恋に落ちる。
指先が真っ赤になるほど寒い日に
私《森田彩葉》と彼《仲村頼斗》は出会った一一
「うぅーー寒すぎ!」
そう小言を吐きながら私は自販機であたたか~いコンポタージュを買い、缶をホッカイロ代わりに手を暖めていた。今朝のニュース番組で今年一の寒さと言われていただけのことはある。今すぐにでも家に帰りこたつで暖を取りたいくらいだが、あいにくこれから面接があるためそれは叶わない。
何度も何度も面接落ちをして周りが就職してもなお就職活動の真っ只中な私はだいぶ心が荒んでいた。
(どーせ今日のところだって…受けるだけ無駄だよ)
悪い方にばかり考えてしまい、面接会場へ向かう足が鉛のように重たい。だが何社も断られていくうちに自信なんてものはパキッと折れてしまったのだ。
「これお願いします!」
下を向きながら歩いていたが、目の前に差し出されたチラシに吃驚してバッと顔を上げた。そこには自分より少し年上くらいの男性がいて、私に笑顔を向けている。黒髪で高身長で爽やかなイケメンという自分のタイプな見た目をしていたため、ちょろい私はそのチラシを受け取った。
「ありがとうございます!僕ら夕方から無料ライブをするので良かったら見に来てください!」
「ら、ライブ?」
「このビラに他のメンバーのことも書いてあって…」
そう言われてチラシに目を向ける。するとお兄さんは指をさして「ここに名前書いてあるんだけど、僕が頼斗って言います。で、こっちが一一」とメンバーの紹介をしてくれた。イケメン揃いだったが、正直、目の前にいるお兄さんが一番タイプだ。
「…かっこいい」
「ホントですか?!嬉しいな!」
思わず漏れた言葉を聞いたお兄さんは先程よりも眩しい笑顔を向けてくる。あまり男友達がおらず免疫が低い私にとって彼は危険だった。勘違いしてしまいそうだが、彼にとってこれは仕事の一環なのだ。
「わ、私、これから仕事の面接があって…」
ここから立ち去らなければ、と思い、私は話を終わらせようとした。すると彼は少し残念そうな顔をした後に「緊張する時は深呼吸するのオススメだよ」と言ってまた笑顔を向けてくれた。
「ありがとう…ございます」
強ばってるように見えたのだろう。彼の気遣いが嬉しかった。私は「ちょっと待っててください」と言って近くの自販機で先程と同じコーンポタージュを買い、彼のところに戻りそれを渡した。
「今日は寒いので、よかったら」
ちょっとしたお礼のつもりだった。こんなイケメンに仕事とはいえ元気づけてもらえたことが嬉しかったし、彼の指先が寒さのせいで赤くなっていたから。
調子に乗りすぎたかな、と少し不安に思ったが彼は少し驚いた顔をして受け取ってくれた。
「ありがとう…オレ、頑張れるよ!」
そう言って彼がニコッと微笑んだ瞬間、私の心臓は大きく跳ねた。これはまずい。そう思って「じゃあ、行きますね」と別れを告げて足早にその場を去った。
いくら耐性がついてないからって単純だ。笑顔を向けられてちょっと気になり始めるなんて単純すぎる。
こんなにも火照る顔を情けなく思いながらも面接会場へ向けて歩き出し、道を間違え迷子になった。