タロットカード占い
小学校の時の話だ。
幼馴染の愛子ちゃんの家に遊びに行った私は、綺麗なカードを見せてもらった。
トランプよりもかなり大きい、綺麗な絵の描いてあるカード。
「やっと買えたんだ、占ってあげようか!」
「・・・占いに使うの?」
綺麗なカードは、タロットカードだった。
愛子ちゃんは占いが好きで、将来は占い師になりたいと言っていた。
ずっとトランプカードで占いをしていて、かなりの的中率を誇っていたのものの、数字だけでは具体的なことが分からないため、ずっとタロットカードが欲しいと願っていたのだ。
「タロットはね、カード一つ一つに意味があって、それを読み取ることで運命を占うことができるの。カードとの信頼を得るために、一緒に眠ったり毎日話しかけたりするんだよ。」
「へえ・・・。」
紫色の布に丁寧に包まれたそのカードを、一枚一枚詳しく説明してくれて、そのあと私のことを占ってくれた。
「あーちゃんは・・・家出するね。やりたい事をやってお母さんに怒られる、長く叱られる・・・?これは何だろう、ゴメンね、まだカードと仲良くなってないから読めないや。」
「あはは、じゃあ、仲良くなったらまた占ってね!」
このときはタロットカートなんて当たらないなと思っていた。
私は家出をするつもりはなかったし、やりたいことをする暇などなかったうえに、母親は私に無関心で怒られたことが一度もなかったのだ。
的中率は低そうだけれど、愛子ちゃんに大切に扱われているカードを見て、なんと言うか・・・幸せなカードたちだなと思っていた。
愛子ちゃんはずいぶん頭のいい子で、中学に入るとめきめき学力を伸ばし、あっという間に自分とは違う場所で輝く人になってしまった。
中学では時折顔を合わせたものの、高校は地元一の進学校に行ってしまい、なかなか会うことがなくなった。
私が大学の頃、近所のコンビニでバイトをしていたとき、久しぶりに愛子ちゃんに会った。
「あーちゃん!久しぶり!なに、ここでアルバイトしてたの?!知らなかったー!いつも来てたのに!」
「もう四年目になるよ、そっかあ、タイミングが合わなかったんだねえ、もうじき就職だからここやめちゃうんだよ、もっと早く会えてたら良かったねえ、ハハハ。」
愛子ちゃんの家は、私がアルバイトをしている場所から程近い場所にあったのだ。聞けば週に二回は来ていたと言うので、あまりのタイミングの悪さに笑うしかなかった。
「ねえ、良かったら遊びに来ない?私も就職で九州に行くことになってるの、もう会えないかもしれないからさ、ね!」
「もうじき上がりだから、ちょっと寄らせてもらおうかな。」
私は実に十年ぶりに愛子ちゃんのおうちに上がることになった。昔一緒に遊んだ愛子ちゃんの部屋は、引越し準備をしているからかやけにすっきりとしていて殺風景になっていたが・・・ベッドサイドに見覚えのある紫色の塊を見つけた。
「あ、タロットカードだよね、どう、仲良くなれた?」
「よく覚えてるねえ、・・・ほら見て、ずいぶん年季入ってるでしょ!まあ、占い師にはなれなかったけど親友くらいにはなったよ、占ってあげる!」
カードの端が少しかすれたカードで占ってもらう。カードをくるくると回し、何枚か選んで並べると・・・なんとなく、愛子ちゃんの顔が渋くなったような気がした。
「あ、このカード。昔占ってもらった時に出たやつだ。見た覚えがある。」
無言でカードを睨む愛子ちゃんは、占い師そのものだった。なんだか怖くなってしまった私は、場を和まそうと、見覚えのあるカードを指差した。
「よく覚えてるねえ・・・、なるほどねえ・・・、その記憶力、今は大変だけど、いつか役に立つよ・・・。」
「あはは、あたしは記憶力皆無だからなあ、いつかのときには忘れてるかも?」
カードと親友になったとはいえ、占いなんてそんなに当たらないものなのかなあと思い始めたのだが。
「これは現在までのカード、・・・あーちゃん、これから運命が動くよ。間もなくあーちゃんの中のすべての常識がぐるっと変わる。あのね、余計なことは絶対に考えないで。自分の事だけ考えていい時期にきたの、振り返ったり戻ったりしたらダメ。カードが祝福してくれてるから大丈夫。悩むとどつぼにはまるから、能天気に流されたほうがいい。・・・何か聞きたいこと、ある?」
「うーん、愛子ちゃんの連絡先かなあ・・・?」
「なにそれ!!もう、いつでも電話してくれていいよ!!!」
赤くなった愛子ちゃんの顔を直接見たのは、それが最後だ。
私は地元を離れて家庭を持ち、愛子ちゃんは九州で家庭を持ったので、一度も会う機会がないまま時間だけが過ぎてしまった。
年に一度くらい、思い出したように電話をしては他愛もない話をしてまたねと電話を切る、そんな関係ももうずいぶん、長い。
今にしてみれば、愛子ちゃんの占いはわりと・・・いや、かなり当たっていた。
就職を期に家を出た私は、自分の過ごしてきた環境の異常さを知り、目まぐるしい自己認識の転換に慄いた。時折ふとよぎる実家の記憶に振り回されながら、度重なる呼び出しをスルーし、へらへらと笑って問題をいなし続けて行く事となったのだ。
あの、カードが届いたばかりの日に占ったことですら、当たっていた。
ラーメンが食べたいなと一言つぶやいた日に、そんなに食いたいなら出て行けといわれて素直に従い、帰りが夕方五時を過ぎたためにこっぴどく叱られ、以降叱られ癖が付いてしまった。
そんな凄腕の占いの才能を持ちながら、今はごく普通のお母さんだもんなあ、なんかもったいない話だよ・・・・・・。
ああ、でも大学の占いサークルの顧問やってるって言ってたから、わりと迷える子羊の皆さんに道を示しているのかもしれないな。
いつか休みができたら、またぜひ占ってもらいたいところだけれど。
当たりすぎるからなあ、ちょっと怖いような気もする。
今小説書いてるでしょうとか、私のことも書いたね?!と怒られそうな予感がめちゃめちゃする。
わりと色々・・・うん、ヤバイな、会うのはもうしばらく先でいいや。
私はスマホの毎日タロット占いのアプリを閉じて、遠く離れた地で未だカードと共に就寝しているであろう親友を思ったのであった。