾を投げつけてきやがった。
「彼女つくらんの?」
俺が黙っているのを聞こえてないと勘違いしたのか、また悪魔の問いかけをしてくる。
聞こえてるわ、ボケ。不都合だから黙ってんだよ。
だが、ここで答えないのは俺の名が廃るというもの。「親しき仲にも礼儀あり」の金言を知らないような愚か者にも懇切丁寧かつ慇懃に対応してやるのが俺クオリティだ。
軽く息を吸って、言葉を吐き出す。
「は、はぁ?俺は別に彼女いないって言ってないが?」
「お前のことだからいるんなら『俺彼女できたわ』とかドヤ顔すんに決まってんだろ。こっちが辛くなるからそんな見栄張んなよ」
「…ぉう」
返す言葉もなかった。実際、俺に彼女が出来てたらまんまその通りな確信がある。よくわかってんなコイツ、まさか俺に気が──
「俺もミキちゃんと1周年だからさ、友達がおひとり様だと憐れすぎて気が引けるからな」
そうだった。こいつは彼女いるんだったわクソがよ俺の純情を弄びやがってざけんな。でろでろと惚けたような笑みを浮かべながらゲロ甘な惚気を聞かせてくるこの友人を見ていると、こちらまで胸焼けしてくる。マジで吐きそう。
そんな俺を他所にクソ甘話を続けていたこいつは、ふと俺を見て──鼻で嗤いやがった。
「まぁ、お前も夏の魔力かなんかで彼女出来るんじゃね?ま、頑張って彼女つくんなよ」
舐め腐った声音で、顔で、気色で。上から目線の発言をしやがった。
ぷつんと、何かが切れた音がした。
「…ろ…ねぇか」
「ん、なんて?」
「やったろうじゃねぇかって言ってんだよ!」
やってやるよ俺は!彼女でもなんでもつくってやるさ。
「なんだよミキちゃんミキちゃんって!口を開けば頼んでもないデロ甘話ばっかでよ!」
「あ、それはすまん」
「なんだ?そんなに彼女いるのが偉いんか?」
「いや、え?」
捲し立てているうちにだんだんとヒートアップしていく。もう、この彼女持ちのことなど見えていなかった。猛り狂う熱情に支配された脳は、はるか彼方の「理想の俺」だけを見せていた。
「いいさ、今に見てろよ!お前が羨むような彼女をつくってやるからな!」
こうなったらもう誰も俺を止められない!指をくわえて待っているがいいさ!
札を机に叩きつけて、カフェを飛び出す。アベックの俺を目指して。
「いや、俺はミキちゃんだからなんだけど…」
走り出した俺にはもう、他のやつらの言葉なんて聞こえなかった。
「あっ、おい!金足りてねぇぞ!」
…決して、聞こえなかった。
──────────
「…で、俺のところに来たってこと?」
大学の一室、よくわからん機材が並びまくった謎の部室で俺は男と向かいあっていた。
…本当なら、こんなむさい奴と中途半端に冷えた部屋なんかじゃなくて、かわゆい彼女との真夏のビーチが良かったが…贅沢は言わない。俺は足るを知る男だ。そして、我慢もできる。だからこそ、リア充欲を満たすためにこうして大妥協することができる。
「そうなんだよ!オタクのお前ならイケると思って!」
「なんでそうなるのか…」
俺の頼みに対して呆れたように首を振るから、理由を言ってやった。なんせ、こいつは少女乙女ギャルNLGLBL、ジャンル問わずあらゆる漫画やゲームに精通しているのだ。きっと乙女心も何もかもまるっとお見通しだろう。
…あのクソアベックと、こいつ以外に親しい友だちがいないわけでは全くもって絶対に決して無いが。
俺の説明に、さらに呆れたような顔をする。なんだお前、なんだよその憐れむような目は。まるで「友だちがクソアベックになって泣きながらやけ酒する奴」を見るような目じゃねぇか。去年の俺だよチクショウが!
