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転校生の超絶美少女にクラスでただ一人墜ちなかった僕、なぜか執着されてしまいました。 ~学校全体を掌握した美少女とその過程を知らない少年の関にラブコメは成立するのだろうか~

作者: ゆーきまん

初投稿ですので拙い部分も多いように思われますが、是非楽しんで下さい。また衝動的に書きましたので、ご意見、ご指摘があれば是非是非お願いします。

(久しぶりの学校、楽しみだなあ)


 ウキウキしながら学校名物「地獄の階段」を松葉杖と共に上る少年の名前は花井豪斗。私立若芽ヶ丘高等学校に通う2年生である。可愛らしい名字とゴツい名前がせめぎ合った結果…かどうかは不明だが、中肉中背で特筆すべき外見では無い一般ピーポーである。彼は少し前、前述の地獄の階段で盛大に転び骨折、二週間ほど入院する羽目になったのだ。友達と話したいことも沢山あるし、授業も大きく進んでいるだろう。豪斗は期待と不安に胸を膨らませ教室のドアを開けた。そして何とも言えない違和感を覚えた。入院前と比べて空気が少し張り詰めている気がする。早めの受験意識だろうかなどと考察しながら席に着く豪斗。一時間目は数学Ⅱ、初めから二週間のブランクがきつくのしかかってくる授業である。


(少しでも負担が減るように教科書を見ておくか)


 豪斗は毎日始業45分前を目処に登校しているため、教室には空席が目立つ。まだ友達は来ていないようなので豪斗は予習を始めた。15分後、豪斗の一番の友達である梅井翔が教室に入ってきた。豪斗は席に座った梅井に駆け寄ると、


「ノート送ってくれて本当にありがとうございました梅井様。何か望みはありますでしょうか。なんでもいたしますよ」


 と入院時に助けてくれたことへの礼を言う。豪斗は、重度のオタクである翔は何らかの品々を要求してくるものだと考えていたが、帰ってきた答えは思いも寄らないものだった。


「そんなにかしこまる必要はないだろう(笑)。まあ、俺に恩義を感じてくれているのなら、サッカーを教えてくれないか」


 衝撃の返答にたじろぐ豪斗だが、すぐにその理由に思い至った。


「面白いサッカーアニメでもあった? 小学生かよ」


 と茶化すと、翔は首を横に振った。


「ちっがーう! 俺はオタクを卒業したのだ。これからはモテる陽キャになる!まずはサッカーだ!!」


 陽キャといえばサッカーというような発想に至る時点で何か根本的に間違っている気もするが、その決意を無碍にするほど豪斗は冷血では無い。


「いいけど、僕は骨折明けで、ボールは蹴れないよ」


 というわけで友人の恩義に報いることにした。とすると次に気になるのはその理由である。


「でも、アニメが原因じゃないとしたら、一体全体何が理由でサッカーを?」


 と聞くと、翔は不気味に笑いながら答えた。


「ふっふっふっ、今に分かるさ」


 いや、答えになっていない。豪斗が首を傾げていると教室がにわかにざわつき始めた。始業15分前である。驚くべきことに教室には、ほぼクラス全員が揃っている。遅刻常習犯の低原君でさえもだ。


「上から来るぞっ! 気をつけろ!」


 こいつは本当にオタクを卒業する気があるのだろうか。そう心の中でツッコミながらも豪斗は周りを見回す。クラスの空気の変化、翔の決意、低原君の15分前登校、その理由の全てがこれから起きる「何か」に由来するのだろう。豪斗は自然と悟っていた。ドアが静かに開いた。豪斗を含めて教室内の全ての人間がそちらを見た。


―そこには天使がいた。いや、よく見たら翼も輪っかも無い。れっきとした人間である。しかし、天使と見紛うほどの美少女である。恐らく豪斗が入院している間に転入してきた転校生であろう。クラスメイトたちは一斉に駆け出し、天使ちゃん(仮称)の周りに集う。いつの間にか翔もその輪の中にいた。謎は全て解けた。考えるまでも無く彼女が原因であろう。


(輪っかが完成したか。後は翼だなあ)


 天使ちゃんに見惚れながらも暢気に考える豪斗だが、天使ちゃんが、自身を囲む輪ごとこちらに移動してきたことに気付いた。輪が解け、クラスメイトたちはレッドカーペットの周りに集う記者状態となる。


