9.二重人格
「はあ」そう大きく息を吐きだす。
石油ストーブをつけたばかりの自室には冷たい空気が漂っていた。
私はベッドに寝そべりながらもうひとつの人格に問うてみる。
「ねえ、あなたはだれ?」
返事はない。聞こえるのは石油ストーブが必死に唸って部屋を暖めている音だけだ。
まさか悪魔が憑依したわけでもあるまいに、もうひとつの人格を疑うなんて私ってバカみたいだな。
悪魔はだれの心の中にでも潜んでいるというのに。
それすらも私だというのに。
だれかのせいにしていないと気がすまないんだ。
『悪魔ってなんだよ、俺ってそんな風に思われてたのか?』
ほら、脳内にだれかの声が聞こえる。
それだってよく聞けばほら、私の声でしょ。
うん……。ん?
「あんただれ? 私じゃないの?」
『俺は水鳥鮪。あんたを救う者だ』
いや、まじでわけわかんないから。
語尾にかっこ笑とかつきそうなセリフを言われても本当に困る。
「え、なにこれ、なんかの宗教?」
『あいにく俺は無神論者だ』
「じゃあなによ、まさか幽霊?」
『それはあんたのあだ名だろ』
「何でそれを知ってるの?」
『学校で問題を起こした二重人格は俺自身だ。あんたのせいじゃない。俺は学校に着いたあたりであんたの無意識下に潜んでいたんだ。だからあんたのことは多少は把握している』
「ねえ、それじゃあ不公平じゃない。少しくらいあんたのことも教えてよ。あんたは何者なの?」
『聞きたいか?』
「もちろん」
『それなら昔語りに少し付き合ってくれ。俺は生前、人を殺したことがある』