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03.おじいさんの馬車

 工房の作業場がさっきの騒動により再び散らかってしまったので、リーザと共に片付ける事となった。



「ところで、リーザは今日が手伝いに来る日だったのか?」


「えぇ、手伝いと言っても実際は遊びに来ているようなものだわ。今日来るというのは前来たときに言ってあったのだけれど」


「今朝どこかに出掛けて行ったぞ。午後に帰るとは言っていたが」


「……もしかしたら今日もアイナさんのところでアルバイトをしているのかもしれないわ」


「アルバイト?」


「このお店、片付ける前の惨状を見ていればわかるかもしれないけれどほとんどお客が来ないし開店休業状態なのよね……」


「……なるほど、それで生活費を得るために店長自らアルバイトに出ているのか」


「そういうこと。さあ、あの子が帰って来るまでに片付けるわよ」


「……なぁ、今の話で思ったんだけど」


「なにかしら?」


「…………俺は一体どこから給料が支払われるんだ?」


「何を言っているの? 貴方がこの工房で利益を上げればそこから支払われるわよ」


「……」



 あぁ、そういうことなのね……





 世の中の厳しさを味わいながらようやく散らかした箇所の片付けが終わった頃、この店の主様がご帰還された。



「――わぁ、すっごく広くなりましたね~」


「おかえり、店長。アルバイトお疲れさん」


「あれ、そのこと知ってたんですか? ……ってリーザも来てたんだね」


「こんにちは、カリーナ。ここに来たら貴女はいないし知らない人が店を片付けてるからてっきり潰れて夜逃げでもしたのかと思ったわ」


「いやですねえ。借金まみれってわけじゃないんだから潰れても逃げるわけないじゃないですか」


「もしそうだったら貴女なら一瞬で身ぐるみ剥がされて借金取りの餌食だわ」


「あはは、それはこわいです」



 …………。

 ……。


 そこからしばらく女の子同士のお喋りが続いた。言ってたとおり本当に仲が良いんだな。





 お喋りが一段落した頃、さっき見つけて気になっていた物について聞いてみることにした。



「なぁ、さっきあっちを片付けてたら車輪の付いた変な物が出てきたんだけど何か判るか?」


「……あれですか? うーん、確かおじいさんがなんか作ってたやつですね。なんでしたっけリーザ」


「憶えていないの? あれは貴女のおじいさんが研究のために作っていた馬がいなくても動く馬車よ」


「……馬がいなくても動く馬車?」


「おじいさんがお話してくれたときは私たちがまだ幼かった頃だから詳しい内容はわからなかったけれど、馬の力を使わずとも動くというのを聞いたときのわくわくは今も忘れられないわ」


「そういえばそんなことを聞いた気がします。まだおじいさんが元気な頃でしたね」


「そうね……」


「なるほど、カリーナのおじいさんの作品ってわけだな。というかここでは馬車が主流なのか?」


「えぇ、馬は力があるし賢いからあらゆる場所で働いているわ。ジュンはあまり知らないのかしら?」


「……俺が住んでた場所だとあまり見なかったからな。そうだ、もしよかったら構造とかを詳しく見てみたいんだが、問題ないか?」


「ジュンさんはあれに興味があるんですね。いいですよ、あそこで本棚にされているより誰かに見てもらえたらおじいさんもうれしく思うでしょうから」


「壊さないようにするのよ」


「あぁ、ありがとう」




――――


 作業場の片付けが終わり、やることが無くなったカリーナとリーザはダイニングでお茶会を開始し、俺は作業場に残り”馬がいなくても動く馬車”とやらを調べ始めた……



「――これどこかで見たことあるなと思ってたけど、昔見た図鑑に載ってた内燃機関の元祖に似ているな」



 燃料を使って車体の中央に煙突みたいに立ったシリンダーに、そこから突き出たピストンに繋がる棒が上に動くと隣りにあるプーリーが一緒に動きゴムベルトを伝って車軸を回転させる。

 ピストンが下がるとワンウェイクラッチが作動しプーリーが空転……ピストンの動きに合わせて車体下にある吸排気弁のレバーを動かし動力を生み出すという、朧げな記憶から思い出した歴史上の自動車と同じような構造であった。



「ゴムベルトみたいなのが劣化してボロボロでワンウェイクラッチが取っ払われてるっていうの以外は目立った損傷は無さそうだし、こいつを復活させて街で動かせばいい宣伝になって儲かるんじゃね? ……やばっ、俺って天才か?」


「……なに自画自賛しているんですか?」


「おわっ、びっくりした……。いるなら声を掛けてくれ」


「もう結構時間が経ちましたし、さっきリーザが帰る前にくれたコーヒーをいれて持ってきたので何度か呼んだんですけど……」


「あぁ、悪い。じっくり見てたから気が付かなかったよ」


「なにかわかりましたか?」


「喜べ!お前のじいさんはすごい人だ。これはまさしく馬を必要としない馬車……自分の力で動くから自動車と呼ぶ方が正しいかもな」


「これを見ておじいさんの事がわかるジュンさんもすごいと思いますよ! 自画自賛するのも仕方ないです」


「……褒めるか貶すかどっちかにしてくれ。それでカリーナ、こいつを修理して動かそうと思うんだが」


「ジュンさんは、これを修理できるんですか!?」


「古いけど状態が良いし、ちょっと足りないところの部品を作って修理したらいけそうだ。あと、こいつを街で動かしてやればここのいい宣伝になるんじゃないか?」


「ほんとうですか! それができたら素晴らしいと思います!」


「じゃあ明日から早速作業開始だ!」


「……それなら今晩はジュンさんの歓迎会と前祝いを兼ねて外食しませんか? 店長である私がご馳走しましょう」


「それはありがたいぜ。あと今朝俺がディナーに誘ったのがさっそく実現したな」


「あはっ、そうですね。それじゃあ準備できたら行きましょう!」


「おぅ!」



 明日からの作業のため、工具などをきれいに片付けふたりでディナーを食べに店を出た。

※ここに出した内燃機関の自動車は、18世紀にスイスのリバッツが発明した水素ガスシリンダを用いた内燃機関を参考にしました。

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