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第5豚 豚公爵、最終兵器を投入する

 とある世界の、とある公爵家領内にて。


「お姉様、お願いがあるのですが」


 公爵令息は、いつも通り猫を被って公爵令嬢・カテーテル・ピッグテヰルに声をかける。


「あ、メタボル!


 貴方、私と公爵学について学ぶとあれほど……!」


「申し訳ありません、お姉様、でも、大事な話なんです!」


 公爵令息は眉をハの字にして公爵令嬢にあざとく頭を下げる。


「え……な、なによ、どうしたの?


 ……わかったわ、話を聞くから顔を上げなさい」


(チョロい)


 公爵令息は、姉から見えない角度で、いやらしい笑顔を浮かべるのであった。


 ########


「貧民街の女の子と!?


 なにそれ、真実の愛(ピュア・ラブ)じゃないの!」


 公爵令嬢は頬を染めて、弟の話を聞いていた。


 いや、実際はどこまで聞いているのか怪しい。

 どうやら公爵令嬢の恋愛小説脳は、よくわからない脳内翻訳をかけているようにしか思えなかった。

 そもそも、真実の愛(ピュア・ラブ)ではないし。


「つまり、想い合ってる二人を、彼女のお姉さんが邪魔してるってことね!


 なにそれ、サイテー!」


「お、お姉様、大体合ってますが、なにやら根本で間違っている気が……」


「安心しなさい、メタボル!」


 公爵令嬢は満面の笑みで、公爵令息の両頬をムニッと掴みながら声を上げる。


「貴方の真実の愛(ピュア・ラブ)を邪魔する人間なんて、お姉ちゃんが、お尻ペンペンしてあげるんだからね!」


 自信満々だった。


 公爵令息は、『相談する相手、間違えたかも』と、思った。


 だからそもそも、真実の愛(ピュア・ラブ)ではないし。


 ######


 とある公爵領内の、とあるスラム街の、とある教会にて。


 公爵令嬢の『どうしても彼女の姉と会って話がしたい』と言う言葉を叶える形で公爵令息は姉と教会へ向かっていた。


 連れにはメイドと騎士と、それから、キサイがいた。


 教会の扉が開かれる。


 中には、いつぞやのように台の上で足を組む奇抜な着物の少女がいた。


「おや、今日は大分大人数じゃないか。


 ま、いくら数を揃えてきても、キサイを渡すつもりは……んん?」


 着物の少女は話していた言葉を放り投げて、公爵令嬢達へ目をやった。


「お、おい。


 あんた、公爵令嬢様、なんだよな?」


「ばい"」


「……キサイについて、話に、来たんだよな?」


「ばい"」


「な、なんで。


 なんで泣いてるんだ(・・・・・・・・・)?」


 公爵令嬢は、泣いていた。


 号泣であった。


 鼻水もビュンビュン鳴らしていた。


「……なんか、スラムに入った時から既に泣いていたぞ。


 ……アレルギーか?」


 キサイの突っ込みに、手持ちのハンケチーフで鼻水をビーッてしながら首を振った公爵令嬢は。


「ピッグテヰル公爵令嬢として命じます!



 今日からここを、スラムの食料配給所としなさい!」


 と高らかに宣言したのであった。


「「「「「……は?」」」」」


 回りにいた全員が、疑問符を浮かべていた。


 メイドや騎士ですら「何言ってるんだコイツ」と言う顔をしていた。


「騎士の皆様!


 今すぐ公爵領倉庫へ向かい、小麦5キロ、野菜5キロ、肉1キロ持ってきなさい!」


「え、いや、お嬢様……」


「早く!」


「は、はい!」


 公爵令嬢の声で、騎士達は動き出した。


(これだ、これだよ)


 公爵令息は、ほくそ笑む。


 公爵令嬢は、激情家であった。


 自分勝手に首を突っ込み、全然関係ない答えを見つけて、明後日の方向から問題を解決する。


 小さな問題を提起されたら、何故か大きな問題を10個くらい薙ぎ倒しつつ解決するその姿から、彼女は『ピッグテヰル家の最終兵器』と、家族内で恐れられていた。


 公爵令息も最初は、周到に張り巡らされた策なのかと考えたこともあった。


 しかし、どうやら違う。


 彼女は、天然でコレをやっているのだ!


(……うん、い、良いんだよな、これで……)


 予定通り進んでいるはずの現状であるにも関わらず、公爵令息の頭には、未だクエッションマークが浮かんでいるのであった。



 公爵令嬢は更に、鍋やら水やら、この場所で調達できそうなものをピックアップしていく。


「取り敢えず1日1回、スープみたいな形で提供出来れば良いと思うわ。


 メタボルは、どう思う?」


「え、は、はあ。


 いいと、思います」


「ちょ、ちょっと待てお前ら!」


 公爵家姉弟に向かって、着物の少女が突っ込みを入れた。


「食事?

 スープだあ?


 そんな一時的なものでキサイを連れていくつもり……」


「一時的ではありません」


 公爵令嬢は、着物の少女をまっすぐ見つめながら言葉を続ける。


「スラムの惨状を理解しました。


 父を説得し、これから毎日1日1回の食事を提供すると約束しましょう」


「あ、あう……」


 呆れて物も言えなくなった着物の少女の様子を肯定ととらえた公爵令嬢は、にこやかにガッツポーズを決めた。


「任せてください、スラムをこのままにするお父様なんて、この私が、お尻ペンペンしてあげますから!」


 彼女のガッツポーズに、公爵令息は、『あっ、ダメかも』と思った。

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