あなたが〇〇かッ!
燦燦と明るく、全てを色とりどり鮮やかに美しく輝かせた陽はゆらゆら落ち、全ての景色を上塗りするようにその景色を世界はどこまでも赤く紅く、朱くすべて染めあげていく。
青々と清らかな光を反射していたはずの湖は波紋のように緋に染まっていくだけで、今までのその清らかさが全て嘘だったかのようにどこか妖しげな雰囲気を漂わせ始めていた。
――そんな、暮れていく陽の色を全部呑み込んでしまったかのように水面を揺らめかせているのを、水際の傍に座り込んでただただ静かにぼーっと眺め、ため息を零す。
「はぁ……」
考えること、やるべきことが多過ぎて疲れた。
「…………」
――デイジーのことは、ずっと気になってはいた。
ただ、あの舞踏会の夜から私があまりに長らく眠っていたせいで時間が経ってしまっていて、何かしら調べようと動こうとした時には、デイジーは既に国内にすら居なかったから。
さらにいえば言い訳かもしれないが、他の重大な案件で次々と忙しく動いていたために、その後も調べる余裕がまるで無かった。
――ミツケタ
「――――」
――逃げて!
「――――」
アレは何だったのだろうか。……いや。心当たりは、ある。
――アイリスに憑りついてた、例の謎のモヤだ。
「っ……はぁ」
頭が痛い……考えようとすればするほど、さらに執拗にズキズキと酷く痛む。
――だからだろうか。未だ遠くのほうで賑わっている貴族たちを放って、気付けば無意識のうちにこの湖でもっとも神秘的で静謐な場所へと足が自然と向けられたのは。
昔から何となく、度々この湖へと無意識のうちにやってきてはそのまま何をするでもなく、ぼーっと独りぼんやりと完全に暮れるまでの短い景色を眺め、のんびり過ごすことが多かった気がする。
……何故そうしてしまうのかは、自分でも分からない。
「――――」
大地も、空も、森も、湖も、全てが陽の色を被って、こんなにも美しいからか。
どんなため息も、全て呑み込んでくれるだろう包容的で心安らぐ景色だからか。
「――――」
眺めているだけで、ただそれだけで充分だと満ち足りるとても特別な場所。
そのはずなのに――何故だろう……妙に物足りない。度々赴くのはそのせいか。
「――――」
……もちろん。感嘆を零さずにいられないほど、素晴らしく美しい景色なのだ。
誰しもがそのあまりの美麗と妖艶さに見惚れて足を止め、穏やかで緩やかな深い情愛を感じずにはいられないほどに。
――なのに、何かが物足りない。何が足りないのか、分からない……。
「――ッ」
この前のカトレア庭での園会から時折、ちらちらと頭の片隅で散る何か。
――日に日に輪郭が、ぼやけて消えていく。
「――オイ。なんで泣いてんだ?」
「あ……」
いつの間にか傍に、あの森での一件以来どこにも見当たらなかった小人さんが、いかにも面倒臭そうな表情で私をひょい、と覗き込んできていた。
その真っ直ぐと射貫くような眼差しはとても真剣で、どことなく心配してくれてる雰囲気もあって私は――突然のことに、びっくりして無意識の涙も引っ込む。
「――――」
「誰かにイジメられでもされたのかよ?」
しゃがみこんだ、私。
私の目線で覗き込む、小人さん。
「……きゃ」
「きゃ?」
きゃわわわわ……っ!!!??
「きゃわわわわ……っ!!!??」
あ、まずい。つい心の声が……はっ! そうだそれよりも!
「なんてきゃわ……可愛らしいのかしら!?」
「……あー、くっそ」
逃げられる前にがっしり掴まえ確保、即座に抱っこする。
……前の手乗りでは決して味わえなかっただろう、重厚なサイズ感に感動必須!
「きゃー、お姉さんもう我慢できない! ほっぺすりすりもしちゃう!」
「…………」
――ちょうどよい抱き心地の幼女サイズ! 超絶可愛いな!?
抱っこすりすり攻撃に哀愁漂う幼女サイズの小人さんを好き勝手愛でる。
そう決めていた! ……機会がなくて、この時まで完全に忘れてたけども。
想定していたサイズがちょっと誤算だったけど、これはこれで……げへへ。
「しょれしょれーすりすり~!」
「…………」
ぐてっ……と萎れる小人さん――これは事案じゃない。
正当な権利であって、被害者の特権……! ……は言い過ぎか。でもやめない!
