番外。両親の忘れ物
いつも通りの時間、いつも通りの朝、違うのはいつもより賑やかな事、
「あれ? 花蓮さんは?」
「多分まだ寝てるよー。莉々、起こしてきた……駄目だ。一緒にそのまま寝てしまう。叶ちゃん、お願い」
「はーい。師匠」
花蓮さんはどうやらイメージ通り朝が弱いみたいだ。よく四時台に学校来れたら、あの時。
「きっかり七時間寝なきゃ起きられないらしいよ」
「しっかりしていますね」
「まぁ、そういう言い方もできるよね。でも、そろそろ七時間だし、起こせば起きるよ」
その言葉通り、二人分の足音がニ階から降りてきた。
いつもより五割増しくらい眠そうな花蓮さん、いつも通りぼんやりとしている叶。いつも通りである。眠いわけじゃない。
「おはよう、ございます」
「あっ、おはよう瑠衣ちゃん、はやく口すすいで顔洗ってきて、叶ちゃん、味噌汁お願い」
「了解です、師匠」
朝は忙しい。それは休日でも。空気が急き立てるのだ。その中を、ぼんやりとした花蓮さんが歩いて行っ
た。顔を洗ってもそれは変わらない。
「はい、瑠衣ちゃん」
乃安さんが差し出したトーストにかぶりつく。なぜトースト。見てると、砂糖がかけられているようだ。
一枚食べ終わり、さらに牛乳を一杯飲む。
「うん、起きた。ありがとう、ございます。乃安さん」
「うん。おはよう」
「おはようございます」
そういって花蓮さんはリビングの席に着く。料理が次々と並べられ、その様子を本を読みながら眺めている。
どうやら手伝う気は無いらしい。
何となしに見回すが、人は足りている。
花蓮さんの判断は正しいのかもしれない。僕が手を出したところで、邪魔になるだけだ。
今までそんな事を考えたこと無い。手伝いなんてしたことが無い。なのに、なぜ今日に限ってやろうとなんて考えたのか。
「それで、今日はどこに行くの? 父さん」
新聞を読んでた父さんにそう声をかける。
「探偵部らしいな」
しかし父さんは答えず、逆に質問された。
「文芸部であり、探偵部」
「そうか。探偵部のお前に聞くが」
「探偵は彼女です」
「進は?」
新聞の上から、目だけが覗く。
「ワトソン」
「そうか」
父さんはちらりと花蓮さんの方を向く。
「依頼?」
本から顔をあげ、視線にそう答える。
「そう、依頼」
依頼と聞いて、一瞬だけ目を輝かせるが、すぐに本に目を戻す。
そうだ、大人が子どもに依頼するようなことなんて、精々物を探すくらいの事だろう。僕たちは高校生といえど、父さんたちから見れば、ただの子どもだ。探偵部だって、子どもの遊びに見られても決して可笑しなことではない。
「おいおい、まだ言って無いのに恨めしそうな顔をするな進」
「えっ?」
「結構本気でやっているんだな、部活」
「そんなこと……あるかもしれない」
「うん。良い事だ。父さんたちは帰宅部だったからな、楽しめよ」
そう言って、新聞を畳んでテーブルに置くと、少し真剣な顔になって姿勢を正した。思わず、こちらまで背筋が伸びる。
「探して欲しいものがある。けど、探しているものはわからない」
「は?」
父親相手だが、流石に言っている意味がわからない。何言っているんだこの親父。
「探すものがわからないのにどうやって探せと」
「それが今日の休日の内容だ」
「ヒント、ヒントプリーズ」
父さんをそう煽るが、首を横に振る。
「大したものは無いぞ」
そう言って父さんは紙を投げ寄越した。
「良いか、母さんには言うなよ。お前達二人で、内密に探すんだ」
・服。
・恐らく巧妙に隠されている。
・母さんの周辺にある可能性が高い。
・この家に無い事がわかれば、それで依頼は終了。
父さんが投げ寄越した紙の内容はそれだけ。母さんには内緒と言われたが、さて。
十中八九、父さんは母さんに何かを隠されたのだろう。
「捜査の目星は?」
