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6.その女、成瀬千鶴

『鍛えていないから、拳が痛えな』


 私はぷらぷらと手を振った。取り巻きの連中はいつしか後退している。

 鼻血を垂らして倒れたままの七瀬さくらと、気絶した東雲裕子の姿が、まだそこにあった。


『見せしめにどっちか片方を殺しとくか。おい、お前。どっちが嫌いだ?』

 いや、ちょっと待ってよ。

 殺すってあんた……頭おかしいんじゃないの?


『コイツ等は諸悪の根源だろう。悪は根絶やしにしないと、雑草のようにまた生えてくるぞ』

 何を言ってるのよ。暴力なんて、最低よ。


 あーもう停学は免れないわ。それどころかお母さんにまで連絡がいっちゃう。

 それにクラスのみんなにだって“キレた子”だって思われる。最、悪。

 この様子じゃ被害者との和解も成立しないだろうな。とんでもないことになったわ。


『被害者はこちら側だろ。アイツ等はむしろ加害者だ。俺、何か間違ったこと言ってる?』

 ああもう、そういうことじゃなくて。


『ん、アイツは誰だ?』

 え?

 迷いのない足取りで、女の子がつかつかと歩み寄ってきた。


 成瀬千鶴。バレー部に所属しているいじめ集団のひとりだ。

 東雲裕子とともに私に暴力を振るってくる人で、常に人の悪口ばかり言っている根暗娘だ。

 だからグループ以外の女子からは嫌われているけど、その腕っぷしはかなり強い。


 気を付けて、そいつは。


 空気が、揺れた。

 成瀬千鶴が、疾駆かけたのだ。

 一気に、間合いが縮まった。


 私は正中線を隠すように半身に構えた。手の平は軽く脱力したまま握っている。


 成瀬千鶴は、互いが腕を伸ばせば届く距離で、軽快なステップに切り替えた。

 私も跳ねて、リズムを取った。


 相手の重心が前方へと傾いた。斜め45度に傾倒してからのダッシュ。

 それは、力みが全くなく、スムーズな動作であった。


 私は身体の前で腕をクロスさせ、受け身の態勢を取った。


『男子に比べれば、腕力はそれほどでもないはずだろ』

 もうひとつの人格がそう思ったからであるが、私は心の中で、「避けて」と叫んでいた。

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