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美食家ルカの美味しいモノを探す旅  作者: レニィ
赤ちゃん期
13/29

12食目:初めての誕生月のお祝いパン

꒰ ՞✦ﻌ✦՞ ꒱「ポークソテー、おいしい!」

 サージおねえちゃんの誕生月のお祝いからだいぶ経った。

 あれから、サージおねえちゃんとコルザおねえちゃんは毎日のように果樹園へお手伝いに行く。

 リンゴにはエプフェルビーン以外にもいろんなリンゴがあるから、果樹園へリンゴを採りにいくお手伝いをできる限りしてほしいとカールおじいちゃんが村中の子どもにお願いしていると、おねえちゃんたちがお話していた。

 

 サージおねえちゃんとコルザおねえちゃんがお手伝いをしに行くと、果樹園のカールおじいちゃんは大喜びで褒めてくれるらしい。

 そしてたくさんお手伝いをしてくれたお礼に、毎日リンゴをおねえちゃんたちに持たせてくれる。

 おねえちゃんたちが持って帰って来てくれるリンゴは、晩ごはんのあとのデザートってやつにおかあさんがいつも出してくれる。ぼくは毎日リンゴを食べることができて幸せだ。


 カールおじいちゃんありがとう!

 

______________________________


 お月さまの色が赤い色からプラムみたいな色に変りそうな頃、晩ごはんのあとのリンゴを食べながら、おとうさんからお話があった。


「そろそろ月の色が変わりそうだから、納税のためにも、ハンターさんと町へ行ってくる。その時に、コルザを連れて行きたいんだ」

「コルザがとうさまについていくの? おねえちゃんじゃなくて?」


 その日、四つ目の切ってあるリンゴを食べようとしていたコルザおねえちゃんが首を傾けて、おとうさんとおかあさんを見てから、サージおねえちゃんを見る。

 サージおねえちゃんは二つ目のリンゴを食べると、今日はもうおしまいと、手を洗いに椅子から立った。

 おかあさんはそんなサージおねえちゃんを困った顔で見ながら、コルザおねえちゃんに笑いかける。


「本当は、サージが行くべきなのだけど……」

「わたしは……まだ森が怖い。町へ行くには村から出て、まず南の森の街道を通り抜けないといけないでしょう? だから、わたしは行きたくないの」

「それに、今回はコルザの魔力量を計ってもらわないとならない。この間の癒しの魔法を見たハンターの一人が、コルザの魔力量はかなり多いんじゃないと言っていたからな」

「まりょくりょうって?」


 コルザおねえちゃんが五つ目のリンゴに手を伸ばす。ぼくも手を伸ばしたけど、今日は四つでおかあさんに止められてしまった。


「魔力は魔法を使うために必要な力で、魔力量はその量。多ければ、多いほど使える魔法の数や出来ることが増えるの」

「ふぅん?」


 コルザおねえちゃんは五つ目のリンゴをモグモグしながら、わかっているような、わかっていないような返事をする。


「正しい魔力量を知ることで、この先のコルザがどういう癒しの魔法を使えるのか、これからどんな勉強をするべきなのか、そういうのがわかるようになる」

「べんきょう?」

「母様みたいに、癒しの魔法を上手く使えるように練習したり、薬を作れるように覚えたりするの。きっとコルザは母様よりも魔力量が多いから、母様よりたくさんの事ができると思うわ。そうすると、学校へ行った方がいいかもしれない。そういうことを調べるために、魔力量を計りに行くの」

「学校へ行くなら、文字を覚えたり、計算のやり方も覚えないとね」

「……とうさまのおしごとみたい」


 コルザおねえちゃんがすごく嫌そうな顔をしてテーブルの上に顎を乗せた。


「コルザべんきょういやだなぁ……」

「そう言わないで。癒しの魔法が使えるのは素晴らしいことなのだから」

「それに七歳になるまで、学校へは行けない。コルザは七歳まであと二年もある。その間にゆっくりと、文字を覚えたり、計算ができるようになればいい」

「ななさいはがっこうにいけるの? どうしておねえちゃんはいかないの?」

「学校は町にあるんだもの。……それに、ジョゼットがもう先に行っているわ。きっとジョゼットは、わたしが学校へ行ったら怒ると思うの。村にいる時よりもずっとね」


 サージおねえちゃんがふぅと、大きく息を吐いて、シュンとする。

 サージおねえちゃんの口からジョゼットと聞いて、ぼくも嫌な気持ちになる。

 

