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美食家ルカの美味しいモノを探す旅  作者: レニィ
赤ちゃん期
1/29

プロローグ:にじのはしのふもと

愛するパートナーへ

キミがこんな世界を生きてくれたら、

わたしは嬉しい。

 ぼくはルカ。

 トイプードルという犬だけど、人間の家族と暮らしている。

 ママやおねーちゃんや、妹分のぴょんもパパも、ぼくのことを「ルーちゃん」とか「るーた」とか呼ぶ。

 さっきも、家族がぼくのことを呼んでいた。


 何度も「ルーちゃん」「るーた」って聞こえていた。

 でも、しばらくしたらそれが聞こえなくなって、いつもみたいにおねーちゃんがぼくをギュッとしてくれた。

 

 「ありがとう……」

 

 おねーちゃんがまた泣いている声だ。

 おねーちゃんの顔のしょっぱい水を舐めてあげなきゃ、本当に世話のかかる家族なんだから。

 

 でも気がついたら、ぼくはおねーちゃんの側にはいなかった。


 そこは、ぼくのお気に入りのふかふかのベッドみたいな地面が、ずっと続いているところだった。

 ぽかぽかのお日さまが気持ちよくって、そんなに嫌な気持ちじゃなかった。

 そういえば、ぼくなんだかお腹が空いている。お水も飲みたいな。

 そう思ったら、目の前に食べ切れないくらいたくさんのごはんが出てきて、耳を動かしたらお水の流れる音がした。

 お腹いっぱいごはんを食べて、綺麗なお水を飲んだら、周りにたくさんの犬や猫や、他にもいろんな子たちがなんだかたくさんいるのに気がついた。

 

 うわぁ……、ぼく、他の犬って苦手なんだよね。

 

 他の犬は、みんな嬉しそうに走っている。

 他のいろんな子たちも、嬉しそうにすごしている。

 たまに「いっしょにあそぼうよ」って誘ってくれる犬もいるけど、ぼくは犬があんまり得意じゃないから、そこから離れて、一匹で隠れられる場所を探す。ここに来る前からずっとお気に入りの“らいおんくん”のぬいぐるみが何故か一緒に居てくれるから、それを齧って、疲れたらぽかぽかのお日さまの下で丸くなって寝る。

 

 気持ちがいい場所だけど、なんだかものたりない。

 

 ごはんも食べられるし、お水もある。

 ずっと、身体が痛いな、苦しいなって思っていたのも、ここに来てからなくなったけど、ものすごく嬉しい気持ちにはなれない。


 なんでだろうって思っていたら、急に目の前を走っていた犬が止まって、どこか遠くを見つめはじめた。

 他の犬たちも「どうしたの?」「なにをしているの?」ってその子を見るけど、その子は遠くを見るのをやめなかった。

 その子はすごく、すごく、嬉しそうに、見つめていた先に向かって走って行った。

 その子の走って行った先は、階段じゃないけれど、昇るのが大変そうな道が続いていて、その子はぼくのおねーちゃんたちみたいな人間たちにギュッとされて、嬉しそうにその道を昇って行った。


 ぼくはその道が気になって、近くに行ってみようとしてみた。

 だけど、いくら走ってもその道へ行くことはできなくて、できるのはその道を見上げることだけだった。

 

 どうして、あの道へ行けないんだろう?

 この道を昇って行ったあの子は、どうしてと通れたんだろう?

 人間が突然出て来たのはどうして?


「君が見ている道は、“虹の橋”と言ってな。さっきこの道を登って行った子は、家族が迎えに来たからこの道の先へ行く事になったのじゃ」

 

 声のする方を見たら、顔がもじゃもじゃの毛だらけの人間がいてびっくりした。

 誰だろう。知らない人はちょっと怖いんだけど。

 

「怖がらないでおくれ。わしは君に痛い事も、怖い事もせんよ。約束しよう」

 

 知らない人は、もじゃもじゃの毛のなかからニコニコと笑っている。

 ぼくはその人に怒って唸るのをやめた。

 

「ありがとう。君は良い子じゃな」

 

 知らない人は怖いけど、他の犬よりはいい。

 だからぼくは、知らない人に聞いてみることにした。

 

「どうしてここには、いぬとか、ほかのこはたくさんいて、にんげんはいないの?」

「ここは、そういう場所なんじゃよ。“虹の橋のふもと”では、君たちのような誰かと寄り添って暮らしていた動物たちが集まって、また家族と出会えるまで過ごせる場所なんじゃ」

「どうして、ぼくのかぞくはここにいないの?」

「君の家族は、まだ君を迎えに来るには時間がかかるんじゃよ。もっと、ずっとな。どうしても、君と、君の家族とでは、生きる時間が違うからの」

「じかんがちがう?」

 

 知らない人の言うことは、ぼくにはちょっと難しくて、何を言っているのかはわからなかった。

 だけど、知らない人がなんだか悲しそうにしているのはわかった。

 

「君の家族は絶対に君を迎えに来てくれるはずじゃよ。でも、今すぐには難しい。だから、この“虹の橋のふもと”で待っていて欲しいんじゃよ。そのために、ここでは君たちがお腹いっぱいにごはんを食べて、毎日綺麗な水が飲めて、他の子たちと一緒に遊べるようになっておる。どんなに走り回っても痛くないふかふかの草原と丘に、暖かな太陽の光が降り注いでいる」

