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美食家ルカの美味しいモノを探す旅  作者: レニィ
幼児期
28/29

27食目:もういくつねれば。

「メルはずるい!」

「……にゃにがだにぃ」


 果樹園のりんごの木には、りんごの実の赤ちゃんが成り始めていた。

 ぼくはお昼までさくらんぼの時みたいに、りんごの実が大きくなるように、小さいのを取って分けるお手伝いをしてから、やっとメルに会えた。

 やっとメルに会えた理由は一つ。


「メルはみんなといっしょにいっつももりにいってばっかり!」


 メルは三つのベリーを教える為に、コルザおねえちゃんと一緒に森に行くようになった。それがこのレーヴァルド村の村長で、ぼくたちのおとうさんとの約束だったからだ。

 最初、メルはちょっと嫌そうにしていたけど、コルザおねえちゃんが頼み込んだのと、ぼくたちの知らないところで、メルのおばあちゃんにも教えるように頼まれたみたいで、仕方なさそうにコルザおねえちゃんと一緒に森へ行くようになった。


 だけどぼくは。


「ぼくはまだもりにいけないもん! もりにいってばっかりで、メルはずるい!」

「んにゃあ。そんにゃこと言われてもにぃ。にぃが森に行くのは、おみゃあんとこにょとーちゃんからの指示だし。おみゃあが森に行けにぇのは、おみゃあんちのルールだろう? にゃんもにぃのせいじゃにぇじゃん」

「……でもメル、たのしそうなんだもん」


 ぼくは森には行けない。

 でも森が近い果樹園でお手伝いをしていると、森に行った子たちの声が時々、聞こえたりすることはある。

 みんなすごく楽しそうな声でお話しているし、笑っている声も聞こえてくる。

 それに、

 

「もりからかえってきたメル、ほかのことばっかりおしゃべりしていて、ぼく、おはなしできないことばっかり」

「にゃ?」

「おうちにかえっても、コルザおねえちゃんがメルのおはなしばっかりして、コルザおねえちゃんとメルがいちばんなかよしみたいだし」

「にゃあ……」

「ぼくのほうがみんなより、コルザおねえちゃんよりもさきにメルとなかよくなったのに、みんなのほうがメルとなかよくしていて、だからメルはずるい!」

「んにゃあ……おみゃあ、にぃが他のやつと仲良くしてて、ヤキモチ焼いてんにょか?」

「ヤキモチ? モチって、やくの? ケルンモチもやくの?」

「あれを焼くにょは難しいと思うぜ? というか、ヤキモチってそういう意味じゃにぇからに」

「んぅ?」


 メルはケケケと笑って、芝生の上に寝転んだ。


「別に他の奴らとそんにゃに仲良くはにぇよ。チビどもはひよこみたいにゃもんだから、にぃに着いて歩くにょが楽しいらしいけど、でっかい奴らはまだにぃのことも、ばっちゃのことも怖い魔女だと思って、あんま近寄らにぇよ」

「でもコルザおねえちゃんとはなかよくしているじゃない」

「そりゃコルザとは仲良くさせてもらってっけど、コルザは癒しの魔法を使えるやつだから、薬売りしてたばっちゃのことが気ににゃって、にぃと仲良くしたいってのもあんだろ? おみゃあとは違う仲良くだよ」

「ちがうって、どうちがうのさっ!」

「おみゃあとにぃはおんなじところがあるだろ?」

「おんなじって、けものつきのこと?」

「んにゃ。それだけじゃにぇ」


 メルはぴょいっと身体を起こすと、ぼくと向き合ってくれる。


「おみゃあは、にぃとおんなじ所から来たと思うんだ」

「おんなじところ? それって、あのかおがもじゃもじゃなひとのいる」

「虹の橋のふもとのこと言ってんにゃら……まぁ、それも当たってるんだけどにゃ。それだけじゃにぇぜ」

「うぇ?」

「おみゃあ、ケルンモチ見た時に言ったろ。『ささみぞうすいみたい』って」

「……うん」


 それは白くて、柔らかくて、美味しくて、でもベタベタしている食べ物。

 ぼくの、犬だった時の身体がおかしくなってしまった時に、犬だった時のおねーちゃんが出してくれたご馳走。

 “ささみぞうすい”を食べているぼくを見て、犬だった時の家族はとっても喜んでいた。でも白いベタベタのごはんが口の周り中に付いちゃうから、食べた後に必ずタオルでゴシゴシと口の周りを拭かれた。最初はあったかくて気持ちいいタオルだったけど、長い間続けられると疲れてきちゃうから、ちょっと唸ったこともあったっけ。


