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三話 狐の嫁入り〜機械ノ音〜

狐の嫁入り〜鈴の音〜の続き、第二章。

鈴の音で登場した”イッセイ”を主人公とした物語。

舞台は、”カナン”が帰った後のお話。

「私は、隣の国に向かう途中だったの。暇だから寝ていたはずなのに、気付いたら地下通路?みたいな所で寝ててね。

PCMも使えないし、そもそもボディーガードが誰1人いないのよ。誰も居ないって事は相当な緊急事態で私の身の安全だけでもって事でたった1人この地下に放り込まれたんだと思うの。

でも、どこも争ったりしてる感じもないし、このおばあさまも超のほほんと歩いてたし。隣の国に着くのはまだまだかかるとしても、宮殿からも割と離れたと思うけど・・・


ここどこなの?」



見慣れない、ヒラヒラとしたワンピースの様な服のデザインだが、硬そうな生地の服装を身に纏った少女はツラツラと話す。イッセイが今まで見た二人の異世界人と違うタイプである。

イッセイとおじいちゃんは顔を見合わせた。

少女の問いには答えず、おじいちゃんはおばあちゃんに聞いた。


「ばあさんと同じ地域出身の可能性は?」


「日本?東京?って聞いたら、”知らない、聞いたことない”って。『出身はセントバリーヌ』って言われたわ。わたしの世界であるかどうかはわからないわ、沢山国はあるから。

でも、同じ世界だったとしても多分遠いわよ」


「私の質問に答えなさい!わたしは第一王女の【アスカ=リリ・クリストアリア】よ!そもそも全員頭が高いわ!!!」


少女は凄い剣幕で3人に言う。



髪型はいわゆるツインテールである。耳より上の高さで綺麗に結いている。艶のある黒髪だ。

150cmはあろう身長にふわふわとした形のボリュームのあるロングスカート。でも見るからに生地は硬そうである。ワンピースなのかどうかがわからないのは上半身はアウターを着ているから。アウターは革製品にも見える硬そうな生地の赤みがかったキャラメル色。書いてある文字や絵はわからないが腕章もついている。

首元はワイシャツの様に襟がついており、ネクタイではなく大きな宝石がついたループタイである。

ループタイと同じ色の宝石が耳にもついている。これはピアスであろうか。そして、片方のピアスからはコードが出ており、先にはアクセサリーに似た何やら機械らしきものがついている。耳につけるには些か大きいと感じる程である。耳たぶが重みで引っ張られ垂れ下がっている。

(異世界の文化や生活水準がわからない以上、耳の飾りに対してはあまり口を出すのは良くないだろう。耳が重そうだけども)と、思いながらもイッセイはとりあえず接する時は敬語で…と口を開いた。



「あ、あの、クリストアリアさん。PCMってなんですか?」

質問の答えではなく、なんと新たな質問をする。


「はぁ?あなたPCM持ってないどころか知らないの?ここってそんなに田舎なの?

これ!

Portable Competent Machineよ!

持ち運べるコンピューター!会話も出来るし、複雑な計算や調べ物もできるし、映像も扱える、これ一台あれば生きるのが楽だわ!逆にこれなきゃ生きていけないんだから!」


言って、少女が背中辺りから取り出してイッセイたちに見せてきたのは、ゲーム機にも見える端末だった。

折りたたみ式で、ボタンが着いている機械である。会話が出来、映像も扱えるとなると、こちらで言う"携帯電話"のようなものだろうと納得する。


「使用圏外なんてあるのね。今までどこに行ってもPCMが使えなかった事なんてなかったわ。調べ物は変わらずできるけど会話が出来ないわ。よく貴方たちこんな辺鄙なところで生きてきたわね。あ、バッテリーが少なくなってきたわ、電力頂戴な。電気くらいはあるでしょう?」


「電気はあるけんど、充電器はないぞ」


おじいちゃんがコンセントのある場所を指で指し示しながら少女を見た。


「ジュウデンキ?バッテリーケーブルの事?ケーブル内蔵だから問題ないわ。コンセントは持ってるし」


話が噛み合わなそうでもなんとか続いている。

少女は指さされたコンセントの近くまで行く。


「で、どうするのよコレ」


端末とケーブルを持った彼女だが、コンセントに差し込む気配がない。


「何じゃ、ケーブルくらい自分で刺してくれってん・・オーマイガー」


近寄ったおじいちゃんが目にしたものは、この世界の電力供給接続端子・・・つまりコンセントの口とは全く違う形をした端子がついたケーブルだった。

「5つ?!作るの面倒?!コストも時間も無駄!何じゃこりゃ?!」

「なんで差し込み板5本もついてるんだろう・・・その分嵩張るしなんか、スマートじゃないよね・・・」

「どうでも良いからさっさと充電しなさいよ」


見慣れないコンセントに意見をしていたら少女に指図を受けたイッセイ。


「申し訳ないですが、この端末は充電できないです。差し込み口が違います。」

「何とかしなさいよ」

少女はツンとした態度のまま、自分より背の高いイッセイにあごを突き出して指図をする。

「差し込み口を作ったとしても、充電するための適性な電圧がわからない。弱いなら充電にただ時間がかかるだけだけど、そのPCMをショートさせたら元も子もないです。多分、この先ずっと圏外だから別に充電しなくてもいいと思います」

