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絵の向こう

 僕の学校はそこそこの歴史がある。父親と母親も通っていたらしい。校舎も結構古く、僕が卒業した後改築する計画があるらしい。卒業後の事なんてどうでも良いけど。

 父も母も、自分の学生時代の話はあまりしないが、というか、自分の思い出話とか全くしない。だから僕は両親の人となりを知っていても、それを形成したものを全く知らない。それでも当たり前のように温かくて美味しいごはんが出て来て、見送ってもらえて、出迎えてもらえる、そんな普通な幸せという物を享受する。

 そんな両親の事で唯一知ったことがこの僕が通っている高校に通っていたという事だ。電車で二駅程度のこの学校。県内有数の進学校。ここを受けるという話をしても反対されずむしろ応援された。話したがらないわけでは無く話さないだけという事を知った。それとも、この学校に特に思い入れが無いのか。思い入れを持たないほど特に深く関わらなかったのか。濃い体験が無かったのか。それは未だにわからない。でも、この学校は少なくとも僕の両親が入学し卒業した程度の歴史はある。いや、もっと長いか。

 そんな歴史のある学校だから、それこそ七不思議とかは当たり前のようにある。この前たまたま体育であった入間さんが言うには七不思議どころか五十不思議くらいあるらしいが。 

 それは例えば夕方になると三階の女子トイレの三番目の個室は開かずのトイレになるとか、深夜二時の階段の踊り台の大きな鏡を除くと死神に魂を持って行かれるとか。階段の段数が昇りと下りで数が違うとか。それに気づいたら正確な段数を答えないと三日後に死ぬとか。部活終わりの体育館に誰もいないのにバスケットボールが弾む音がするとか、夕方のテニスコートに一人でいると、テニスラケットが浮かび上がり、打ち返すまでボールを打たれ続けるとか。七不思議全部知ったら世にも恐ろしい事が起こるとか。それを言ったら入間さんは既に花蓮瑠衣に目をつけられるという恐ろしい目にあってはいるが。

 というか、これだけ色々あると、何をやっても何かしらに引っかかる気がするな。



 さて、なぜ語り部の僕が唐突にこんな事を語り始めたか。それは簡単。今回は七不思議のn番目、どれが正式なのかもはやわからないけど、それが依頼として持ち込まれたのである。

 もうすぐ夏休み、プリマな彼女の事を何となく気にかけながら期末試験。当たり前のように花蓮瑠衣は学年トップに君臨。僕もそこそこ上位に食い込んで部室にむかうと、花蓮さんは起きてメールボックスを覗いていた、思わず身構えてしまった。


「日暮君はお化け、信じる?」

「いてもおかしくは無いと思うよ」

「そう」 

「君は?」

「いたら面白い」


 お互い、答えになっていない答えを交わす。この間にも小さな依頼はいくらかあったから僕はそろそろ慣れていて、とりあえず三人分の紅茶の準備を始める。


「科学的に考えたらいないけどね」

「君はたまに馬鹿な人になる。幽霊が科学的にいるという証明もいないという証明もできない。幽霊が起こす現象を科学的に証明できたからって、いないという証明になっていない。だから幽霊がいたという公式の記録が無いから今のところはいないというのが正しい」


 いつもの如く、眠そうに話す。眠そうに痛い所を容赦なく突かれる。


「いないという証明は……」

「悪魔の証明。幽霊を捕まえて来るのも厳しい。けど、常識に凝り固まった君と議論するより、楽しそう」


 紅茶が丁度できあがり、妹の叶が持たせてくれた茶菓子を広げる。ちょうど扉がノックされた。 





 「それでは、依頼を聞かせてください。成美悠さん」

「はい。その、私たちのこれからする話は決して嘘では無いので、信じてください」

「それは聞かないとわかりませんので」


 いつものように僕が応対する。花蓮さんは気になる事があると勝手に口を出してくれる。


「そう、ですね。あの、私たち、呪われてしまいました」


 呪い。呪いか。


「私たち、科学部なのですが」

「私たち? 部員全員呪われたの?」


 花蓮さんが退屈そうに聞く。幽霊がいたら面白いなら呪いはどうなのだろう。でも、いるともあるとも思っていないのだろう、彼女は。


「はい、私以外、全員」

「どんな?}

「私たちは、一週間後に死にます」

 