 ジョゼットはあの誕生月のお祝いの日から、サージおねえちゃんやコルザおねえちゃんに嫌なことをたくさん言って、ときどき怒るのだと、晩ごはんの時に聞くことがある。

 それを聞くとおかあさんとおとうさんも困ってしまって、お家の中がなんだか重たいクッションに潰されているみたいになってしまう。

 それに、あのお祝いの時にサージおねえちゃんを怖がらせて、ひろばから追い出したのはジョゼットだ。

 ぼくはそれだけでもジョゼットが嫌いだ。


「わたしは、町の学校へ無理に行くよりも、家のお手伝いと村のお手伝いをしながら、家で勉強したいの。そしたら、ルカの面倒だって見られるでしょう?」


 サージおねえちゃんはぼくの頭を優しく撫でてくれる。

 ぼくもサージおねえちゃんがお外へ行ってしまうより、お家に居てくれる方が嬉しい。


「なら、サージが家で勉強できるように、父様が町で本を買ってこよう。文字は母様も教えられるし、計算は雪が降ったら父様が家で教えてあげよう」

「本当!? 嬉しい、ありがとう父様!」


 おとうさんとサージおねえちゃんが約束をしてから少し経った日、おとうさんはコルザおねえちゃんを連れて、ハンターさんたちと一緒に”うま”っていう大きな生き物が引っ張る大きな箱に乗って、町へお出かけに出かけていった。


______________________________


 月の色が変わり切って、キラキラと輝いた夜。

 おとうさんが明日は“ぶたおいまつり”だと、みんなに伝える。

 おまつりと聞いて、コルザおねえちゃんは大喜びだった。おとうさんは尖った棒を綺麗にしていて、おかあさんは、ナイフや盥や紐をたくさん準備していた。

 おまつりの準備はサージおねえちゃんもお手伝いしたけど、次の日の朝、家族はサージおねえちゃんとぼくをお家に残しておまつりへ行ってしまった。

 

 サージおねえちゃんがお家に残される理由は一つ。

 ジョゼットだ。


 “ぶた”はジョゼットのお家にたくさんいるのだという。

 だからおまつりもジョゼットのお家でやることになるのだという。でもジョゼットはサージおねえちゃんが大嫌いだ。

 そんなサージおねえちゃんが大嫌いなジョゼットのお家へ、サージおねえちゃんが行けば、きっとジョゼットはお祝いの時のようにサージおねえちゃんを怖がらせて、追い出そうとする。

 

 ぶたおいまつりには村中の人が集まる。

 それなのに、また誕生月のお祝いみたいなことが起こるのは困る。と、おとうさんもおかあさんも思ったみたい。

 それに、寒くなってきているお外にぼくはずっといられないから、誰かがお家で見ていないといけない。

 だからサージおねえちゃんは、ぼくの面倒をみるという理由で今日はお留守番だ。


 でも、サージおねえちゃんはお留守番になったことを悲しくは思っていない。

 逆に、喜んでいる。

 喜んでいるのは、ジョゼットに会わなくてもいいという理由もあると思うけれど、それ以上に、サージおねえちゃんは町へ行ってきたおとうさんが買ってきた”ほん”を読んで、おべんきょうするのが楽しいと思っている。


