ある男の紡ぐ物語
※注意 途中で勇者視点に切り替わります
魔王城の巨大な広間の中央。真っ白な床の上で勇者パーティー4名は、目の前にいる角の生えた紫色の大男と対峙していた。
「はぁっ!」
勇者の威勢のいいかけ声が魔王城内に響く。
戦闘が始まった。
7歳の時、職業鑑定の儀で初めて自分が勇者であると知った。すぐにその情報は国中を駆け巡り、周りの人からは讃えられ、王からは直々に魔王討伐を依頼され、両親からは、『おまえは私たちの1番の宝だよ。絶対に魔王を倒しておくれ。』と大事に育てられた。
昔から、「勇者とは魔王を倒すために存在している」とされていて、ここ20年ずっと魔王の侵略に苦しんでるこの国にとって、初めての魔王討伐の可能性である勇者は唯一の希望であった。
そして10歳からは騎士団長から剣を教えられ、12歳の時に魔物を最年少で単独討伐した。
それから10年、仲間と共に魔王のもとを目指して旅をつづけた。途中で、魔物に殺された人を何度も見た。壊滅された村を幾度となく見た。その度に勇者の胸には、魔王に対する怒りが募っていった。
そして今その怒りの全てを魔王にぶつけていた。
「なぜだっ…何故効かないっ」
先程から何度も斬りつけられている魔王の身体には髪の毛ほどの傷もついていない。
「ハッ、そんな玩具が我に効くとでも?魔属性である我には、聖属性の攻撃以外効かないぞ?」
勇者の剣は、火属性魔剣だ。しかし勇者の1番の攻撃手段は、剣だったので攻撃を続けるしか無かった。
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ハァ…ハァ…。1時間もしない内に勇者は、肩で息をするようになった。仲間の魔法使いに掛けてもらっていた強化魔法もとっくに切れていた。
「こうなったらアレを使うしかっ」
勇者は魔法の構築を始めた。
勇者には、最後の切札があった。教会の女神から授かった勇者にしか使えない聖魔法ーー魔属性の者にほぼ即死のダメージを与え、その者の魔属性を消滅させる大魔法ーーが。しかしこの魔法は使用者の身体も傷つける。身体の強度を魔法が超えてしまうと使用者の身体は跡形もなく消えてしまうのだ。
故にこれは、勇者にとって最終手段、対魔王用のぶっつけ本番の技だった。
「ダメですっ!勇者様!」
魔術師が叫ぶ。それでも勇者の魔法構築は止まらない。
「俺にしか救えない命があるんだ!!!」
勇者の放った魔法を魔王は避けず———————— —————————————————貫いた。
ハアッ…ハアッ…。勇者は魔法に耐える事ができた。しかし、その身体はボロボロであちこちから血がでている。
勇者は身体を引きずりながら魔王に近づく。
「まだ生きているのか魔王…。それでも貴様の魔属性のない体ではこの剣を無効化することが出来ない。」
魔王は心臓部に大穴を開けながらもかろうじて生きていた。倒れた魔王は、どこかホッとしたような微笑みを浮かべている。その一人の人間のような表情に勇者は一瞬躊躇ったものの魔王の身体に剣を突き刺す。
「…………ゃっと…ぉ‥る」
魔王が何か呟くと同時に魔王の体から黒い光が吹き出した。勇者がギョッとしたその瞬間、
うぐわぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ-----っ!!!!!
勇者の背後から2つの叫び声が上がった。見ると仲間の魔術師と治癒士が頭を抱えて叫んでいた。2人の髪はみるみると白くなって抜けていき、一瞬で40年経ったかのように老けていった。
「っ!?」
勇者が混乱している中、治癒士が急に、血の涙を流しながら勇者に向かって飛びかかり、剣を奪い自ら首を切って死んでしまった。魔術師に至っては自らの手で首を掻き切って死んでいた。真っ白だった床に赤黒い血が広がる。
「おい!どうしたんだ?!」
我に帰った勇者が混乱のなか首から上がない治癒士の体を揺らしながらさけぶ。そんな勇者に背後から近づくものがいた。
「もう死んでるよ。見ればわかるだろ?」
背後からかかる場違いなほど淡白な声に勇者はビクっとして慌てて振り向く。
そこには勇者パーティーの女騎士、シーシエルが立っていた。シーシエルとは勇者の幼なじみで、赤色の髪をした可愛いよりもカッコいいという言葉が似合う真面目な性格の女だった。
「おいシー!!おまえがやったの「いいや違うよ。」
シーシエルは混乱している勇者の叫びに被せるように答えた。
「じゃあ何故死んだんだ!どうしてお前だけ無事なんだ?!」
「まあ、落ち着け一番目のオレ。えっと…何故治癒士たちが死んだのかだっけ?それは、魔王の最後に放った魔法のせいで全てを思い出したからだ。オレが狂ってないのはお前に全てを説明するために精神安定の魔法を同時にかけられたからだ。」
「全てを思い出す?全てを説明?」
勇者もだんだんと落ち着きを取り戻してきた。
<勇者視点>
「まあ、落ち着け1番目のオレ。えっと…何故治癒士たちが死んだのかだっけ?それは、魔王の最後に放った魔法のせいで全てを思い出したからだ。オレが狂ってないのはお前に全てを説明するために精神安定魔法を同時にかけられたからだ。」
(どういうことだ??シーは何の話をしているんだ。いや、コイツはシーじゃない?思い出したって何を?どうして治癒士たちはッ)いつからか声に出ていたのか、
「はぁ…何から話すべきか…まず魔王が何故この国を侵略していたか知ってるか?まあ知らないだろう?」
「魔王はな、お前を強くするために魔物を送っていたんだ。自身をお前に殺させる為にな。」
とコイツが言ってきた。
(俺に殺させるため?でも俺じゃなくても死にたいのなら…)そんな考えを見透かしたようにコイツが
「魔王はな、自身を含めてこの世界じゃ誰も本当の意味で殺せないんだよ。だから勇者であるお前を使った。正しくは勇者であるお前だけが使える、この世界の秩序に縛られない女神の魔法を使った。あーオレもだいぶ思い出してきたわ。」と言った。
(そうか。あの聖魔法を使わせるために俺を強くしたのか…でも魔王の侵略は俺が生まれる前かr「お前が生まれることは分かっていたんだ。……何故考えている事が分かるって顔をしているな。」
(!?何故俺の考えを読め「オレがお前だからだよ。」
「何ふざけたこ「ふざけてない。さっき言ったろ?1番目のオレ
って。」
言っている意味が分からない。コイツは俺の模造人間ということか?
