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第2豚 豚公爵、虚勢を張る

 とある世界の、とある国にある、とある公爵領の、とある公爵領家図書室。


「……シスコネ、我輩は、退屈であるぞ」


「おや、珍しい。


 図書室はメタボル様の一番のお気に入りの場所であるというのに」


 公爵令息の溜め息に、メイドはそう答える。


「図書室にある魔術の本を、全て読み終わってしまったのだ」


「……復習、してみては」


「既に全て5周は読んでいる」


「化け物かよオイ」


 公爵令息の計り知れないスペックに、メイドは思わずタメ口で突っ込みを入れた。


「それでな、少し、外の世界に出てみたい」


「外……ですか?」


「ああ。


 目当ては、ココだ」


 公爵令息の指差す地図の先を見て、メイドは溜め息を吐く。


「……なんで(・・・)スラム(・・・)なんですか(・・・・・)?」


「知れたこと。


 魔法で人を殺しても(・・・・・・・・・)問題ない場所だからだ(・・・・・・・・・・)


「……まぁ、良いですけど」


 実際に現地に赴いて、あまりの惨状を目の当たりにすれば、流石にそんなことはしないだろうという目算を持ってして、メイドは頷いた。


 #####


「メタボル!


 メタボルはどこなの!」


 そして、公爵家内では、またもや、公爵令嬢の叫び声が木霊するのであった……。


 #####


 公爵領内・スラム街にて


「ほう、ここが、スラム街、か……」


 公爵令息は、思った以上の環境の悪さに絶句する。


「……変な悪徳カルテルとかが絡んでいるせいで、トランプ公爵の改革も進んでいない場所、ですからねぇ」


 メイドの言葉を聞いているのかいないのか、メタボルは嬉しそうに声を上げた。


「お、おい!


 子供たちが森の中に入っていったぞ?


 森の中なら、人が死んでも、不思議じゃないよなあ?」


「……なにかしそうだったら、全力でぶん殴りますかね」


 走り出す公爵令息に、メイドはそんな言葉を呟いたのであった。



 #######


 森の中では、おかしな光景が、繰り広げられていた。


「引き付けて、引き付けて……今!」


 数名の前衛と、数名の魔法狙撃主。


 とは言っても、それらは、全員が、子供(・・)


「前衛散開、後衛は打って打って打ちまくれ!」


 そして、相手しているのは、大人が数十人掛かりでも倒せないような、巨大な熊であった。


「よし、両目とも潰したぞ!


 後衛も散開、引き続き打ちまくれ!」


 指揮をする声に反応して子供たちは集まり、離れて、熊を追い詰めていく。


「な、なんだ、あの魔法は……?」


 公爵令息はまるでレーザーのように放たれる魔法の数々に、驚愕の表情を浮かべていた。


 それは、かさ上げして圧縮して、実用に耐えうる程度にまで昇華させた、単なる初級魔法であった。


 しかし公爵令息は、気づく。


 自分が学んでいた上級魔法では、この単なる初級魔法(・・・・・・・)に、敵わないと。


 魔法の全てを理解したとすら考えていた公爵令息にとって、この現実はハンマーで殴られるような衝撃であった。


 #######


 倒した熊をソリのような板に載せ、回収しようとするスラムの子供たちに向かって、公爵令息は叫んだ。


「子供達よ、喜ぶがいい!


 貴様らには、今使用した魔法について説明させる機会をやろう!」


「え、はぁ、要らないです」


 指揮を執っていた少女が、間髪入れずに断った。


「ぬな、お、お前……我輩は、」


「私たちのチームに入りたいなら、方法はひとつ」


 少女は、空に向かって、指を指す。


「キェ~!」


 変な声をあげて、変な鳥が落ちてきた。


 それを右手で掴むと、少女は公爵令息に、背中を向ける。


「一人で、獲物を一つ、チームに献上しな。


 話はそれからだ」


「ぐ……。


 わ、わかった、狩ってやる」


「まぁ、私達は毎日大体この時間にこの辺で狩をしている。


 何かあればいつでも来い。


 公爵令息(・・・・)()?」


 少女の言葉に、公爵令息は、息を飲む。


「ほう、我輩を、公爵令息と知っての、狼藉か」


「天才魔導師との御名も高き公爵令息樣には、少し簡単すぎる課題、かもなぁ?」


 少女は知っていた。


 頭でっかちの彼では、獲物を取ることは出来ないと。


 公爵令息も、理解していた。


 今までの自身の魔法知識は、単なる机上の空論似過ぎなかったのだと。


 だから(・・・)


「……ぶひょ、ぶひょ。


 ぶひょひょひょひょ(・・・・・・・・・)ひょひょひょひょひょ(・・・・・・・・・・)!」


 公爵令息は(・・・・・)嗤った(・・・)


 この世界の魔導師は、大きく分けて、二つに分かれていた。


 一つは、原理を追求し、書物に没頭する、高貴なる者。


 もう一つは、磨きをかけて、日々の糧を得る道具として使う、下賤なる者。


 どちらも正しく、どちらも間違っている。


 そして。


 高貴なる者は。


 下賤なる者に。


 こう、叫んだ。


「言ったな、間抜けめ。


 ぐうの音も出ないほどの獲物を渡してやろう。


 せいぜい震えて待つが良い!」

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