お約束大好き!
「『――あァ、心底楽しいぜ! 神! なァ?』」
隠れている木の枝の上、エサ待機中のわんこ座りで興奮したように頬を赤らめ、今にもブンブンと振る尻尾の幻覚が見えてしまいそうなほど、とっても嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべる私。というか小人さん。
……そんなに全身で嬉しそうにされると、今さらキャンセルで! とかそんな酷いこと言えない雰囲気。
うっ、そんな分かりやすくお目々キラキラしないで……私ってば可愛い子とか仕草には超絶弱いのよ……身体私だけどな!
……とはいえ直接的に自分の姿を見てはいないから、想像力で小人さんへシフトチェンジしてそこはばっちり脳内補完済みだ!
つまり、現在絶賛製造中な私の黒歴史は全てノーカンだ!
「『アレを殺さず無力化たァ、久々にぞくぞくするぜ……』」
うん……ほ、ほどほどに。ほどほどに、ね?
何をほどほどにかは全く分かってないけど……ほどほどに、ね?
「『――ま、ただの暇つぶしとしちゃァ上出来ってェもんだぜ』」
そう言いおいて興奮が少し収まったのか、小人さんがこちらを見つけられずに再びぎゃあぎゃあ喚き出したアイリス(仮)を冷静にじっと見て何かを考えるように黙ってしまった。
まあ何かっていうか十中八九これから挑むだろうアイリス(仮)攻略法(高難易度縛り多数有)とかだろうけどな! 廃ゲーマーか!
……しかし私の身体で勝手に縛りプレイをしておいて……無駄に私の心胆を寒からしめておいて……それでなお、これをただの暇つぶしだと申すのかお主……! とガチめに真面目な冗談はさておき。
実際問題、さっきからずっと謎の回避能力でひたすら無傷だし、むしろ命のやり取りを「つまんなーい」なんてしょうもない理由で勝手に難易度変更する為にセルフ縛りプレイとかしちゃってるくらいだし?
こちらが何某かの要らぬ心配とか抱く隙も全くなく、むしろお家の中で安心安全、なVRジェットコースターできゃあきゃあ言ってろ程度には絶対的に安心して良さそうなレベルで全くもって余裕そうだよねさっきから。
だからもう、殺す以外なら全部好きにしちゃっていいよ……うん……。
「『――よし。出すか、器の中身』」
中身? 出す? それってまさかグロなやつじゃないよね……? などと、一瞬だけ先程の「つまらない」なんて理由でアイリスを即殺しようとしてた小人さんの倫理観をひっそり疑っていると、視界が前触れもなく急にぐわん! とブレて下へ落ちた。うっぷ……。
一言零してこくん、とひとつ頷いた小人さんが突如、わんこ座りのままぐるんっ! と鉄棒に逆さで四肢でぶら下がるかのような位置に反転するように回ったのだ。
目……目が……目が回るぅ~! 頭シェイクしてるぅ~! うっぷ……。
ガゴオオオオオンンッッ!!
「『おっと危ねェ――ほらよ、っと!』」
どうやら急激なシェイクの原因は、アイリス(仮)に見つかって緊急回避したせいらしかった。
その証拠に巨大な影、傘となって私の身体を隠してくれて大変お世話になっていたはずの立派な大木の頭が、いまやただのまるハゲ頭と化していたのだ。
――というか、有体に言えば全部消し飛んでた。
……わーお。いっつマジック? おぅーのぅー……。
いつの間にかあちこちと広げてた開拓地が、ちょっと小人さんとお話してるうちに私たちのいるところまで到達していたようだ。
凄いね、こんな短時間で人件費要らずの非常に経済的な開拓地が立派に出来上がってるよ。
流星群でも落ちたんかってくらいあちこちデコボコの歪だけど。
「『――つーか、あのアホやっぱ使えねェぜ』」
そして唐突に入るバイク様のディスり。なぜに。
「『そもそもあのアホが一発かました時に一緒にアレの中身抜いてりゃア、あの器にされてるガキとわざわざ殺り合うことも無かったのによォ」
――なんですと!?
