01: 天の国
書き進めると、前に書いた話を訂正したくなって、全然先に進まない……。
ーーそれは今からずっと昔の話。
魔物が住んでいる地上に、1柱の好奇心旺盛な神が降り立ちました。魔物とはどういうものなのか、知りたくなったからです。
野蛮な地上に降りた神を心配した兄弟神は、自分たちの髪を使って護衛を造り、神を守るための加護を授けました。
地上での生活は、神にとってとても退屈で不便なものでした。
護衛は、そんな神に快適な生活を送ってもらうため、数を増やすことにしました。神はとても楽しくなりました。
でも、神の周りにはたくさんの護衛はいても、友はいません。
護衛は友を造ろうと思い、神に倣って自分たちの髪で人を造りました。
人は従順で、神の良き遊び相手となりました。神は石から種を造り地面を緑で覆い、土で動物を造りそれに乗って友と出かけるようになったのです。
気を良くした護衛たちは、もう一人、人を造りました。
しかし、神ではない護衛たちが造った二人の人は、成長と共にとても強欲になっていき、護衛に歯向かうようになりました。
その矛先が神に向けられるのを心配した護衛たちは、人を遠ざけ、神と護衛だけの国をつくり平穏に暮らしました。
その国は神々が暮らす天国を真似て、こう呼ばれていますーー「天の国」と。
「そろそろ国に戻るとするか…」
かつて最強と呼ばれた騎士は、国の国境まわりの人族の村を歩いていた。
見廻りも兼ねているが、何より動いていないと気がおかしくなりそうだったからだ。悲壮感漂う国内を歩きたくなかったのも理由の一つといえる。
数ヶ月近く歩きまわっていたが、特に変わったこともなく、一旦国に帰るために山を超えて帰ろうかと考えていた。だが、村人たちの噂によると、その山には化け物が住んでいるらしい。
さして興味もなかったが、その山を通過すれば、国に最短距離で帰ることができる。騎士は自分の強さには自信があったため、その化け物が住んでいるという山を通ることにした。
山に入って数時間。騎士は、その山が上に登るにつれ、とても緑豊かになっていくことに気がついた。
国内付近の土地はどこも、緑が枯れ、食料難におちいっているというのに。不思議なことにこの山は、かつて陛下が生きていた時と同じくらいの豊かさを保っていた。
騎士は立ち止まり目を閉じる。
思い出されるのは、すべてのものが笑顔と緑にあふれていたあの日々ーー。
産まれながらに軍神の加護という強大な力を与えられたレオンハルトは、陛下のお側で陛下を守る役目を神が自分に託したのだと喜び、騎士の道へと進んだ。
近衛である月の騎士になるまで、とても厳しい道のりであったが、自分の強さが皆に認められ、20歳のときようやく夢を果たしたのだった。
陛下の身に危険が及ぶなんてことは、まず起こらず、加護の力を使う機会などなかったが、陛下の楽しそうな表情を側で見るだけで幸せだった。
だが、それはもろくも崩れさった。
今から4年前の出来事だった。
陛下は妃と共に平穏な日々を過ごしていたが、いつまでも身籠らない妃は日に日にやつれていった。
「ごめんなさい、エルレス。ごめんなさい……」
「……子などいらぬ。そなただけがいればよい」
そして、そんな妃を介抱する陛下もまた、やつれていった。
ある日、責任に耐え切れなくなった妃は自殺した。陛下はそれはそれは悲しみ、日が経つにつれてどんどん痩せ細くなっていった。
寿命の終わりを無意識に感じていたのか、陛下は家臣たちに自分の仕事を任せるようになり、国民に対して御触れを出した。
「余の代で、王は最後である。天は地上からいなくなろうとも、民を見守っている」
そして陛下は、妃を追える嬉しさと、国民を残していく罪悪感を抱えながら、若くして疲労により亡くなった。
国民は神にも等しい王を失い、2年にも及ぶ長い期間、喪に服した。
悲しみの後は、混乱が国を覆いつくした。
神である王がいなくなったせいか、国内の草木がしおれ、動物たちもいうことを聞かなくなっていったのだ。
混乱の末、国民をまとめるために、一時的に国を分断することとなった。
4人の太陽ーー神である王を「天」とし、天を暖かく照らす将軍たちを「太陽」、その部下を「星」、直属の近衛を「月」としているーーの騎士は、部下の星たちを連れてそれぞれ分断した国を担うこととなった。
近衛たち月は、ほとんどが太陽の騎士たちについていったが、一部は国内を好きに散らばり各々やりたいことをやっていた。
そして、ここにいる騎士レオンハルトもまた、その一部の中の一人であった。
強さだけは誰よりもあったが、他の者のように何かできるわけでもなく、こうして国内や国境付近を見てまわることにしたのだ。
とはいえ、人族と比べて何倍も強さをもつ天の民を相手にする国などない。かといって天の国も、他の国に攻めて土地を得たとしても、我が国の王を神だと思わない人族と共に暮らせるはずもなかった。
そのため、国内は混乱に満ちていたものの、戦争が起こることなど有りはしないのだった。
レオンハルトはそれでも、陛下が愛した国の平穏のため、歩き続けた。
更新遅いです。ごめんなさい。