16食目:ふいうちのキャラメル
今日の果樹園のお手伝いは、リンゴのてきか。
サクランボの時にもやったお手伝いで、花がくしゃくしゃになったら、花びらを支えていたところに、小さな小さな、これから大きな実になる実が出来上がる。
リンゴは一本の枝にいくつか出来ている小さな実の中から、真ん中ぐらいにあって、一番大きく育っているやつだけを残して、他は取る。
サクランボの時に『ぜんぶのこしておけば、たくさんみができるんじゃないの?』と、スヴェンおじさんに聞いたけど、たくさん実がありすぎると木が全部の実にえいようをやろうとして、小さくて、味の薄い実ばかりが出来てしまうのだと言う。だから、大きく育ちそうな実の他は取ってしまう方が甘くて美味しい実が生ると教えてもらう。
ぼくは大きくて、甘くて、美味しい方が嬉しいから、てきかのお手伝いをするけど、それでもやっぱり、せっかく生った実を捨ててしまうのはちょっともったいない気がしてしまう。
ぼくがおばさんの押さえる脚立に登って、おばさんの言う通りに小さな実を取っていた時だった。
さぁっと吹く風が、草の汁をいくつもすり潰したようなとても苦い臭いと香ばしいお日さまの匂いが混ざった、あの香りを乗せて運んできた。
「……おばさん、ごめんなさい。ぼく、ちょっと」
ぼくの登っている脚立を押さえているおばさんに声をかけると、おばさんはにっこり笑って、ぼくが脚立から降りられるように押さえる場所を変えてくれる。
「あの子が来たんだろう? いいよ、行っておいで。子どもは駆け回る方が仕事なんだから」
「ありがとう、おばさん。きょうこそは、つかまえてやるから!」
ぼくは脚立の下から三段目のところでジャンプして地面に降りると、鼻を利かせて匂いの場所を探すと、そっちへ向かって走り出す。
「ルカ坊ちゃん。またあの子、追いかけに行ったのかい?」
「追いついて捕まえないと、名前も何もかも教えてくれないって言われて、ムキになっているんだろうねぇ。ま、子どもが走り回るのは仕事だろう。あぁして、追いかけっこをしている方が、ずっと大人の手伝いをするよりも、坊ちゃんにいいだろう」
「それにしても、坊ちゃんが追いかけているあの子、身軽だねぇ。この間、ひょいひょいと木の上に登っているのを見たよ」
「ちょっと人並みから外れているのよね、あの子。動物的というか……」
「魔女の直弟子かもしれないんだろう? まさか、“獣憑き”じゃないだろうね?」
「そんな子を追い回して、坊ちゃん大丈夫なのかね……?」
「何、魔女でも獣憑きでも、なんでもいいじゃないか。子どもが元気ならそれでさ」
「……そうさね、ひとまず元気が一番だ。スヴェン、脚立を持っておくれ」
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匂いを辿った先の木の上で、いつも通り灰色の子が泥だらけの足をプラプラとさせていた。今日は枝の上で、器用に寝ている。
灰色の子はぼくが来るがわかっているようで、ぼくの顔を見ないで話を始める。
「んにゃあ。子豚ちゃん、にぃを見つけるにょ、早くにゃったにぃ。どうやってるんだに?」
「ぼくはいぬだっていってるだろう! いぬだからはながきくし、キミのにおいはこのあいだおぼえた。だからどんなににげても、ぜったいにみつけてやるから!」
灰色の子は相変わらずぼくを馬鹿にしたようにニシシと笑うと、隣の木へ跳び移った。
灰色の子が木へ跳び移ると、灰色の子の匂いが一層濃く香るような気がする。コルザおねえちゃんが癒しの魔法を使う時にも、同じようにコルザおねえちゃんの匂いが濃くなる。
「にゃるほど、鼻を使っているにょか。だけど、見つけてここまで走って来るだけで随分と疲れているようだにぃ。それに、にぃの下にいるばっかりじゃあ、いつまでたっても捕まえるにょは難しそうだ」
「じゃあきのうえからおりてきてよ。ぼくはきのぼりできないんだから」
「たしかに、育ちの良い子豚ちゃんにゃあ、木登りは難しいかもしれにゃいにぃ」
そういうけれど、灰色の子は木の上から降りて来てはくれない。灰色の子がグッと身体に力を入れて、苦くて香ばしい匂いが強くなるのを感じて、ぼくも走り出す準備をする。灰色の子がまた次の木へ跳び移ったら、今日の追いかけっこのはじめの合図だ。
