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美食家ルカの美味しいモノを探す旅  作者: レニィ
赤ちゃん期
12/29

11食目:サージおねえちゃんの匂い

「あたしの名前、覚えていたのね、サージ。嬉しいわ」


 ジョゼットは嬉しいと言っているけれど、本心はまるで違う。

 口は笑っている形なのに、プラム色の目は笑っていない。

 目の奥でものすごく怒っている。まるで、ごはんの準備が終わってもかまどに残っている火みたいに、ジリジジリと、ゆらゆらと、熱くて痛い。そんな目をしている。

 

 ジョゼットは真っ赤なお洋服を揺らしながら、手に持った長い棒を鳴らしながら、サージおねえちゃんとぼくのところへ歩いてくる。


 カツン、ズズズッ、カツン、ズズズッ……

 

 よく見ると、ジョゼットの片方の足は動いていない。手に持った長い棒と動く方の足を頼りに、ジョゼットはゆっくり、ゆっくりと動かない足を引きずって、こっちへくる。

 

 もしかして、ジョゼットは足を怪我しているのかな?

 

 犬だった時、ぼくも片足が痛くなって、そっちを使わないように歩いていたことがある。

 足が痛いとそれだけで嫌な気持ちになるし、上手く動けなくってイライラしちゃうことだってある。

 

 ジョゼットは足が痛いから怒っているの?

 

 そうだったらよかったけど、ジョゼットは怒った怖い目をしたままサージおねえちゃんに近づいてくる。怒っている目は、サージおねえちゃんの方しか見ていない。

 誰かが怒っていると、途端に怖くなってしまう。

 サージおねえちゃんはジョゼットの怒っている目が怖くて、怖くてたまらなくなってしまって、震える手から抱っこされていたぼくがずり落ちるのはすぐだった。

 ずり落ちたぼくを受け止めてくれたのは、隣にいたドロテーだった。ドロテーの土の匂いがたくさんするお洋服にしがみついて、ぼくはジョゼットとサージおねえちゃんを見た。


「サージったら、全然家から出てこないって、聞いていたのよ? だから今日、広場で会えるだなんて、思ってもいなかったわ」

「きょ、今日は、お祝いの日だもの。収穫のお祝いも、わたしたちの七歳のお祝いも、村中のみんなで一緒にすることでしょう?」

「へぇ、わたしたち?」

「そ、そう。そうよ、ジョゼット。七歳おめでと……」

「おめでとうなんて、あんたが言わないでよ」


 ガツンと、ジョゼットが持っていた長い棒で地面を叩いて大きな音を出す。

 その音にびっくりした周りにいる人たちの目が、ぼくたちの方を向く。


「ねぇ、サージ。あんた一年何をしていたの? あたしが自由に動けなくなってから、自由に動けるはずのサージは何をしていたの?」

「わ、わたし。……わたしはっ!」

「あたしは杖を使って歩く練習をずっとしていた。自由に動けなくって、どこへもいけなくって、森にだって行けない。お手伝いだってできない。ペーターの七歳のお祝いにだって、パパに抱っこしてもらって連れて来てもらったけど、椅子に座ってジッと見ているしかできなかった! それなのに、サージは何をしていたの!?」

「ジョゼット、やめな」


 サージおねえちゃんとジョゼットの間に、ドロテーが入って行った。サージおねえちゃんはドロテーの後ろで歯がカチカチ鳴るほど震えている。

 ジョゼットはぼくが抱っこされているのなんて気にせず、今度はドロテーに向かって怒る。


「どうしてドロテーはサージを庇うの? 村長の娘だから?」

「そんなんじゃ……」

「じゃあ、どうして? ドロテーだって覚えているでしょ。一年前のあの時のこと」


 “あの時”とジョゼットが言うと、ぼくたちを見ていた周りの人たちが急に静かになった。

 

 困った気持ちで、隣の人を見る大人たち。

 嫌そうな気持ちになる子どもたち。中には、怖いと思っている子もいる。

 コルザおねえちゃんぐらいの小さい子たちは、みんなジョゼットが何を言っているのかわからないみたいで、不思議だと思っているけど、みんなが静かになってしまったので、おしゃべりしなくなった。

 