だが、理由はそれだけじゃない。こいつはかなり頭が良い。技術部だか組成部だかのよくわからん怪しげな部活に所属し、去年もイミフな全国大会で優勝するレベルなのだ。
こいつならなんとかしてくれるだろうと、そういう期待もある。そして、
「…だから、お前じゃなきゃ駄目なんだ!頼むよ、なぁ?」
俺の必死の懇願に、軽くため息をついた。
「あぁ、いいぞ。そうまで言われたら、しょうがない」
そう言って、苦笑いする。
なんだかんだ言いながらも、必ず答えてくれる友。その優しさは、去年も俺を助けてくれた。それを思い出しながら──
よし、やりぃ。心の中でそっとほくそ笑んだ。こいつはいつも、適当におだてて褒めればほいほいと乗ってくれる。去年も「レポが終わんないから無理」とか言ってたが、「お前しかいない」と頼み込んだら結局は付き合ってくれた。
いやぁ、チョロいチョロい。助かりますわ。
なんて思いつつ、俺はチョロ友の話を聞く。
「まず、結論から言おう」
「あぁ、なんだって言ってみろ」
なんせ、今の俺は無敵。お前が味方ならば暗い夜道も怖くはない!どんなことでも受け止めてやろう。
「お前に生身の彼女は無理だ」
「あ゛ぉ゙」
鋭い死刑宣告に、息が詰まった。なんで?なんでなんでなんで?ねぇなんでそんな酷いこと言うの?ヒスるぞお前、成人男性のマジヒス見せてやろうか?
「なんでかって…理由はお前だからだよ」
「ぉ゙ あ゛」
クリティカルを食らった俺を無視して、話は続く。
「容姿はそこまで悪くないとしても、性格とかが終わってる。お前、道徳の成績1だろってレベル。それ以外にも年中金欠、異性を前にしてキョドる、交友関係狭過ぎで出会いがないとか…すぐ思いつくのを挙げてもこれだから。ってか、学食のおばちゃんにもキョドってんのは笑ったわ」
そーですか、俺が悪いんですか。そこを変えればいいんでしょ?じゃあ、変えるね。って言うとでも思ったかボケ!
それで「はい変えます」って言って変わったら誰も苦労しねぇんだよ!俺は、今、すぐに彼女が欲しいんだ!
「だと思ったわ。だから、お前には造る方を勧める」
「作る?それができたらこうなってねぇんだよ…」
「いや、違う違う。製造の方の『造る』。彼女を人工的に生み出すんだよ」
「は?」
いや、何を自信満々に…狂ってんのか?
頭はてなな俺を見て、呆れたように首を振るマッド野郎。ちょっと待て、これに関しては俺に非はねぇぞ。
「お前の『彼女欲しい』とは違うけど、古来から人工的に人間を生み出すことは研究されてきたんだ。例えば錬金術。錬金術は元々は金の錬成を求めたものだけど、その一端のホムンクルスは色んな作品に登場するぐらい有名だよな。こいつも人造生命体で…」
「分かった分かった、つまり彼女を製造するってことだろ」
何不満そうな顔してんだよ、お前の話の長さは十分に理解してるんだ。この間の鍋パ、お前が桃鉄何十年分話したか忘れたわけじゃないよな?
「で、どうやって造ってくれるんだ?今流行りのクローンとかか?」
「そこまでの金と倫理欠如はない」
「じゃあどうやって」
期待させるだけ期待させておいて、結局は「無理です」なのか?そうやって俺の心を弄んで…!あなたもあのクソリア充と同じだったのねざけんな非リア仲間だと思ったのに。
「機械人形さ」
「は?」
さっきからマジで何?やっぱりふざけてらっしゃる?いや、でもこいつめっちゃドヤってるけど、え、マジでどういうこと…?
「キミだけのオーダーメイド彼女を造ればいいんだよ。そうすれば不幸な目に遭う人もなく、クズ…もとい、ゴミ人間の願いも叶うからな」
「言い直せてねぇぞハゲ」
まぁ、今回は目を瞑ってやろう。俺は寛大だからな、こんな侮辱も水に流すことができるんだ。…ムカついてきたな、殴ってもいいか?
