03: 少女リリア
騎士とようやく出会います。
我が国でもう見ることができなくなった柔らかそうな金の髪に、宝玉のような透き通った金の瞳の少女が目の前で狼を必死に止めている。
レオンハルトは食い入るように見つめていたが、頬に伝わる感触と目に映る景色がだんだん霞んでいくことから、自分が涙を流しているのだとわかった。
ああ、どうしてこんなにも暖かい気持ちになるのだろう。
レオンハルトは今まで感じたことのない自分の感情に浸りながら、少女の様子を確認するとーー少女は、剣を構えながら突然涙を流し始めた男にギョッとしていた。
「どっ、えっーーごめんなさい!怖かったよね、大丈夫?」
「この子はローといって、本当はとってもいい子なんだよ!」と説明しながらアワアワしている少女を見て、クスッと思わず笑みをこぼす。
そのローという狼を怖がらせ、傷つけようとしたのはこちらだというのにーー。
手に持っていた剣を静かに鞘に納め、流れるような動きで少女の前に片膝をつく。
「私の名前はレオンハルト。貴女の名前を教えて下さい」
少女は男の優しい笑みに一瞬ドキッとしたが、その気持ちを覆い隠すように笑顔で答えた。
「私はリリア。怖がらせてごめんね」
「リリア様……」と少女の名前を噛みしめつつ、無意識に手の甲に口付けようと、少女の前に手を伸ばしたーーが、少女に届く前にローが腕に噛みついた。
「ああ!ロー、ダメだってば!ぺっしなさい、ぺっ!」
言うとおりにぺっされた腕には、見事に4つの大きな穴が開いていた。見た目はかなり痛々しかったが、傷などどうでもよかった。それ以上に少女のことが気になったからだ。
手当てのために小屋に招かれたレオンハルトは、忙しなく動く彼女を目で追いつつ、リリアの出生について考えていた。
金の髪に金の瞳。それは、我が天の国において天帝にのみ現れるものであり、他の民に現れたことは一度もない。どんな経緯でこんな山奥にいるのかはわからないが、天帝の血を引いていることは確かだ。どうして国民はこの少女のことを知らないのだろうか。
そもそも、ここは一応人族の領地である。なぜ天の国に住んでいないのだろう。国にいられない理由があるのか、連れてこられたのか…。
「い、痛い……?」
無言で思慮していたレオンハルトを、あまりの痛みに口も開けないのだと勘違いしているようだ。隣に座り、おずおずと心配そうに傷を見つめながら、包帯が巻かれた腕をそっと撫でている。
本当は数日もすれば治るため、心配する必要などどこにもないのだが、触れている手が暖かく、離れるのが惜しく感じられたので黙っていることにした。
「ええ、とても。ですが、貴女が触れると痛みがおさまるような気がします」
痛みなんて微塵も感じていないかのような声で甘い言葉を吐くレオンハルトに、思わずリリアは顔を見上げる。見つめ合うこと数秒、意外と平気そうだと思われたのか、彼女の手は救急箱へと移動し、片付けをし始めた。
離れた手を残念に思いながら、レオンハルトはいくつもの疑問を解消するためリリアに問いかける。
「ーー見たところ、一人で暮らしているご様子。貴女はいつからこの小屋に住んでいるのですか?」
「産まれたときから。5年前までおばあちゃんと暮らしてたの」
祖母か……。どのくらい前の世代から、密かに王の血が引き継がれてきたのかは調べないとわからないがーー自分で国を出ていったにせよ、故意でないにせよ、血を引いている御子を身籠った状態で移動したことは確かだ。
金髪の子供を連れて歩けば、すぐに民が気づいてしまうだろうから。
ああ……、どちらにしたって、この少女がここで産まれた事実は変わらない。
なんということだ……こんな何の設備も人手もないところで、自分が側にいないところで、産まれたなんてーー。
レオンハルトは、自分に対しての不甲斐なさと、リリアに対しての罪悪感で押し潰されそうになりながら、質問を続けた。
「失礼ですが……ご両親は?なぜ人族の土地に住んでいるのか、聞いていますか?」
「両親は、私が産まれてすぐに事故で死んじゃったって、おばあちゃんが。……ひとぞく?人が人の土地に住むのは当たり前じゃない?」
聞かれたことの意味がわからない、と言わんばかりの表情でこちらを見るリリアに、レオンハルトは驚きを隠せなかった。
ーーそもそも、我々天の民は多少の事故では命を落さない。加えて、ずっと昔に起きた人族による誘拐事件を知る天の民であれば、こんな人族の土地で産まれたばかりの子を祖母に任せて二人揃って出かけるなど、あり得ない。
ちなみに、その誘拐事件が関与していることはない。事件解決後に国民全員いるか軍総出で確認したそうだから。
いや、それ以前にーー自分のことを人族だと思っているとは。
「貴女のおばあさんはーー」
両親のことで何か嘘をついているのでは。と言いかけたが、リリアを混乱させてしまうと思い、別の疑問から解消することにした。
「ーー髪と瞳の色は貴女と同じでしたか?」
「ううん。キレイな桜色」
祖母ではない、となると彼女の祖父に天帝の血が流れているのか。もしくは、彼女の両親のどちらかが血を引いているのか。とにかく、彼女と共に国に帰って調べる必要があるな。
「貴女のおばあさんから天の民について何か聞いていますか?」
小さな頭がふるふると横に振られる。
ーーやはり、何も知らないのか。
天の国の民について何も知らないのは、彼女のせいではないのに何だか無性に悲しくなった。
忘れられた悲しみなのか、気づいてあげられなかった悲しみなのか。
震えそうになった手をぐっと握りしめて、感情ごと押さえ込む。
「……天の民とは、人間とは異なる種族であり天の国に住まう国民のことを指します。私のように髪と瞳が同じ色なのが特徴で、皆それぞれ産まれながらに加護を授かり、王を支えています」
「同じ色……おばあちゃんも、天の民?」
「はい。そして……金の髪と瞳は、歴代の王にのみ受け継がれるもの」
ソファから降り、彼女の足元に跪く。
リリアと自分の視線が重なり、二人の間の時間が一瞬停まる。
「リリア様ーー貴女は、王の血を受け継いでいる」
書いてるとどんどんレオンハルトが思っていた感じから離れていく……。
後々かっこよくなるはずだ!……多分。