 ほんは犬だった時も見たことがある。

 おねーちゃんも、妹分のぴょんも、ほんをよく読んでいた。

 おねーちゃんはだいたい楽しそうに読んでいて、ぴょんは難しい顔で読んで、たまに「課題が終わらない!」「テストやばい!」と叫んでいたのを覚えている。

 ほんには楽しいと、難しいが混ざっているものなのだと思う。


 サージおねえちゃんは毎日同じほんを読んでいる。

 サージおねえちゃんの読むほんは、”もじ”っていう黒いのと、綺麗な色の”え”がついている。

 サージおねえちゃんはもじの方を指で擦りながら口に出して読んでいる。その方がもじを覚えやすいと、おかあさんが教えたからだ。

 今日は、テーブルのかまどに一番近いところに椅子を持って来て、ぼくを抱っこして本を読んでいる。


「……獣、の、精霊、は、いたずら、が、好き、でした……」


 ぼくはサージおねえちゃんの声に耳を傾ける。鼻を動かすと、たまにお仕事に疲れて帰って来たおとうさんの指に染みついている黒いやつの匂いがいっぱいする。臭くはないけど、あんまりこの辺りで嗅ぐことがない匂いだ。ぼくはそれほどこの匂いが好きじゃない。

 

「……獣、の、精霊、は、豚、を、追いかけ、ました……」


 サージおねえちゃんはゆっくり、ゆっくりと、ほんのもじを口に出すので、ぼくにも少しだけほんのお話がわかった。


 けものの精霊は、いたずらが好きだった。

 ある日、けものの精霊はいたずらで、ぶたを追いかけることにした。

 ぶたはけもの精霊にずっと追いかけられているうちに、人間がたくさんいるところへ出て来てしまって、ずっと追いかけられていたから、疲れてしまって、そのまま死んでしまった。

 けものの精霊は、動かなくなったぶたを追いかけても仕方がないから、そこにいる人間たちへ贈り物として、ぶたをあげた。

 人間たちは冬の食べ物に困っていたから、けものの精霊からぶたを贈られてとても喜んだ。


「……こうして、人間たち、は、冬、を、越す、ための、準備、が、できました。人間たち、は、豚、を、くれた、獣、の、精霊、に、感謝する、ために、毎年、冬、の前に、豚、を、追いかけて、お祭り、を、して、冬を、越す、準備を、するの、です」


 なんだか、ぶたがかわいそうだなぁ。


 いたずらで追いかけられて、疲れて、死んでしまった後は、人間たちにあげてしまうなんて、けものの精霊はきっと意地悪なやつなんだろうな。

 

 サージおねえちゃんはそれから、月の色を変える夜の精霊のお話を読んでいたけど、ゆっくりとしたサージおねえちゃんの声は、おかあさんがたまにお話してくれる不思議な音の“うた”ってやつのように聞こえて来て、気が付いたらぼくは眠っていた。

 ぼくが目を覚ました頃には、家族みんなが帰って来ていて、晩ごはんの準備も終わっていた。

 その日の晩ごはんのポークソテーはとってもおいしかった。


______________________________


 ぶたおいまつりが終わったら、お外だけじゃなくって、お家の中も寒くなってきた。


 ある日の朝、窓からお外を見たコルザおねえちゃんが「ゆきがふってきた!」と嬉しそうに飛び跳ねて、ドアから出て行こうとした。

 サージおねえちゃんが急いで「まだ朝ごはんも食べてないでしょう」と、止めたけど、コルザおねえちゃんが開けたドアからすごく冷たい風がお家の中に入って来た。

 ぼくも朝ごはんを食べながら、窓からお外を見ると、お空から白いぽつぽつが、ひらひらと落ちてきていた。

 

「おねえちゃん、ゆきがふってきた! かあさま、あそびにいっていい?」

「降ってきただけで、積もってないでしょう。雪遊びには早いわよ。それより、コルザもお勉強したら?」

「うぇえ……コルザ、べんきょうきらい。つまんないもん」

「でもコルザは七歳になったら学校へ行くでしょう? 魔力量が中級くらいはあるから、勉強しないと、上手く癒しの魔法が使えないわよ」

「かあさまにおしえてもらうもん」


 おかあさんはコルザおねえちゃんのお話を聞いて、困ったように笑う。ちょっとだけ悲しそうな気持ちになっているのが、抱っこされているぼくにはわかった。


「残念だけど、母様がコルザに教えてあげられる癒しの魔法はあんまりないの」

「どうして? かあさまもいやしのまほーつかえるでしょ?」

「母様は、コルザよりも魔力の量が少ないの。だから、下級の魔法しか教えてあげられないわ。でもコルザは母様よりも魔力の量が多い中級だから、使える魔法が母様よりもたくさんあるの。それを覚えるためには、学校へ行くのが一番なのよ」