灰色の子はパッ、パッと軽々と木から木へ跳び移って行く。ぼくはそれを見失わないように必死に走って追いかけるけど、だいたいいつも五本か六本目の木辺りで、身体が重たくて辛くて、お腹が痛くなって、そうして、ちょっと目を離した隙に灰色の子を見失ってしまう。
だから鼻を利かせて灰色の子が跳んで行った匂いの後を追いかける。
今日の灰色の子は、八本目の木から急に方向を変えたらしく、ぼくたちが元々走ってきた方向へ、八本目までに使わなかった木を使って戻って行っている。
ぼくは八本目の木にしがみつくようにして止まってから、匂いを追いかけて走る。でも一度止まってしまうと、走る速さがどんどん落ちていくのがわかる。重たいものがついているんじゃないかと思うぐらいに、足が上がらなくなるし、お腹はそこだけ針みたいな尖ったものが刺さっているんじゃないかってくらいにズキズキする。
結局、ぼくがまた灰色の子のところに追いついた時には、ぼくは疲れ切って灰色の子が登っている木の下に倒れて、寝転ぶしかなかった。
犬のように口を大きく開けて、息を吐いては吸っていると、いつもの通りにひらりと、灰色の子が木から降りてきて、ぼくの真横に真っ直ぐと立ってぼくを見下ろす。
「んにゃあ、よくツッカバオムにょ木にいるにぃを見つけたにぃ。こんなに花が咲いているにょに」
「だ、だから……ぼくは、いぬ、だから……キミの、におい、は……おぼえたから……」
「にぃたちみたいにゃにょは、ツッカバオムにょ匂いにゃ惑わされやすいんだぜ? 特におみゃあは“嗅覚強化”を使っているんだろうから、いつもよりもずっとツッカバオムに呼び寄せられて、我を忘れてもおかしくにゃいにぃ」
「……どういうこと?」
灰色の子は独特な話し方をするし、大人やおねえちゃんたちみたいに難しい言葉をたくさん使うから、頭の中が絡まった刺繡糸みたいになりそうで、走って疲れて手を動かすのもやっとのぼくには余計にわからない。
でも灰色の子に聞いたって、この子はぼくに何も教えてくれない。
灰色の子は、ぼくがこの子を捕まえないと、絶対に何も教えてくれないつもりなんだ。
「知りたけりゃあ、にぃを捕まえるために、“鼻以外”も使ってみにゃ。じゃ、にぃはばっちゃの手伝いに行くから、またにゃ、子豚ちゃん」
灰色の子は追いかけっこが終わると、わざと歩いて果樹園を出て行って、森の方へ行ってしまう。
ぼくが灰色の子に言えるのは、いつもこの言葉だけ。
「だからぶたじゃないってば……」
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ぼくは疲れて重い身体を引きずるようにしてお家へ帰った。
追いかけっこの後、ぼくはサージおねえちゃんのサンドイッチと、スヴェンおじさんの干しぶどうのパンのサンドイッチと、他にも色々もらってからお手伝いしたけれど、果樹園のリンゴの木はたくさんあるので、てきかは全然終わらない。
ぼくは手も洗わずに、いつも座っている椅子に座って、テーブルに顎を乗せて晩ごはんまで休憩することにした。
今日のぼくは晩ごはんが何かを探るのに、鼻を動かすこともできない。
でも灰色の子を追いかけたり、どの木のてきかを終わらせたかを覚えるために、ずっと鼻を利かせていたので、ぼくのお腹からは、ぐぉごごごご……という音が、果樹園のお手伝いが終わるちょっと前からずっとしている。
ぼくのお腹の音に、隣に座って難しい顔で刺繍をしていたコルザおねえちゃんの手が止まってぼくをみた。
「びっくりした。何の音かと思ったもの。おかえり、ルカ。今日もダメだったの?」
「ただいま、コルザおねえちゃん。きょうもダメだったの……」
ぼくが灰色の子を追いかけているのを知っているのは、お家の中ではコルザおねえちゃんだけだ。
おかあさんとおとうさんはまだ新しい子に近づいていいと言ってくれていない。本当は、あの子を追いかけるのはおかあさんとおとうさんの言ったことを破ってしまうことになる。
コルザおねえちゃんはおかあさんやおとうさんの言いつけを全部守ろうとはしないけれど、サージおねえちゃんは全部を絶対に守るようにする。だからサージおねえちゃんは、ぼくがあの子を追いかけていることを知れば、心配そうな顔でたくさんお小言を言われるのがわかっているので、ぼくはコルザおねえちゃんとしかあの灰色の子の話しをしない。