 静かになってしまったから、怒っているジョゼットの声が大きく聞こえる。


「あの時、森の奥へ行っても大丈夫って言ったのは、サージだった。村長様がまだハンターさんを呼んでいないって、村長様から大きな獣が出ている話を聞いていないって、村長の娘のサージが言ったから、みんなが信じて森の奥へ行ったの!」


 ぼくを抱っこしているドロテーから困った気持ちと、悲しいという気持ちが伝わってくる。

 ギリギリと、ドロテーの口の中が音を立てている。ドロテーの顔は下にある地面をジッと見ていた。

 ギュッと閉じていた口を開いて、小さな声で、ドロテーがお話する。


「……覚えている。忘れられるわけがないよ。村のみんながそうだ」

「じゃあ、村のみんながわかるはずだわ。あたしが自由に動けなくなったのは、サージのせいよ!」

「それは違う! サージだけのせいじゃ……」

「でもサージが言わなければ、みんな森の奥へは行かなかった。そうでしょう、ドロテー」

「……それは」

「サージが言ったから、大きいみんなだって大丈夫だと思ったの。サージが言ったから、みんな安全だと思ったの。でもそんなことなかった。森の奥で、みんなが大きな獣に襲われた! そのせいで、あたしの右足は動かなくなったの!」


 ジョゼットがまた手に持った長い棒で地面を強く叩いて、音を出す。


「あたしは杖がないと動けない。それだって、練習してようやくやっとできるようになったの。それなのに、自由に動けるサージは何もしないで、家に閉じこもっているだけ? ふざけないでよ!」


 ジョゼットの怒った目から、涙が落ちてきた。


「村長の娘だから、村のみんながそうやってサージを庇うから、サージは家に閉じこもっていても平気だったんでしょう。村長の娘だから、わざわざ森や農場にお手伝いに行かなくたって、困ることなんてないんでしょう。でも、あたしは違う。あたしの家だって違う。みんなが言えないならあたしが言ってやる」


 プラム色のギッと怖い目が、ドロテーの後ろを睨みつける。


「あんたのせいで、あたしは自由に動けない。あんたのせいで、あたしの家は誰かが手伝ってくれないと困る家になっている。それなのに、あんたは自由に動ける身体を使わない。家でジッと閉じこもっているだけ。そんな役立たずが、どうして今日、村のお祝いに来られたのか、不思議でならないわ。あんたにお祝いしてもらえる理由なんてない! あんたなんて、この村にいる必要なんてない! あたしの自由を、あたしの右足を返してよ!!」


 ジョゼットは手に持った長い棒を投げて、ドロテーの後ろにいるはずのサージおねえちゃんの方へ走ろうとした。

 だけど長い棒の支えがないジョゼットはぐらりと身体を傾けて、倒れてしまいそうになった。

 慌てて周りの大人たちがジョゼットを支えて、支えられてからも暴れ続けたジョゼットが落ち着いたころ、サージおねえちゃんは、ドロテーの後ろどころか、明かりに囲まれたひろばのどこにもいなかった。


______________________________


「いたか?」

「いいえ、いませんでした」

「森へは行けないはずだ。村から出ているとは考えられない」

「果樹園は探したか? 木の上は?」

「橋の下は?」

「何人も見に行ったが、いないそうだ」


 サージおねえちゃんが居なくなってしまって、ひろばは大騒ぎになった。

 真っ赤なお月さまが明るく輝いているけど、丸い明かりで囲まれているひろばじゃないところは、暗くて人間の目じゃ見にくい。

 大人たちとドロテーくらいの大きい子たちが、手に小さな明かり持ってサージおねえちゃんを見つけようとしているけれど、サージおねえちゃんはなかなか見つからない。


 ぼくはコルザおねえちゃんや他の小さい子たちと一緒に、おいわいのパンとツッカバオムケーキの乗ったテーブルの近くに集められて、そこから動かないように言われた。

 ジョゼットもぼくたちと一緒の場所に、椅子に座らされて、泣いていた。

 

 小さい子たちはみんな、目の前にごちそうが乗ったテーブルがあるのに、それを食べちゃダメだと大人たちに叱られて、イライラしている。

 

