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熱中症の話

 第1話 熱中症の話。


 目覚めると、蝉が鳴き、鳥も鳴き、カエルも鳴き、そして、隣で彼女が泣いてる。

 真っ白な枕が、涙によってねずみ色になっていた。

「なになに、何があった?」

「昨日、かいちゃん早く寝て、全然構ってくれなかったもん……それから全然寝れないかと思ったらすぐ寝れちゃった自分が恥ずかしいぃ!」

 なんと意味わからない原因だろうか。それで泣くか?と思ったが、これはいつもの事だ。

 海斗はそっと彼女である恵美を抱きよせ、頭を撫で朝食の準備をした。


 いつものように彼女は昨日録画したテレビを見て、パンをひとかじり。

 海斗も、それを見ながらパンを食べている。

 食べ終わったら、行ってきますの声と共に会社に行くのが普通の家だが、この家は違う。


「ねぇねぇ、かいちゃん。行ってきますのチュー、しよ?」

「俺たち付き合ってもう5年だよな……」

 そう言いながらも海斗は恵美の口にそっと唇をつける。これがたまにならいいが、毎日だ。5年間ずっとこうしていた。

 最初は可愛いと思っていたが、今はもう甘えん坊すぎるとやや困っていた。

「えへへ、行ってらっしゃーい!」

「はーい」

 恵美はそう言い、テレビドラマを見る。

 すると、テレビに出てくるセリフに、衝撃が走ったようだ。


『俺がいるのは、お前を守るためだ!』


「おぉぉぉ!」

 この部屋には1人だけだが、声を出し、目を輝かしていた。


 夕日が沈む頃に、海斗は帰ってきた。

 すると、ドアの前に恵美が指をさして立っていた。

「私がいるのは、お前に甘えるためなのだぁ!」

 そう言うと、恵美は海斗に思いっきり抱きついた。疲れた海斗には、癒しでしかなく、優しく抱きついた。


「夜ご飯、作っといたよ! 今日はハンバーグとサラダなの! えへへっ」

「お前料理は美味いもんなぁ」

 恵美は料理が上手い。小さい頃母親にしこたま特訓されたからだ。そんな彼女の得意料理がハンバーグ。母親もハンバーグが得意だった。


 テレビを付けると、茶色い帽子を被った男の人が叫び出した。

「ハンバーーーグ!!」

 海斗は思わず吹いてしまった。このタイミングで来られると海斗でも耐えられなかった。

「ハンバーグ美味しい?」

「う、うん、美味しい」


 海斗と恵美は食べ終わり、2人で手を繋ぎながらテレビを見ていた。

「なぁなぁかいちゃーん。」

「ん?」

「け、結婚は……」

 海斗はビクッとし、恵美の手を一瞬強く握った。

 彼女の目はものすごく輝いていたが、海斗は首を横に振った。

「前にも言った通り、お前の大学が終わってからな。俺は今社会人1年生で働いてるけど、お前はまだ学生だ。お互い社会人になってからって決めただろ?」

「待ちきれないもん……早く結婚して、かいちゃんの子供産みたいの!」

 海斗はもちろん、恵美のことを思って来年と言っている。だが、恵美は海斗と早く結婚したい。いつも恵美の言うことは素直に聞く海斗だが、これだけは来年だと言い張る。


「お前が今結婚して子供ができたら、卒業論文とか、他に色々出来なくなるぞ。ただでさえ、今はもう秋だ。1番重要な時期だ。だから、お前が卒業できたら結婚しよう。」

「かいちゃんが私の事思ってくれてるのは知ってる。でも、このままかいちゃんがどっか行かないか怖いの……」

 恵美は泣きそうな顔で海斗を見た。すると、海斗は恵美の手を引っ張り恵美の頭に手を添え、唇に口を付けた。


「……これでまだ、俺がどっか行くと思ってんのか?」

「……もう、かいちゃんのばか……」

 2人はその日もうベッドにつき、恵美はすぐ寝ていた。

 海斗は、難しそうな小説を読み終わったあと、電気を消し眠りについた。


 朝おきると、恵美が顔を赤くして苦しそうにしていた。

「ど、どうした、恵美」

「わかんない……なんか、頭痛い……」

 海斗は、熱さまシートを恵美の頬に貼り、水を1杯飲ませた。

 海斗が慣れた手つきでお粥を作り、本を読んでいる恵美に渡した。

 すると、恵美が口を開いた。

「ねぇ、チューしよ?」

「お、おう」

 海斗は恵美にそっとキスをすると、恵美は驚いて大声で、と言うほど大声は出ないが、叫んだ。

「な、いきなりなにして……」

「は、はぁ!? お前が、チューしよって」

「私は熱中症って言ったの!」

 頭に雷が落ちたような感覚だった。自分の聞き間違いで、恥ずかしいことをしてしまった。

 顔を真っ赤に染めながら、恵美のくちにお粥を持っていく。


「かいちゃんのお馬鹿」

「お前恨むぞ……」

 だが、恵美は嬉しそうだったため、海斗は少し安心した。

 その日の昼も、海斗がお粥を作り、恵美に食べさせる。

「あれ、これ鮭入ってる!」

「同じ味じゃ飽きるだろ?」

「むぅ……流石かいちゃん……」

 その顔を見て、海斗はふと何かを思い出した。


【お馬鹿な男性を騙す方法!それは****】


【これは騙されますねぇ。されたら一瞬ドキっとしますもん】


【大事なのは、悟られない事です!】


 海斗は汗をかいていた。

「め、恵美、朝の熱中症ってまさか……」

「テレビでやってたの! 海斗すぐ騙されるんだからぁ。」


 やっばりか。と、海斗は落胆した。それを思い出せていれば、騙されなかった。そのテレビをやっていたのは1ヶ月前。まだ覚えていられる期間のはずだった。

 そしてここで海斗はもうひとつのミスを見つけた。


【 今はもう秋だ。1番重要な時期だ。だから、お前が卒業できたら結婚しよう。】


「お前……熱中症ってのも、嘘だな……? まさか、風邪も!?」

「風邪は本当だよぉ。ただ、ちょっと熱中症ってやってみたかったの……」

 海斗は負けた時のように悲しんでいた。

 ただ、熱中症じゃないって事が分かり、少し安心した。


「ふぅ……じゃあ皿片付けとけよ」

「分かった! 」


 ──いや、ちょっと待てよ。恵美はただの風邪。そして俺は、恵美に……


「やば……」

 海斗は持っていたコップを思わず地面に落としてしまった。


 次の日、海斗と恵美は、仲良く風邪を引いたのであった。

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