(今度はモーセか)


 既に豪斗も思考がやられてしまっている。天使ちゃんは豪斗の前に立つと透き通った中に絶妙な甘さを感じる綺麗な声で言葉を紡いだ。


「初めまして。私は天野織姫。よろしくね」


 わざわざ挨拶に来てくれるなんて中身までも天使である。いや天使じゃ無くてお星様だったか。そう感じたのは豪斗だけではないようで男女問わずうっとりした顔で織姫を見つめている。しかし肝心の豪斗は、


(織姫さんか、素敵な名前だ。とはいえ、織姫さんにはきっともう素敵な彦星がいるだろうな。脳が破壊される前に逃げよう)


と距離を置くことを選択。織姫の、少しでも気を抜くと吸い込まれそうになる目を見つめ、最初で最後の会話を始めた。


「ええっと、は、花井豪斗ですっ。よろしくお願いします」


会話どころか関係が終わったと感じ、豪斗は思わず俯く。仲良くなる気は無いとは言え非常にかっこ悪い。いくらなんでもどもりすぎである。ドン引きされているだろうなと恐る恐る見上げると、


「ふふふ、こちらこそよろしくねっ」


と織姫ははにかんでいた。この世界に女神が降臨したことを豪斗は悟った。しかし救済の時間は長くは続かなかった。60以上の目が鬼のような形相でこちらを見ているのだ。豪斗は慌てて、


「みんな天野さんに話したいことがあるみたいだよっ。聞いてあげたら」


そう言うと織姫は一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、周りの様子に気付いたようで、すぐに笑って


「確かにっ! では失礼するわー」


と言いながら退散してくれた。


「二週間以上学校に来ていないでしょ。困ったことがあったら言ってね」


という言葉を残して。始業までの時間、豪斗はお花畑(高山地帯のことでは無い)にいた。豪斗はホームルーム中もずっとぼんやりしていた。一時間目の数学Ⅱが始まっても豪斗は夢見心地であった。ボーッとして予習どころでは無かった豪斗の前に前回の授業の復習テストが配られる。豪斗は非常な現実に引き戻された。


―昼休み、相変わらず織姫の周りには人が集っている。肩身が狭い豪斗と翔、その他数人からなる陰キャグループは教室の端で昼食を食べていた。


「天野さん、確かにすごいな。君の改心も頷けるよ。」


「だろっ。彼女はこの世界に楽園を作りに来た天使に違いない」


「「違いないっ」」


 友人数名が危険思想に染まっている。このグループ程では無いが、クラス全体もどこか浮ついた雰囲気である。定期テストが近いのに本当に大丈夫だろうか。そう思いながらも豪斗は何も言わない。実は翔はこう見えてもクラストップクラスの学力なので心配ないだろう。


―こうして再開した学校生活初日は鮮烈に終わった。誰からも「退院おめでとう」や「久しぶり」の声が無かったことに気付いたのは家に帰ってからであった。


 一週間後、豪斗はクラスの、いや学校の様子に本格的に危機感を覚えていた。初日でも感じていたことだが、人間関係が希薄となっている、いやギスギスしている。仲が良いのは昼休みに男子全員でサッカーをしている時だけである。これも織姫がサッカー好きを公言したからであるようだ。時々見学に来る織姫に良いところを見せるために皆必死であり、酷いときには乱闘騒ぎにまで発展する。もちろん骨折明けの豪斗は参加できない。豪斗は、約束通りノートのお礼として放課後の時間を使い、翔にサッカーを教えた。一応豪斗は中学の時サッカー部であったため、翔に様々な助言を与え、少しは活躍できるくらいにまで成長させた。翔の活躍を見るという昼休みの楽しみが生まれたため、豪斗的にもありがたかった。こんな調子では授業態度や小テストの点数なども絶望的であるはずだが、先生たちも特に何も言ってこない。本格的に学校全体がおかしくなっている気がする。


(まあ、皆が幸せならそれでいっか~)


と豪斗は放っておいた。


 さて、さらに二週間後、遂に定期テストの週がやってきた。豪斗はただでさえ二週間のブランクがあるので必死で勉強に打ち込んだのだが、周りはそうでは無い。今では放課後もサッカー三昧であるようだ。まあ、豪斗敵にはいつも通りの点数が取れそうだという感覚である。そして全教科のテストが終わったとき豪斗は真に恐怖した。テストの結果について語らうことも無く皆一斉にサッカーをするためにグラウンドへ走って行ったのだ。豪斗はクラスメイト達の思考回路が全く理解できず、遠巻きに帰った。