「どうしてたべちゃだめなの?」

「ジョゼットだけじゃなくって、サージがいないとおいわいができないんだって」

「おなかすいた」

「パンたべたい。あまいやつ」

「おいわいのときしかたべられないもんね」

「パイだってそうだよ」

「ケーキだって」


 キュルルル……と、誰かのお腹が鳴った。

 その子は泣きそうな気持ちになって、テーブルの上のごちそうを見ていた。


「ジョゼットが、サージをおいだしたからたべられないんだ」


 誰かが、そっとそう言うと、みんながみんな、ジョゼットに怒りだしてしまった。


「なによ、なによ! あたしだけのせいじゃないわ! 元はと言えば、サージが悪いのよ! サージが悪いんだから!!」


 小さい子たちがジョゼットと喧嘩を始めてしまった。

 ひろばの近くを探していた大人たちが、すぐに気が付いて止めに来たけど、ジョゼットと他の子たちの怒っている気持ちは、落ち着くどころか、どんどん増えていく。

 

 そんな中で一人だけ、悲しくて、怖くて、不安な気持ちでいる子がいる。

 コルザおねえちゃんだ。


 コルザおねえちゃんはさっきからずっと、両手をギュッと丸く握りしめて、目を閉じて、小さな声でお願いしている。


「せいれいさま、せいれいさま。おねがいです。おねえちゃんをみつけて……おねえちゃんをかえして……おねえちゃんをたすけて……」


 もし、犬の時みたいに鼻が利いたら。

 鼻が利けば、匂いでサージおねえちゃんを探せるのに。

 

 サージおねえちゃんからは、かまどの匂いがする。かまどにたくさん乗っている灰色の粉と、ごはんに使ういい匂いのする草の匂い、それからお洗濯する時の石けんってやつの匂い。

 サージおねえちゃんの匂いは覚えている。だから、犬の時みたいに鼻が利けば、見つけられるはずだ。

 

 ぼくの鼻が、犬の時みたいになればいいのに!

 

 急に、身体が暖かくなった。

 お腹の奥からポカポカが身体中に広がって、鼻にたくさんの、本当にたくさんの匂いが届く。


 テーブルの上のごちそうの匂いだけじゃない。


 甘く、ぼくを手招きする匂い。

 ひろばを囲む明かりからとろけだす匂い。

 乾いた草の匂い。

 木の匂い。

 ツィーフェルたちの臭い。

 ガルバ鳥の臭い。

 農場の土の匂い。

 川から漂う水の匂い。

 トイレの臭い。

 汗の臭い。


 たくさんの匂いの中から、ぼくは目当ての匂いを探すために、鼻を動かす。


 かまどと、いい匂いのする草、それに石けん……


 ぼくは匂いを辿って手と足を動かし始めた。


______________________________


 今にも消えてしまいそうなサージおねえちゃんの匂いを辿って、ぼくは手と足を使って歩く。

 お家の床よりもジャリジャリする地面の上を歩いているのに、何故だかぼくは痛いと感じなかった。

 気が付けば、明かりで囲まれたひろばから離れていって、辺りは暗くて見えにくい。だけどぼくには、匂いの道が見える。


 大きな道から離れて、道はどんどん狭くなっていく。

 熱くてパンの匂いでいっぱいの家と、チーズの匂いがする家の間を通り抜けて、ずっとずっと奥に進む。

 乾いた土とお掃除をするときにぼくの鼻をくすぐる臭いがするところを通って、もっともっと狭い道を進むと、ボロボロの小さなお家が出て来た。


 ここだ。


 ボロボロの小さなお家から、かまどと、いい匂いのする草と、石けん。それに、新しいお洋服の匂いがする。

 ボロボロの小さなお家のドアの前に着くと、中から泣いている声がする。


 サージおねえちゃんは絶対にここにいる。


 ぼくはドアを手で押してみた。でもドアは全然動いてくれない。両方の手で押しても開かない。

 

 手で押して開かないなら、頭を使うだけだ!


