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美食家ルカの美味しいモノを探す旅  作者: レニィ
幼児期
23/29

22食目:良薬口に苦し。

「サージおねえちゃん。おはなしがあるの」


 ぼくは逃げようとしているメルの手を身体強化の魔法をちょっと使って捕まえたまま、サージおねえちゃんの方に少し出て行く。

 メルは逃げられないのがわかったみたいで、ぼくに付いて来るけど、なるだけサージおねえちゃんに見られないように、ぼくの後ろに隠れようとしていて、なんだかいつもより小さく見える。

 サージおねえちゃんはそんなぼくたちを見て、不思議そうに首を傾げた。


「お話? 急にどうしたの?」

「あのね。おねえちゃんにおはなししたいことがいろいろあるんだけどね。まずは、メルのことをおはなしするね」


 ぼくは後ろに隠れているメルをぼくのすぐ横に引っ張って、サージおねえちゃんに見えるようにした。

 メルはちょっとぼくを睨んだけど、サージおねえちゃんの目がメルの方を向いたのにすぐ気がつくと、困った顔で固まってしまった。

 メルが動かないならちょうどいいや、と思ったぼくはそのままサージおねえちゃんにお話する。


「サージおねえちゃん。このこがメルだよ。あのね、メルはね、ぼくとよくあそんでくれるの。かけっこしたり、ぼくのしらないことをおしえてくれたりしてくれるの。メルはね、ぼくのだいじなおともだちなの」


 サージおねえちゃんはぼくとメルを交互に見る。

 メルは困った顔から、ちょっと寂しそうな顔になって、地面をジッと見ていた。


「えっと、つまり、メルちゃんは、ルカの初めて出来た大事なお友達だよって、お話したかったの?」

「えっとね、そのおはなしもしたかったんだけどね。……えーと、ね」


 メルがぼくのお友達だから、嫌がらないでってお話しようとしたのだけれど、サージおねえちゃんはそもそもメルを見ても嫌な顔一つしないから、このお話はしなくてもいいかもしれない。

 そうなると、次にぼくがお話するのは、メルは魔力の取りやすい食べ物を教えてくれるから、ぼくよりもお料理をたくさんするサージおねえちゃんに覚えて欲しいってお願いだけれど……


 ぼくはまだちょっと首を傾げているサージおねえちゃんをチラッと見る。サージおねえちゃんの顔は少しだけ困っているけど、いつもの顔をしている。

 でもたぶん、これからぼくのお願いのために、今日の果樹園でのお話をしたら、サージおねえちゃんは慌てて、絶対にヨハン先生のところに連れて行こうとする。


 それは嫌だなぁ。


「ルカ? どうしたの? お話は終わったの? 終わったなら、ベッカーさんのところへ、パンを買いに行かないといけないのだけれど」

「……おい、ルカ。これ以上話しにゃいにゃら、にぃそろそろ帰らにぇと。ばっちゃに飯抜きにされちまう」


 ぼくが嫌がっている間に、二人がバラバラになろうとしている。

 それはダメだ!

 ぼくは急いで、今日あったことをお話するしかなくなった。


「あのね! きょうぼく、かじゅえんでぐあいがわるくなって、おてつだ、ぃい?!」

「んにゃぁあ?!」


 具合が悪く、のところでサージおねえちゃんの顔色は真っ白になったし、お買い物のためのカゴを放り投げる勢いでぼくを抱きかかえたせいで、ぼくが手を繋いでいたメルも引っ張られてしまって、ぼくの後ろに隠れるどころか、もう少しで転びそうになった。けど、メルは急いで身体強化の魔法でバランスを取っていた。


「やっぱり具合が悪かったのね! 父様は明日なんて言っていたけど、今すぐにヨハン先生と母様のところに……!」

「まって! サージおねえちゃん! だいじょうぶだから! もうだいじょうぶなんだってば! メルがたすけてくれたからだいじょうぶなの!!!」

「え?」


 ぼくが何度も大丈夫と言って、ようやくサージおねえちゃんの動きが止まった。

 その隙を狙って、ぼくはまた少しだけ身体強化の魔法を使って、サージおねえちゃんの手から離れて、引っ張られて出てきていたメルをサージおねえちゃんの目の前に立たせた。


「メルのおばあちゃんは、くすりうりさんでしょう? だからね、からだにいいことをメルもしっていて、ぼくのぐあいがわるくなったときに、すぐにたすけてくれたのはメルなんだよ」