「あん時、にぃ、おみゃあに雑炊のこと知ってんにょかって、聞いたろ?」

「そういえば……」

「にぃもにゃ。食ったこと、あるんだ」

「うぇ?!」


 ぼくは思わず立ち上がるぐらいにびっくりした。

 ぼくが人間のルカになってだいぶ経つと思うけれど、ぼくは人間になってから雑炊を食べたことはない。

 赤ちゃんの時のパン粥や、マッシュポテトはささみぞうすいに似ているようで、全然違う食べ物だった。

 だからぼくはもしかしたらあのささみぞうすいはもう食べられないものなんじゃないかなって思っていた。

 でもメルは食べたことがあるって言っている。

 それってつまり、


「どこでたべられるの?!」

「待て待て落ち着け。にゃんか期待してるみてぇだけど、この世界、いや、今いるところじゃ食えにぇよ」

「え……じゃあ、どこで……?」

「にぃが食ったのは、この世界に来る前にゃことだ。メルににゃる前。日本で食ったんだ」

「に、ほん……?」


 それはたまに、犬だった時の家族が言っていた言葉の一つだ。

 笑ったり、呆れたり、悲しんだり、いろんな思いを乗せながら、家族は時々“にほん”って言っていた。


「あんましピンと来てにぇみてぇだにゃ。……ま、無理もにぇか。あん時のにぃたちは、それぞれ人間じゃにゃかった。おみゃあは犬だったんだろ?」

「うん。ぼくはいぬだった。だけど……」

「そん時の家族とは死に別れた。じゃにゃきゃ、あの虹の橋のふもとにはこにぇ。あそこは、そういう所だからにゃ」


 なんとなく、そんな気はしていた。

 ぼくは、犬だったぼくは、春に見たカールおじいちゃんみたいに、死んでしまって、犬だった時の家族とお別れしたんだって。

 それから、あの顔がもじゃもじゃの人に会って、今の人間のルカになったんだ。


「……ぼく、いぬだったとき、からだがおかしくなっちゃったときに、たべたんだ。ささみぞうすい」

「にぃもだぜ。にぃは猫だ。猫ってのは、九つの魂があるんだ」

「ここのつのたましい?」

「ようは九回、死んで生きてができるってのかにゃ? にぃはその内の八回を猫として生きてきた。時には日本以外の国で、時には野良で、猫として生きていた。八回目の猫生で、にぃは日本のとある家で飼われた猫をしていてにゃ。どんどん歳をとって、だんだん飯が食えにゃくにゃっだ時に食ったんだ。ささみ雑炊をさ。あれは本当に美味かった。八回の猫生でいろいろ食ったけど、あれが一番美味かった。でも、にぃも年寄りだったからにゃ。気がついたら、いつの間にかぽっくり死んで、虹の橋のふもとだったにゃ」


 メルは寂しそうに笑っていた。


「九回目、最後の命。にぃは猫じゃにゃくて、人間になることを望んだ。人間ににゃって、腹一杯にささみ雑炊を食ってやるってにゃ!」

「ぼくと……ぼくもおなじだ。ぼくもおいしいものをたくさんたべたいって、それでたべておいでって、もじゃもじゃのひとにいわれて、にんげんになったんだ」

「おみゃあ、そのもじゃもじゃは神様って言うんだぜ? まぁ、ともかく。にぃたちは、虹の橋のふもとから来た、それも日本で暮らしたことのある犬と猫だ。だから、にぃはおみゃあとしか話せないことだってある」