 ぼくは手と一緒に頭も押しつけてドアを動かそうとする。自然と足に力が入って、ぼくは気が付けば立っていた。立ったことで、身体全部の力がドアに乗っかって、やっとドアが動いてくれた。

 ドアはギギギっと嫌な音を立てて動くと、ぼくはボロボロの小さなお家の中に転がり込んだ。


 ぼくはサージおねえちゃんの声と匂いがする方に向かって歩いていく。


 真っ暗なお家の中は、変な音がたくさん聞こえてきて、怖い。

 犬だった時は変な音が聞こえると怖くて、思わず吠えたりしたけど、ぼくは今、人間の赤ちゃんで、吠えることはできない。

 泣くことはできるけど、今それをしたら、悲しくて泣いているサージおねえちゃんを探すことができなくなるし、サージおねえちゃんを見つけられなかったら、今度はコルザおねえちゃんが悲しくて泣いてしまうかもしれない。


 ぼくは、サージおねえちゃんを見つけて、コルザおねえちゃんのいるところへ帰らないと。

 

 地面にはたくさん物が落ちていて、だんだん手と足で歩くのが難しくなってきた。

 ぼくは落ちているものを掴んで、足だけで立ってサージおねえちゃんのいる場所を目指して歩く。何かを掴んでいれば、歩くのはそんなに難しくない。

 ちょっとずつ、ちょっとずつ、サージおねえちゃんの匂いがするところに近づいていくと、キィッと音がして、もぞもぞと黒い大きな影が動いた。


 黒い大きな影から、かまどと、いい匂いのする草と、石けんと、新しいお洋服の匂いが、ぼくの鼻に届く。


「あーじ……さぁじ、えーねぇ」

「ルカ……? え、噓でしょ」


 黒い影が立ち上がると、窓から入ってきているお月さまの明かりでサージおねえちゃんの顔が見えた。

 お顔には泣いた跡がたくさんキラキラと光っている。


 サージおねえちゃんの立っている辺りには物が落ちていない。ぼくはいま掴んでいる物から手を離して、サージおねえちゃんの方へ向かって足を出す。

 

 こっちが動いたら、反対。反対が動いたら、もう一回。こっち、あっち……


 いつもならこのくらいで倒れてしまうのだけど、今はなんだか身体中がポカポカしていて、いくらでも歩ける気がする。

 ぼくはサージおねえちゃんを目指して足だけで歩く。

 サージおねえちゃんもぼくの方に向かって歩いてくる。涙は止まっていて、今はびっくりしている顔だ。


「ルカが、歩いている……待って、どうやってここに」

「さぁじねーねぇ!」

 

 サージおねえちゃんの顔がしっかりと見えて嬉しくなったぼくは、走って側に近づこうとした。

 でも身体には走れる力がまだなかったみたい。ぼくはいつもよりも勢いを付けて倒れてしまった。

 ベダンッと、身体が地面にぶつかって、今回は痛かった。

 

「う、うぇ、うぇえええええ」

「ルカッ!」


 サージおねえちゃんが慌ててぼくを抱っこして、頭を撫でてくれる。

 ぼくはサージおねえちゃんのお洋服を掴んで、泣き続けた。

 泣いているぼくの涙とか鼻からでる水とか、よだれとかでサージおねえちゃんの新しいお洋服が汚れてしまうのに、サージおねえちゃんはそんなことも気が付かないで、ぼくをギュッと抱っこして、ずっと頭を撫でてくれた。

 

「……手と足が土まみれ。身体中が埃だらけ」


 サージおねえちゃんはヨハン先生みたいにぼくの身体のあちこちを触って確かめると、辺りをキョロキョロと見回す。


「ルカの他には、誰もいない、の?」

「あぃ」


 やっと痛くなくなったぼくがそう答えると、サージおねえちゃんはもっとびっくりして目を丸くする。


「赤ちゃんがどうやって、こんなところまで……」

「さぁじねーねぇ」


 ぼくはサージおねえちゃんのお洋服を引っ張って、このボロボロの小さなお家から出て欲しいことを伝える。

 でもサージおねえちゃんはお外に出ようとはしない。ぶるぶると首を振って、地面に座り込んでしまう。


「無理。無理よ……。だって、ジョゼットの言った通りだもの。わたし、わたしがあの時、大丈夫って言ったの。わたしが、父様がまだ忙しくないからって、ハンターさんがまだ来ていないって……。そしたら、大きな獣が山から降りてきていて、ジョゼットだけじゃない、みんな怪我をして……」


 サージおねえちゃんの目からポロポロと涙が溢れてくる。


「わたしのせいだって、わかっているの。だから、怖かった。村のみんながわたしが悪いって言うかもしれないのが怖くて、村長の娘が余計なことをしたって言われるのが怖くて、ジョゼットに責められるのも怖くて……お家から出たくなかった。広場に行きたくなかった。また広場に行ったら、誰もお祝いできない。してもらえない。精霊様が逃げて行っちゃう」