拳を握りしめたところで、目の前にずいっと紙が出された。
「ここにお前の理想を書け。それを元にするから」
その言葉はこのチラシの裏紙を価値あるものへと変えるには十分だった。
その日は1日中、俺はこの薄汚い部屋で理想を書き記していた。時にはマッドからのダメ出しやツッコミが入り、時には拳を交えることもあった。だが、いくらでもあるチラシは俺を支えてくれた。ってか、なんでこんなにあるんだよ、汚ぇだろ。
そして、ついに。
「出来た…!」
書き終えた最後の1枚。それを天高く掲げる。
「やっとか…」
その声には疲労感がにじみ出ていた。まぁ、無理もない。100はざらに超えているのだから。窓の外を見ると、もうすでに日は暮れていた。講義すっぽかしちまったな…まぁいいか。
それよりも、もうすぐ俺の理想が現実化するんだから。
最後の1枚を手渡すと、マッドオタクは中を確認してから軽く頷き──ゴミ袋につめた。
「は?」
おい、ちょっと待て貴様。
俺の視線に気付いたのか、クソイカれポンチは袋の口を縛る手を止めた。
「なんだよ、しょうがないだろ。非現実的過ぎたり、内容ほぼ被ってたりするんだからさ」
だとしてもだよ、お前。それなら最後を書き始める前に言ってくれればさ…
再び、拳を握りしめるが──こいつの優しさが思い出され、ゆっくりと解く。一部が捨てられたとしても、他は残ってるんだし、俺の寛大さを見せてやっても──
「あぁ、でも大丈夫。ちゃんと重要な部分は残してるから」
そう言って、机の端を指差す。そこには、3枚ほどの紙が置かれていた。
100に対して、3?たったの?今までの時間はいったい…?
それからは早かった。俺の拳が炸裂するとともに、殴り合いの喧嘩が始まる。その日の残りは、暴力で終わることになる。
──────────
「できたぞ」
と突然電話が来たのはしばらく経ってからのことだった。「何を?」と返すと怒鳴られたが、まぁこれはよくあることだ。どうでもいい。
「ふふふ、よく来たな」
悪の幹部みたいな笑い方をしながら、マッドが迎えてくれた。紫に腫れた目元が痛々しい…マジですまんかった、次は手加減する。
「で、どこにあんだよ」
呼び出された先のあの謎部屋は、いつも通り乱雑で薄汚れている。どこにも我が天使がいられるような場所はない。
「くくく、ここだよここ」
邪気眼持ち中学生のように笑いながら、包帯の巻かれた左腕でドンとロッカーを叩く。ごめんなぁ、利き手なのに。でも自分でやっといて痛がってるのは笑える。
そうすると、ゆっくりと扉が開き、中から理想を具現化したような女の子が出てきた。
「クズ用人型決戦兵器『彼女』Mark-Ⅰ…名前は…まぁき…マキ。うん、マキだ」
こここここ、これが機械…?すっげぇ肌ツヤツヤで、なんだろ、触れるのもおこがましいような。思わず近寄って見つめてしまう。
「注意しておく。そんなに顔を近づけると、誰でも不愉快になるぞ」
「おっと失礼」
でもなぁ、本当にマジで凄い。今も心臓バクバクしてる。
「さぁ、セットアップだ。終わったらデートでも何でも行って来い」
「お、俺、マキちゃんと水族館行きたい!あのクソリアが自慢したみたいに!」
「いくらでも行きな」
マキちゃんとのデートに夢を膨らませながら、セットアップをした。
──────────
そして、マキちゃんと俺たちは駅前にいた。行きたかった水族館の最寄りだ。夏の盛りへ向かう真っ最中なだけあって、なかなか蒸し暑い。だが、それも今は気にならない。だって、マキちゃんとの初デートなのだから!