 そしてテスト結果が張り出される日の昼休み、豪斗は教室の後ろに張り出されたテスト結果を見に行った。他のクラスメイト男子達は言うまでも無くサッカーである。


 1位 花井豪斗 492点

 2位 天野織姫 486点

 :

 :

 19位 梅井翔 335点


いつもは5位以内をキープしている翔がクラスで19位である。そしてその翔が男子ではクラス2位である。また3位の女子が450点以下であったことを考えると、女子達も普段と比べると点数が低い。全体的にクラスのレベルが下がっている。


(まあ、あそこまでサッカーばかりしていたらそうもなるか)


と豪斗が考えていると、非常に強い殺気を感じた。振り向くまでも無く誰の圧か分かる。そう、織姫である。


(怖っ、いや怖っ! やっぱり彼女は天使でも何でも無いわ。自衛手段を用意しておかねば)


 内心震えながら天使に扮した悪魔を撃退する100の方法を考える豪斗。不思議なことにクラス全体の点数の低さに対する先生のお叱りは無かった。男子達も点数の低さを気にすること無くサッカーに励んでいる。


 翌日、かわいらしいピンクの封筒が下駄箱に入っていた。宛名は天野織姫。一瞬で血の気が引いた。できることなら早退してしまいたいが豪斗の真面目な気質がそれを許さない。誘いをシカトすると何を言われるか分からないので、とりあえずトイレの個室で中身を見た。


「花井豪斗君♡ お話があります。放課後、屋上で待ってます」


(これって、殺害予告?果たし状?怖すぎるよっ!)


 空けた場所が個室トイレで良かったと思うほどに豪斗は恐怖していた。下手したら何か出ていた可能性がある。


(行かないという選択肢は無いよなー。屈強な男達にボコられる位で済めば良いが。まあ、あまり待たせないように放課後爆速で行くか)


 そう決心した豪斗であった。


 放課後、豪斗は急いで屋上へ向かう。織姫は既に待機していた。美人は立っているだけでも絵になるんだなあと、豪斗はしみじみと感じ入った。誰かが潜んでいる様子は無い。とはいえ油断は出来ないので、スマホのボイスメモを起動し、何食わぬ顔で決闘に臨んだ。


「ごめんなさい、天野さん。待たせちゃいましたか?」


 声は震えていないだろうか?とにかく命だけは許してもらおうと決意する豪斗。そんな豪斗の心情を知ってか知らずか織姫は朗らかに返答する。


「いいえ、私も今来たばかりよ。では早速本題に入るわ。花井君はどうして私に惚れていないの?」


 はい、ヤバイ人決定。世界は自分の物とでも言いたいような発言にドン引きする豪斗。一番危険が少ない選択肢を思案し、慎重に返答する。


「いや、普通に惚れているけど。ほら、僕サッカーができないから」


「クラスのサッカー熱は見かけ上の変化に過ぎないわ。本質は私に惚れて、私のことだけを考えて、私にかっこつけることしか考えていないのよ彼ら。それに触発されて女子もやる気を失っている。それを念頭に入れてもう一度聞くわ。あなた、どうして私に惚れていないの?」


「アイドルに向けるような憧れはある。けど隣に立つのは無理でしょ。現代人には星に手を伸ばすような余裕は無いんだ。時代だね~」


「星と言われる分には悪い気はしないけど、私ってそんなに遠い存在に見えた?」


「初めて見たのがクラスのドンになった後だからね。そりゃ怖いよ」


「せめてボスといいなさい。…あーあ、ミスったなあ。数週間来ない生徒がいるとはさすがに予想外だったわ」


「それが素?もっと悪辣なのかな思っていたけど、案外普通だね」


「あなたすごいわね。私に命を握られていることは気付いているでしょうに、煽る余裕があるのね」


「本当に申し訳ありません。どうか、どうか命と退学だけは勘弁を」


「その二つは本当に同列に扱うべきものなのかしら。今や学校が合わずに退学して通信制高校に入学した後にT大学に合格するといったケースもあるらしいわよN井君」


「もう退学させる気満々じゃないですか!許してくださいよ~」


「持っているんでしょ?ボイスレコーダー」


「っ!」


 策がバレている。


「まさか告白だとは思っていないでしょう? 