それってつまり、バイク様がアターック! をかました時に、アイリスをアイリス(仮)の(仮)から解放出来たということ!? ふぁ!?
「『どうせあのアホのことだ、久々の現界に調子乗って自分の能力忘れてただけだろうがな。ま、アホなアホのことなんざ今はどうでもいいぜ』」
よくないよ!? 何もよくないからね!? 何の能力か詳細は知らないけど、でもそれさっき使ってればこの廃ゲーマ-みたいな状況にわざわざ陥らなくても済んだってことだけはバッチリ理解したよ!?
おのれバイク様、なんとなく許すまじ。
……でも確かに今ここにバイク様は居ないし、何かぐちぐち文句を言っても詮無い事になるし、今はどうでもいいでいいんでしょうけど。
――けど! こういうの、私ってばちゃんと後でいつまでも覚えてるんだからね……ッ! 絶対忘れん。むしろ唱え続けてやる!
おのれバイク様、なんとなく許すまじ。
「『――っつーわけで、オレ様流の荒っぽい方法で行くぜ』」
などと適当に雑談? しながらいかにも余裕です、な感じでタッタッタッと小人さんが静かに、けれど非常に軽やかに木々の幹を蹴ってあっという間に元居た場所から素早く移動していると、その背後から追いかけるようにガガガガガガガガガァッッ!! と攻撃が迫って来ていた。
木々や地面が抉れるような轟音が鳴って、無駄にキンキンと頭に響く。
「『そもそもからして、あの自惚れたクソ女はテメェが捉えた器すらも掌握出来てねェ』」
それ、さっきから何回か言ってるけど……理解が正しければ、悪霊的な何かがアイリスに憑依、というか憑りついてるってことだよね……?
あ、そういえば私も大体似た状態だ。でもあっちの様子とは違って、ちょいちょい自意識出せてるからこちらは共存関係? である。……はずだ。
「『オレ様が視た感じ、あの器はなかなかに上物だぜ。本来の能力から鑑みて、あんな程度の低い力しか発揮出来ねェのがおかしいぜ』」
へー。やっぱりそうなんだ……あまり知りたくなかった情報かも。
そもそも乙女ゲーが原作の世界のくせして、ゲームみたいにステータス画面とかは出せないし、相手の力量を測るにはどこぞの極めた武人みたいに「むむっ、あいつなかなかやりおる……ごくり……」とかいう技術が無いと全く分からないのだ。
確かに原作ではアイリスだけスタッフの遊び心かなんかで全ステ無駄にカンストしてたしね。それってやっぱりちゃんとこっちにも反映されてたんだ?
あれ……てことは客観的に殺戮モード入ってるっぽい今の状況は色々まずいのでは。
「『となるとやっぱうぜぇな、アレ』」
――いや! ナズナは無事だし! 私は絶賛死合い中だけど無傷だし! そもそもあれはアイリスというかアイリス(仮)だし! ぎ……ギリセーフ、では……? だめ……?
あ。でもそうか。私の我儘というかお願いで殺さず無力化させるのに、小人さんが中身出すって……それ、もしやそのまま殺戮モードなアイリスさんと邂逅即第二ラウンドするやつでは……?
「『ちぃと面倒だが、やるか……』」
だって、そもそもナズナがルート条件を整えたからこそ殺戮モードに入ったアイリスがナズナを――んんんっ? あれでも、そういえばアイリスとナズナってば私たちが到着する前にお互いの殺し合いじゃなく、うんちぃ相手に共闘みたいなことしてたんだよね? あれおかしいな? んんん……?
もしやルートにはまだ入ってない? それとも一旦ルートに入ったけど、邪魔が入ってスキップされたのか? んんん? どっちだ……。
まあでも一応、阻止出来たことにはなってる、のかなぁ? 分からん。
「『――オイ。面白ェもん見せてやるぜ』」
アイリスがどういう状態か確認しな――はい? え。なに。え。
ぶつぶつ喋りながらも息切れすらしない、有り得ない運動性能を発揮して再び弾幕を避けまくる小人さんの動きに集中していると、ひたすら目が回って頭もぐるぐるする為にこれ以上疲れないよう、なんとか意識を別のことに逸らしていると小人さんからお声が掛かった。
面白いもの? もう今日だけで一生分見てる気がしますけど気のせい?