「……じゃあ、コルザはおべんきょうしないとだめ?」

「そうね、今のうちにしておくと、学校へ行けるようになってからも困らないと思うわ。でも、七歳までにゆっくりと覚えればいいのよ」

「……わかった」


 コルザおねえちゃんはゆっくりと朝ごはんを食べて、テーブルの上を綺麗にしてから、サージおねえちゃんが読んでいた本を、テーブルの上に広げて、ただ見ていた。


 サージおねえちゃんは、布で何かをしているおかあさんの隣に座ってあみものってやつを教わっている。

あみものは、ふかふかの丸くてあったかい、けいとだまを使って、二本の棒を動かしていると、どうしてだか布みたいなのが出来上がっていく。サージおねえちゃんはこれでぼくのはらまきってやつを作ろうとしているらしいけど、まだ全然出来上がっていないらしい。たまに作りかけの布をぼくのお腹に当てては、「うーん」と困って、唸っている。

 

 逆におかあさんの布はそろそろ出来上がりそう。サージおねえちゃんのみたいに、短くもないし、形も変じゃない。お洋服みたいな形をしているけど、おねえちゃんたちのとは違う形だ。おかあさんは何度もぼくの身体に合わせては、手を動かす。

 

「かあさまはなにをぬってるの?」

「ルカの誕生月のお祝いのための新しいお洋服よ。また月の色が変わる前に、縫い終わるといいのだけど」


 おかあさんはお話をしながらでも、手は止めない。たまに目を細くしながら、手に持った布を持ち上げて、サージおねえちゃんが本を読むときみたいに、指を擦らせている。


「ルカのおようふくはちいさいから、すぐにできるでしょ?」

「赤ちゃんのお洋服には、お守りの刺繡をたくさんしないといけないの。だから、小さいお洋服でも時間がかかるのよ」

「おまもりのししゅうって?」

「コルザ、文字の勉強する気あるの?」

「ちょっとおやすみなのっ!」


 コルザおねえちゃんは本をパタンと閉じると、おかあさんが持っているお洋服を見に行ってしまった。

 サージおねえちゃんは呆れた顔でコルザおねえちゃんを見たけど、すぐに編み物の続きを始めた。サージおねえちゃんはおかあさんと違って、お話をしながら編み物ができないのだ。


 コルザおねえちゃんはおかあさんの側に椅子を持って行って、隣に座る。おかあさんは、コルザおねえちゃんが見やすいようにお洋服を広げてから手を動かす。


「お守りの刺繡は、サージもコルザも覚えないとね」

「どうして?」

「サージやコルザが母様になった時に、生まれてきた自分の子どものために、お守りの刺繡が入ったお洋服が作れないと、生まれてきた子が精霊様に見つけていただけなくて、守ってもらえなくなってしまうからよ」

「おまもりのししゅうがあると、せいれいさまがみつけてくれるの?」

「そうよ。子どもは七歳までは精霊様の守りの下にいることになるけれど、子どもはいろいろなところにたくさんいるでしょう? だから、精霊様が見落としてしまわないように、精霊様の印をお洋服に刺繡で入れて、守りを必要としている子どもがいることをお知らせするの」

「ふぅん……あ、このもようはコルザのおようふくにもあるやつ! おねえちゃんのにもある!」

「これは癒しの精霊様の印。暖かい癒しの光を表しているのよ」

「こっちのはコルザのにはないね」

「これは、獣の精霊様の印。獣の精霊様は力の象徴だから、あんまり女の子のお洋服には入れないのよ」

「こっちのさんかくも?」

「火の精霊様の印ね。火の精霊は守りの力の祈りが込められているから、小さな子のお洋服には入れるけど、大きくなるとあんまりいれないの。他の印も子どもが無事に大きくなれたら、一つずつ外していくの。他にもたくさんの子が精霊様のご加護を賜れるように」

「ふぅん」

 