「たとえば?」

「んー今にゃら、ささみ雑炊のこととかだにゃ。だってコルザは雑炊のことは知らにぇだろ? そもそも今のところ、この世界でにぃ米を見たこともにぇんだよにゃあ」


 メルは困った声を出しながら、また果樹園の芝生の上に寝転んだ。


「ま、だからにゃ。にぃはたしかに森に行くようににゃって、おみゃあ以外とも話すようににゃったけどにゃ。にぃの……メルの一番最初の、一番の友だちは、ルカ、おみゃあ以外にいにぇと思ってる。それだけは、森に行っても、他のやつらと話をしても、変わらにぇよ」


 それだけ言うと、メルはちょっと照れ臭そうに、プィッと向こう側を向いてしまった。

 メルの顔は見えなくなったけど、それでもぼくは、メルが一番の友だちだって言ってくれたことには変わりない。


「うん! ありがとう、メル!」


 もうぼくに尻尾はないけど、でもお尻がうずうずして、嬉しくてたまらなかった。


「もしかして、メルがなんかものしりなのは、きゅうかいもいきているから?」

「んにゃあ。それもあっかもしんにぇけど、ばっちゃがたくさんいろいろ教えてくれるからにゃあ」

「……それって、もりでとれるきのみとかのこと、だよね」

「まぁにゃ。にぃ、ここに来る前は、ばっちゃと旅しにゃから暮らしてたろ? だいたいそん時は森から森に動いていたからにゃ。だから、まぁ、自然と覚えたんだよ」

「……やっぱり、メルはずるいよ」

「にゃっ?! まだ言うか!」

「あーあ、ぼくもはやく、もりにいきたいよ」


 ぼくは果樹園のすぐ真横にある森を見て、でもそこに行けない悔しい思いと一緒に芝生にゴロンと横になった。


「五歳ににゃるまで行けにぇんだっけ?」

「うん」

「えっと、今、三歳ってことは、あと二年か」

「それってどれくらい?」

「んにゃあ。今が八の月の頭で……そいやおみゃあ、誕生月いつにゃんだ?」

「いちのつき。まっしろのとき」

「そうすると、あと四回月の色が変われば、おみゃあが四歳、それからまた十二回月の色が変わらないと五歳にならにぇから……」

「……すっごくいっぱいねないとダメってこと?」

「しかも五歳になった月は一の月で真冬だからにゃ。四の月か、五の月辺りまで待たないと、森には行けないだろうにゃ」

「うぇぇ……?」


 あともういくつ寝たら、ぼくは森に行けるんだろう。

 まだぼくにはずっと、ずっと先なことしかわからない。


「おみゃあ、あれだぜ? 森に行くまでにその子豚ちゃんボディをどうにかしにぇと、動くだけで大変だぜ?」

「うぇっ?!」

「そいや最近、森ばっかり行って、おみゃあとの追っかけっこもしてにぇにゃあ?」


 メルの口の端が、ニィっと、意地悪そうに上がった。

 気がつけば、メルは木の上に跳び上がっていて、もう次の木に跳び移ろうとしている。


「ついでだ! 身体強化の抜き打ちテストもしてやるにゃ! にぃを全力で追いかけにゃ!」

「ま、まってよぉ!!」


 結局その日はメルに追いつけないまま、ぼくはヘトヘトになるまで走り回った。


_____________________


 たくさん、たくさん、寝て起きて。

 たくさん、たくさん、メルと追いかけっこをして。

 身体強化の魔法が、だいぶ自由に使えるようになって。

 最初は重たかった身体が、軽くなった頃。


「ルカ。はじめての森に行く準備はできてる?」


 背中にコルザおねえちゃんが使っていたお古の籠を背負って、ぼくは家の玄関の前に立った。


「もちろん。準備出来ているよ!」


 五歳になった年。

 もうすぐ月が緑色の五の月に変わるちょっと前。


 ぼくがはじめての森に行く日がやってきた。

これにて三歳期は終わりです。

次からは五歳。


これからもよろしくお願いします。

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