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六話 狐の嫁入り〜機械ノ音〜

狐の嫁入り〜鈴の音〜の続き、第二章。

鈴の音で登場した”イッセイ”を主人公とした物語。

舞台は、”カナン”が帰った後のお話。



「最上さん、今、どちらに?」



神風は玄関へ向かいながら自分の上司である最上に問うた。



「署にいらっしゃないですよね?車で移動中ですよね?」

最上からの返事はないが署にいるとは思えない音が聞こえる。彼の車の音だ。しかも、物凄い速度を出している事が機械を通してでも聞こえてくる。しかし、それほどの速度を出しているのにサイレンは聞こえない。


「すまないが、あまりにも不確定な情報しかなく、はっきりとした事が今は何一つ言えない。すまない」


「”今は”って事は、分かり次第教えて頂けると言うことですよね?」

「もちろんだ。状況は不確定要素だらけだが・・・お前が本当に優秀な部下で良かったと、これだけは言える。助かった」


急に上司からお礼を言われ、何もかもわからないが、何か役に立ったのだろうと思いそのまま署に戻ろうと玄関を出る。


「招集が掛かったので我々は戻ります。急に押しかけましてご迷惑おかけました。この件は、また今度きます」


神風がおばあちゃんにしっかりと挨拶をして地下通路へと出ていった。

イッセイの家を出て地下通路の先、車用の道路を猛スピードで車が駆け抜けて行った。


最上の車だ。


「・・・やっぱりなんか変だ」

上司は何か理由があるにしろ、昨年はあれほどまでに、そう、発明家の工場のシャッターに突撃する程に異世界人を探すことに躍起になっている。

(5年前からだ。それまではただの仕事として異世界人を追っていた彼が5年前から人が変わった。)

神風は5年前は現場には居なかったものの、調書を見たり最上から話しを聞いていた。




そう、5年前に異世界から来た人間は《魔法を使える人間》だった。




その際、”魔法”によって何名もの機関の部隊の隊員が命を落とした。

”魔法”の餌食にされたのである。しかし、この世界には”魔法”と呼ばれるものは”実在”しなかった。使える人間がいないのである。おとぎ話でしかなかった。しかし、異世界とはいえ人間が魔法を使ったのである。

確証は持てないが、うろ覚えでは調書の写真の男と先ほど見た少女のジャケットが似ているような気がした。しかし、素材はわからないが、色だけを見るとこの世界でも同じ色でジャケットというものは存在している。


(もしや、今回の少女が5年前の魔法を使う世界から来た異世界人だったとしたら。


もちろん、相手は少女とはいえ、油断は大敵だ。突然魔法を仕掛けてくるかもしれない。

前回の件で犠牲者を出している。最上さんは、今回の少女が魔法を使える世界の異世界人だという情報を何かしらの方法で手に入れて、犠牲者を出さない様に自分だけで対応しようとしているとしたら・・・)




「僕も向かわないと・・・!


君達二人は署に戻ってくれ!僕は最上さんを追う!」


「え?!でも、最上さんは全員に戻れと指示を出されたのでは?!」

「思うところがある、あの方一人で何か全部背負う気でいる感じがする。君達は戻ってこの事を指揮官補佐に報告を」


言って、神風は自分の乗ってきた二輪車にまたがり、すぐにエンジンを掛けて最上の車が音速で通り過ぎていった方を目指して走って行った。











「なんで!なんでこんなに狭いのよ!!!」


顔を真っ赤にしながらリリは怒っていた。しかし、イッセイが被せた上着のおかげで顔の赤みは男二人には見えていない。


「すみません、元々二人乗りの車なので・・・」

イッセイが済まなそうにリリに言った。

「ふん!一番速いんじゃよ!このType,Cが!」

おじいちゃんはぷんぷんしながら答えた。


「この車じゃないと、街の至るとこにある【システム】に磁場を飛ばしながら走り回る事が出来んからな!お前さんが」

「リリ様!!」

「ぺぇええええ!!リリ様が次元移動装置のある工場まで機関に見つからんように・・・もう見つかったけどな、これ以上騒がれずに工場まで行くにはこの車が一番、、、他の車よりはまだちょっとはマシなんじゃ!!」