だって、ちょー可愛いんだもん? ならいつ愛でるの? 今でしょッ!?
「ぐふふ……きゃわわ……」
「……気は済んだかよ」
ぶつぶつと呟きながら見せられないよ! な顔で思う存分すりすり愛でて堪能していると、ぐったり身を任せたまま小人さんが死んだ魚のような目で遠くを見ながら聞いてくる。
え? 満足したかってこと? そりゃもちろん――。
「ええ、当然まだですわよ」
「……文脈おかしいだろ」
「……そんなことありませんわよ?」
私が断固として抱っこを解除する気がさらさら無いとすぐさま悟ったのか……むにゅ、と眉を寄せてから一拍後に諦めたようにガックシと項垂れた。
よし。抱っこ継続に免じて、すりすりはやめてやろう……少しの間だけ。
「私を心配して出て来てくださいましたの?」
「……別に」
まあっ、なんて生意気可愛ゆいっ!
つーん、な態度ににこにこ癒される。はぁ、可愛いわぁ……。
「少し疲れてぼーっとしていただけですわ」
「……そうかよ」
つんつん可愛いなぁ。
こう、溢れんばかりに愛でたい衝動に駆られる罪な可愛さよ。
「さらに可愛らしくなりましたわね。成長期ですの?」
「へっ、オレ様が可愛いのは当然だぜ」
生意気! でも本当に可愛い! それは揺るがない!
「それと成長はしてねェ。単にデカくなっただけだぜ」
それを成長というのでは……? と首を傾げる途中で気付いた。
「!!!!」
――手乗りの時と変わってない!
何を言っているのか分からないだろうが、私も混乱していた。
よくよく見れば拡大した、というか倍率上げた、というか……ズームイン?
気付かなかった。あまりに可愛らしいサイズ感に衝動が抑えられなくて……。
「ぎゃんかわ……すりすりしていいわね?」
「…………」
だめだ。じっくり見て、あまりに可愛過ぎて愛でたい衝動が納まらない……!
小人さんにじと、な目でみられるが構うものですか! ――すりすり~!
「だー! いい加減にしやがれ、クソ面倒な!」
「面倒と言いつつされるがまま、そんなあなたに愛い提供」
「何言ってんだ……?」
おっと。ノリがどんどんやべー奴になってきた。自重しよう。自重。
……すりすり。なでなで。
「はぁ……たまりませんわねえ……落ち着きますわぁ……」
本当に好き勝手でもされるがままでいてくれるので、やりたい放題である。
そろそろ本気で事案かもしれない。
「どうして美しさに癒されないのかしら……」
どこぞの特殊部隊な魔女が言いそうな言葉がつい、ぽろっと出てくる。
……あのストレス発散方法は全く参考に出来ないし、するつもりもないけど。
ただストレスというは、基本的に趣味や睡眠なんかで発散出来るもののはずだから、あながち魔女のと先につくならアレはアレで間違いではないのだ。
――私の趣味とは絶望的に合わないけど!
「癒されたい原因がなくなってねェからだろ」
「……!!」
なるほど……! そういうことだったのか。納得。
にしても美しいもの大大大好きな私が美しさに癒されないなんて……もしや。
「そうだわ……きっと可愛らしさの要素が足りなかったのよ……」
だからこの可愛い存在を全力で愛でて気力を回復せねば……。
「オイ、急にどうした。大丈夫かよ?」
何故か急に目からハイライトが消えて闇落ちしていく私に、何かに勘付いた様子であたふたと慌てたように抱っこの中でジタバタもがく小人さん。
……うん。可愛い。浄化されて戻って来れたわ。可愛くてありがとう。
「……大丈夫ですわ。ただ、奉迎祭のことを思えばとても憂鬱で」
そう、奉迎祭。――何も準備してねえ! どうしよう!?