「そう、なの?」

「そう。だから、ぼくはもうだいじょうぶだし、メルはとってもいいおともだちなの」


 サージおねえちゃんの灰色の目が何度もぼくの顔と、メルの顔を行ったり来たりしていたけれど、ぼくと顔を合わせるためにゆっくりとしゃがむと、ぼくの顔をジッと見つめてから、少し怖い顔になった。


「ねぇ、ルカ。どうして具合が悪くなったのかしら?」

「え? あ、えっとね……それはね……」


 ぼくはどうにかしてサージおねえちゃんが怒らないでくれるお話を考えようとしたのに、横に立っていたメルが声は小さいけど、本当の事を言ってしまった。


「肥満解消するために、急に食べる量減らしたせいで、身体がびっくりして倒れたんだ」

「あ! メル! なんでいっちゃうの?!」


 メルに怒っていたぼくの顔を、サージおねえちゃんは両手で挟んで、キュッとサージおねえちゃんの方へ向けた。

 無理やり向いている方を変えられたぼくの目の前には、ニコニコしているけど、ものすごく怒っている気持ちがビリビリと漏れて伝わってくるサージおねえちゃんの顔があった。


「ル〜〜〜カ〜〜〜?」


 サージおねえちゃんは怒ると、怖い。

 なんなら、おかあさんよりもおとうさんよりもずっと怖い。

 怒り方も、怒った顔をしている時ももちろん怖いけれど、こうやってニコニコ笑っているのに怒っているのは、正直これからすごく怒られるんだってわかって、もっともっと怖い。

 ぼくは効くかはわからないけれど、とりあえず必死に謝る事にした。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!! もうしない!! もうぜったいにしませんです!!」


 サージおねえちゃんは一度大きくため息を吐くと、少しだけ怒っている気持ちを抑えてくれた。


「お説教はお家に帰ってから、母様にも話を聞いてもらってからにするわ」

「うぇ……やだ……」

「よくない事をしたのはルカでしょう。怒られなさい」


 それだけ言うと、サージおねえちゃんは立ち上がってから、ぼくの隣にいるメルの方を向くと、しっかりと丁寧な仕草で身体の半分をゆっくりと下げてから、元に戻って真っ直ぐ立ってメルを見た。


「ご挨拶とお礼が遅くなってしまってごめんなさい。ルカの姉で、レーヴァルト村、村長の長女のサージ・ヒルシュホーンです。今日はわたしの弟を助けてくれてありがとう」


 サージおねえちゃんはとても丁寧にメルに挨拶をして、お礼もしたみたいで、その様子にメルはびっくりしてしまって、目がまん丸になったまま、口からちょっとずつ言葉が漏れて出てきた。


「んにゃっ……にぃ、あ、じゃにゃくて、わたしは、ただ具合が悪いやつを助けただけで……。ばっちゃ……おばあちゃんには、助けられるにゃら、助けろって教えられていただけで。そもそも、こいつ、じゃにゃくて、ルカが飯の量減らしたにょには、にぃにも責任があって……」

「そうなの? でも、やっぱり弟を助けてくれたのに違いはないもの。ありがとう。何かお礼をしないと」

「んにゃあ……お礼とかされるようにゃことしてにぇです」


 メルが困った顔でぼくの方をチラチラと見る。助けて欲しい気持ちが伝わってきた。

 ぼくはどうしたらいいか考えて、そうだ、と思い付いた。


「あのね、サージおねえちゃん。メルはね、からだにいいたべものたくさんしっているの。それでね、ぼくがたくさんたべなくても、ま……えいようがとれるたべものをおしえてくれるって、さっきやくそくしたの。でも、ぼくはまだおりょうりも、おかいものもできないから、おりょうりもおかいものもするサージおねえちゃんに、そのたべものをおぼえてほしいの」