「今日の君のお母さんの行動次第」
「母さんは乃安さんの店の手伝い行くって」
「そう。じゃあ、自由にできる」
「何してるの? お兄ちゃん」
二人で話していると、叶がやってくる。
「母さんと一緒に行ったんじゃないの?」
「行こうと思ったけど、こっちの方が面白そうだったから。見せて」
「あ、こら」
ひょいと紙を奪われ、叶は素早く目を動かすと、一つ頷く。
「うんうん。じゃあ、私はお母さんの部屋探してくるね」
「瑠衣は他を当たる。お前は倉庫。庭にある」
二人は立ち上がる。
僕は悩む。
倉庫とか、母さんの部屋とか、そんなところもう父さんが探しているはず。
そして、父さんは探しているものくらいわかっていて、敢えて教えない。
この家にない可能性も示唆しているということは、可能性があるところは全部探したのだろう。
「待って。多分、今上がった所は父さんが探しているはず」
「……一理ある」
叶も頷いた。そうだ。僕らに頼むくらいなら、まず探すべき場所は、もう見ているはずだ。
「だとすると、どこだろう……」
そう言いながら、ぐるりとリビングを見回して、上を見上げて、叶は一つ手を打った。
「あ、あそこかな」
父さんの部屋。父さんは今家にいない。隣の県から来ている友達に会いに行っているらしい。
「あるとすれば、お父さんの部屋じゃないかな」
「なるほど、灯台下暗しってやつか」
相変わらず、殺風景な部屋だ。パソコンと、箪笥と、ゲーム機が置かれた棚、それとクローゼット。あるのはそれくらいだ。絨毯がしかれテーブルが置かれても、それはどこか浮いていて、なぜだろう。なぜ殺風景という印象を受けるのか。
いや、だからどうというわけでも無い。とりあえず、探そう。
「でも、どこにあると思う?」
「それは……」
母さんなら、どう動く。
母さんんは、父さんとずっと一緒にいた。僕らよりも。僕らよりも、父さんの事を、わかっている。そして、それは、父さんも然り。母さんが隠したものの場所がわからないわけがない。なのにわからないのだとすれば。
「父さんが物を隠すなら、どこだろう」
「クローゼットとか、ベッドの下かな」
「わかった。そこを重点的に探そう」
「瑠衣は、他も探す」
妹と二人、何を探しているのかもわからないが探す。
「どうだ? 叶」
「うーん。そもそも、物が少なすぎて、探すも何もないや」
僕は僕で父さんの机の引き出しを一個一個開けるが、鍵がかかっている段に関しては諦めてる。鍵は目の前にあるが、やめておきたい。
何故ベッドの下を探さないのかというと、覗いてみたが、何も無かったからだ。
「無いかー」
「無いねー」
ベッドに並んでもたれ掛かり、どこかあきらめムードが漂う。花蓮さんが何か成果を持ってこないか、ちょっと期待する。ただ、何を探しているかわからない、そんな状況で花蓮さんも推理のしようなんてないだろう。
「見つかった?」
足音が近づいてきて、部屋の扉が開くと同時にそう聞かれる。
「いや、さっぱりだ」
「そう。瑠衣なりの答え、ここ」
クローゼットを開く。そして、そこには父さんが昔使っていたであろう学生服。を外す。ボタンを一つ一つ、そして、顕わになったのは……。
「め、メイド服?」
「木を隠すなら森の中。服というからにはクローゼットであってると思った」
父さんが着るにはサイズが小さいが、じゃあ、誰が着るというのだろう。いや、母さんが隠したというなら、母さんだろう。
「これ、なのかな?」
「見つかった変なものは、これだけ。なら、これと考えるべき。……結構良い生地」
答えは父さんのみぞ知る。父さんがこれは元からあったものだと言うなら、僕たちは見当違いのものを見つけたことになる。が、息子の僕としては、かなり衝撃的なものであるのは確かだ。父さん、なんでこんなものを持っているのだ。