さらりと、ファンシーチェンジ中な髪の毛先を指で弄びだした小人さんにそうツッコむ。まあもうさっきので気力使い過ぎて、声は表に出してないけどな! だから内心でツッコむだけだよ!
……そういえばこの髪、いつの間にかピンクに染まってたけど後で元に戻せるのだろうか……。いやピンクが嫌いというわけではないけど、こう、なんというか……あまりよろしくない表現だけど分かりやすくDQNっぽいというか……。
ほら、やっぱり容姿って第一印象には大事なものだしさ……。
「『総髪キャラが物理特化なのはお約束だが、』」
なんだとっ。初めて聞いたよそのお約束! 偏見だー!
総髪でも魔法使えー! 勝手な縛りヤメロー!
……だめだ。精神疲労の極致過ぎて語彙力死んでる。
「『せっかく今は物理特化なんだ』」
セルフ縛りのなッ! そこ大事! 間違えんといて!
「『オマケの余興で更にお約束追加だぜ』」
ま、まさか更に縛る気なのか……!? おのれ、やめれ……っ!
「『魔法少女っつーのはピンチに変身ってェのがお約束なんだろ?』」
魔法言うてるやん。物理特化どこいったん。――て、変身!?
確かにそれは定番のお約束だけどっ……でも今のところ正直、小人さんってば全方位攻撃余裕回避っす! って感じで別に全然ピンチじゃなくね……? その事実は完全無視でいいの……?
あぁ、でも変身かぁ……私が? え、ちょっと嬉しいかも。どきどき。
「『――お、こいつでいいか』」
ちなみにこの会話――会話……? でいいのか――は、進行形でひたすら弾幕をひょいひょい避けながら、髪の毛先をいじいじしながら、なマルチタスクで明らか調子こいた感じで余裕綽々となされている。驚愕通り過ぎてもはや無。
と、アイリス(仮)を見もせず素で弄んでいる小人さんが突然、手を空へ突っ込んだ。えっ? 私の手、が……?
「『――霊器、花金鳳花羽衣』」
ふわ……。
空間から花びらが儚く舞い落ちるように頭から肩、腰に掛けてひらひらと閃いた美しい薄絹の織物が、上半身を覆うように私の上に優しく被さった。なんて、きれいな……。
月明かりに淡く光る生地は、この世のものとは思えないほどに美しかった。ただただ目を奪われる、ある種の妖艶と讃えられそうな、うっかり魅入っているとそのまま魂を奪ってあの世へ導かれそうな美しさだった。
「『――遊びは終いだ』」
ふわり、ふわり、空を歩くように軽やかに舞い踊る。
「『こっから先は、――オレ様もちぃとばかし本気出すぜ』」
アイリス(仮)が焦ったような表情で何かを口汚く叫びながら更に激しくこちらを攻撃しているのは分かるが、言葉の内容が全く理解出来ない。小人さんの言葉以外の全てが、不思議とまったく耳に入ってこないのだ。
先程まで頭に響いてひたすらうるさかった轟音も、耳障りな声も、全てが世界から消えてしまったみたいだ。
「『ご忠告だ、なりふり構わず気合い入れやがれや』」
それに、小人さんの視線は確かにしっかりとアイリス(仮)へ向いているはずなのに。そこに居るのは認識出来ているのに。
――意識を向ければ向けるほど、全ての輪郭がだんだんぼやけて見えにくくなっていく。まるで、――。
「『どんなにつまんねェ抵抗でも、無いよかマシだぜ』」
――まるで静寂の中、世界に存在する美しいものだけ魅せられているようだ。
「『観念しやがれ――テメェの器がこいつに見惚れて堕ちた刹那、テメェの聖名も堕として凶帖に刻むぜ』」
ふわり、薄絹が柔らかく舞った。