 録音していると考えるとその強気な態度にも合点がいくわ」


「僕がただの煽りカスであるという可能性は?」


「だったらもう総出で潰してるわよ。さあ、貸しなさい」


 豪斗はすごすごとボイスレコーダーを差し出す。織姫はボイスレコーダーを見るとポケットから財布を取り出し、一万円札を豪斗に渡した。


「これはなんですか?」


 バイトが禁止されている高校生にとって余りお目にかかることの出来ない金額に恐る恐る尋ねる豪斗を見て、嗜虐的な笑みを浮かべながら、織姫は言った。


「これで新しいボイスレコーダーを買いなさいな」


「まさかっ。そこまでしますk」


 言い終わる前に織姫はボイスレコーダーを踏み砕いた。あんまりである。さすがに抗議しようと織姫を見ると痛そうにしている。……反抗する気が失せた。


「これで本題に入れるわ」


「常々思っていたけど、あんためちゃくちゃだな!!!」


「褒め言葉ね。ありがたく受け取るわ」


「無敵だ。無敵の人がいる」


「その言い回しやめて頂戴」


「へええ、天野さんネットとか見るんだ~。いがーい」


「刈り取るわよ」


「何をですか!? もう極力逆らわないので許してください」


「はあ、話が進まないわね。本題に入ることができると思ってから何行たったと思っているのよ」


 もう反論する気力も起きない。黙って話の続きを待つ。


「静かになれとは言っていないのだけれど…まあ、良いわ。言うわよ。覚悟は良い?」


「はいっ!いつでもっ!」


「Are you ready?」


「Yes!」


 もうやけくそである。豪斗は静かに死刑宣告を待つ。十三段の階段が手招きしている。


「花井豪斗さん。あなたが好きです。付き合ってください」


「…え、もしかして告白ですか?」


「今のがそれ以外に聞こえるのならあなたはラブコメ主人公の素質があるわ。

 さっさと転生しなさい」


 そういう織姫の顔は紅い。告白だというのは本当のようだ。


「今までのあれこれってひょっとして照れ隠しなの?」


「ええ、そうよ」


 もじもじしながらも堂々と答える(一種の才能である)天野に唖然とする豪斗


「少しでいいから考えさせて」


「何を考える必要があるの?私からの告白よ。泣いて受けるのが道理じゃない」


「僕サッカーできないよ」


「あんなの男を弄ぶための嘘よ」


「もっとヤバいよ。何でそんな嘘ついたのさ」


 豪斗が危惧しているのは、織姫がこうして男子達を堕とした可能性である。彼女ならば告白という神聖な儀式をも道具にしかねないと思われる。悩みながらもなんとか場を持たせるために会話する。


「もちろんクラスで一位を取るためよ。

 男達はもちろんその雰囲気に当てられて女子達もずるずると転落よ。…あなた以外は」


 彼女の告白が真実ならば、その辺りに彼女の惚れた理由がありそうだ。心はほとんど傾き欠けているが、まだ懸念点がある。


「1分だけスマホ見せて」


「30秒よ」


「うん、それでいい」


 そう、豪斗が話を繋げていたのはこの時間、即ちサッカーが一試合終わりSNS狂いの友達がスマホを見ている休憩時間を待つためである。


 急いでボイスメモを一時停止し、豪斗はメッセージアプリ「リンネ」のオタクグループに質問する


「天野さんに告白された。どうしよう」


 数秒後既読が付き、返信が返ってきた。


「「「嘘乙」」」


「どうして嘘と言い切れる?」


 そう返すと、さらに返信が返ってくる


「俺が織姫の恋人だもん。もう告白された。」


「嘘乙、俺が告白された。」


「お前らみんな惨めだな。本当の恋人は俺だ。証拠画像もあるぜ」


 はい、お断り確定。というか良くバレずに多人数に告白できたな。怪盗団のリーダーか?