私がこんな隅っこで、ぼけっと現実逃避よろしく憂鬱な原因がこれだった。
「私、実は参加するのは今年が初めてでしたの」
何故かこの歳になるまで私は参加禁止とされていたので、遠目の雰囲気くらいで実際の現場を見たことはない。その為、いきなり準備と言われても何をどうすればいいのか全く分からなかった。……方法はともかく、正直いえばカモミールの売り込みは大変助かった。てか全部任せた。もうむりしぬ。きゃぱおーばー。
……母はあの危篤状態だし、アザレアは付きっ切りでそのお世話だし、父は未だに不測の事態に対処するために皇女様の近くに待機中だし、兄はずっと行方不明のままだし。
――せめてお兄ちゃんだけでも、居ればなあ……。
「お兄様はいったい、どこで何をしていらっしゃるのかしら」
チートな兄がいれば、戦闘に関する諸問題のみはすぐさま終わっていただろう。
定期的に何度か兄の召喚を試みてはいるが、まるで応答しない。
「心細いですわ……」
ぽつり、と憂鬱による不安が漏れた。
……いや。もしかすれば、あっという間に過ぎていってしまったここ一年間でずっと独り溜め込んでいた不安がついに漏れてしまっただけなのかもしれない。
心細い、怖い、寂しい――そんな憂鬱が。
「――魔女の奉迎祭では、彗天燈を飛ばすんだぜ」
……彗天燈?
「遠くからでも見た事ねェのか? 天高くへ昇る、光の軌跡を」
「あ……」
参加禁止の留守番中に遠くからなんとなく見た事、あるかも……? どうだったっけ。ただの明かり代わりだと、しっかりとは見ていなかったかもしれない。先入観で勿体ない事したかな……。
祭りと言われると、どうしても夜中の花火大会みたいなものをイメージしてしまうせいか、明るいのは至極当然なものだと思い込んでたのかも。
「その彗天燈は想いを載せて飛ばすためのものだ」
「想いを……?」
ちょうどよい位置にあったつむじに顎をのせたまま、腕の中に大人しく納まってる小人さんの言葉が理解出来なくて疑問が漏れた。
ふ、と笑われたような振動がした。
「なんでもいい。――テメェが大事にしてる想い、それを飛ばすんだ」
「大事な想いを……」
短冊みたいなものだろうか? あれは笹に結ぶだけだけど。
てか、そんなロマンチックなものだったの? 魔女の祭りとは思えない……。
「何かの願掛けかしら?」
「――いや」
強い否定に不思議に思って続きを待っていると。
少しだけ逡巡したような間を開けた後で、小人さんが教えてくれた。
「……捨て去るために飛ばす」
「捨て、去る……何故」
何故かぎゅ、と無意識に小人さんを抱っこする腕に力が籠ってしまう。
「魔女の想いは――執着だ」
「…………」
……そう言われれば、そうだろう。心当たりが多過ぎる。
「執着が悪ぃとは言わねェよ」
「…………」
「ただ……その執着に囚われすぎた末に、必要とあらば真っ先に己すらも執着の果てに捨て去ろうとするのは愚かに過ぎる選択だぜ」
それは果たして愚かな選択、執着なのだろうか……。
――私にはどうにも、それが無償に与える愛のように想えた。
「――これは戒めだ。魔女にとってのな」
「…………」
その言葉の向かう先は、どこか遠くにあるようであった。
……親しい魔女に、そうして執着の果てに己すらも捨て去った人が居たのかな。
「ま、どうせ捨てても捨て切れないからな! ――だから毎年飛ばすんだぜ?」
「そうでしたのね……そんなこと、ついぞ知りませんでしたわ」
除夜の鐘を鳴らすのと同じ感覚なのだろうか? 煩悩よ消え去れ! 的な。
戒め、ね。魔女独自のヤバめな年越しイベントかと戦々恐々……いや待て。
まだ全てがヤバくないかどうかまでは分からない。ぬか喜びだ。落ち着け。
「どうせテメェが慌てる姿でも見たかったんだろうぜ」
「有り得ますわね……」
その時になって急に「あなたの大事な想い、飛ばして下さい」とか言われたら、先程みたいに勘違いして素直に従って飛ばしてしまうだろうし、その飛ばした後で「実は飛ばした想いは捨てられました」とか言われたらぎょっと盛大に慌てることだろう。
慌てて、戻って来ーい! カムバァァァァアアアアアアアアアッッ!! と内心でわあわあ叫び散らす自分、というところまで物凄く容易に想像出来てしまった。