 コルザおねえちゃんは自分のお洋服に精霊様の印がいくつあるのか調べようと、ぐるぐると回っている。

 サージおねえちゃんはまたあみもののはらまきをぼくのお腹に当てに来た。でもまだまだ全然長さが足りなさそうだった。

 おかあさんはその日の晩ごはんが終わっても、お守りの刺繡をするために起きていた。


______________________________


 お外に雪がたくさん積もって、毎日コルザおねえちゃんがお外で雪遊びをして、お洋服やマフラーや手袋をびちょびちょにして帰ってくるようになってしばらくした夜。

 窓からキラキラと輝く真っ白な光が入って来た。

 

 月の色が変わって、新しい年が来た。

 そしてぼくが赤ちゃんのルカになってから一年経った。


 その日のお家の中は、おねえちゃんたちのお祝いの時みたいに忙しかった。

 今日は年が明けたお祝いと一緒に、ぼくの誕生月のお祝いもするから、朝からみんな忙しい。

 

 おかあさんとサージおねえちゃんは朝からずっとかまどの前に立って、ごちそうをたくさん作っていた。

 鉄板はジュウジュウ、お鍋はコトコト、野菜を細かくするためにナイフが動く音がトントンと聞こえてくるし、甘い匂いに、香ばしい匂い、酸っぱい匂い、ツンとする匂い、いろんな音と匂いが赤ちゃんのベッドにいるぼくのところまで届く。

 

 ぼくは今日の晩ごはんのごちそうが楽しみで、赤ちゃんのベッドの柵によだれを垂らして待っていた。

 

 お日さまが窓から見えなくなった頃、おとうさんとコルザおねえちゃんが身体中に雪をたくさんつけて、お家に帰って来た。

 帰って来たコルザおねえちゃんの持っているカゴの中からは、焼きたての酸っぱくて甘いパンと、ぼくをおいで、おいでと呼ぶ匂いのツッカバオムケーキが入っているのがわかった。


 ぼくは早くそれが食べたかったけど、今日はお誕生月のお祝いだ。

 ぼくは盥のお風呂で身体を綺麗にしてもらって、おかあさんが一生懸命に作ってくれた新しいお洋服を着せてもらう。

 新しいお洋服は真っ白なゆきみたいな色で、おかあさんがたくさん手を動かしてくれたから、いろんな模様がツッカバオムみたいな黄色でキラキラしている。

 

 今日はぼくのお祝いだけじゃなくって、新しい年になったお祝いもするから、家族みんながお風呂で身体を綺麗にした。

 おかあさんとサージおねえちゃんは綺麗に出来て喜んでいたけど、コルザおねえちゃんはあんまり嬉しそうじゃなかった。「きのうもおふろだったのに!」と怒っているけど、昨日もお風呂になったのは雪遊びをしてきてびちょびちょになったからだ。

 

 テーブルの上は、おかあさんとサージおねえちゃんが用意したごちそうでいっぱいだった。

 こんがり焼けたベーコンに、ぼくの好きなチーズ焼き、ホカホカの湯気の立つソーセージが入った野菜のスープ、おかあさんお手製の枕みたいなマウルタッシェ。

 それから、お祝いの丸くて小さなパンがたくさん積まれていて、ツッカバオムのケーキがテーブルの真ん中に置いてある。


 ぼくはおかあさんに抱っこされて、他の家族が椅子に座ってごはんを食べる準備ができると、おとうさんが挨拶をする。

 今日はぼくのお誕生月のお祝いだから、お誕生月のお祝いの挨拶だ。


「精霊様たちの見守りと助けによって、今日、一の月の夜に、我が息子ルカが一つ歳を重ねられたことに感謝を込めて、この祝いの宴を行います。……一歳おめでとう、ルカ」

「あぃ!」

「あら、お返事が上手ね、ルカ」

「あぁ、無事に大きくなってよかった。さぁ、食べよう。ほら、ルカ」


 そう言っておとうさんがぼくに渡してくれたのは、ずっと食べちゃダメって言われていた小さくて丸いお祝いのパンだった。


「母様、いいの?」

「えぇ、お祝いのパンとケーキは、はちみつを使って甘くしているでしょう? だから一歳にならない赤ちゃんに食べさせたらいけないの。でも、ルカは今日で一歳になるから、もう食べていいのよ。一歳の誕生月のお祝いは、これだけの食事が食べられるようになったこともお祝いするの」


