小人(フェアリー)でした
「……そう。つまりあなたは私のココロのたまご、ですのね」
これが私のなりたい自分……。手乗りサイズだけど結構重量あるのね。……あ、しかもよく見たら可愛らしさの欠片も無い厳つい眼帯も付けてる!
……え!? もしかして私ってば、実は秘めたる厨二心があって、なんだかんだ言いつつエリカ様のこと内心では物凄く羨ましがってたってこと――!?
「何言ってんだ……? オレ様を食う気か……?」
「食べれますの?」
「食いたいのか?」
食べたいとは全く思わない。けど、純粋な好奇心というものはある。それにしても……食べられるかもって思ったってことは……まさか、食べれる!?
サイズ的にいけるのは見れば分かるけど、食べたいかどうか聞くってことはまさかの本当に食用可だったりする……!? もしそうなら、食べられるってどんな気分なんだろう?
こんなの誰でも気になっちゃう、普通に。わくわく。
「いいえ、特には……もしや、本当に食べれますの? 既に食べられてしまったご経験なども……」
「…………」
「なんてこと! こんなに可愛らしいのに……! そんな猟奇的な発想をなさる方がいらっしゃるなんて……!」
「オイ、今さっきオレ様に吐いた言葉を振り返ってみろよ」
「……特に食べたいとは申しておりませんわよ」
「あ……?」
ファンタジーな小人、色合い的にピーチ味かな? とか勝手に想像して多少気にはなってるけど、だからってこんなに可愛らしい小人に対して本気で「食べたい!」って食欲が湧くことはない。さすがに。
……いや、でも。兎とか鳥とか豚とか、可愛い可愛い言いながら結局肥えらせて食べてるんだよね、人間って。……いやいやいや、だとしてもさすがに小人はないでしょ。人ってつくもの。
「……おあ!? 確かに言ってねェな!」
と、小人ちゃんも納得してくれたところで、逸れた話題を元に戻すことにした。
もとはと言えば、小人というファンタジーに興奮して絶対に伝わらないだろうボケをかました私が悪いのだ。修正せねば。
「ところで、あなたはどちら様ですの」
「やっとかよ。暢気すぎるぜ」
「これでも私かなり、混乱しておりますのよ」
「見りゃ分かる」
ひょい、っと「急に鷲掴みやがって」とかなんとか文句を言いながらも器用に私の手から逃れるように元居た床へ飛び降りた小人さん。
そうなのだ。実はぷちパニックに陥った私は、とりあえず一番存在が怪し気な小人を起きて一目散に捕まえたのだった。
何故かと言われれば単に寝起きで幻覚でも見ているのか、もしくは夢の続きなのかと思ったから。
しかし、実際に触れれば重量触感ともに妙にリアル……結論、小人は本物だった。
そして冒頭に戻る。
誰でもボケのひとつやふたつ、咄嗟にかましたくなろうというものだ。
「オレ様の名は――」
と、決して背後を振り返らず一心に小人を見つめながら物思いに耽る。
起きてから目と目がいの一番に合った、ちらちらと小人の後方に足元が見える前方の怪しげな和風美少女の正体も気になるには気になるが、黒髪にアメジストの瞳という見るからに魔女因子濃いめの容姿なので大体の予想はつく。
……デルカンダシア領内の美しい魔女達全員を網羅していたはずの私が一度も見たことのない美少女という点がモヤモヤして気になるが、それを上回る小人のインパクトに今は私の思考全てが持っていかれているのでこの疑問は後回しだ。
「名は?」
「……み、」
「み?」
言いかけて、突然影多めの渋い表情になった小人が鼻に皺を寄せながらそっぽを向いた。
そして最終的にものすごーく不本意に、明らかに嫌そうな表情になりながらやさぐれたような態度で答えた。
「……見たまんま、小人とでも呼べ」
「小人さん」
「チッ」
呼べって言ったのそっちからなのに、舌打ちされても困るんだけど……。
「嫌そうですわね。……分かりましたわ。なら妖精さんとお呼びするならどうかしら?」
「なんか意味でもあんのか? ……ま、なんでもいいぜ。好きに呼べよ」
両肩と両手を上げながら「やれやれだぜ」的な感じのひょうきんなお手上げ外人ポーズを決めながら溜息を吐かれてしまった。
……久々に見たかもしれない、この仕草やってるひと。相手小人だけど。
「分かりましたわ、では小妖精さん」
「せめて統一しろよ!」
怒られてしまった。難しい……。エリカ様との対話以来の難問である。というより、好きに呼べと言いつつ嫌そうな顔するし文句言うのはどうかと思う。
そんな感じで暫く悩んだが、結局原点回帰で当初の「小人さん」呼びで一旦終止符が打たれた。
……ちなみにその間、背後にはいつの間にか静かに一度遠ざかっていたはずの気配が戻っており、前方の気配はといえば私たちのやり取りに気のせいか始終ブルブル震えてるように見えた。
前者はともかく後者は気のせいだと思う。思いたい。
「小人さん、小人さん」
「……なんだ」
死んだ魚のような片目で小人さんが怠そうに返事した。
そんなに嫌なら、本当の名前を教えてくれればいいのに……。
誤魔化しがあからさま過ぎて察知が遅いとよく言われる鈍感寄りの私ですらすぐさま察したほどだ。
どんな事情があるかは知らないけど――と思いつつ。
しかし、今はそこに深入りするよりも解決すべき問題がてんこ盛りなので再び疑問を後回しにすることにした。
「差し支えなければ、色々と現状をお伺いしたいのですけれど……例えば、」
「アー……待て待て。とりあえず分かったぜ。一旦外出ろ」
閉じ込めていた疑問の山を今こそ解放せんと口を開く直前、被せるように小人さんから提案がされた。
――何か重大な話でもあるのだろうか。
と、少しだけ身構えながらも静かに二人が外に出るのを待つことにした。
しかし、そこから誰も全く動かなくなってしまった。……なんで?