……よし、未遂だけど先にしばいておこう。そうしよう。
「あなたは、どのような想いを飛ばしますの?」
「――――」
内心でどう魔女をしばいてやるか考えつつ何気なく、会話の流れで聞いてみた。
……ら、沈黙されてしまった。え。なんで。
「……もしや参加は致しませんの?」
長い沈黙に耐えられずに、恐る恐る問いかける。
「――まァ、そんなとこだぜ」
ちょっと沈んだ声音の返答に、ついつい可哀想になってしまう。
参加しないのは、小人さんだからかな……? 魔女の祭りだし。
「……テメェは何を飛ばすつもりだ?」
ちょっと気まずくなったのを敏感に察したのか、聞いてくれる。
……私の大事な想い、か。
「――実は、」
少し迷いつつも、それを口にする。
「どうしても、思い出せないものがありますの」
「…………」
「何度も何度も脳裏を掠めはするのですけれど、それでも思い出せなくて……」
何故、こんなどうしようもないことを小人さんに言ってしまったのか。
想いや記憶なんて曖昧なもの、本人以外にどうしようもないことなのに――。
「――花、だと思うのですけれど……」
「――――」
たった一度だけ、大きく脳裏を掠めたあれは花だった。気がする。曖昧な記憶。
――どうして忘れてしまうのだろう。忘れたくないのに。
「……いえ。これでは、捨てるのではなく拾い集めたいようですわね」
何故かうる、と瞳が涙で潤い始めた。
なんだか突然、物凄く悲しくなってきてしまったのだ。
私ってば、こんなにも感傷的だったっけ……? 分かんない。
「――――」
元々、物凄く涙もろかったような――全くそうじゃなかったような。
「おかしいですわよね。花の名前も種類も、意味も知らないのにこだわって」
――最近、気付いた。
私は花の美しさを愛してはいても、その意味までを愛しているわけじゃない。
貴族なのに、花言葉を何も知らない――興味ないのが良い例だろう。
あれほど貴族としての教養を云々と必死に勉強していたはずなのに。
――これだけ興味ないなんて、あまりに不自然だった。
空、雲、山、洞窟、鉱石、川、湖や海等と――花以外にも美しく想えるものは数多あれど、それらの美しさを知って愛ではしても、美しさ以上に愛でることはないし、興味も湧かない。
――まるで私の中の何かが欠如しているかのように。しかも埋まることもない。
美しいものが好き? ――本当に?
そのものを好いているにしては、私の想いは歪にすぎる。
「……これは魔女の執着、なのかしら」
そんな歪な私が、忘れてしまった花。美しい花。――忘れたくない。
ふとしたきっかけで思い出した程度の、花。美しい花。――忘れたくない。
その辺に咲いている花を見ても、美しい以上に心動かされることはない。
――けれど、その美しい花は。
「……どんな花だ、それは」
「――とても色鮮やかで、」
とても美しい、花。
「とても華やかで、」
とても美しい、花。
「とても上品で優雅な――」
とても美しい、花。
「――とにかく、あらゆる美辞麗句を尽くしたとしても、全くもって褒め切れている気がしない、――そのように、とても美しい花なのですわ」
「……盛り過ぎだろ」
「そうかもしれませんわね」
次々と賞賛の言葉を述べながら、なんだその期待値爆上げされた花は……と自分自身にツッコみたくなる。
その花に対してだけ、異様に贔屓が過ぎるだろと。
「――けれどきっと、私が最も大好きな花なのですわ」
「――――」
……こんなに好きなのに、どうして忘れてしまうのだろう?
「――やるよ」
「え……」
腕の中からぽいっと雑に何かを後ろ手に渡される。……何これ?
貰ったのは、ミニトマトみたいな丸っこい何かであった。
「なんですの、これは」
「花の種だぜ」
「……種」
だから自分で育てろと? ……話、聞いてた? 違うんよ。
「……この種は、私の求めている花の種ですの?」
大事なのはそこだ。関係無い花を数年掛けて育てても違うなら意味は無い。
だから急に渡された種に、もしかして……とちょっとだけ期待してしまう。
「さあな」
さあな!?