「何、ここはケーブルの形も違えば電流・電圧も違うの?ここは本当に同じ国な訳?」

「違う国だと思う。国っていうか、世界が違うと思うと思います」

「あなた何言ってるの?」

「最初はそう思うだろうけど、とりあえず俺たちの話を一旦聞いて貰えませんか?」

「別に迎えが来るまで暇だし疲れたしいいわ。聞いてあげる。でも、お茶とお菓子頂戴」


言って、少女は近くのソファにドスンと座った。


「イッセイ、去年の嬢ちゃんがとても恋しいと感じたぞ。たった今」

「この後、じいちゃん待望のデレが来るかもしれないよ」

「・・・ワシは、ばあさんがいれば良いかな」








「はい、お待たせしました!多分こういうのが良いんじゃないかって思って!」

言っておばあちゃんは紅茶とマドレーヌを持ってきた。

「頂き物なんだけど、良いお店のみたいでね!よかったわ〜、あとはお口に合えばですけど。あとは、昆布茶と水羊羹もどうぞ。きっと食べたことないんじゃないかしら?」

「そうそう!これよ!こういうのよ!頂くわ!」



おばあちゃんの用意したお茶とお菓子で少女の機嫌が良くなった。昆布茶と羊羹は多分視界に入っていない。おじいちゃんは少女に見えないようにおばあちゃんにグッドサインを送る。


「あら。レモンのスライスも出してくれたの。こんな高級品よく持ってたわね。もしかしてこういう田舎で作ってるのかしら?レモンの生産者?」

「いいえ?違いますよ、でもレモンはたくさんあるから欲しかったら言ってくださいね」

「あら、気が効くじゃない。ん〜このお菓子美味しい〜」



マドレーヌがお気に召したようで少女はご機嫌である。



「じゃあ、俺の話を始めても良いかな?」

機嫌も良くなった今がチャンスだと、イッセイが少女・・・アスカ=リリ・クリストアリアに話しかけた。

「ダメよ!」

そして瞬時に断られる。

「今私はこのレモンのお茶と美味しいお菓子を楽しんでいるの。邪魔しないでくれる?お菓子を全部食べ終わったら聞いてあげるからちょっと待ちなさい」

「・・・はい」


イッセイは渋々待つ事にした。

マドレーヌは6つもある。彼女は1つのマドレーヌをゆっくりと食べている。

このペースだと30分から1時間はかかるなと落胆して少し席を外そうとする。

「ダメよ!食べ終わるまではココにいなさい!」

「え?何でですか?」

「私を一人にする気?!喋らなくたって護衛として近くにいないと何かあっても守れないじゃないの?!」

「・・・多分、この家から出ない限りは何もないと思う」

「この家から出なければ大丈夫なの?」

「今のところは」

「一歩でも出たら危ないの?」

「一歩くらいは平気だろうけど、出ないに越したことはないよ。”家の中”が安全なんじゃない。”この家”だけが比較的安全なだけだよ。この家が飽きたり気に入らないからって他の家に行ったら危険だと思います」

「そう、なら安全なこの家で、さらに護衛をして頂戴」

「うえ・・はい」


イッセイと少女のやりとりを近くで聞いていたおじいちゃんとおばあちゃんがこっそりと話す。

「あのイッセイがタジタジだぞいばあさん」

「きっと、イッセイの周りにいないタイプなのね。なんだか新鮮だわ」

「去年の嬢ちゃんの方がワシは良いな」

「ハルエちゃんのお孫さんのカナンちゃんね。本当、今思えばハルエちゃんにそっくりだったわ」





結局、少女は1時間15分もかかりやっとマドレーヌを完食した。

「お茶のおかわりはいりますか?」

おばあちゃんが伺うと意外な答えが返ってきた。

「お湯を足したポットを置いて頂戴な。後で自分で継ぎ足すわ。その間、こっちのお茶を頂くわ」

昆布茶を飲むらしい。

「で?貴方の話を聞くわ」

ソファの上で少し体勢を直してイッセイに話しかけた。イッセイはずっと近くで何をするわけでもなく彼女がお菓子を食べ終わるのを待っていた。何があるわけでもないがずっと居心地の悪かったイッセイが気持ちを切り替えて話始める。

「あ、はい。では、話す前に質問しても良いですか?」

「いいわよ」

お腹がいっぱいで満足したのか、イッセイの質問に素直に答えてくれるらしい。この時点では。


「クリストアリアさんは・・・」

「リリで良いわ。長いでしょ」

「ありがとうございます。あの、リリさんは年齢は幾つですか?」

「女性に年齢を聞くなんて・・・まあ良いわ。そもそも私の年齢知らないなんて本当にこの国の民なの?それとももうココは隣の国なのかしら。私は11歳よ」

「11歳・・・」

「何よ」

「いえ、身長も高く大人っぽかったので、俺と近い年齢なのかと」

「あなた幾つ?」

「俺は19歳です」

「へぇ〜」

なんのへぇ〜だろう。とイッセイは一瞬気になったが、とりあえずリリの年齢を教えてもらえた。

11歳。どんな教育を受けているか、どんな世界にいたのかわからない11歳に”ココは異世界だ”とこれから説明するのか。と気が重くなった。もしかしたら、おじいちゃんが説明を引き受けてくれるかなと横目で見てみるも、

おじいちゃん、おばあちゃん二人揃って、ニコニコ顔が語っている。

「頑張れ!」と。




意を決して、イッセイはリリに向き合い、しっかりと目を見ていった。




「ココは、貴方が居た世界ではありません。つまり、異世界です。他の次元です」

携帯式… portable

有能… Competent

機械…machine


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