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美食家ルカの美味しいモノを探す旅  作者: レニィ
赤ちゃん期
8/29

7食目:シャリシャリのツッカバオム

「うー……あー……」

 

 その日は朝からヨハン先生がお家に来て、ぼくのあちこちを触る日だった。

 ぼくは先生が嫌いだけど、暴れてもおかあさんに抑えられて疲れちゃうだけだから、ぼくは大人しく先生にあっちこっち触られるのを我慢することにした。

 ヨハン先生はいつも通り、最後にぼくの口の中を覗き込むと、今日は「うーむ」と言って黙ってしまった。

 ヨハン先生が黙ってしまったことで、おかあさんが不安そうにぼくを撫でる。

 

「先生、ルカに何かおかしなところがありましたか?」

 

 先生はゆっくりと首を振る。


「……いいえ、フレディス様。ルカくんは健康そのものですよ。まぁ、こちらの予想以上に成長が早くて、歯が生えていますが、それだけですな」

「成長が早いのはわたくしも夫も気にはなっていますが、本当に大丈夫なのですか?」

「健康状態は悪くありませんからな。良く育っている。医者の口から言えることは、それだけですな」

「そうですか……」


 おかあさんが不安そうにしているのは変わらない。そんなおかあさんに安心して欲しいんだと思う。ヨハン先生は笑いながら椅子から立つ。

 

「何、成長が遅くて心配だと言うのはよく聞くが、早くて困るなんてことは……まぁ、あまりないさね。せっかく歯が生えてきて、掴み食べも始まっているのだし、掴みやすく切った野菜や、パンなんかを与えてもいいでしょうな。七の月になったことで、新鮮な野菜に、ツッカバオムが毎日採れる時期なのも、ルカくんは幸運ですな」


______________________


 ヨハン先生が帰ってからぼくのごはんには、必ず細長い野菜とパンが出るようになった。


 パンはまだ外側は硬いから中を柔らかいところにヤギやツィーフェルのお乳をちょっとつけて出てくる。パン粥に似た味で、ぼくにとっては食べ慣れた味だし、食べやすいけれど、手がベタベタするのが少し気持ち悪い。


 細長い野菜はいろんなものがたくさん出てくる。

 犬だった時にも食べていたことがある草とお水の臭いがするキュウリ。レタスだと思っていたけれど、本当はキャベツという名前のシャキシャキする葉っぱ。もさもさして食べていい黄色いお花みたいなのが付いていて、ちょっと硬くて掴む棒が付いているブラーメンコリー。コルザおねえちゃんが好きな、真っ赤って色のトマト。

 たまににんじんが混ざっていることがあるけど、にんじんは口に入れると美味しくないのがわかるから、口から出してしまう。サージおねえちゃんはそれをすごく不思議そうに見て首を傾げる。


 そして野菜の他にも、くだものっていう甘いものが出るようにもなった。

 トマトよりも色が濃くて、小さい丸いサクランボは、甘いけどちょっと酸っぱい。食べると口の中がキュッとなってしまうけど、一個がそんなに大きくないからついついたくさん食べてしまう。でもサクランボよりも酸っぱい、プラムってやつは大きいし、外側の皮が硬くてあんまり好きじゃない。

 赤い色が濃い方が美味しいのかなと思っていたけど、薄い赤と白の混ざっているモモは、サクランボよりもずっと甘い。でも食べるとお水がたくさんモモから出て、それが手と口をベタベタさせてしまう。それに他の野菜やくだものよりも柔らかくて、手の中でパンみたいに潰れてしまうからもうちょっと食べやすいと嬉しい。

 

 いろんな食べ物が出てくるようになって、ぼくの食べられるものが増えるのは嬉しい。

 

 たまに出てくるささみも、マッシュポテトに混ざって出てくることが少なくなって、ささみがそのまま掴めるようにお皿に並べてもらえるようになった。

 ぼくはおかあさんの膝の上に座らせてもらって、お家族みんなと一緒にごはんを食べるようになった。

 

______________________ 

 

「ただいまー!」

「おかえりなさい、コルザ。今日は、何を採ってきたの?」

「きょうはね、サクランボと、キノコと、それとね……」


 コルザおねえちゃんがバタバタと音を立てながらお家に帰って来た。

 今日も背中のカゴからたくさんの草と土の臭いがするのかなと思っていた。


 あれ?


