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七話 狐の嫁入り〜機械ノ音〜

狐の嫁入り〜鈴の音〜の続き、第二章。

鈴の音で登場した”イッセイ”を主人公とした物語。

舞台は、”カナン”が帰った後のお話。




おかしい。





「で?」

おじいちゃんはその話の続きを最上に促した。

「そのジャケットに見覚えはないか?」

「5年前の男のじゃろ?」

「・・・最近、見ただろ」

「なぜそう思う?」



最上からこの話が出るのがおかしい。おじいちゃんはまだ口を割らずに最上から話すのを待つ。



網膜スキャンでリリがスキャンされたらデータにない為警報が鳴るハズである。

網膜スキャンは、スキャン端末本体に全国民のデータが入っているわけではない。常に通信状態となっており、スキャンした情報が機関の本拠地に送られる仕組みとなっている。送られた情報を、機関のデータと照合する為、多少のタイムラグが生じる。

しかし、本当に僅かである。そもそもリリが持っていた磁場を発する機械が網膜スキャンに効いたのも運が良かったが、たまたまタイミングも良く、データが機関に送られて、警報信号が機関から発信されて、スキャンが受信をする前だったとする。それならば、警報が鳴らず、それでも最上がリリの情報を持っていたとしても話の辻褄が合う。しかし、その確証がない限り、異世界人だとこちらから話しを切り出すつもりは毛頭ない。おじいちゃんは、”他言しません”契約を結んでいるためある程度は見逃してもらってはいるが、カナンに続いてこの短期間で2回目だ。異世界人をこの短期間で二度も好き勝手に連れ回したら流石に怒られるだろうと踏んで口を割らない。



「見ろ」



確証が出た。リリの写真である。

やはり、おじいちゃんの想定通り、スキャンのデータは機関へは送られていた。



「アウトじゃ!」

「見ろ、この少女と先ほどの男のジャケットが同じだろう」

「はいはい、こっちが磁場攻撃で警報が鳴らないようにしましたですよ!だいたい、ワシらじゃなくてその嬢ちゃんが持ってきたんだからな!オタクらの網膜スキャンを一撃で破壊する磁場兵器!」

「その事なんだが」

「で、その魔法使い男と同じ世界から来たから、嬢ちゃんも魔法使いだって事じゃろ?!ワシらは魔法なんて頭にはなかったからそんな話はせんかったし、そもそも嬢ちゃんも魔法の魔も字も言わんかったぞ!知らない世界に飛ばされて、魔法を使う素振りもなかったわい!!なんか文句あるか?!」

「これには続きがある」

「無視!!!」

「極秘情報だ」

「もうこれ以上秘密要らん!ワシ聞きたくない!」


嫌がるおじいちゃんをヨソに最上は話を続ける。


「おそらく、彼女は魔法は使えない」

「なんでお前がそんなこと断言するの」

「彼女は、この世界の人間だからだ」



「は?」



最上とおじいちゃんの間でそれぞれ何か違う感覚が生じたその時、一台の二輪車が高速で隣を駆け抜けた。















車を運転しながらリリの腕に着いている出生バンドの文字をイッセイは読んだ。


「・・・・・」



そう、”読めた”のである。

時間の単位も違う世界の文字を。

たまたまなのか、なんなのか。しかし、そこからどんどん疑問が増えてきた。

彼女は自分の世界の話をする時に、断定した事柄が少なかった。教わってはいるが、自分で実感や体験したことが少なそうな話し方だった。王女なのに。

確かに、惑星間の移動などそう簡単にできるとは思えないが、世界が違えば簡単にできるかもしれない。なんせ、そう時間がかからずに惑星間を移動できるのだから。しかし、他にも彼女は『そもそも王宮から出ることもほとんどないし。私だけ厳重に丁寧に扱われてるわ』

他と違って丁重に扱われていると自覚ができるような比較対象が同じ王宮内にあったのだ。そして、丁寧とは、大事にされていたと言えばそうなのだが、”隔離”や”監視”の一種だったのではないだろうか。


出生バンドの文字が読めた事が、彼女がこの世界の生まれであることを証明している。

年月日であろう表記もこの世界のものである。

そして、彼女が自分で名乗っていた名前。「アスカ・リリ=クリストアリア」はクリストアリアは向こうの世界の名前であろう。バンドには名前が載っていない。アスカやリリは、この世界ではありふれた名前だ。それが、”イッセイが読める文字”で書かれている。


彼女は、この世界から、今までいた異世界に”なんらかの方法で異世界移動をした”人間である。






イッセイが運転しながら出生バンドを読み、リリがこの世界の生まれであると分かった時、二輪車がイッセイの車を追い越して前方に来た。




「ちょっと!前になんかいるわよ!このままだとぶつかるわ!!!」

リリが騒いだことで、一応バンドと前方を交互に見ながら少々考え込んでいたイッセイはハッとして意識を取り戻した。そしてブレーキを踏む。


前に止まったのは二輪車に乗った神風であった。



「最上さん、後ろにいませんでした?」

イッセイが窓から顔を出し神風に言った。

「停車してたので抜いてきた。停車は一台だけだったので、多分君かおじいさんのどちらかが先に向かっていると思って」

「そうですか」


イッセイは車の窓から顔を出すが、決して降りようとはしない。ここで止まってはいけない。彼女がこの世界の人間だと分かった以上、還してはいけない気がした。が、ここで捕まるわけにもいかない。出生バンドの件も、自分の中では99.9%リリがこの世界の人間である証明だとは思うが、それすらも仕組まれたものの可能性も残っている。全てを確かめないと、彼女を還すことも、この世界に置いておくことも難しい。これは一旦おじいちゃんに相談をしなければならない。