「……覚えるのは構わないけれど、それじゃあメルちゃんにお礼どころか、また助けてもらうばっかりじゃない?」

「たべものをメルのおうちにみにいくんだよ」

「んにゃっ?! にぃんちに来んにょか?!」

「え、だってメル、そのほうがはやいっていっていたよね?」

「んにゃあ……たしかに言ったけどよぉ……」

「でしょう? それでね、サージおねえちゃんがメルのおうちにいくときに、おれいのためにサンドイッチとか、パイとか、ごはんをもっていったら、おれいにならない?」


 ワタワタと慌てているメルとは反対に、サージおねえちゃんは静かに考えていて、カゴを下げていた右手を頬っぺたのところに持ってきている。


「そうね。それでお礼になるなら……」

「んにゃっ!? ま、待ってください、サージ様」

「様なんて必要ないわよ。サージでいいわ。村のみんなそう呼ぶのだから」

「で、ですけども、にぃは元々余所者で、サージ様は村長様の娘様ですし」

「それで言ったら、ルカもわたしの父様の息子になるのだから、様が必要になっちゃうわよ?」

「んにゃ……それも、そうだけど……」

「村長の子どもだからって、区別しなくていいのよ。わたしなんて、ただの十歳なのだから」

「そうよ。サージなんて、学校にすら通っていない、田舎娘なんだから。そんな敬称、付ける必要なんて絶対にないわ」


 意地悪そうな声と一緒に、カツン、カツン、と地面を叩く音が聞こえてくる。

 ぼくは音がする方を見なくても、誰が来たのかすぐにわかった。


「……ジョゼット」

「あら、ジョゼット“さん”とか、ジョゼット“お姉さん”とか、付けたらどうなの、ルカ」

「ジョゼットはぼくのおねえちゃんじゃないし、いじわるだからいやだ!」

「相変わらず、失礼な子豚だこと。まぁ、いいわ。あたくしもヒルシュホーン家のみなさんには、いい気持ちを持っていないもの」


 そう言って、ジョゼットは意地悪なプラム色の目をジトリと、サージおねえちゃんの方へ向けた。

 サージおねえちゃんはちょっと居心地悪そうに目を地面に下ろしてしまった。


「さてと、ヒルシュホーン家のみなさまは飽きるほど見ているけれど、そちらの小さな坊やは初めましてかしら? あたくしは、ジョゼット。ジョゼット・シュヴァインシュタイガーよ。どうぞよろしく」


 ジョゼットは杖を持っていない方の手を、スッとメルに向かって差し出した。

 けれどメルはその手を取ろうとはしないで、果樹園のおばさんやおじさんたちに見せたようなニコニコの顔で、だけど青い目はちょっと怒っている目でジョゼットのプラム色の目をジッと見ていた。


「坊やじゃなくって、これでも女です。それから初めましてじゃないです。お婆ちゃんと一緒に一度、ご自宅でお会いしております。ジョゼットお嬢様」


 ジョゼットは一瞬、びっくりした顔をしたけど、静かにプラム色の目をメルの頭の上から、足元まで眺めて、ふっと笑った。


「あら、失礼。この間うちに来た時よりも、ずいぶんと汚れた格好だったから、気がつかなかったわ」

「今日は果樹園でツッカバオムの収穫を手伝っておりましたので、少々身なりが崩れているのをお許しください」

「そうなの。お手伝いは大変ね。あたくしはこの足だから、村のそういったお手伝いには参加できなくて、申し訳ないわ」


 ジョゼットは申し訳ないと言っているくせに、そんな風には全然見えなくて、ぼくはすごくイライラした。

 それなのにサージおねえちゃんはさっきよりもずっと居心地が悪そうになって、縮こまっている。

 メルはもっと顔をニコニコさせて、青い目でキリッとジョゼットを見上げている。


「ところでジョゼットお嬢様、お婆ちゃんのお渡ししたお薬はきちんと使われておりますか?」

「え? ……えぇ、一応。けれど臭いも味もとても苦くて、あまりあたくしの好みではないのだけれど」


 ぼくはジョゼットの答えに疑問を感じた。


「うそだよ」

「……何ですって?」

「だってジョゼットからはおくすりのにおいがしないもん。なんだっけ、おはなのにおいがするあぶら……こうゆ? それのにおいがぷんぷんするだけで、ぜんぜんおくすりのにおいはしないよ」


 ジョゼットの匂いは身体強化の魔法を使わなくてもわかる。いっつも甘ったるくって、鼻がおかしくなっちゃうんじゃないかって思うくらいに強いこうゆってやつの匂いがする。

 だけどその中に、メルからいつも漂ってくる、苦いお薬の匂いはしていない。


「メルのおばあちゃんのおくすりつかっているなら、メルとおんなじにおいがしてないとおかしいもん。でもジョゼットからはあまったるいあぶらのにおいしかしないから、ぜったいおくすりつかってないよ」