だが、1つ問題がある。
「なんでお前がいるんだよ、お義父さん」
「お前にお義父さんと言われる筋合いはない。ならもっと敬え」
「お前が帰れば敬ってもいいが?」
そう、クソマッド(お義父さん)が一緒にくっついて来やがったのだ。
マキちゃんとの2人の甘々な時間を邪魔すんじゃねぇ、帰った帰った。
「仕方ないだろ、動作チェック、ではなく娘の勇姿を見守るのは今後の可能せ…クズが娘に相応しいかを確認するためで、それは父親もとい開発者の義務だろう」
「言い換え下手かよこのエセ親」
昨日からなんなんだよお前は。胡乱な目をマッドクズへと向けていると、マキちゅぁんが「どうしたの?パパと喧嘩でもしてるの?」と顔をのぞき込んできた。
「いっいや、ななななんでもないよ!俺たち仲良し、な?な?」
「うぐっ、ぐ、ぐるじぃ」
上手くヘッドロックが決まったようで何より。
固い友愛の体現を終え、俺らは水族館へと向いはじめた。
最寄りとはいえ、歩いて30分はある。この酷暑と強烈な日差しでだらだらと汗は垂れていき、どんどん足取りは重くなる。
義父野郎に尋ねると「まだ道半ば」とかほざきやがる。半分と言え、半分と。中途半端にかっこつけるな。
クソ、これならケチらずバスに乗ればよかった。真横を通り過ぎていくバスの後ろ姿を見ながらそう思う。熱い排気が俺を嘲笑っているようだった。
しばらくして、コンビニが目の前に出てきた。涼し気な店内から漏れ出る冷気。いつもなら「哀れな」としか思わない立ち読みの姿すらも今は羨ましい。
…買うか、飲み物を、何か。
自然と浮かび上がった考え。だが、せっかくバスに乗らずにデート代を抑えたのだから、それを貫くこそ大事。絶対に買わない。節約だ。節約しなければ。俺は絶対に飲み物なんて買わない買わないぞ決して。
「いらっしゃいませ〜」
頬を撫でる冷風で、はっと現実へ戻る。
気がつくと俺はコンビニに入っていた。
ま、まぁしょうがない。無意識に入ってしまったからな。
全身で涼しさを満喫し、店員が怪訝そうな顔からこっちへ近づく動きを見せた頃に俺は入り口から中へと入った。
お義父さんとミキちゃんはすでに、2人で店内を見て歩いていた。いや、マキちゃんの隣は俺だろうが。
2人の間に押し入って、3人で買い物をして店を出た。
天国のような店内から、戻ってきたのは灼熱の地獄。
麦茶(一番安かった)をちびちび飲みつつ、また蜃気楼立つ道を進んでいく途中。交番を過ぎ、水族館近くの賑わう大通りに至る頃。マキちゃんがふと、「暑いね〜。喉乾いちゃった」と俺に近寄ってきた。
この暑さなのに汗一つかかない白ツヤ肌に慄きつつ、そういえばマキちゃんが何も買っていないことを思い出した。
俺もマッドもビタ一文も金を渡してないから、当然と言えば当然だが。
そんなことを考えつつ、マキちゃんを見るとその視線は俺の持つ麦茶に向かっていた。
…もしかして、これ、俺のを飲みたがってる?え、これって間接キス?キキキキキキキキスってこと!?
義父をチラ見する。犬のように舌を出しながら白目をむいて歩いてる、およそ人間とは思えない姿だ。大丈夫、こっちに気付いていない。
邪魔する親もいない。なら、するしかない。
それでこそ、俺。俺の勇気を見せる時!