 サージおねえちゃんの怖いって気持ちも、嫌だって気持ちも、悲しいって気持ちも、ぼくには伝わってきている。

 でも同じように、怖くて、悲しくて、不安だって気持ちで待っている子がいるのも、ぼくは知っている。


「さぁじねーねぇ……あっちゅ、いこ。あっちゅ、こうあねーねぇ、まんま、あぅ」


 ぼくを抱っこするサージおねえちゃんのお顔に、ぼくのお顔をくっつけてスリスリする。

 犬だった時、不安だったり、悲しい気持ちの家族が、ぼくにそうやって落ち着いていたのを知っているから、ぼくは同じようにしてみる。


「こうあねーねぇ、あっちゅ。さぁじねーねぇ、あっちゅ、いこ?」


 赤ちゃんのぼくが喋れる言葉は、少ない。

 それでも、ぼくはサージおねえちゃんにコルザおねえちゃんがひろばで待っていると、ごちそうもまっていると、ひろばに行こうとお話する。


「さぁじねーねぇ、まんま、うま、あっちゅ。いこ?」


 サージおねえちゃんの涙が止まって、落ち着いた頃に、外から誰かの声が聞こえてきた。


「ここにはいないんじゃね? 森の近くだぜ?」

「早く見つけないと……暗くなっていて、村の中でも危なくなる」

「それにご馳走もお預けだぜ? 俺、今日、一日中働いていて腹ペコなのにさぁ」

「あんたね、料理じゃなくってサージの心配をしなさいよ。……あの時、奥に行ったのはサージだけのせいじゃないんだから」

「……そうだな。止められなかった俺たちも悪いもんな」


 誰かの声が遠くに行ってしまって、ちょっとしたころ、サージおねえちゃんがゴシゴシと腕で顔を拭いて、立ち上がった。


「わたしは、お祝いされなくたっていい。でも、収穫とジョゼットのお祝いはしなくちゃ。……わたしは、村長の娘。村のために出来る事をするのが、仕事で、お手伝いなんだから」


 サージおねえちゃんは、ぼくをしっかりと抱っこすると、ボロボロのお家の外、ひろばへ向かって歩いて行った。


______________________________


 ひろばに戻って来たサージおねえちゃんとぼくを最初に見つけたのは、コルザおねえちゃんだった。

 コルザおねえちゃんの顔にも涙の跡が付いている。


「おねえちゃん! ルカ!」


 コルザおねえちゃんはサージおねえちゃんにギュッとしがみついた。

 サージおねえちゃんはしがみついているコルザおねえちゃんのふわふわの毛を撫でる。


 コルザおねえちゃんのすぐ後に、おかあさんとおとうさんが走ってきた。


「サージ! よかった。……心配したんだぞ」

「本当に、本当に心配していたのよ。サージ」

「父様、母様、ごめんなさい。……コルザもごめんね」


 サージおねえちゃんは、ぼくと一緒にコルザおねえちゃんをギュッとする。ぼくもコルザおねえちゃんの顔をスリスリして、安心してと伝えようとする。


「ルカもいなくなったって、コルザから聞いたときには、心臓が止まるかと思ったわ。どこで、ルカを見つけたの?」

「ううん。ルカがわたしを見つけてくれたの」

「ルカが?」


 おかあさんもおとうさんも不思議そうな顔をして、ぼくをみる。

 でもコルザおねえちゃんは、ぼくの頭を撫でて褒めてくれる。


「ルカ、ありがと。おねえちゃんをかえしてくれて」

「あぃ」


 ぼくは嬉しくなって手を伸ばす。

 明るいところで見たことで、ぼくの手が赤くなっていて、怪我があることにサージおねえちゃんと、コルザおねえちゃんが気が付いた。


「大変、ルカの手が!」


 慌てるサージおねえちゃんとおかあさんよりも先に、ぼくの手をしっかりと握ってコルザおねえちゃんがおまじないをしてくれる。


「せいれいさん、せいれいさん、いたいのいたいの、もっていけ……」


 ポカポカとあったかい光が、コルザおねえちゃんの手から溢れてくる。

 あったかい光に包まれているぼくの手から、痛いところがどんどんなくなっていく。


 コルザおねえちゃんの手から溢れた光は、ぼくの手だけじゃなくって、身体中。それから、ぼくを抱っこしているサージおねえちゃんも包む。

 ポカポカとあたたかくて、気持ちがいい光がだんだん小さく、小さくなって、消えたころ、ぼくの身体はどこも痛くなくなっていたし、サージおねえちゃんの顔からも泣いた跡も消えていて、村中の人がひろばに戻って来ていた。