「残念ハズレ。オレは1番目であるお前の3番あとの姿だよ。つまり4番目。来世の来世のそのまた来世。それが今のオレで正真正銘お前と旅してきたシーシエルだよ。だからお前の行動と思考のすべてが分かるんだよ。オレも昔はお前だったしな。」
「嘘だっ!俺の仲間のシーシエルはお前なんかじゃないっ!!」
「だから言ったろ『思い出した』って。オレは、魔王に思い出す魔法をかけられるまで心もシーシエルだったよ。」
「…信じられない。」
「まあいい、どうせ後で分かる。話が逸れたから戻すぞ。魔王が何故死にたかったのか、それはこの物語を終わらすためだ。」
(この物語?)
「この世界の生き物はな、すべてお前の転生後の姿なんだ。つまりは1人芝居だったということだよ。」
……どういうことだ?
「この世界が始まったのは、詳しい年数はまだオレもまだ経験してないから分からないが5億年前と言われている。そして最初の生物ーお前の何千、何万回と生まれ変わった後の姿ーが生まれたのが、約2億年前と化学者に言われている。まあその化学者もいくつも後のお前なんだけど。で、それから生まれて生きているのはすべてお前なんだ。超デカいドラゴンから体の中にいるすごく小さな生物までこれからお前が生まれ変わる姿だ。」
(は?すべての生き物が俺?今で関わってきた人たちが俺?……………体の中に俺がいるっ)
たっぷり数十秒かけて理解してしまった勇者は、自分の体に強烈な嫌悪感を覚えて胃の中の物をぶち撒けてしまう。
「うぇ、ばっちい。まあ知ってたけど。」
全く思ってないような声でシーは言う。
「で、何故魔王が「この物語」を終わらせるのか、それは魔王の体質に関わってくる。魔王はそういう体質なのか、生まれた時からすべてのこれまでの生まれ変わりの記憶を持っていた。けれど、生まれたばかりの彼は高い魔属性を持つ自身の体を殺せなかった。気が狂ったように暴れまわる彼に母親は、慌てて精神魔法をかけた。そして落ち着いた彼は、自分が1番目だったときに聞いた説明を思い出し、魂の破壊を行うのが魔王の役目であることを思い出す。そして勇者誕生の20年前から侵略を開始し勇者を鍛えることで女神の魔王を覚えさせ、魂の破壊を行う。そして魔王が4番目である『シーシエル』の記憶を蘇えらせて勇者に、ちょうど今のように全てを説明することによって1番目である勇者に最後のオレでありお前が殺されるというのが「この物語」。それがずっとループし続いているということだ。」
シーは喋りながら俺に精神安定の魔法をかけてきた。
そのおかげで今は正常な思考ができる。
(なるほどな。)
勇者の存在意義が魔王討伐であること、治癒士と魔術師の気が狂ったこと、魔王が最後に放った言葉『やっと終わる
』そのすべてが勇者の中で繋がった。
(俺もいつかあの治癒士たちを経験するんだろうな。)
精神魔法のおかげか勇者の中に恐怖はない。
「そういうこと。じゃあ頑張ってね。人のこと言えないけど。君も来来来世にはオレのようにその時の勇者ー1番目ーに説明しないといけないからね。ちなみに君は次に何年前かは分からないけど蛙の卵になって生まれる直前に死ぬからね。」
…嫌なこと聞いた。
そして俺は、立ち上がると治癒士の横に転がっている剣を持ち、何のためらいもなく自分の首を刺す。
いつか魔王になってこの物語を終わらせることを夢見て…
途中勇者の返答が的外れだったけど、そこは仲間思いだったということで…!