「じいちゃんの言う通り、一応、一番穏便に事を運べるのがこの車って事」

「・・・あなたがそういうなら」

「イッセイにデレじゃなー」

「そうかな、違うと思うけど」

「お前の中のツンデレって何?」


軽口を叩きながら猛スピードでType,Cを飛ばすおじいちゃん。イッセイがリリを抱えているので、運転はもちろんおじいちゃんである。運転しながら磁場の影響範囲の再設定を行なったり、速度の上限を変更したりと忙しくしているおじいちゃん。しかし、運転中にバックミラーを見て、ピクっと一瞬止まった。そして、真剣な声でイッセイに話かける。



「イッセイ、じいちゃん降りるわ。あとよろしくな」


「え?」


言って、減速をして車を止めた。

減速をしていくと、乗っている車の音も徐々に静かになって行く。そして、気付く。後ろから物凄い速度で車が迫っている事だ。


「あれ・・・機関の車?」

イッセイが気づいた。

「最上が乗っとる。じいちゃん、最上と話してくるから、イッセイは工場向かって、できれば嬢ちゃんを、元いた世界に還してやってな。もし追手が来たら避難場所は第3工場に行くと良い。あそこは10年前に廃業届を出してるし、もう所有者にじいちゃんの名前も登録されてない。多分、隠れ家として捜査線上に上がることはないじゃろう。」


おじいちゃんは車から降りた。

イッセイは、助手席にリリをおろして今度は自分が運転席に座る。

後ろの車も追いついて少し後ろで停車した。降りてきたのはやはり最上だった。


「じゃ、じいちゃんよろしくね!」

「お前もな」




イッセイがもたつくことなく、スマートに車を発進させた。




車を降りた最上は、前に立ちはだかるおじいちゃんと、その先に走っていく車を目で追っていた。

車を目で追っている最上に、おじいちゃんは話しかける。







「さぁ、話してもらおうか、おかしな行動の理由をな」














「ねぇ!その工場まであとどれくらいで着くの?!」

「工場までは20分、追手が来て工場に行けなくなったら、第3工場までは30分」

「工場から第3工場まではどれくらいの距離よ?!」

「この車なら25分かな」

「その”フン”ってなに?!」

「えぇっ?!時間の単位だよ・・・」

「私の時計でいうなら、この針がどこに行くのが20分なの?!」

「ちょっと、1分が60秒の世界ならって話だよね・・・運転しながら見れないからなんとも・・・」

「えええ!私待つの嫌なの?!工場行けば私すぐに帰れるんでしょ?!」

「そうだけど・・・」



工場につけばすぐに元の世界に戻れると思っているリリ。水を得た魚のように突然元気になり出した。

信号待ちで彼女の腕についている時計を見ようと思って、腕を取り体をリリに近づけたら物凄く赤面をしてイッセイは怒られた。怒っている彼女を無視して、時計の秒針や文字の代わりの宝石を見て、彼女の生きてきた世界での時間軸を読み解こうとする。

時間を表す為にこの世界で使われている"数字"の記載がない。代わりにブランド名なのか、上の方に文字が書いてあるが見たこともない文字で一切わからない。



「この長針が、青い宝石の所に行く頃には着けそうです」



色々見たところ、彼女の着けている時計は、この世界で例えると24時間時計だ。

一般的には12文字の数字で、1日に2周するが、彼女の時計は1日に一周だ。つまり、文字を読み取ることはできないが文字盤には24文字あり、0:00は長針、短針共に文字盤の一番上から始まるが、おそらく正午の12時は文字盤の一番下に短針と長針が集まる。