 ぼくのまだ小さな赤ちゃんの片方の手でも掴むことのできる、小さな丸いお祝いのパン。

 いつも食べているパンよりもちょっぴり柔らかい感触がするそれに、ぼくは大きく口を開けてかぶりついた。


 酸っぱい匂いの中に、甘くてお花みたいな匂いがする。嚙めば、噛むほど甘さが増えていって、ぼくの口の中はよだれでいっぱいになる。そのよだれがパンをもっと柔らかくして、食べやすくしてくれる。

 ゴクンと飲み込むと、お腹の中からポカポカと暖かくなっていく。

 

 あぁ、美味しい。

 

 ぼくの口は、勝手に笑っていた。


「みて、ルカうれしそう!」

「サージのお祝いの時にも食べたがっていたもの。ようやく食べられて嬉しいのよ」

「それじゃあ、これも食べないと」


 そう言ってサージおねえちゃんは、テーブルの真ん中に置いてあったツッカバオムケーキを小さくて切って、ぼくの前に置いてくれる。


「コルザのお祝いの時から、ルカはずっとツッカバオムケーキを食べたがっていたわ。生のツッカバオムも好きだし、リンゴも大好きだから、きっとツッカバオムケーキも好きになると思うの」


 ぼくをおいで、おいでと呼ぶ匂いが目の前のケーキからいっぱいする。

 ぼくはその匂いが言うように手を伸ばして、ツッカバオムケーキを掴んで、パンのように大きな口で頬張る。


 ツッカバオムケーキは、パンに似ているけど、パンよりもずっと柔らかくて、ずっと甘い。

 暑い時に食べたツッカバオムの味が口いっぱいに広がる。前に食べた時とは違うちょっとドロッとした食感だけど、とろりと口の中で溶けていくのは一緒だ。

 こくんと飲み込むと、パンを食べた時よりもポカポカして、身体中があったかくなっていく。まるで、サージおねえちゃんを探しに行った時の様に、そのポカポカは広がって行く。


 あったかくて、気持ちがよくって、幸せな気持ちになる。

 

 ぼくはそれから、こんがりと香ばしいベーコンを食べて、お乳の匂いがするチーズ焼きも食べて、甘くて優しい味のスープを飲んで、おかあさんの作ってくれたマウルタッシェを一つつるんと飲み込んだ。

 そして丸いお祝いのパンとツッカバオムケーキを三回お代わりした。


 これから、ぼくは毎日いろんなものが、もっといっぱい食べられるようになったんだ!

 

 ぼくは、ぼくを人間の赤ちゃんにしてくれた知らない人をちょっとだけ思い出しながら、ごはんをたくさん、たくさん食べた。


______________________________


 その日は、半年ぶりにヨハン先生のところへ行って、身体の様子を診てもらう日だった。

 ヨハン先生に言われるままに、手を上げたり下げたり、身体中のいろんなところを見てもらって、口を開ける。

 ヨハン先生はいつも通り「ふむ」と鼻を鳴らす。


「相変わらず、良く育っています。……と、いうより、育ちすぎです」

「どういうことですか?」


 ヨハン先生は困った顔でぼくの後ろにいるおかあさんをチラッと見てから、ぼくの茶色の目を覗き込んで、言い聞かせるように、言葉を出す。


「ルカくん。君は、ちと食べ過ぎだ」

「たべすぎ?」

「君の今の状態は、医学的にはこう言う。肥満と」

「ひまんってなんですか?」

「つまり太りすぎだ」

「うぇ?」


 人間の男の子になってから三回目の春。

 ぼくは、ひまんと診断された。

赤ちゃん期編、これにて完結。


どうもレニィです。


今回書いていて一番楽しかったのは

ポークソテーのくだりです。


さて赤ちゃん期編が終わりました。

次からは幼児期になります。


そんな感じです。

どうぞよしなにー!!!

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