「なっ?! なんでそんな匂いがわかるのよ! 気持ち悪い!」

「ジョゼットの匂いなら、あたしにだってわかるわよ。いっつも馬鹿みたいに甘ったるい香油の匂いを撒き散らしているもの」


 みんなが声のする方に顔を向けると、そこには町の学校から帰ってきたコルザおねえちゃんが、腰に両手を当てて、両足をグッと開いて立っていた。


「学校でも悪目立ちしてるのに、気がついてないの?」

「あらコルザ、今帰って来たの? また居残りだったのかしら? それと、あたくしの香油は悪目立ちなんてしていないわ。あれは都会で流行っている香油なんだから」


 ジョゼットがリボンで飾り立てた金色の髪の毛を手でパッと払うと、さっきよりもずっと甘ったるい匂いがぼくの鼻に届いてきて、思わずぼくは鼻を手で押さえてしまった。

 メルもジョゼットの油の匂いが鼻に付いたのか、ニコニコしていた顔が崩れて、鼻に皺を寄せた。


「……ジョゼットお嬢様、失礼ですが、香油をあまり着けすぎるのは、よろしくないかと」

「……は?」

「それと、薬のことですが、ジョゼットお嬢様はこのお言葉をご存知ですか?“良薬口に苦し”」

「はぁ? りょう、やく……?」

「良い薬は苦くて飲みにくいけれど、優れた効き目がある。でしょう?」


 ジョゼットの代わりに答えたのは、コルザおねえちゃんだった。

 コルザおねえちゃんはすごく得意げな顔で、メルの隣に並んで、ジョゼットを見る。


「それと、正しい指摘は聞き入れにくいけれど、自分のためになるものだ。って意味もあったっけ? あたしは学校で教えてもらったけど、ジョゼットは、教えてもらってないの? あたしと違って毎日のように学校へ、わざわざ馬車で通っているのに?」


 ジョゼットの顔が、薬を飲んでいないのにギュッと歪んだ。メルは逆にニコニコ顔に戻った。でも目は鋭くて尖ったナイフみたいだった。


「えぇ、コルザ様の言う通りです。お婆ちゃん……いや、ばっちゃの薬は臭いもキツいし、味ものたうち回る程苦ぇやつもあっけど、その分効き目は抜群だにぃ。ばっちゃの薬をちゃんと飲んでりゃ、その手に持ってる棒は、言葉通り無用の長物ににゃるはずにゃんだけどにゃあ?」


 ジョゼットの顔がカッと赤くなった。

 さっきまでメルには優しそうな顔をしていたのに、今はもうメルを睨んでいる。


「そう。あなたはどうやら、あたくしとは違う気持ちをお持ちのようね」


 ジョゼットはツンと顔を背けると、ジョゼットの家がある坂道の方へと杖を向けた。


「あなたのお婆様に言っておいて下さらない? お孫様があたくしの気分を害したから、もうお薬は必要ないって」

「あぁ、いいぜ。ばっちゃだって、飲みもしないし、使いもしない薬を作れるほど暇でもにぇからにゃ」

「あら、そう。ではあたくしはこれで、失礼するわ」


 ジョゼットはわざと音を立てるように杖を使ってぼくたちのいる所から離れていく。

 でもいつもよりちょっとだけ早く動いている気がする。


 ジョゼットに話が聞こえないところまで行ったところで、コルザおねえちゃんが大きな声で笑い出した。


「あっはははははは! ひぃ……あー面白かった! ねぇ、見たあのジョゼットの顔! 真っ赤になってた!」


 ひとしきり笑ってから、コルザおねえちゃんはやっと、ぼくたちの方を見た。


「あんたがメルでしょ。ルカからよく話は聞いてたの。そっちの赤毛はおねえちゃんのサージ。あたしがコルザ、よろしく」


 コルザおねえちゃんがパッと手を出す。

 メルはちょっと悩んだけれど、コルザおねえちゃんの手を取った。


「にぃはメル。メル・メリシェだにぃ」


 メルはニッと口の端を上げて、笑ってくれた。

未知との遭遇。


どうもレニィです。


子どもの頃、風邪やらインフルやらにかかるたびに、

ジュースに混ぜても苦い薬を飲むのを嫌がって、

親に苦労をさせていたものです。


大人になった今、漢方薬が美味しいと感じます。

独特の甘みがあると思うの。


さて、次は突撃メルちゃんちの晩ごはんになるかな。


そんな感じです。

どうぞよしなにー!!!!

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