 今日のカゴの中からは、草と土の臭いよりももっと強い、甘くて、ぼくを呼ぶ匂いがした。

 この匂いは、嗅いだことがある。コルザおねえちゃんのたんじょうつきのおいわいの時の、あのケーキの匂いだ。

 でもあのケーキの匂いよりも、今日の匂いの方がいい匂いだ。スッと鼻に入って来て、鼻の周りで止まってしまわない。お水を飲むときのように、スルスルと通り抜けていく感じがする。

 

 ぼくは急いで手と足を動かして、コルザおねえちゃんが降ろしたカゴへ向かって歩く。こういう時、犬みたいに走れたらよかったのに、と思うけど、人間の赤ちゃんの身体は思ったようには動いてくれない。

 ぼくはそれでも結構早くにカゴに辿り着けた。カゴは手と足で立っているぼくには大きくて、このままじゃぼくは中を見る事ができない。


 それなら……足だけで立つしかない。


 コルザおねえちゃんがカゴを背中に背負う時に使っている紐がある。これを掴めば、椅子の棒を掴んで足だけで立つ時と同じように立てるはず。

 ぼくは紐を掴んで、椅子を使った時みたいに立とうとした。

 だけど、カゴは椅子みたいにぼくを支えてくれなかった、カゴはぼくと一緒に転がってしまった。ぼくは転がって、頭は打たなかったけど、お尻を打った。

 頭を打った時みたいに痛くはなかったけど、近くにいたコルザおねえちゃんがびっくりしてぼくのところに走って来た。


「ルカ、だいじょうぶ?」

「あーう」


 ぼくは「だいじょうぶだよ」と返事をしたつもりだけど、コルザおねえちゃんはぼくのめをジッとみて、「うーん」と考えて、パッと笑う。


「いやしのおまじないしてあげるね! せいれいさん、せいれいさん、いたいのいたいの、もっていけー」


 コルザおねえちゃんは、ぼくの頭を撫でながらそう言った。おかあさんのいやしのまほうみたいにあったかい何か感じたりはしなかったけど、ぼくはコルザおねえちゃんが一生懸命におまじないをしてくれたことが嬉しくて笑う。


「あ、わらってくれたよ! いやしのおまじない、せいこうかな?」

「そうね、大成功よ」


 おかあさんはコルザおねえちゃんのふわふわの頭を撫でると、ぼくを抱っこしてくれた。

 ぼくと一緒に転がったカゴから落ちてしまった赤いサクランボや、青いキノコをサージおねえちゃんが拾っている中に、黄色くてキラキラする丸いものが転がっていた。

 その丸いものから、あの甘くて、おいでという匂いがした。

 サージおねえちゃんはその丸いものを手に取ると、ちょっとびっくりした顔でコルザおねえちゃんを見る。


「ツッカバオムじゃない。どうしたの? これ」

「あのね、あのね。カールおじいちゃんがね、まいにちもりにおてつだいいってえらいねって、ツッカバオムをくれたの!」

「……コルザ、森のどこへ行っているの?」

「おくにはいってないよ。おおきいおにいちゃんたちもダメっていうから。いりぐちの、ちょっといったとこ」

「そう。なら、いいの。……今度、カールおじいちゃんにお礼言いに行かないとね」


 サージおねえちゃんはちょっと悲しそうに、それでも笑ってツッカバオムを撫でた。


______________________


 今日のおとうさんは、ちょっとくたびれて帰って来た。コルザおねえちゃんがおとうさんに飛んで、飛びついても、今日はコルザおねえちゃんを抱き上げないで、ゆっくりと降ろすとおとうさんがいつも座っている椅子にドカッと音を立てて座って動かない。

 

「とうさま、げんきない。どうしたの?」

「村長のお仕事がな、ちょっと忙しくて、こう、書類が山を作っているんだ」

「とうさま、やまのおしごとしてるの? もりよりたのしい?」

「うーん……まぁ、そんなところだ」

「コルザ、父様のお仕事が山になっているのは、父様の責任よ」

「サージ……もうちょっと、父様に優しくしてくれてもいいんじゃないか?」

「でもお仕事が山になってしまっているのは、父様がお仕事と狩りとの塩梅を間違えたからでしょう? 最近、森にばかり行っているのはコルザからも聞いているわ」


 サージおねえちゃんは、おかあさんみたいな顔と言い方でおとうさんを見ると、テーブルの上に晩ごはんを並べていく。

 今日の晩ごはんは、キャベツとキュウリとトマトのサラダ、ソーセージの入ったブラーメンコリーと青いキノコのスープ。酸っぱい匂いのパンはいつも通り置かれている。

 

「お仕事で疲れている父様に、今日はいいものがあるわ」


 そう言ってサージおねえちゃんがテーブルの上に置いたのは、細長く切られたぼくを呼ぶ甘いくだもの。

 ツッカバオムだ。


「ツッカバオムじゃないか! 今年の初物か?」

「コルザが今日、カールおじいちゃんからもらって来てくれたの」

「コルザね、おてつだいえらいってほめられたの!」

「そうか、コルザは偉いな」


 おとうさんがコルザおねえちゃんの頭を撫でる。コルザおねえちゃんは、嬉しそうに笑う。

 

