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一話 狐の嫁入り〜機械ノ音〜

狐の嫁入り〜鈴の音〜の続き、第二章。

鈴の音で登場した”イッセイ”を主人公とした物語。

舞台は、”カナン”が帰った後のお話。

今日も今日とてこの世界のこの家の窓ガラスの下半分は海水が見えている。


そんな窓ガラスの近くの食卓で朝ごはんを食べようとしている青年が一人いた。

名前は”イッセイ”。発明家の孫で、彼もまた発明家である。


イッセイは1年前に異世界からきた少女、”カナン”を元の世界に還すことに成功した。

成功したと言っても、元の世界に還すための装置を作ったのは発明家である彼の祖父である。


異世界からきた人間は大体が国の特別機関に捕獲されてしまう。元の世界に還れた者がいたかは不明。おそらく、初めて元の世界に還せたのではないだろうかと考えている。それは、表向きにはこの世界を”守っている”と思われている重要なセキュリティーシステムやセンサーを破壊して。開示されてはいないが、”異世界人を排除する”という国の方針に逆らって。


異世界人が時折現れるこの世界だが、異世界人の認知はされていない。機関が黙秘されている。普通に生活をしていたら知ることはないのである。”イッセイ”は、異世界人がよく現れるとされる場所の近くに住んでいる。

幼い頃に異世界人が現れた現場を祖父と見た為、今では少し驚く程度である。実際、異世界人の”カナン”が現れた時も、割と冷静に保護をすることを優先できたほどだ。





幼い頃・・・十数年前に異世界人が現れた時には、イッセイと祖父が異世界人を見た事を機関は認知している。そして今回もカナンを連れ回した事が最後の最後で露見してしまい、機関から目をつけられてしまった。

また、イッセイの家の付近に異世界人が現れるスポットがあるかもしれないと勘ぐられてしまい、最近では有人の見回りが強化されてきている。


と言っても、カナンの前に異世界人が現れたのは五年前であるから、今から張っていても向こう数年は何も起こらないだろう。御苦労である。とイッセイは思いながら朝の目覚めの飲料を口にする。


海の面積が大きいこの世界では、海藻、海産物が豊富である。それゆえに、昆布茶が主流である。緑茶は高級品だ。多くの家庭が朝の目覚めに昆布茶を飲むこの世界。イッセイも昆布茶を飲みながら異世界人の事を考えながらテレビを見ていた。









「ねぇ〜、結局あの可愛いこちゃんはドコの誰なのさ〜?俺がちょっかいかけちゃったから別れちゃったの?!」


「あぁ、そうだよ、お前のせいで別れたんだよ」






昆布茶を飲み、朝食のご飯を食べていた時にテレビ電話がかかってきた。

テレビを見ていたのだが、テレビ電話の着信は携帯電話から予め連携設定をしたテレビに転送されるのが一般的なこの世界。見ていた朝の情報番組から着信画面に切り替わった。相手はイッセイの従兄であり、名前は”セイタ”。警察官をしている。


セイタは1年前からずっとこの話しをしている。

そもそも、イッセイがカナンを元の世界に還そうと、街や通路にあるセンサーやシステムを巧みに破壊、妨害しながら、祖父の工場にある次元移動装置に向かっていた所、このセイタがカナンに【網膜スキャン】を使った。

網膜スキャンに登録されていない人間がいる事、つまり、異世界人がこの世界に来たことが、取り締まりをしている機関に知れてしまったのである。当時は街中警報まみれだった。


しかし、その【網膜スキャン】を所持している警察官達でさえ、【網膜スキャン】が異世界人がどうかを判別するために作られたものだとは知らない。ただただ、防犯のため、身元がいつでもどこでもわかるため。犯罪者が逃げても街中のセンサーやスキャンと照合してずっと追跡が出来る為。そう教えられて持たされているのである。なので、本来の作成理由が【データがない=異世界人】なのだが、この世界の認識では【データがない=機械の故障・またはデータ破損により該当データなし・データ漏れ】という認識なのである。