そんなに誤差はないだろうと、文字も無く読めない代わりについている小さい宝石の色で時間を教えた。



「それくらいなら、待ってあげるわ」

「よろしくお願いします」


思ったほど待たない事がわかったからなのか、彼女は素直に聞いた。

そして、時計の他に腕に何かついているのが見えた。袖にもフリルがついているため、今までは見えなかったが、何やら見覚えがありそうな物を身につけていた。



「そのバンド・・・?」

イッセイが片手で運転をしながら、腕を掴んだまま横目でリリの腕についているバンドを見た。


「あ?これ?私が生まれた時につけられたものなのよ!貴重なんだから!珍しい物質で作られてるのよ!なんたって王女ですから!」

「特別素材で作られた出生バンドか・・・へぇ」

「シュッショウバンド?」

「生まれてすぐにつけるバンドの事を、この世界では”出生バンド”っていうんだ。さっきもちょっと話したけど、今は網膜スキャンがあるから、生まれてすぐ登録するし、赤ちゃんの取り違えってないんだけど、俺が生まれた頃は網膜スキャンはなかったから、本当に、本当に稀にだけど、同じ日、同じような時間に生まれた同性の子供同士がわからなくなって、別々の親に子供を渡してしまった事があったんだよ」

「何その残酷」

「出生バンドが出来たのも、取り違えっていうか、渡し間違えがないようにって作られたものなんだけど・・まぁ今は網膜スキャンの方が確実だけど」

「ふーん」

リリはさほど興味は無いようだ。

「生まれた時は、名前がないから母親の名前が入っているんだ。で、国に届出を出す前にも、子供の名前を病院で決めて、母の名前の隣に打ち込むこともあるんだ。ここの世界、この国での話なんだけど。リリさんのはなんて書いてあるの?」



興味はないだろうが、とりあえず退屈凌ぎで少しでも無言を減らせればと、イッセイは出生バンドの話をしながら書いてある文字を読んだ。










元々交通量が少ないこの道路。道に一台車を停めて話しても他の方に早々迷惑にはならない。

しかし、車が停車することはあれど、近くに大の男が二人、微妙な距離で会話をしているのは珍しい光景だ。真剣な面持ちであった二人だったが、片方の男性が素っ頓狂な声をあげた。





「はぁ?お前ね、ワシがおじいちゃんと呼ばれるTHEおじいちゃんだからって馬鹿にしているの?おじいちゃん怒っちゃうよ?」

「とにかく、車に乗って話す。こんな誰が聞いているかわからない所でこれ以上この話をしたくない」




体格の良い男二人が車に乗る。車内が狭く息苦しく感じる。

「おかしい。二人乗りの車に三人で乗っている時よりも苦しいぞ」

「そんなことをしているのか。交通法違反で逮捕する」

「流石に窓開けよーっと」

「開けるな、大事な話をすると言っただろう」

「あれ?さっきの続きならファンタジー小説の話じゃろ?」

「頼む、その先に大事な話があるんだ」



おじいちゃんは最上を茶化していたが、どうにも先ほどから少々最上の顔色が良くない。仕方なしに真剣に話を聞くことにした。





「これを見てくれ」

言われてタブレットを見せられた。

そこには男性の写真が表示されていた。5年前の異世界人の男だ。

「ふーん、で、こいつが"魔法使い"だっていうんじゃろ?全く突拍子もないことを言いおってからに!」

「そうだ。貴方も彼が現れた時は見ただろうが、すぐ我々が署に連れて行ったからな」

「そうそう、ちょっと気性が荒そうだったけどな」

「署に着いて、念の為の留置所に入れたら魔法を使ってきた」

「そこ、ちょっといきなり話飛び過ぎじゃ。おじいちゃんでもわかるようにしなさい」

「で、見張りが数人犠牲になった」

「・・・」

「その男が来ているジャケットがコレだ」


最上が男の写真を拡大した。




そのジャケットは、リリが着用していたジャケットと全く同じデザインであった。

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