 ぼくの晩ごはんの細長いパンと野菜が用意できたら、おとうさんがごはんの最初のお話をしたら、みんなのごはんも始まる。

 ぼくはお皿に乗っているパンと野菜よりも、その奥にあるツッカバオムが食べたくて手を伸ばす。

 おかあさんは膝から落ちそうになったぼくを抑える。


「ルカは珍しいものを食べたいのね。目新しいものがあると、すぐに手を伸ばすのね」

「生のツッカバオムは七の月じゃないと、食べられないものね。わたしたちでも珍しいもの」


 サージおねえちゃんがテーブルの真ん中にあるツッカバオムを一つ、ぼくのお皿の上に乗せてくれる。

 ぼくはお皿の上のツッカバオム掴む。


 モモみたいに掴んでも潰れないし、パンやマッシュポテトみたいにべちゃべちゃが手につかない。サクランボより大きいけど、プラムみたいな皮はない。

 甘い匂いが、ぼくの鼻にお水みたいに流れてきて、早く食べてと言っている気がする。

 ぼくは大きく口を開けて、ツッカバオムを食べる。

 

 ツッカバオムは、シャリっと音を立ててぼくの口へ入って来たのに、そのまま口の中でとろりと溶けた。

 サクランボみたいに酸っぱくなくて、モモよりも甘い。

 ツッカバオムを飲み込むと、お腹の中がポカポカとしてきて、それが身体中に広がっていく。そのポカポカはと一緒に、ぼくはなんでか嬉しくなってくる。

 

 どうしよう。ささみよりも好きになるかもしれない。

 

 ぼくは嬉しくて、嬉しくて、手に持っているツッカバオムを食べていた。

 手に持っていたツッカバオムはすぐになくなってしまった。

 

 空っぽになった手を見て、ぼくはテーブルの上にまだあるツッカバオムに手を伸ばす。でも今度はおかあさんに、お皿の上に置いてあったブラーメンコリーを手渡されてしまった。

 にんじんなら手から離したけど、ブラーメンコリーはそんなに嫌いじゃない。ぼくはもしゃもしゃの黄色いところを食べる。


 でももっと、ツッカバオムが食べたいな。


 ぼくはおかあさんが手渡してくる野菜とパンを食べながらも、ジッとツッカバオムを見る。

 

 晩ごはんを食べ終わった他の家族も、テーブルの真ん中にあるツッカバオムに手を伸ばす。

 シャリシャリ言わせながら食べていたコルザおねえちゃんが、不思議そうに首を傾げる。


「たんじょうつきのおいわいのやつと、あじがちがうね」

「誕生月のお祝いのやつは、蜂蜜で漬けてあって蜂蜜の味も混ざっているからじゃない?」

「そっか、サクランボといっしょだ」


 コルザおねえちゃんは二個食べ終わると、すぐ三個目に手を伸ばす。

 それを見たサージおねえちゃんがちょっと意地悪そうな顔で笑って、コルザおねえちゃんにお話する。


「コルザ、あんまりツッカバオムを食べ過ぎると、怖い精霊様に連れていかれちゃうわよ」

「うそだー。だって、せいれいさまはまもって、たすけてくれるんでしょ?」


 コルザおねえちゃんが笑っておかあさんの方を見るけど、おかあさんもちょっとだけ怖い顔でお話する。


「ツッカバオムは精霊様の一番好きな果物だもの、あんまりたくさん食べ過ぎると、ツッカバオムと間違えられて、精霊様に連れていかれてしまうわよ」


 コルザおねえちゃんは、三個目のツッカバオムを最後に手を止めた。

 サージおねえちゃんは一個だけでお腹いっぱいだと言って食べなかった。

 ぼくはお皿の上のパンと野菜が食べ終わってお腹がいっぱいになったけど、それでもツッカバオムを食べたくて手を伸ばす。もう一個食べて、お腹がパンパンで苦しくなったけど、ぼくはまだまだツッカバオムを食べたい。でもおかあさんに止められて、結局、その日は二個しかツッカバオムを食べさせてもらえなかった。

 

 残りのツッカバオムをおとうさんとおかあさんが食べるのを、ぼくは指を加えてみているしかなかった。

お野菜パーティー


どうもレニィです。


スティック野菜は『いぶりがっこタルタルソース』で

食べるのが個人的なオススメです。


普通の野菜・果物と、独特の名前が付いている野菜・果物は

実は違いがあったりするのですが、

それが発覚するのはルカくんがもうちょっと成長してから。


本編内では真夏なので、そろそろ涼しいところへ行きます。

コルザおねえちゃんが、


そんな感じです。

どうぞよしなにー!!!

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