全国民を国と機関が率先して完璧にデータを登録したこの件、登録漏れなど絶対にあり得ないのである。

そもそも異世界人がそんなに多く現れるわけではないので、滅多に警報も鳴らない。端末の故障ぐらいにしか認識されていない。




「データ破損なんて今までなかったんだよ〜!びっくりさせちまったかもだけど仕方ないじゃーん!大体逃げる事もないしさー!」


「急いでたから」


「なんでじいちゃんちにそんな是が非でも急いで行きたかったんだよ?」


「あ、俺もう大学行くからじゃあね」


「出掛ける人はそうやってご飯食べ始めたりし…」



プツン




朝ごはんを食べ始めようとしているのに、『大学に行く』と言ってテレビ電話を終了させようとしたイッセイに対してセイタが文句を言おうとした。

が、イッセイは容赦なく終了させた。

相手をするのが疲れるのである。質問にも全部適当に答える。いつもの事だ。





「…カナンは元気かな。」




忘れられる事など出来ないあの一件。

信じてはいるものの、毎日カナンが無事に帰れたか気になっているイッセイだったが、口に出したのは初めてだった。








「ばあちゃん!行ってくるよ!」


「はいはい!行ってらっしゃいな!」


イッセイは、出掛けに同居している祖母の"ハナヨ"に声を掛けた。

そして、この"ハナヨ"は、実はカナンと同じ世界から来た異世界人なのである。


この事は、カナンが次元移動装置に乗って元の世界に帰るほんの数秒前に発覚した事。

当時はイッセイ、並びに発明家のイッセイの祖父も流石に情報過多になった。




カナンが元の世界に戻り、

カナンを追っていた機関も、異世界人を見つけられないと渋々撤退をした。

その後が大変だった。












「ばあさん、異世界人だったんけ?」



機関の人間がいる間は気丈に振る舞っていた祖父が、機関の部隊が撤退した途端口をあんぐりと開けたまま祖母を見た。



「当時はね、今みたいに戸籍とか結構簡単に登録できたし、高度な機械もなかったからね。騙してるつもりはなかったんだけど・・・でも、おじいさんは、”異世界の人”がいるって、前から知ってたのね。ずっと黙ってたけど、もっと早く言っても良かったのね」


「おじいちゃんの頭フリーズしとるよイッセイ。初期化してくれ」

「強制終了して立ち上げし直しでいいんじゃない。初期化はまずいよ」

「そうか、とりあえず、わしは”異世界人”と結婚した超幸運な超有名発明家でいいんじゃな?」

「そうすると、俺は異世界人とのクォーターって事でいいんだよね?」

「何イッセイだけ異世界クォーターとか格好良い事言っちゃってんの?自慢?」

「事実の確認だって、父さんが異世界ハーフ、俺は異世界クォーター」

「自慢じゃろーが!!わしは生粋のこの世界人じゃぞ!ノーマルだわ!プレーンだわ!」

「ていうか、父さんって健康優良児だったよね?」

「あぁ?!何を突然言ってるんだ今でも健康過ぎで困ってるぐらいじゃアイツ!」

「そもそも父さんが無事に生まれて健康優良児って事は、異世界人とDNA?構造が一緒なんだ・・・カナンの世界だけかな。他の次元の人間とも・・・」

「あぁあああああー!次元移動装置の設定は

 【“人”と“人が持っている物”の構造と物質が原子レベルから組み立てられた物体の構成状態や完成形で一致した時空に転送する仕組み】じゃ!・・・大丈夫だったベか・・?」

「まずは、”人”の方は、全次元で共通だと仮定しよう、そうすると、カナンの着ていた服や身につけていた物の情報だけが頼りで、服の情報を基に転移先の次元へのルートをこじ開けて転送して・・・」

「そうか、”人”の情報が全次元共通ならもう嬢ちゃんの持ってる"物"だけが対象か。あれ?イッセイ、ゴーグルあげなかったか?あ、そうか、この世界の物質は除外されるのか」

「じゃぁ、俺がこのカナンから貰ったピンをつけて次元移動装置に乗ったら、カナンの世界に行けるって事?」

「でも、嬢ちゃんの時ので考えると、お前向こう着いたら、お前の本体とピン以外何もないぞ。つまりスッポンポンだわ」

「だったらカナンがこっちに来た時だって・・・」

「嬢ちゃんは装置でこっちに来たんじゃなくてなんか超常現象に飲み込まれてきたんだんべ?反応からして嬢ちゃんの世界には次元移動装置はない、イッセイ、お前行ったら帰ってこれないしスッポンポンだぞ」

「ちょ、それはちょっと無理だな・・・」


イッセイとおじいちゃんが、おばあちゃんが異世界人だという確認をしていたにもかかわらず、途中から結局次元移動装置の動作条件から実際に次元移動装置を自分に使う話に脱線をしている。

その光景を見ておばあちゃん・・・ハナヨは笑った。


「なんか、どうでも良いみたいね、私の事」

「「どうでも良いわけじゃない!」」


イッセイとおじいちゃんはおばあちゃんの話から外れてしまった事を思い出して気まずさ故に少し大袈裟に否定にかかった。


「あらあら、そうじゃないわ。卑屈っぽく言ったのではなく、嬉しいのよ。軽蔑したり、責められたりしないから。それどころか発明とか研究が捗りそうで話に夢中になってくれて」


発明家や研究者、学者などにはよくある事だ。


「あー、なんだ、ばあさん。


 帰らなくて良いのか?元の世界に。嬢ちゃんの残したものがあるんだ。帰れないこともない。多分。」


「何を今更。こんな可愛い孫たちがいっぱいいるこの世界を置いて、20年しかいなかった世界に今更戻れと言うんですか?」



おばあちゃんは、イッセイの手を握って、おじいちゃんの方を向いて言った。



「そこに”愛する旦那様”は入らんのかえ?」

「言わなくても、わかってくれるでしょ?」


しょぼくれて、両手の人差し指の腹同士で押し合いをしているおじいちゃんに、ニコニコと笑いながらおばあちゃんは返した。


そして、手を握られているイッセイは、その手に握られている自分の手と、おばあちゃんがカナンから受け取ったミサンガを見た。


コーム、ミサンガの紐、ミサンガについている石。


この三つは異世界の貴重な物質だ。たまに借りて研究させてもらおうと、早くも研究の事で頭が埋め尽くされるイッセイであった。

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