「30秒経ったわ。答えを聞こう」


「バルス。じゃなかった、お断りします。天野さんのこれからの活躍に期待しています」


「どうして?」


「このリンネが理由だよ。どうやったらこんなに股を掛けられるのさ」


 織姫は顔面蒼白である。勝ったなガハハと誘惑を振り切った余韻に浸る豪斗だが、織姫は全く異なる心情を持っていた


(うぁあああっ!! やらかしたわっ。

 ここで今までの行動がのしかかってくるとは。大誤算だわっ。どうしようかしら)


 そう、織姫は豪斗に本気で惚れている。初恋である。ガチ恋である。因果応報という言葉の意味をその身で体感した織姫だが、今まで欲しいもの全て手に入れてきた経験から僅かな可能性を手繰り寄せる。豪斗はこっそりスマホのボイスメモを再開する。


「今回は本当だと言ったら信じてくれる?」


「他の男を全て切れと言ったらやってくれる?」


「無理ね」「そういうことだ」


「いや、待って! 家族以外全員消すわ。消したら付き合ってくれるの?」


「しばらく抜き打ちチェックをするといったら?」


「それでもいいわ。愛を感じて良いじゃない。」


「そう?スマホを他人に預けるのは普通に怖いけど」


「されて嫌なことを私にするの?」


「罰だからね」


(セーフッ! 勝ったわ)


 スマホなど今度義理用を買えば良い。一旦断ることで、スマホ断ちが禁忌であるという印象を付け、そのあとの了承に必死感を出す織姫の交渉術である。


「じゃあ早速消すよ。スマホ貸して」


「ええ、どうぞ」


「うわあ、本当にクラス全員に告白メッセージ送ってるよ。これで他の人に気付かれずに20股以上していたのか。先生とか先輩もいるよ。この人は告白していないみたいだけど家族?」


「執事よ。消さないで」


「またサラッと怖いことを…」


 しばらくポチポチと画面を操作する豪斗は返すときに言った。


「何台かスマホを買うという抜け道には気付いてるよ。まあ、僕は信じてるから」


 目が笑っていない。信頼0の目である。


(身から出た錆だわっ。どうすれば豪斗君は私の本気を受け取ってくれるかしら)


「まあ、他の面々にはメッセージで告白していることを考えると、天野さんの「今回は本気」という言葉も少しは真実味を帯びてきたように感じるよ。僕も言い過ぎて悪かった。」


 神は織姫を見捨ててはいなかった。少しは誠実さが伝わったようだ。


「あなたは悪くないのよ。そうね、もっと私の本気を伝える手段としては…

 明日クラスの前で宣言するわ。あなたが本命だと」


「恥ずかしくないのっ?」


「どこに恥ずかしい要素があるのよ。人の恋路を笑う奴はシマウマに蹴られれば良いのよ。あとは、モーニングコールとお休み電話をするわ。そう多くの人へはできない芸当でしょ。あなたの好きな時刻を言ってくれれば電話するわ。浮気のアリバイになるでしょ?その他にも、何でもするから捨てないでっ」


 考えつく限りの浮気防止手段を自分からあげる織姫。必死のパワープレイである。


「別にそこまで望んじゃいないが…」


 先程までとは別の意味で引いている豪斗。彼を見つめる織姫の目はマグマのように熱い。


「あなたも極力他の女性との交際は控えて下さいな。私、何するか分からないわよ」


「それは心配ない。家族を除いて天野さん以外に女性の連絡先は無いから」


「信じるわよ。私を殺人鬼にさせないでよね」


「心配するまでも無いよ。僕に興味を持つ物好きは天野さん位だ」


「ならいいんだけど…ところで、自衛手段はスマホのボイスメモが本命だったのね」


「え、どうして…」


「簡単に頼みの綱を差し出すようだから、おかしいと思ったのよ。

 あなたがスマホを触る際に少しだけ妙な動きをしたから、鎌を掛けてみたの」


「なるほど。できればスマホは壊さない方向性でお願いします…」


「どうして壊す必要があるのよ?今やそれは私とあなたの交際を保証する重要な品よ」


「確かにそうか。…じゃあどうして一つ目のボイスレコーダーを壊す必要があったんだ?」


「では一緒に帰りましょ。明日鮮烈にカップルデビューするために、今日はこっそりとね」


「おーい、聞こえてますかー」


 電車通学の豪斗とリムジン通学(!?)の織姫は駅までこの調子で和気藹々と話しながら向かい、そして別れた。夜に連絡するという約束を残して。


 こうして奇妙なカップルが誕生した。二人の未来は誰にも予想できない。


―その日の夜、豪斗がテストの復習をしているとスマホが鳴る。予想通り、天野からである。あの後に連絡先を交換したのだ。慌てて出ると、ビデオ通話であった。煌びやかな部屋にパジャマ姿の織姫がいる。いや、これはパジャマなのだろうか?明らかに普通の質感では無い。