「あのこ、ぼくがきのぼりできないっていうのに、したにおりてくれないの」
「そういえばあの子、やたらと身軽なのよね。この間森へ行ったときに、小さい子たちが届かない所の木の実を取ってくれて助かったわ」
「コルザおねえちゃん、あのはいいろのこにあったの?」
「うん。父様が、そろそろあの子はいいだろうって、この間紹介してもらったの」
「じゃあ、あのこのなまえ……」
「教えない。それはルカがあの子から聞かなくちゃ」
ふふんと、コルザおねえちゃんがちょっと意地悪そうに笑うから、ぼくは思わず頬を膨らませてコルザおねえちゃんを睨むけど、お腹がまたぐるぐるぐる……と鳴り出して、睨む力も入らなくなる。
早く晩ごはんを食べたいけれど、かまどにあるお鍋のスープからまだ湯気が出ていないから、晩ごはんはまだまだ出てこない。けれどぼくのお腹はずっと唸り続けている。
コルザおねえちゃんはぼくのお腹が唸るたびに、動かしている手を止めてこっちを見る。
「……ねぇルカ。お腹の音がすごくうるさいんだけど」
「だって、おなかへっているんだもん……」
鼻を利かせるとお腹がすごく減る。犬だった時にもこんなにお腹が空いたことはないかもしれない。
灰色の子は、“鼻以外も使え”って言っていたけれど、ぼくは走るために足を使っているし、手を使えば木に登れるかもしれないけれど、あの子みたいに木の上を跳び周るのは難しい。
あれこれ考えていると、またお腹がクルクルコロロ……と悲しい音を立てて、ごはんが食べたいとアピールしてくる。
「……ルカ、お腹の音、止められないの?」
「……だっておなかへっているんだもん」
「ルカのお腹の音が気になって、刺繡が上手くいかないのよ」
コルザおねえちゃんは、ぼくをジトっと睨みながら、手に持っている布を見せてくる。
針と糸が繋がっているところには、四角をちょっと傾けたみたいなピンク色の模様が二つ並んでいる。糸が布を引っ張っていて、ちょっとボコボコして見える。
「どうして七歳を過ぎた女の子は、自分のお洋服に一つは自分でお守りの刺繍をしなくちゃいけないのっ!」
「大人になった時に、自分の子どもに着せる服にちゃんとお守りの刺繍が出来なきゃ、困るからに決まっているでしょう」
コルザおねえちゃんの大きな声に呆れたように返事をしたのは、物置から出てきたサージおねえちゃんだ。
物置から出てきたサージおねえちゃんの手にチーズがあるのがみえたので、今日の晩ごはんはきっとチーズ焼きだ。と、気がついたら、またお腹がゴロゴロと唸り声をあげた。
「サージおねえちゃん。ばんごはんのまえだけど、パンたべちゃダメ?」
「ダメよ。晩ごはんが入らなくなっちゃったら困るでしょう?」
「……でもおなかすいたんだもん」
ぼくのお腹もまたぐごごごごと鳴る。
ぼくのお腹の音にサージおねえちゃんもちょっとびっくりして、悩んだけれど。
「……やっぱりダメ。今日はせっかく父様が早く帰って来れそうだもの。みんなで晩ごはんをいただきましょう」
「……わかった」
サージおねえちゃんがダメと言ったら、絶対にダメだ。
ぼくは腹ペコすぎて痛くなってきたお腹を抱えて、かまどに立つサージおねえちゃんをジッと見る。
「……ねぇ、ルカ」
コルザおねえちゃんがうんと小さい声でぼくにお話をする。
コルザおねえちゃんの方を見ると、コツコツとぼくの膝の上を優しく叩かれた。
そっちをみると、コルザおねえちゃんがなにかを握りしめた手を出してくれていた。
「今日、学校の帰りに怪我した子を魔法で治してあげたら、お礼にどうぞって、もらえたの。これならちょっとだけだから、一個くらいなら食べても晩ごはんも入るわよ」
ぼくはコルザおねえちゃんの手から、綺麗な紙に包まれた小さい何かをもらった。小さい何かからは、甘くて、ちょっと焦げた苦い匂いがする。
「ありがとう、コルザおねえちゃん」
ぼくはサージおねえちゃんがこっちを見ていないことを確認してから、包まれた茶色いちいさなやつを口に入れる。
その茶色くて小さなやつは、びっくりするくらい甘かった。
サクランボよりも、ツッカバオムケーキよりも甘くて、しばらく口の中で転がしているとトロッと柔らかくなった。
でもこんなに甘いのにツッカバオムみたいに、ぼくをおいで、おいでと呼ぶ匂いはしなくて、ちょっと焦げたような苦い匂いがする。