「…………」
「いや、外出ろって」
なんだろう……二人とも早く部屋の外に出てってくれないだろうか。
これでは一向に話が進められないし着替えも出来ないのに。
「…………」
「オイ、オレ様の声ちゃんと聞こえてんのか? とっとと外出ろって!」
ほらぁ、小人さんも怒り出しちゃったでしょう。
それでも二人とも微動だにしないって、どういうことなの?
どうして二人とも動かないの……?
「――シオン、外出ろっつってんだろうがッ!」
「……んぇ? ええええっ!? 私っ?」
なんで!? ここ私の部屋なのに!
「いいからとっとと外出やがれ!」
「ええええ……」
納得いかない! ここ私の部屋なのに!
しかもまだ寝間着のままだし! というより早く着替えたいのに……!
――ちょ、ちょっとっ! なんか足が勝手に動き出したんですけど!
「ま、待って! 待ってお願い!」
「あァ?」
この恰好のせいで、余計後ろの視線が気になるんだってば……!
「……あァ、これでいいかよ?」
と、自由な両手で自分を抱きしめてブルブル羞恥で震えている私を見てやっと何を気にしているのかに気付いたのか、小人さんがパチンッと軽く指を鳴らして何かの魔法らしきもので私を一瞬で着替えさせた。
「――――」
――え、何その便利魔法! それ知らないんですけど! もしかして種族固有!? これって私でも覚えられるやつですか……!?
効果は素晴らしく、見覚えのある普段着ドレスにしっかりと着替えられていた上、髪型とかもバッチリと結われて整えられていたのだ。
なんでもありありな魔女の古代魔法言語や、それをシステマチックに淘汰(簡易化)された現代に普及する魔法でも見たことのない、あまりにも早業過ぎる魔法……凄すぎる!
淑女としての羞恥心もどこへやら、一瞬で見知らぬファンタジーへの好奇心で魔法脳へと思考が切り替わってしまった。
そのままぶつぶつ「この痕跡は……嘘! そんな方法が!」などとオタク全開で一人呟きながら、着替えたドレスを色んなところを摘まみながら掛けられた魔法の痕跡を観察して考察に集中しているうちに気付けば部屋を出て、屋敷を出て、いつの間にか外へと向かって全自動で歩かされていた。
ちなみに、あれほど頑なに動かなかった二人はしれっと私の後について出て来ていたが、私は思考に没頭してて全く気付かなかった。
「見えるか、まずはアレだ」
「――空間を繋げた痕跡から見るに――こちら側にはより複雑な工程が――」
「オイ! いったん戻ってアレ見ろ、アレ!」
「いはっ」
完全に意識を持っていかれていた私に対して、何を思ったのか小人さんが肩に飛び乗ってきて頬を思いっきり抓られた。
おかげで意識は戻ってきたが、見渡せばいつの間にか外に居るという状況に若干混乱し、けれど見慣れたデルカンダシア領の景色が広がっていたおかげか比較的すぐに持ち直した。
とはいえ、意識が戻って来た反射できょろきょろ周囲を見渡しても特に変わったところは無かった。
いつの間に領地まで帰っていたんだ……という疑問はあれど、実家にいるというだけで安心感は段違いだなあ、という安穏とした感想しか浮かばない。
なので謝罪しつつもどこを見れば良いのか改めて尋ねよう――と、思ってキョロキョロしていたら途中でとんでもないものを見つけた。
「――あ、あら、失礼いたしましたわ。アレって何のこ……えっ?」
世界の一部がごっそり欠けていた。