「どうしたの?私に見とれているのかしら?」


 悪戯っぽく笑う織姫に豪斗はタジタジである。


「それもそうだけど、そのパジャマ?随分高そうだね。何を使っているの?」


「あら、この服の価値が分かるのね。これは最高級の絹を使っているらしいわ。同じような物がクローゼットにたくさんあるけど、一着差し上げましょうか?」


「滅相も無い。自分の立ち位置は十分に理解しているよ。それは身の丈に合わないね」


「あら、私の彼氏様なんだから、これ位問題ないわよ。あなたの立ち位置力は大臣レベルよ」


「天野さんの彼氏と言うだけで、その地位なら本人はどれほどの地位なんだよ」


「無論、神よ」


「それはそれでカップル間での格差が大きすぎるっ」


「あら、まさかあなた、私と自分が同格とでも?私に惚れる分には大いに結構だけど、自惚れないことね。」


「屋上で泣きついてきた人と同一人物だとは思えない」


「随分不遜な夢ね。捕まるわよ」


「何罪で!」


 とりとめも無い話をしていた二人だったが、織姫は突如真剣な声色で話題を変えた。


「ふふ、楽しいわね。私、こんなことを言い合う人が欲しかったのよ」


「その結果がこのボケ倒し!? 漫才師でも目指すつもり?」


「全て本心なのにぃ。若者の国語力の欠如は嘆かわしいわね」


 …この二人の間に深刻な空気は流れないのだろうか。話は1時間ほど続いた。

 織姫はそろそろ寝る時間のようだ。


「では、お休み。明日の朝は言った通りね。豪斗君」


 何かを期待するような織姫の言葉、応えないわけにはいかない。


「うん、また明日。織姫さん」


―電話は切れた。これで正しかったのだろうか。そう豪斗は自問自答する。まだ織姫は、自分の内面を打ち明けることへの勇気を持っていないように感じる。先程の真剣な発言を豪斗が茶化したのも、彼なりの配慮であった。人生初彼女、初夜電話に浮かれながらも豪斗は眠りについた。


―次の日、豪斗は6時に目を覚ました。その要因はスマホからのコールでは無く、インターホンのコールであった。両親は既に起きている時間であり、今回は母親が応答したようだ。豪斗の部屋は玄関に近いため、話し声が聞こえる。


「あら、美しいお嬢さん。何かウチにご用でも?」


「私、豪斗君とお付き合いさせてもらっている、天野織姫と言います。こちら、つまらないものですがお納めください。」


 豪斗は飛び起きた。あること無いこと言われる前に彼女の暴走を止めねば。


「あ、天野さん!? こんな朝早くに一体全体どうしたのさ!?」


「何って、モーニングコールだけど。 あと、織姫と呼んで欲しいわ」


 とんだモーニングコールもあったものである。豪斗は頭を抱える。そして寝癖が付いていることに気付いた。何とも恥ずかしい。


「ええと、来るなら言ってくれれば良いのに。すぐに用意するから待ってて。あと、お母さんがいいと思うなら家に入れてあげて」


「豪斗の初彼女よ! 駄目な訳ないじゃ無い。ささこちらへ、何も無いところだけどゆっくりしていってね」


「ありがとうございます。お義母さん」


 織姫の言葉に違和感を覚えながらも急いで準備をする。身だしなみを整え、制服に着替える。食事は…どうしよう。急いでリビングに行くと両親と織姫が談笑していた。父親は織姫にデレデレしているようだが、何だかんだ言って頼りになる人だ。恐らく大丈夫であろう。