この小さいものは何て言うのと、コルザおねえちゃんに聞こうと思って口を開こうとしたら、柔らかくなって溶けたやつが、上の歯と下の歯をガッチリと掴んでしまったようになって、ぼくは口が開かなかった。
口が開かなくなることにびっくりして、コルザおねえちゃんに気がついてもらおうとしたら、こっそり何かを食べているのがサージおねえちゃんにバレてしまって、ぼくとコルザおねえちゃんは、その後、晩ごはんの時までコンコンとサージおねえちゃんにお説教をされた。
ぼくの口は晩ごはんのスープを飲むまで、閉じたままだった。
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その日、ぼくは果樹園の森に近い一本の木の下で待っていた。
しばらく待っていたら、やっぱり、森の木から灰色の子がぴょいっと跳んで来た。
灰色の子は跳び移った木の下にぼくがいたことにびっくりしたけど、すぐにいつものにぃとした笑顔でこっちを見る。
「よくにぃがこの木に来るってわかったにぃ」
「ぼくはいぬだ。キミのにおいはおぼえた。キミのにおいがよくするきをさがすことだってできる」
「ふぅん。相変わらず、鼻ばっかりに頼ってるにぃ」
「きょうはちがうぞ!」
「へぇ、どんな風にぃ?」
灰色の子がこうして面白がってぼくを見てくれている間なら、話もできる。ぼくは灰色の子の三日月みたいな青い目をジッと見る。
「きょうは、ぼくのいうとおりにきょうそうして!」
「おみゃあにょいうとおり? どういうことだにぃ?」
ぼくはその木から真っ直ぐ先にあるツッカバオムの木を指差す。
「きょうはこのきから、あのきまでのきょうそう!」
「ふぅん? 競争……他はいつも通りでいいんだにぃ?」
「うん。いつもといっしょだけど、あのきまで! ぼくが“つかまえた”っていったら、おしまい!」
「ふぅん。面白そうだからやってやるにゃ」
灰色の子の匂いが濃くなる。ぼくは走り出す準備をする。
ザァァッと風が木を揺らしたらスタート。灰色の子はいつもの通りに木の上を跳んで、ぼくが指差したツッカバオムの木へ真っ直ぐに向かっていく。
ぼくも果樹園の木の根を避けながら走っているけど、やっぱり五本目で追い抜かれて、八本目であの子は先に行ってしまう。
灰色の子が先にツッカバオムの木の上に座って、足をぷらぷらさせて待っている。
ぼくはもう全速力で走れなくって、息をハァハァと吐きながら、ツッカバオムの下に寝転ぶ。
「にゃあんだ。もうおわりかにぃ?」
「ま、まだ……」
「そんなに疲れ切っているおみゃあに、まだにゃにができるんだにぃ?……あーあ、にゃんか面白そうにゃことしてくれると思ったにょに、にゃんだか拍子抜けだにぃ」
灰色の子は、“いつもの通りにぼくのすぐ横にヒラリと降りてきた”。
べちゃっ、という音がぼくの横で響く。
ぼくを見下ろしている灰色の子の青い目が、びっくりしてまん丸になる。ぼくはその顔を見て、いつものお返しににぃっと笑って、残っている力を振り絞って、灰色の子のベタベタに捕まっている足を掴む。
「つ……つかまえ、た」
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灰色の子の"鼻以外を使え"という言葉の意味がわからなくて、ぼくは子供部屋で寝る前にコルザおねえちゃんに聞いてみた。
「鼻以外? 足とか、手とかじゃなくって?」
「あしははしるのにつかっているし、てはあのこがとどかないところにいるからつかえないもん。だからそうじゃないところかなって」
「ふぅん?」
コルザおねえちゃんは、しばらく考え込むと、ポンっと手を叩いた。
「頭じゃない?」
「あたま???」
「よく母様が言うじゃない。『力任せにするんじゃなくって、頭を使って考えなさい』って、鼻も足も手も使わないなら、使うのは頭でしょ」
頭を使って、考える。
たぶんコルザおねえちゃんの言うことは間違っていないのかもしれないけれど。
「……ぼくには、むずかしいよ」
灰色の子に追いつこうと走るだけでも大変なのに、頭を使って考えて追いかけるのはもっと大変だ。
そもそも、ぼくは何を考えて動けば頭を使うことになるんだろう。
「そもそもさ、ルカはあの子に追いつかないといけないの?」