(ここで、彼に捕まるのだけは勘弁だな・・)

「ねぇ、どうするの!?」

リリが焦ってイッセイに問う。

「リリさん、歯を食いしばって、舌を噛まない様に注意してください」

イッセイの気迫に負けて、リリは声も出ずに、コクコクと頷いて見せた。





「な?!」




神風と向かい合っていたが、イッセイの車が急発進、急加速で後退していく。

そして、少し離れたところで急ブレーキをかけながらハンドルを切り、車体を回転させて反対方向を向く。来た道を少し戻って、イッセイは第3工場へ行くことを決めた。


神風もも急いで発進をさせた。しかし、イッセイの車のスピードは凄まじく、神風は乗っている二輪車をどれだけ加速させても引き離される一方である。

最後の手段とばかりに、運転中に懐に手を忍ばせて機械を取り出した。

実弾の入った拳銃である。タイヤに向かって撃つが当たらない。





「なんか!すごい音がするんだけど!!」

「口開けないで、大丈夫。人に当てる気はないから」

「ンンンーーー!!!」

拳銃の発砲音が怖いのか口を開いてしまったリリがイッセイに注意をされる。とにかく怖くて叫びたいが怒られるのも怖いので唸るリリ。




拳銃の球の残りは後3発。しばらくはこのまま追いかけてまた頃合いを見て発砲しようと神風は考え、車とバイクのただの追いかけっこが始まった。











「そうか、聞こえなかったか。大事なことだからもう一回、もう一回だけは言ってやる。

なんたって、ワシは優しき天才発明家おじいちゃんだからな。でもな


ワシがおじいちゃんと呼ばれるTHEおじいちゃんだからって馬鹿にしてるのか?おじいちゃん怒っちゃうよ?」


「それはさっき聞いた」

「じゃぁなんでまた話をすっ飛ばすかね?!なんで魔法のある、魔法の使える世界からきた人間が魔法が使えないって断言できるの?!なに?!5年前の男が言ってたのか?!男じゃないと魔法が使えないとか、15歳以上にならないと魔法が使えないとか?!」

「彼女はこの世界の人間だからだ」

「それ答えになってないからな」

おじいちゃんが真剣な顔つきになった。

「むしろなぜだ?この世界の者だから魔法が使えない確証がどこにある」

「どういうことだ」

「あのね、まずは、なんで魔法の異世界からきた嬢ちゃんがこの世界の人間だっていうその証拠をワシに話しなさいよ。なんで彼女がこの世界の人間だって言い切れるんじゃ」

「これを見ろ」

「またかいな」

言って、最上がまた画面を見せてきた。

そこに表示されたいたのは、先ほどのリリの写真と、前回のスキャン時のリリの写真、生年月日、住所である。



「は?」



おじいちゃんは流石に口をあんぐりと開けた。

「本人の顔写真データは、スキャンした時点で随時更新される。そのため、先ほどとったであろうこの写真に変わった。この子の前回の写真はこれだ」

前回の写真が表示された。赤ん坊の写真である。

「この世界の生まれで、生まれてすぐに異世界に行ったってことか」

彼女、”アスカ・リリ=クリストアリア”のこの世界でのデータがきちんと残っている。つまり、彼女の持っていた磁場を発するあの機械がどのタイミングで発動したのかはわからないが、どのみち彼女が網膜をスキャンされて警報が鳴ることはまずない。


おじいちゃんは続けて話す。

「今日までのこの子の扱いだとかなんか色々気にすることは尽きないが、とりあえず話を進める。

さっきも言ったが、この世界の人間=魔法が使えないとは限らない」

「貴方は魔法が使えるのか?」

「ぶっ飛ばされたいんかお前さん。

違うわい!あの嬢ちゃんはこの世界の生まれだとしても、魔法のある世界で11年生きてきたんじゃ。

魔法が、その世界で生まれたものだけに使えると限定されているかどうかの確証がない。

その世界で学んだりすれば習得出来る可能性があるかもしれない。魔法の根源や原理がわからない以上、生まれがこの世界だからって使えないと断言は出来ないんでねえか?

それとも、5年前の男からなんか聞いたんけ?」

「そうか…」

「そうか…で終わらすな。どうなんじゃ」

「いや、考えがそこまでは及ばなかった。やはり発明家は考え方が違うな」

「それ褒めてんの?いきなりのデレなの?なんなの?ただ、嬢ちゃんが魔法を使えるならとっくに使っていると思う。

おそらく"魔法を習得してない、または習得出来なかった"か"この世界では魔法が使えなかった"か"使える、役に立ちそうな魔法が無かった"って所だろう。で?結局どうすんじゃ、この状況」



おじいちゃんが言っている【この状況】とは、

異世界人だと思われている少女が実はこの世界出身だった件。彼女本人に説明するか否か。説明するならどう説明するか。また、今し方自分たちの横を猛スピードで駆け抜けてイッセイと異世界人を追いかけている最上の部下の神風の件。

署に戻る命令を無視している。おそらく彼なりに考えての行動であるからと、最上は自分の命令に反いたとてあまり咎めたくないと考えている。

しかし、早急に手を打たないとリリの命が危ない。神風は少女がこの世界の人間と知らず、まだ異世界人だと思っている。

隊員は自身に危険が及ぶと判断した場合、最悪異世界人の命を奪う選択肢を与えられている。

相手は少女であり、イッセイが付いているとはいえ、神風が勘違いや早とちりで不要な判断を下す恐れがある。





しかし、最上は行動するよりもまた口を開いた。




「…あと、一つ聞いて欲しいことがある。聞いて欲しいと言うより、話しておかなければならない」



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