強い決意と、確固たる勇気。軽く息を吸って、口を開く。
「どどどぉどぉうぞ!」
「え、いいの?ありがとう!」
ひまわりすら例えるにはおこがましいような素敵なかわゆいマキちゃんの笑顔。さっきまで優雅にリードしていた俺ですらも一発でやられて灰すら残らない高火力だ。
ゆっくりと口づけ、白い喉で嚥下する姿を紳士的に眺め、天使から返される聖杯を受け取る時。
恍惚の中にいた俺は
──煙を吐いて倒れるマキちゃんを見た。
「は?え?」
困惑するしかない光景。しばらく突っ立っていたが、誰かの悲鳴に我に返る。慌ててマキちゃんに駆け寄る。
「おい、どうしたんだよ!?」
周りのざわめきすら気にならなかった。強くゆすりながら問いかける俺に、マキちゃんは目を開けず、小さく呟く。
「エラー:機体に異物が混入しました」
「は?」
思わず固まる。そんな俺の硬直は振り下ろされたペットボトルの衝撃で解けた。
「何してんだよハゲ!マキに飲食させんなよ!」
衝撃の正体は娘の危機にも気付かないクズ野郎だった。
「マキは飲み食いする機能がねぇんだよ!そもそも水に適してない!だから汗一つかかなかっただろ!?」
頭から蒸気を湯立てながら、この世のものとは思えないほど顔を赤くし歪ませている。
それよりも、今、なんつった?
「見て分かるかボケ!女の子は汗かかないもんだと思ってたわ!ってかなんで機能付けねぇんだよ!」
「お前が『デート代抑えたいから食事はしない、飲み物も買わない』って言ったからだろうがよ!こっちが配慮してやったのに自分の言葉にも責任取れんのか!?」
「うっせぇこんな真夏にミルクティー飲んでるやつに言われたかねぇよ!」
「関係ねぇだろクズ!マキどうすんだよ!」
怒鳴り合いから暴力へと発展しそうになったその時。
「おまわりさん、この人たちよ!」
つんざくような老婆の声が聞こえた。
振り向くといたのは小柄な婆さんと──警察が3人。
状況が理解できずにいると、そのまま手錠をかけられた。は?
「現行犯」だとかなんだとか聞こえるが、全く意味が分からんかった。なんで俺が?
「私見たんです!この男が女の人に麦茶を飲ませた後倒れたのを!きっと毒を入れてたのよ!」
甲高く叫ぶババアを警察らしきおっさんがなだめているのを横目に、脳がショートした。「ギャハハ」と下衆のように笑うクズマッドも、向けられるスマホも気にならなかった。
意識が戻ってきたのは、笑いすぎでかすれ声になり出したマッドが「この人も共犯です。白目向いて歩いてたんで、たぶんクスリやってます」と告げられて捕まった時だった。
ざまぁねぇな!人を笑わば穴二つだよ!
お前も道連れだ。
あ、パトカーの隣はコイツじゃなくて婦警さんにしてね。畜生の隣はマジ勘弁。
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少し前、同じ大通り。騒ぎが起きていた通りの反対で、一組のカップルが歩いていた。
カップルの男がふと、「お、あいつじゃん」と声を出す。見ると、その先には無銭飲食の尻ぬぐいをさせた彼の友人と、獣性が発露したチョロめの友人。そして、見慣れない1人の女性。その女性は、妙に友人の1人と距離が近い。
「あいつに彼女出来たんか?マジ?」
男が呟いた瞬間、女性は煙を吐いて倒れた。
それを男が見ていると、ふいに隣の女が袖を引っ張った。
「もう、私とのデートなんだからちゃんと集中してよ」
「ごめんごめん、友だちが向かいにいたからさ」
「だとしてもだよ。デート中は彼女を一番にしなきゃ」
そうふくれる女に「まま、機嫌直してよ。好きなものなんでも買うからさ」と言うとすぐに「ほんと!じゃあね〜」と目を輝かせる。
その姿に男が目を細めていると、「早く行こ!」と手を引っ張られる。
そうして歩き出した男は、友人たちに振り返り、小さく呟く。
「次はちゃんとしたところで造れよ…」
そして、彼女の方に向き直る。
「じゃあミキちゃん。メンテのあと、どこ行こっか?」
お読みくださりありがとうございました!