化け猫神
(儂は神様兼看板猫じゃ)
神社に住み着いている猫をよく見ると思うが、儂もその内の1匹じゃ。だが、他の猫との違いはただの居候ではなく、ここの神様でもあるということじゃな。この神社は猫の神社ということなのじゃよ。
神様というものは必ずしも天から見下ろしているだけではない。こうして下界に滞在することだってある。
こうして神様の儂が直々に現れることによって、他の神社よりも神の力を発揮できて素晴らしいご利益が受けられるというわけじゃな。だがな、、
(儂も衰えたものじゃ)
聞いたことがないじゃろうか。神社に祀られている神は、その神社に訪れる人々の信仰の深さで神としての力が変わるということを。
より信仰が強ければ神としての力は強くなり、人々へのご利益を沢山与えることができる。裏を返せば、信仰が弱くなればそれに比例して使える力も弱くなるということじゃ。つまり、最近は力が衰えているのじゃ。今どきの人々はスピリチュアルなモノには興味がないらしい。なんだか、“いんたーねっと”とかいうもので全て解決するとのこと。我々のような非現実的なものは否定されているらしいのじゃ。酷い話じゃ。
「あ、猫ちゃんだ!かわいい!」
「ニャー?」
参拝客じゃな。近づいて行ってやるか。
「ここ猫の石像があることで有名だから、猫の神様でもいるのかな~。住み着いている猫いるし」
「ニャー!(勘のいい小娘め!)」
「この猫ちゃんにお願い言ってみようかな~」
「ニャ…(願い…)」
「いい出会いがありますようにってことなんだ。お願いします猫ちゃん」
「ニャー」
そう願いを言って小娘は帰っていった。
(すまぬ…お主に力は使えぬ)
昔だったら沢山の人間の願いを叶えていた。じゃが、今となっては年に3回ほどしか力は使えなくなった。この神社はまだ猫の石像があるお陰で他の神社よりは参拝客は多い。他の神だと一切力が使えなくなった者だっておる。そう考えると儂は恵まれている。つまり、誰の願いを叶えるかは昔以上に考えなくてはならなくなった。いくら餌を貰ったり、マタタビを持ってきて惑わされても、慎重に考えねばならぬのじゃ。
儂は罪悪感に駆られながら神社の縁側に戻り、目を瞑った。
(あれ、寝すぎてしまったわい)
辺りは暗い。寝すぎて夜になってしまったらしい。
(まぁ夜でも構わん。猫は自由じゃからな)
儂は動き出そうとしたが横を向いた瞬間驚いてしまった。
「ニャーーー!(人間が隣で寝ておる!)」
その声で起きてしまった。女性が酔っぱらってここで寝ている。褒められたものではないのぉ。だいぶ酔っておるが心配じゃな。
「あれ、ヌッコじゃん。どうも~」
やはり酔っておる。かなりお酒を飲んだようじゃ。この者に構うのは面倒じゃ。失礼だがこの場にはいたくない。だから、儂はこの場を離れようとした。が、
「ちょっと、ヌッコ待ってよ。話聞いてって」
「ニャー!(しっぽを掴むな!)」
強制的に戻されてしまった。天罰でも与えてやろうか。この人間は強制的に儂を戻した途端喋りだした。逃げようとしたのじゃが、話を聞くに連れてそんなわけにはいかなくなった。
この者は頑張りすぎて神経がすり減っておる。加えて何をやっても上手くいかない。そして、親近者にも不幸がある。いいことが無さすぎる。神である儂にはそれらが全て嘘ではないことがわかる。
「色んなところにお参りもしたんだよ。本気でお願いもした。都合のいい時だけ神様に頼るのはいけないと思っている。でも、それしか道がなかった。それも虚しく願いは届かなかった。ねぇ猫ちゃん。私はどうすればいいの」
儂を撫でながらそう言った。
「私には何も残っていないよ。死にたいね」
儂はことの重大さを痛感しておる。この者は助けねばならない。さもなければ死んでしまう。
「ねぇ、猫ちゃん。ここの神様って猫なんでしょう。化けてでもいいから私に憑いてくれないかな。化け猫神…もうここしか頼れないよ。人には頼れない。人の神にも頼れない。最後に頼るのが猫とはね。」
年に3回しか使えないこの力。本当にこの者に使ってよいのか。答えは出ておる。この者は神を本気で必要としている。ここで救わねば神ではない。この者を野放しにすれば必ず命を絶つ。それは神として許されない。
この者の願いはここの神である猫が化け猫として憑りつくこと。
非常にお主は運がいい。目の前の猫こそここの神ぞ。
「ニャーーー!(お主の神を必要とする姿勢見事!)」
「ニャーーー!(その願い直々に叶えてやろう!)」
「ニャーーー!(お主の人生はこれから誰よりもよいものになる!)」
儂は力を使い、この者に化け猫として憑いた。この者を救うために。