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下着泥棒捕物帖

冒険者組合から踊る蛇腹亭に帰ってきたボク達は作戦を決行すべく、ボクの部屋で準備を進めていた。


「で、囮の下着は誰が出すの?」


下着泥棒を誘き寄せる為にベランダへ下着を干すことにしたのだが、誰のを使うかまでは決めていなかったのだ。


「ワシは今持っておらんの、常に替えのパンツなんぞ持ち歩かんし」


「アタシはそもソモ服着なイシ」


う...つまりボクが出すのか...むうう、仕方ない...


「分かったよ、ちょっと待ってて...これでいいか」


渋々ボクはタンスの引き出しを開け下着を一枚取り出して机に置いた。


「おウ...」


「お主...中々にエグい物使っておるの...」


二人が何か引いている、あれ...?


「普通のパンツじゃない?」


「いやいや、黒のTバックは普通じゃなかろう...」


「そレニ前も隠すとコロ殆どなイシ」


おかしいな...村じゃ皆これくらい普通だったんだけどなぁ...


「まあ、それはさておき...んじゃそれを外に干して待ち伏せじゃ、夜は交代で見張るぞ」


「は~い」


「りょ~カ~イ」


ボクは下着を外に吊るし、見張りを開始した。

夕食やお風呂は交代で済ませ、月も高く登って暫く、零時を知らせる鐘が寝静まる街中に響き渡る。

フーワとライムはボクの横で仮眠している、夢でも見ているのかライムが時折寝言で「めタルめダル~」と呟いている。

さてそろそろ交代の時間だ、次はフーワの番なので起こそうと肩に手を掛けようとした。


―――ガサッ


窓の外から物音がする、今日は風も吹いていないので洗濯物の揺れる音等はしないはず。

更に何度か音が聞こえてくる、これはつまり...


「二人とも起きて!!下着泥棒が出たよ!!」


「何!?泥棒じゃと!!」


「...めダル?」


ボクが声を掛けると二人が飛び起きる、ライムは何か寝惚けてるけど。


「捕まえるよ!!」


ボクは窓を勢い良く開け放つ、すると何者かがボクの下着を掴んで逃げていく。


「ライム、追いかけるぞい!!」


「は~イ、任セテ~」


まだ半分寝惚けてるライムがボクとフーワを身体全体で掴んで外に伸びる、そして窓の外に出ると地上にまで身体を伸ばして着地する。

三階から一気に降りるのでちょっと怖い。


「よし、このまま後を追うぞい」


暗い街中を逃げる犯人をボク達は追跡する、かなり足が速く追いかけるのに精一杯だ。

縦横無尽に走る犯人は角を曲がり直ぐ様また曲がる、見失わないようにしないと。


それから走り続けること暫し、犯人がまた道を曲がりボク達も追って曲がると。


「しめた、行き止まりじゃ!!」


曲がった先は袋小路で周りは高い壁で塞がれている、もう逃げ場は無い。

長距離を走って息絶え絶えだけど、ここまで来たら後少し、そう思っていたのだが...

なんと犯人は軽々と飛び上がり壁を越えて行った。


「ええ~!!?」


まさかあの高さを越えて行くとは...どうしよう、ボク達も壁を登る?等と考えていると...


『に"ゃ"あ"~!!』


突如壁の向こうから凄い鳴き声が聞こえてきた、え?何事?

ボクが驚いていると壁越しにニュッとライムが顔を出した。


「え?ライム!?」


後ろを振り返るとそこに居るのはフーワだけ、いつの間にか居なくなっている。


「壁に張り付イテ移動シテ先回りしといタヨ」


成る程、流石スライム。


「今此方ニ移動させルネ」


ライムは壁の上から身体を伸ばしボクとフーワを掴み壁の向こうに連れていく。

そこは狭い路地の行き止まりになっていて、その隅っこには下着の山と、黒い猫が一匹プルプル震えていた。


「こやつが下着泥棒の犯人か」


フーワが猫に近寄っていく。


「ゴメンにゃ、夜は寒くて暖かくなる物が欲しかったのにゃ、もうしにゃいから命だけは...」


猫が喋った、が良く見ると尻尾が三つ生えている。

これはケットシー、猫ではなく魔物の一種。

魔物だが言葉を話し友好的で、一緒に旅をする人も居る。


「ふむ...どうするかのペタン」


う~ん、別に命取るつもりはないしもうしないならそれで構わないけど、ん~...そうだ。


「夜寒いなら替わりの物があればいいよね」


それから朝を迎え、ボク達は盗まれた下着を冒険者組合に持って行き、依頼の解決として報酬を貰った。


あの後、ケットシーの居た場所に小さな小屋をフーワが作り、中に炎晶石を置いた。

炎の魔力を帯びた魔石の一種で、適度に暖かいので鍋やお風呂の保温に使われる、これで寒さは凌げるだろう。


目標の金額まではまだまだ遠い、この調子で頑張ろう。

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