「朝食は走りながら食べたら良いかな。準備オッケーだよ!」


「パンならともかくご飯じゃない。どうするつもりよ。私は待つわよ。豪斗君が食べている姿をひたすら見つめるのも悪くないわ」


「ありがとう、お言葉に甘えるよ。やっぱり朝食は大事だからね。いただきます」


 …非常識なのは突然家に襲来した織姫の方ではないかという真実に思い至ったのは、朝食を平らげ、一息ついたときであった。


「で、家の人はどうしたの? まさか強引に?」


「そんなわけないじゃない。しっかりお父様、お母様に報告し、車でここまで送ってもらったの。電車通学って初めてだからドキドキするわ」


「行動力の鬼だね。って待って。ご両親に報告したの!?」


「ええ、婚約者候補としてね。今度連れてきてって言われたわ」


 そう笑う織姫から「絶対に逃がさない」という強い意思を感じる。どうしてここまで懐かれたんだ、と豪斗はこれまでの行動を振り返る。テストに勝ったことだろうか、だとするならば彼女は相当熱しやすく冷めやすいのだろう。僕より優れた人がいれば、すぐに乗り換えられてしまうのだろうか。そう思うと胸がズキリと痛んだ。彼女に惚れているわけではないはずだが、それでも脳が壊される感覚は辛い。そう思考していると。織姫が口を開いた。


「豪斗君は、私がテストで負けたこと如きでその人にベタ惚れする尻軽だとお思いのようね。それだけは違うと訂正させていただきましょう。あなたを意識したのは別の要因だわ」


 「ナチュラルに心を読まないでくれ。僕はそんなに分かりやすいか?」


 そのような話をしている間に登校の時間である。父親は既に出立しているので、母に「いってきます!」と告げると、二人揃って家を出て最寄りの駅へ向かう。電車は痴漢などの危険性もあるため、守らないと。そう豪斗は息巻く。


 ふと、気になることがあったので尋ねる。


「どこで僕の家を知った?」


「昨日最寄り駅は言ってたでしょ?数名で後を付けたわ」


「犯罪だあっ。ヤンデレだあっ」


「初恋なのでブレーキの位置が分からないのよ」


「その言葉はとっても嬉しいけど、とりあえず教習所に行こうか」


「そういえば、痴漢を気にしていたようだけど、一車両貸し切るから問題ないわ」


「車での送迎よりもずっとすごい! そんなVIPサービスあるの!?」


「ええ、○○円位でできるわ」


 「一日の通学に使う金額じゃない!!」


 と再び漫才を繰り広げながらも、内心豪斗の心はバクバクであった。織姫は昨日言っていたように、交際を宣言するのだろうか。自分に害が及ぶことは最悪目を瞑るとして、織姫が悪女の烙印を押されることに繋がりかねない。非常に不安である。その様子を見て織姫は、


「心配してくれる気持ちは分かるけど、私を甘く見てもらっては困るわ」


 と言った。何か考えがあるのだろう。


 ―さて、始業15分前に揃って教室に入る二人に、クラスメイト達がざわつく。豪斗の表情は硬い。織姫は、教卓の前に立って皆の注目を集めた状態で言った。


「私は、ここにいる男の子、花井豪斗君と真剣に交際します。みんなごめんね♡」


 怒号が飛び交うと予想していた。殴られることを想像していた。しかし、実際は違った。男子達は全く気にした様子も無く織姫の元へ集まり、いつものように会話を試みる。この異様な事態に豪斗はただ困惑した。織姫はこちらへ向き直り、微笑む。


「言ったでしょ。彼らはある種の忘我状態にある。この状態に至ったら私ですら皆をどうにかすることは出来ないのよ」


「織姫さんは化け物か何かなの?」


「そう言いながらも逃げないあなたも相当よ。これからよろしくねっ」


 そう言って満面の笑みを浮かべる織姫を見て


(しばらくは彼女に振り回されるのも良いかもしれないな)


 と考え、


「うん、簡単には飲み込まれないように注意するよ。これからよろしくね。」


 と答える豪斗であった。


 この後、豪斗はテーマパーク貸し切り事件や帝王学必修事件、強制同居事件など様々な事件に巻き込まれることになるがそれはまた別の話である。


初めまして。ゆーきまんです。5年ほど投稿小説を読むだけの日々を続けておりましたが、春休みを活かして小説を書かせていただきました。ここまで読んで下さった皆さま、本当にありがとうございました。よければ、ブックマークや評価、感想(どのようなものかよく知りませんが)をお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続編も出してほしいです!
[良い点] 主人公とヒロインのやり取り。 [一言] ヒロインなってることはクズなのになんか憎めなかった。なんやかんやでいいキャラになるんだろうな。面白かったです。
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