「だって、つかまえないとなにもおしえてくれないし。つかまえるには、おいかけないといけないでしょう?」
捕まえるには、追いかける。
そのくらいなら、犬だった時からわかっている。勝手に知っていることだ。
「あの子は“捕まえたら”教えてくれるんでしょう? じゃあ追いかけるんじゃなくって、捕まえちゃえばいいんじゃない」
「うぇ?」
「だってルカは、あの子に足じゃ追いつけないし、手を使って木の上にも登れないでしょ?」
「うん」
「でもあの子は“追いついたら”じゃなくって、“捕まえたら”教えてくれるんでしょう? なら、ルカが捕まえられるようにしちゃえばいいんじゃない」
コルザおねえちゃんの言葉に、ぼくは思わずポカンとなってしまった。
たしかに、あの灰色の子は捕まえられたら教えてやるとは言っていたけど、おいついたらとは言っていない。
「で、でもつかまえるって、どうやって?」
「わかんない」
「うぇえ?!」
「そこはルカが頭を使って考えないと。あたしは苦手だもん」
「えぇ……ぼくだって、とくいじゃないのに」
頭を使って考えるなんて、今までやったことがない。
捕まえるには追いかける。追いかけないで捕まえる方法なんて、ぼくにもわからない。
ぼくがうーんうーんと唸っていたら、コルザおねえちゃんが手助けしてくれた。
「待ち伏せとか、びっくりさせてタッチするとか、鬼ごっこでやらないの?」
「おにごっこ?」
「あ、そっか。ルカはまだ森に行かないからやってないのか。えーと、追いかけっこなんだけど、捕まえる子と追いかけられる子で分かれて、追いかけられる子が捕まえる子にみんな捕まっちゃったら、おしまいって遊びなの」
「もしみんなつかまえられなかったら?」
「なかなかおしまいにならないから、捕まえる側はみんな必死にどうやって捕まえるか考えるの。追いかけている子が走ってきそうなところでジッと待っていたりとか、草の陰から飛び出したりとか、あとは前はやってたけど罠を作ったりとか」
「わな?」
「危ないからもうやっちゃダメって言われているけど、草を結んで転びやすくしたり、ベタベタするもので動けなくしたりとか……」
「ベタベタ……」
ベタベタと聞いて、ぼくはコルザおねえちゃんからもらったあの茶色くて、とても甘くて、ちょっと苦い匂いのする小さいやつを思い出した。
「ねぇ、コルザおねえちゃん……」
ぼくは思いついた“わな”についてコルザおねえちゃんにお話してみた。
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「おみゃあまさか、にぃを捕まえるためだけにキャラメルで罠を作ったにょか?!」
「んーん。『そんなもったいないことしたらダメー!!』ってコルザおねえちゃんにおこられたもん。だからキャラメルとおなじぐらいベタベタするきのじゅえき? をとってきてもらって、ここにかくしておいたの」
「……たしかに、ツッカバオムの木の下にあったんじゃあ、にぃも匂いで気がつきにくいし、芝生に紛れてちゃあ、上からはわかんにゃかったにぃ」
「それにキミ、いっつもつかれたぼくのまよこにおりてくるでしょ? だからぼくはわなのすぐよこにねころべばいいだけ、でしょ?」
灰色の子は、悔しそうな顔で大きくため息を吐いた。
「んにぃ。負けたにゃ」
「それって、ぼくがつかまえたってことでいいの?」
「いいもにゃにも、おみゃあ、にぃの足を掴んでるじゃにゃあか」
灰色の子は恨めしそうに足を掴んでいるぼくの手を見る。
「にぃはおみゃあに捕まった。ほれ、何 から聞きたい?」
「キミのなまえは? あととしと、おとこのこ? おんなのこ? それから……」
「そんにゃ一気に聞くにゃよ。このベタベタが取れない限りにぃは逃げられにゃいんだから」
灰色の子はベタベタに取られた靴を脱いで、ぼくの横にどさっと座った。
「にぃはメル。五歳で、一応女だ」
「よろしく、メル! ぼくはルカ!」
ぼくが灰色の子。メルの名前をようやく聞けたのは、緑色だった月が黄緑色に変わる前だった。
幼児期編中にやっておきたいこともあれこれあるもの。
鬼ごっことかかくれんぼって、遊びだけど、
いろいろ戦略とか考えるのに役立つのかも知られないなぁ
などと思ってみたりします。
次は、もうちょっと新キャラちゃんとお話します。
そんな感じです。
どうぞよしなにー!!!