 「科学部では学校の七不思議を科学的に解き明かそうという企画が立ち上がり、早速一つ目の七不思議として、第二校舎の東階段の踊り場の大きな絵画に出てくる死神を解き明かすことにしました。ちなみに内容は夏至の日、四時四十四分四十四秒にその絵の前に立つと死神が現れ七日後に死ぬというものです。インターハイ前のこの時期ですから、運動部の朝練のために校舎の鍵も開いています。私たちは全員でその絵の前に立ちました。すると、空気が漏れる音がして、私たちは、逃げました。でも、逃げる途中で私は振り返って見ました、絵から、緑色の光が漏れているところを」


 この学校は教室や職員室がある第一校舎、通称南校舎、実習用教室がある第二校舎(東校舎)、そして部室棟の三つの校舎で構成されている。

 思い出してみれば、確かになんでこんな所に絵画があるのだろうかと疑問に思った事はあった。


「その謎を解いて、できれば呪いも解いて欲しいと? 無理、探偵部の専門外」

「な、謎だけでもお願いします。死ぬならせめて何で死ぬのか知りたい! 科学部として!」

「その科学部が俗に言う非科学的なことに踊らされてると考えると、面白い。一週間放置して本当に死ぬのか証明してみる?」

「い、言ってることは人でなしなのに一理ある。確かに興味あるかも、うん。そうね、呪いなんて実際に被害がでないとあるなんて証明できないしね」

「因果関係も証明できないと駄目」


 話がどんどん逸れてるし、このままだと部長をモルモットにして呪いの効果を検証することになってしまうのだが。

 でも探偵部の探偵花蓮瑠衣は本題を見逃す真似はしないようで。


「早速調べてみる。とりあえずその問題の絵画を見る」

 



 問題の絵画、改めて見ると何というか。意識して見たことは無かったけど、結構大きい。

 その絵は壁を壊す民衆の絵だ。端を持った女性がとても印象的だ。これだけ見ると何かの革命を絵にして伝えているようにも見える。


「絵に怪しいところないね」


 花蓮さんは答えない。

 緑の光が漏れる、そんな様子も無いし、絵に描かれている人の目が光るなんて現象も起きない。

 花蓮さんは絵をじっと見上げている。


「他の絵も見に行く」


 それだけ言うと歩いて行く。


「あっ、僕も行く」


 学校の壁に飾られる絵なんてそこまで数は無い。それら全てを見終えて、花蓮さんは頷いて言う。きっと何かわかったのだろう。細かな依頼は話を聞くか現場を見るか、それだけですぐに解いてきた。

 思わず期待の目で彼女を見てしまう。この不可思議な学校の七不思議にいったいどんな秘密が……。


「わからない」

「えぇ!」

「何を驚いているの? お前は」


 花蓮さんから眠そうな雰囲気が消える。


「久々に、面白い依頼。ちょっと考えてみる」


 それから花蓮さんは一言も話す事無く部室の、最近文芸部部室から発掘されたふかふかの一人用のソファーに深く腰掛けて目を閉じていた。

 僕は僕で何をするわけでもなく文芸部としての活動をする。

 もうすぐ夏休みなのに何も決まっていない。早めに決めないと、夏休み中には動き出したい。なんて思う。思うだけなら簡単なんだけどな。寝て起きたら決まってたら良いのに。……寝て起きたら?


「……まさか、あれ寝てる?」


 そろりそろりと近づいてみる。すやすやと寝息を立てている、ように見える。細い体をソファーに預け、無警戒に眠る姿に、何も思わない僕ではない。頭良くて顔立ちが整っているというのは、男性としても羨ましいと思う。

 躊躇いながら、頬に手を伸ばす。思わず喉が鳴った。


「あまり見られると、考えづらい」

「あっ、ご、ごめん」


 起きてた。寝てると思った。寝てたら、どうしてた? 自問しても答えは返ってこない。


「何かわかった?」

「まだ話す段階じゃない。事件と答えを繋ぐ線も点も、足りない。でも、試してみる価値は、ある」

「何を?」

「明日早起き」

  

 


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