「今のは……癒しの魔法、だよな?」

「コルザがやったのか?」

「え、フレディス様じゃなくって?」


 ざわざわと周りが騒がしくなっていく。

 何も悪い事をしていないはずなのに、なんだか周りの人のぼくたち、とくにコルザおねえちゃんを見る目が怖い。

 コルザおねえちゃんは、サージおねえちゃんにまたギュッとしがみつく。サージおねえちゃんもコルザおねえちゃんを守るように、しっかりと抱き寄せた。


 おとうさんが手を高くあげると、ざわざわがなくなって、静かになる。

 みんなの目がおとうさんを見ている。

 おとうさんは大きな声でお話を始めた。


「今日は、収穫の祝いに加え、我がヒルシュホーン家のサージと、シュヴァインシュタイガー家のジョゼットの七歳の祝いの日でもある。そんな中、我が娘、コルザが癒しの精霊様からのご加護を受け、癒しの魔法を発動させた。我が村は今、精霊様のご加護を得ているに違いない。皆で精霊様へ感謝し、祝おう!」


 おとうさんのお話が終わると、みんなが大きな嬉しい声をあげた。


______________________________


 明かりに囲まれたひろばの中は、嬉しそうな気持ちでいっぱいになっている。

 さっきまでイライラしていた子どもたちも、みんな両手に食べ物を持って、口いっぱいに食べている。

 大人たちもツンとする匂いの飲み物を飲みながら、ごちそうを食べている。

 

 サージおねえちゃんは、おとうさんと一緒にひろば中を歩き回っている。

 急にいなくなってしまったこと、そのせいでいろんな人が探し回ってお祝いが遅くなってしまったこと、それに、あの時のことを謝りたいと言って、お祝いよりもお話のために忙しく動いている。


 コルザおねえちゃんは、大好きなお祝いの丸い小さなパンをいくつも食べている。

 ときどき、大人がコルザおねえちゃんの側に来ては、「おめでとう」「すごいわ」と言って、褒めている。

 コルザおねえちゃんは嬉しそうだ。


 そしてぼくは、


「まんま……」


 おかあさんに抱っこされて、ごちそうを眺めている。

 

 サージおねえちゃんを探すときに足だけで立って歩けたから、またできると思っていたのに。

 ぼくはテーブルの上にあるごちそう目掛けて歩き出した途端に、また転んでしまった。

 おかあさんがぼくを癒しの魔法で治してくれた後は、おかあさんに抱っこされて、テーブルの近くでお留守番になっている。

 

 それでもテーブルの上のごちそう、ツッカバオムケーキにアップルパイがぼくを呼んでいるから、手を伸ばしてみたけど、ぼくの手に渡されるのは、焼いたお肉や掴める野菜。それと、リンゴ。

 そのリンゴだって、手につかめる大きさのやつを三つくらい食べたら、「もう終わりよ」と言われてもらえなくなった。

 小さい子が何人かぼくにお祝いの丸い小さなパンを分けてくれようとしたのに、おかあさんが「赤ちゃんはまだ食べちゃダメなの」と言って、もらえなかった。


「うぅ……」


 ぼくは口から溢れるよだれで、抱っこしてくれているおかあさんのお洋服を濡らしながら、ご馳走をジッと見つめているだけで、村のお祝いは終わってしまった。

文字数っておもちのように

伸びるよね。


どうもレニィです。


大事なところだ!と思って書くと、文字数が餅のように伸びます。

赤ちゃんといぬの語彙だぞ、と思って書くと描写が長くなるから……

などという言い訳なぞもあります。


犬というのは不思議な生き物で、

人間の感情を機敏に察知して動くんです。

悲しんでいると、そっと側に寄り添ってくれる。

だからこのお話でも、誰かに寄り添う子に。


さて、そろそろ赤ちゃん期から脱出したいぞ。


そんな感じです。

どうぞよしなにー!!!

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