「でもぼく。ここはなんだか、にがて」

「ごはんも水も、いくらでも走り回れる草原に、お友達がたくさんいるのに?」

「ぼく、おともだち……ほかのいぬってにがてなんだ。それに、おなかいっぱいごはんがたべられても、おねーちゃんがたべさせてくれた、ささみとしろいべちゃべちゃのごはん、“ささみぞうすい”のほうがおいしかったし、おみずも、もっとおいしいところをしっているよ。ふかふかのベッドみたいなじめんはきらいじゃないし、ぽかぽかのおひさまもうれしいけど、かぞくのパジャマのうえとか、おなかのうえのほうがすき」

 

 ぼくは家族が恋しくなった。

 ふかふかのベッドみたいな地面に伏せして、“にじのはし”を見上げてみる。

 

「ぼくのかぞくは、ぜったいにぼくをむかえにきてくれる。それはしっているけれど、すぐにきてくれないのは、さみしいし、かなしい。たくさんいぬがいるここにいるのは、あんまりうれしくないな。ごはんももっとおいしいものがたべたい」

「……そうか。ここは君たちのような動物が、家族を待っている間、気持ちよく過ごせるようにという場所なんじゃが、ここが苦手で、嬉しくないなら困ったな」

 

 知らない人は、“にじのはし”を見上げながら、ちょっと静かになっていた。

 ぼくがその隣で知らない人をジッと見ていると、知らない人が手をポンと叩いた。

 

「じゃあ、こうしてみよう。君の家族が迎えに来るまでの長い時間を、君は別の世界で、そうさなぁ……犬ではなくて、人間として生きてみないかい?」

「ぼくが、にんげんになる?」

「それなら、君の家族がこの橋へやって来るまでの間、君はこの橋のふもとで寂しく待つ必要もなくなり、苦手で嬉しくない思いをしなくてもいい。それに、人間なら犬の時よりももっと美味しい物を食べられるじゃろう」

「おいしいもの?! たべられるの?! ぼく、たべるのだいすき!」

「えらく元気になったのぅ。尻尾もブンブンじゃ。では、決まりでいいかの?」

「……でも、ぼくがここからいなくなったら、かぞくがむかえにきてくれたときにこまらせちゃうかな?」

 

 特におねーちゃんはすぐに泣くから、ぼくがいないだけで泣いちゃうかもしれない。

 でも知らない人は、ゆっくりと首を振って、ぼくに笑いかけてくれた。


「君も優しいのぅ。そんな君の家族はみんな優しいから、君がいなくてもここで待っていてくれるはずじゃ。もし君がまたこの“虹の橋のふもと”へ帰ってくる前に、君の家族が来たならば、わしが君の事を話しておいてあげよう」

 

 この人は知らない人だけど、でも悪い人じゃなさそうだし、美味しいものが食べられるっていうなら、いいかもしれない。


「ぼく、にんげんになってみるよ」

「そうか、そうか。では、君はこれから人間の男の子として生まれ直す。そして、そこで満足したならば、もう一度、この“虹の橋のふもと”へ帰ってきなさい。その頃には、君の大好きな家族たちもここに集まっていることじゃろう」


 知らない人がぼくの頭を撫でると、ぽかぽかのお日さまの光がもっとぼくのところに集まって来る気がした。

 とっても、とってもあたたかくて、なんだか眠たくなってきた。


「しらないひと、おやすみ。ぼくのかぞく……おねーちゃんがきたら、「ぜったいにまっていて」っていってね」


 知らない人はどうしてかくすりと笑って、ぼくを見ていた。


「君の伝言は、必ず家族へ伝えよう。おやすみ、ルカくん」


 知らない人、どうしてぼくの名前を知っているのかな?

 不思議だなと思ったけれど、それよりも眠たいな。


 ぼくはぽかぽかの中で、また目を閉じた。

 

______________________ 

 

 暗いけれどぽかぽかしたところにぼくはいた。

 ぽかぽかのなかにずっといたかったのに、なんだかぎゅうぎゅう押されて、ちょっと寒いところに出たみたい。

 ぼくは寒いのにびっくりして、吠えてみた。


 だけど聞こえてきたのは、「ワンッ!」って声じゃなかった。


 なんだか、ぐわんぐわんって音がして、それにもっとびっくりして、もっと吠えてみようと思ったら、もっとぐわんぐわんがすごくなった。

 そのぐわんぐわんの中でなんだか嬉しそうな声がたくさん聞こえた。

 たくさんの嬉しそうな声は何を言っているのかわからなかったけれど、なんだかとってもいい匂いがして、あったかい誰かがぼくを抱きしめて言ってくれた。


「#%&#$……ルカ」


 ぼくは自分の名前が聞こえてきたから、「ここにいるよ!」って返事をするために吠えようとしたけど、やっぱりぐわんぐわんだけが響いた。


 そのぐわんぐわんが新しい、人間の男の子になったぼく、ルカの泣き声だってわかったころには、ぼくの目も耳もよく見えて、聞こえるようになったころだった。

どうもレニィです。

私事で、どうしようもないのですが、

11年程、一緒に暮らしていた犬が今年の初めに亡くなりました。


亡くなってから、”虹の橋”について調べたのですが……

うちの犬見知りなお犬様が”虹の橋”の麓で平穏に待っていられないんじゃないだろうか。

そう思ったら、異世界に転生させていました。


食べるのがとにかく大好きだったキミ。

胃腸が弱くて、犬だから、あんまりいろいろ食べさせてあげられなかったから、

キミには、人間として美味しいモノを食べて欲しい。


そんな自己満足小説です。


願わくば、同じようにパートナーを亡くして寂しい思いをされている方が、

少しでも、そんなこともあればいいなと思えますように。


そんな感じです。

どうぞよしなにー!!!

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