「――だから、オレ様を信じろ」
「無茶苦茶言いますわね……」
急に胡散臭さ倍増。
詐欺師の常套句みたいなことを突然言われましても……。
「オレ様を信じてりゃァ、必ず奇跡は起こるぜ」
「新興宗教の勧誘ですの?」
奇跡なら後じゃなく今、起こしてくれないものか。
それなら入信もやぶさかではないが……。
「宗教なんざ何の意味があんだ?」
「……さあ、神の教えを守り広めるため?」
もしくは善悪の秩序の為とか。
「――ハッ、神が何かを進んで教えるものかよ」
「教えませんの?」
「どうせ聞かれたから答えただけだろ――テメェから進んでは何も教えねェぜ」
……なるほど。確かに。その考えも一理あるかもしれない。
よくよく思い返せば、先にこちらが問いかけてから答えてくれる構図が多い。
そして御告げなんかも、煩悶や望みが先に在るのが殆どだと思われる。
「知りたいことがあんなら、神に直接聞きゃァいい。何でもかんでもご親切に教えてくれるぜ。――それが出来ねェのは、結局は神の存在を信じ切れてねェからに過ぎねェよ」
「辛辣ですわね……ですけれど、宗教がなければ神は存在出来ないのでは」
「……別に神が存在するために、わざわざ特定の集団にこだわる必要はねェぜ」
「そう、なんですの?」
なんだか勝手に、宗教団体に所属してたほうが恩恵があるものだと思っていた。
……そもそも全員が無宗教でも全然問題ないってこと?
「神から聞いた答えを教え広めるのはともかく、神を利用したただの仲良しこよしをしたいだけの烏合の衆なんざ、何の意味があんだよ」
それはそうだけど、辛辣ぅ! 全く意味が無いということはないでしょう。
心の拠り所、というか自分以外にも信じている人が居るって安心するじゃん。
他生物もそうかもだけど、人間は群れる、群れたい、群れてないとな生物だし。
「――だから、つべこべ言わずオレ様を信じとけよ」
「そこに戻りますのね……」
そもそも、一体どうしてこんな話になってたんだっけか……? えーっと。
確か大まかに、生意気可愛い愛でてってボーナスタイムから愚痴ぽろ、から奉迎祭の話で何を飛ばすかって話になって、それから思い出せないって話になり、謎の種を貰って宗教談義。どんな流れだ。
はぁ……と完全に暮れてしまった湖に向かって息を吐き零す。
「……分かりましたわ。信じて育ててみせますわよ」
「……そうかよ」
なんでそっちがしつこく信じろ信じろって種を渡してきたくせに、ならこっちがじゃあ信じて育てるって言ったら言ったでなんでそんなに嫌そうになるんだ。
……ちょっとだけ何が咲くか、気になってきたかも。数年は長いなあ。
「…………」
数年後、学園卒業しちゃってるんだよね……全然通えてないけども。
それで領地に戻ってきたとき、私を花咲いて迎えてくれるのだろうか。
「――楽しみですわ」
少しだけ。
――もし私が完全に忘れてしまったら。その代わりの種、期待しちゃおうかな?
「きっと世界一美しい花園にしてみせますわ!」
「そんな量はねェ」
水差すなし……。
「なけなしの信徒への扱いがひどいですわ!」
「何が信徒だ。クソ面倒なだけだぜ」
あ、これ本当に煩わしそう。ちょっと傷ついた。
でも可愛い教の布教はやめない。私は神を愛で愛でする悪徳信徒である。
「可愛いので、どんなひどいお言葉も全てお許し致しますわ」
「……オイ、信徒なんだろ? なんだその態度」
「宗教とは総じて家庭的な面を喧伝するもの。時代は独り身を許しませんのよ」
「ただのクソ宗教じゃねェかよ!」
「そんなことありませんわ。人は群れたがる生き物ですもの。出会いの場ですわ」
……なんだか設定を考えているうちに、本当に宗教出来そうな気がしてきた。
ただの婚活組織かもしれないが。不倫は禁止です。
「そりゃ宗教である必要ねェだろ……」
それを言ってしまえば、そんな団体はごまんと存在している。タブーである。
婚活パーティで失敗したらそれは普通に自分の失敗のせいになるのだが、それが宗教となるならあら不思議、失敗するのは崇高な教えを解さない野蛮な相手が悪いということに出来るのだ。
……想像より闇深過ぎ。やめよう、これ以上は。良いことは何も無さげだ。
「そうですわねぇ、なら私の背中のコレをどうにか出来る教?」
「そりゃ無理だぜ」
ですよねー。
「オレ様の自信作だからな!」
「…………」
…………ふぁっ!?
「フッ、このオレ様をもってしても超絶難題な課題を乗り超えた超傑作だぜ」
「――――」
――あなたが速達の神かッ!




