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00.おうちにかえりたい

「――ふぅ、なんとか完成した。これはオッケーだな」



 夜が更け、時計の針がてっぺんを指そうとしている頃、藤田純はとある工房で残業をしていた。



「カリーナ、これ出来上がったから梱包しておいてくれ」


「……もう眠いし、やっておいてください……」


「なに言ってるんだこのやろう。これはお前ができる数少ない仕事、明日の朝お客に届けるの忘れた? そして俺は明日中に納品するブツの修理がまだ残っているから代わりにやる時間はない!」


「あうぅ、店長である私に対して命令するなんてひどい従業員ですね……」


「……元はといえばお前が安請負したうえに無茶な納期を自分で設定してあろうことかその全て同じ日だ」


「だって……早く仕上げたほうがお客さん、喜んでくれるじゃないですか……」


「……まあ、そのお客の事を一番に考えてそうしたというのは良いと思うぞ。ただ――」


「?」


「……従業員である俺の仕事量も考えてくれ」



 そう言って作業台の横にいるカリーナと呼ばれた赤髪の少女に修理を終えた置き時計を渡すと、明日中に引き渡しする修理依頼品の作業を開始するのだった。



「……こんなに長時間従業員を働かせるなんて、ブラック企業として労基署に訴えたいよ」


「ぶらっくきぎょー?」


「……もうおうちにかえりたい」


「ここがおうちですよ。なに言ってるんですか?」



 もうほんと、おうちにかえりたい……





 ◇   ◇


「――すんません、もう仕事辞めようと思います」


 俺、藤田純は4年勤めた仕事を辞めた。


 とある建築会社で現場監督の仕事をしていたが、元請けや職人からの圧力、嫌味ばかりでまともに仕事をしない上司、無限に続く書類作成による残業地獄に耐えることができなくなり携帯電話の電源を切り無断欠勤した。


 それからずっと布団の中で呻き声を上げながら色々考え、数日後会社に辞意を伝えた。



 そして数ヶ月前に友人の紹介でできた彼女にもそのことをメッセージアプリで送った。


 しばらくした後に返信がきた。



『無職の人とは付き合えません。別れましょう』



 あまりにも無慈悲なメッセージと共に俺のことを拒絶するかのようにアカウントをブロックされてしまった。


 せめて童貞、捨てたかったな……結局キスすらできなかったな……





 ーー数日間悪夢にうなされ続けたがなんとか落ち着いてきた。


 ずっと働いてたせいか急に時間が出来るととんでもなく暇だ。


 仕事してたときは、あれしたいこれしたい……、と色々やりたいことがあった気がするのだが。


 とりあえずインターネットの世界を巡ってみようとPCを立ち上げた。


 適当なページを流し見していると、旅行サイトの広告が目に留まった。



「旅行か……たしか最後に行ったのって大学の卒業旅行だっけ」



 大学のとあるサークルで知り合って友達になった数人と沖縄に行ったのを思い出した。


 それ以来、まとまった休みが取れず、数少ない休日は疲労でだいたいベッドの上で過ごすのが常だった。



「――そうだ、旅に出よう」



 せっかく時間もできたことだし、今も引き篭もっているのはもったいない気がしてきた。




――――


「――ない、財布も携帯もない!」



 家を出て自転車でのツーリングを開始して数日後、俺は山の中で焦っていた。


 次の町へ行くため細い山越えの道を走っていたところ、喉が渇いたので自動販売機で飲料を購入しようとしたら財布が無いことに気が付く。


 少し荷物を探したところ、携帯電話も無いことが判明。どちらも途中で落としたのかもしれない。


 あまりの事態に軽く目眩がした。




「……来た道戻ってみて探したけど結局どこにもなかった。暗くなってきたし腹も減ったし疲れたし、俺はもうだめだ……」



 バタンッ


 財布と携帯の捜索に奔走し、あまりの疲労と空腹で動けなくなってしまった俺は地面に突っ伏し目を閉じたのだった……

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